家族友人が邪魔をする?密着・中国の新郎新婦が経験する「迎えの儀式」

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※本記事は特集『海外の結婚式』、中国・上海からお送りします。

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中国の結婚式にお呼ばれした……

中国に住んで3年、同僚にお呼ばれし、初めてこちらの結婚式に参加することになった。

上海で暮らしていると、日々の習慣や人々の感性など日本と似ているところもたくさんあるし、もしかしたら結婚式も同じような流れなのかもしれない。記事のネタとしては弱いという懸念はあるが、それはそれでひとつの発見だ。いや、懸念と言っては結婚式を挙げる同僚に失礼か。

しかし、実際に行ってみると予想外の連続だった。似ているようでまったく違う世界がそこで繰り広げられていたのだ。

 

招待状は3種類! ご祝儀の金額は?

かっこいい「中華風」招待状をいただいた

今回結婚式を挙げる新婦の余さんは同じ部署、同じチームの同僚で、会社では毎日会っている。そこである日、こんなものを手渡しされたのだった。

今時はこんな招待状!? 巻物のようになっておりカッコいい。

巻物を開くと、式場の時間や場所が書いてある。手渡しされたときは招待状だと分からず開くまで「???」ってなったし、最初はどうやって開けるのかもわからず(紐を解こうとしたら、ただの飾りだった)、なんだかもういきなりワクワク。招待状から楽しいっていいですね。

この巻物タイプの招待状は中国でもめずらしく、多少値は張るものの、素敵なものをつくりたいと余さんがこだわったそうだ。さらにこんなものも。

動画タイプの招待状も!

招待状を直接手渡しできない遠方の友達には、スマホでこのような招待状動画を作成して送ったらしい。なんと現代的! この形自体は中国に限らずおそらく日本でもあるのだろう。前撮りの写真を利用したそうで、シャイだと思っていた彼女のノリノリな表情に驚いた。

日本の場合は、友人や同僚に前もって来れるかどうかのお伺いをたて、出席できそうな人にだけ招待状を出すのが一般的だが、こちらはとりあえずこの電子版を送ってしまうそうだ。

数年前から流行っているシステムで、周りの20~30代7~8人に話を聞くとも「受け取ったことがある」という人がほとんどだった。もちろん、親戚や上司などにはさすがに同じものを送るわけにもいかないので、通常の葉書バージョンもあるとのこと。

余談だが、新婦の余さんは記事「『写ルンです』で中国・上海を撮ってみた」に登場した女性。写真に写ってはいなかったが、当時一緒にいた彼氏こそが今回の新郎だ。

ご祝儀は一万円以下が相場、服装は日本よりも地味に。

結婚式に招待され喜んでいたが、ご祝儀のことを忘れていた。調べると、日本でのご祝儀相場は3万円とのこと。私が初めて結婚式に参加した20年近く前も確か3万円だったので、それから全く変わってないことにちょっと驚いたが、さて中国はどうなんだろう。そこで周りに聞いてみたが、

「地域によって違うよ」
「関係次第じゃないかな」

と、日本でいう「3万円」のような明確な相場がないらしい。これは困った。

ホテル代や交通費を出してくれるかどうかでも変わってくるとのこと。今回はホテル代を出してくれるのでその分を気持ちプラスするのは理解できたが、それ以前にやはり基準がわからない。会場は貴州省。他に出身の知人もいなかったため、もう思い切って余さん本人に聞いてみた。

「いや、あの交通費使って来てくれるだけでもありがたいので、いや、全然……むしろなくてもいいくらいで」

……変に気を遣わせてしまったが、余さんは恐縮しながら「300~500元(約5000円~8500円)」というネットの情報を送ってくれた。あら、意外と安い。物や場所によっては物価が日本よりも高い今の中国を思えば、これは良心的だ。別の友人に聞いてみたところ、「500元なら、中国で縁起のいい数字は6と8なので、600元のほうがいいかもね」とのことだったので参考にしてみる。

なお、袋は春節(中国のお正月)に配る紅包と呼ばれるお年玉用と同じものでいいそうだ。近くのスーパーに行くと、ちゃんと専用のコーナーがあった。

金と赤があり、それぞれ恭喜发财、大吉大利、恭賀新禧など、中国のめでたい文字が踊っている。それぞれ、繁栄を願います、ずっと幸せに、新年おめでとう、のような意味だ。日本の水引のように使ってはいけないものがあるとまずいと思い、店員さんに確認したところ「めでたければなんでもいい」とのことであった。安心。しかし恭賀新禧はさすがにお正月用っぽいので、大吉大利をチョイス。

服装は、日本のようにドレスを着たり美容院に行って髪をセットしたりまでするとかえって浮くとのこと。一方で、お嫁さんと被ってしまう白や赤(中国では赤は縁起のいい色なので定番)は避けたほうが無難という情報あり。このあたりは日本と感覚が同じか。結局、地味めなワンピースにヒールのパンプスをあわせることにした。

地方都市ながらも横浜と同規模、貴州省貴陽市へ。

結婚式が行われるのは中国の南部、貴州省の貴陽市。

地方都市とはいえ人口が350万人(国内二位の横浜市が372万人)もいるのはさすが中国といったところか。中心部は高層ビルが立ち並ぶ普通の街だが、そこから高速鉄道(中国の新幹線)で少し行くと少数民族が暮らす風光明媚な村々が広がる。

ピーク時期なら上海からの往復の航空券が2500元ほど(約42,500円)する場所だが、今回はピーク時期ではなくなおかつ早めに予約したため半分以下の1100元ほどと格安で購入することができた。空の旅にも関わらず移動は2時間半から3時間弱。日本なら、同じ時間で東京から沖縄まで行けてしまう。国内線の移動時間の長さは、いつも中国の広さを感じさせる。

就業後、夜9時半の便で出発予定だったが、少し遅延して現地到着は深夜1時半過ぎ。床に就いたのは3時ごろ……。中国の南方は霧が発生しやすいため、遅延することがわりと多いのだ。

 

翌日早々、新郎新婦の「迎えの儀式」を見に行く。

赤く光る団地の一室に50人以上のひとびとが

翌日。披露宴自体は夜の7時からだが、朝から新郎が新婦を迎えに行く儀式があるというので、睡眠時間もそこそこに友人宅へお邪魔することに。このような儀式は、中国の多くの地域において定番であるらしい。事前に見せてもらったスケジュール表では、朝4時から10時までみっちりと予定が詰まっている

たとえば、早朝から、新婦はメイクを行い、家では撮影スタッフが準備。一方の新郎は結納品を準備。これが、「豚肉、麺、白酒2本、靴下1足、衣服1式、タバコ2箱、ネックレス」となかなか具体的に指定されていておもしろい。

そこで私は、新郎が新婦の家の前に迎えに行く6時過ぎに合わせて合流することにした。辺りはまだ暗く、昨夜は2時間ほどうたた寝しただけなのでやはり眠い。しかしこの儀式、おそらく結納のようなもののはず。新婦本人からOKをもらってこそいるが、私が行っていいものなのか今更ながら不安になる……。

友人の実家は初訪問だったが、場所はすぐに分かった。

派手! これ、団地の一室の玄関ですよ。

彼女の実家は団地の一室、しかし暗い中にここだけ赤い光が灯っているのでかなり派手。他の住民たちも「あそこは結婚式だな」と思っていることだろう。玄関は開放され、誰でも入りやすいようにしてある。

私が来ていいんだろうかとすでに書いたが、それは杞憂だった。多くても来客は10人程度かと思いドキドキしていたのだが、予想に反して室内にはすでに人がたくさん。親戚や親しい友人など、50人以上いたのではないだろうか。専属カメラマンも3人いる。日本の結納のイメージとは違って、賑やかな雰囲気でほっと一安心。

室内は色とりどりの風船やめでたい漢字のシール、モールなどで全体的に赤く、見事に飾りつけられている。新郎が来るまで部屋の中をぶらぶらしていると、なにやらプレゼント的なものを発見。

なんだか高価そうだ。後日新婦に聞いてみたところ、両親から娘への贈り物で、かなり高額なアクセサリーや小切手などが入っているらしい。この部分はもちろんその家庭によるだろう。

新郎が新婦を迎えるまでに数々の「関門」が

そして6時を10分ほど過ぎたころ、新郎が到着。

それに合わせてパンパンパンと爆竹のような音が鳴り響く。現在中国では都市部を中心に、大気汚染や事故などの懸念から爆竹禁止の波が広がっているが、この界隈は爆竹OKなのか? と思ってよく見ると、爆竹ではなく装飾の風船を割っていた。

ここ貴陽市も爆竹は禁止のようで、このように爆竹の音を風船で代用することは割とよくあるそうだ。そのため、室外にはわざと割れやすい安物を用意するのだとか。

いつの間にか格子の門が

しかし、迎えに来たはずの新郎は簡単に新婦の家には入れない。新婦宅の玄関にはいつの間にか格子の門が閉じられており、新郎が入ってこれなくなっている。ここからセレモニーの始まりだ。

新郎「入れてくれよ~」
新婦の友人「入りたい(新婦に会いたい)ならお金ちょうだい」

などの生々しいやりとりがあり、新郎はお金の入った紅包をばら撒く。

後から聞いたところ、2元(約35円)が入った紅包を200袋以上用意したそうだ。日本人的には品があるとはいえないイベントかもしれないが、ここまではっきりとしていると、むしろ清々しい。なぜか私はここでうるうるとしてしまった。完全に泣く場面ではないのに。

その後も、新郎に歌をうたわせたり、愛の言葉を言わせたりし、10分ほどで室内へ。しかしまだ関門は終わらない。

(左)私もちゃっかり3袋ゲット (右)第二の関門

今度は新婦の待つ個室に入れてもらえない。ここでも「紅包はもうないよ」「微信(の電子マネー)で送ってもらってもいいよ」などの現代的なやりとりをした後、ようやく部屋へ。

この時は私も興奮していてよく覚えていなかったのだが、後から聞くと、この時新郎はちゃんと豚肉などの結納品を持っていたそうだ。貧しい時代には、豚一頭と引き換えにお嫁さんをもらうことが慣習だったそうで……。豚と引き換えか、とちょっと切なくなった。

そして、ようやくご対面。

両親への挨拶などを済ませた後は派手に装飾された車に乗って街を一周。なぜか私も後続の車に乗せてもらって、同じく街を一周してからホテルへ。そこでもまた写真撮影などのイベントが行われ、10時前にようやく朝のセレモニーが終了した。

 

いよいよ披露宴! プログラムに感じる合理的な国民性

招待客の服装は想像を凌ぐほど「ラフ」

すっかりやりきった感じがあるが、披露宴がまだである。

「中国の結婚式はゆるく始まってゆるく終わる」

そんな話を聞いていたのだが、実際はどうなのだろうかと興味深々で会場に向かった。夜7時の開始に合わせて、6時半ごろに到着。

会場へ向かうエレベーター前にはこのような看板が。非常にわかりやすくていい。

会場前では新郎新婦がお迎えをしてくれ、その場で紅包(ご祝儀)を渡し、会場へ。7時まではまだ時間があるが、すでに多くの人が着席していた。

会場は広く、招待客はざっと200人以上いるようだ。

私も悩んだ服装だったが、招待客の皆さんは想像以上にラフ。なんだったら、ちょっとした買い物姿と変わらない、スウェットやジーンズにダウンを羽織っている人もいた。これは確かに髪の毛のセットなどすると浮いてしまう雰囲気だ。若い女性は比較的きれいな格好をしていたが、それでも小さなお子さんがいるお母さんなどは動きやすいようになのか、ジーンズにスニーカーだ。

中国人は思っている以上に中華料理が好き

7時を過ぎた。まだ始まる気配がない。隣の女の子が「飲み始めましょうか」とジュースやお酒を勧めてくれた。日本の披露宴ではあまり考えられないが、見回すともう飲んでいる人多数。少しすると料理も運ばれてきて、開始前につまみながら飲む。ちなみに出てくる品はいずれも中華料理だ。

テーブルに乗り切らず皿と皿が重なり合うほどの量で、どれも非常においしかった。最終的にはかなり余ってしまったが、このような宴では足りないのは「ありえない事」らしいので、今日ばかりはそれでいいのだという

日本の披露宴は大方フランス料理で、たまに和食という感じであるが、こちらはほとんどが中華だそうだ。ボリュームがあり、お手ごろで、老若男女問わず食べられるからだとか。中国に来て、中国人は本当に中華料理が好きだと感じるばかり。

新郎新婦は立ちっぱなし、大事なことは最初にぜんぶやる。

そして、7時を20分ほどすぎたところで新婦が父とともに入場。流れ解散はともかくとして、スタートは思っているよりは早かった。以前別の結婚式に参加した知人の話からもっと遅れると思っていたからだ。

だが、招待客の中にはすでに出来上がっている人もいる。

新婦と新婦父は新郎の元へ。ここで一つ日本と決定的に違う点があることに気がついた。新郎新婦が着席する高砂(メインテーブル)がないのだ。

日本だと本人や上司などの挨拶→乾杯→歓談→キャンドルサービスやケーキ入刀→歓談など、イベントと歓談の強弱があるものだが、こちらは違った。初めにムービーが上映され、その後、本人たちの挨拶、友人からの言葉、両親の言葉など、イベントを最初に一気にやってしまう。それ以降が歓談タイム。

しかも驚くことに、歓談タイムが始まってからは「いつ帰ってもいい」とのことで、事実歓談から30分もしないうちに帰っている人もいた。イベント自体はダラダラと続くわけではなくコンパクトにまとまっており、ある意味では合理的。しかし、それから会場を後にする時間は招待客によってかなりの差があり、流れ解散という噂は本当だった。

なお、イベントの間、新郎新婦はというとほとんどずっと立っていて、一通りを終えたあとは各テーブルへ挨拶回り、そのあと空いている場所(もう帰っている人の場所)で食事をするのだった。

招待客がいても、空いたテーブルから片付けも始まっている。

私はせっかくだからと、ダラダラ飲み食いしながら1時間以上はその場に留まって、そのうち普段着に着替えた新婦も同じテーブルに着き、30分ほど歓談。さてそろそろ帰ろうかというときには、会場の半分くらいは片付いていた。

 

やはり結婚式も中国らしさ満点であった

冒頭に書いた、日本とほぼ同じでネタにならないのではないかという心配は杞憂だった。昔の写真を使ったムービーを流すなど似た部分もあるが、やはりそこは中国。非常に合理的な国民性がそこかしこに。服装も自由、ご祝儀も比較的お手ごろ、帰りたいときに帰ればいい。かかるお金だって、私は遠方から伺ったので交通費はかかったものの、ご祝儀3万円、ヘアセット代、場合によっては衣装を新調する必要がある日本と比べると、圧倒的にお手ごろだ。

もちろん金額が一番の問題ではないが、これであれば招待された側も気軽に応じられる分、たくさんの友人・知人が集まれるだろう。老若男女いろんな方たちが自由に飲み始め、食べ始め、盛り上がり、好きな時に帰っていく様は日本とは全く異なり、実に面白く楽しい時間だった。

全く違うわけではないのに、どこか違うというこんな状況は、中国において非常に多い。顔は似ているのに好む服装が違うとか、同じような瓦屋根を使った家でもそのデザインがまったく違うとか。似てるけど違う、自分がどこにいるのかわからなくなるような不思議な感覚が味わえる中国がやっぱり好きで、そして面白いと再認識した、今回の結婚式でありました。

新郎新婦が宿泊するホテルの部屋にもこのような装飾がほどこされていた。めでたい行事はとにかく派手だ。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

海辺 暁子

海辺 暁子

2016年より上海在住。日本にいるときから典型的なO型と言われ続けてきましたが、こちらにきてさらにO型っぷりに磨きがかかりました。色々なことが自由なので体重も順調に増してます。中国の家庭料理「宮保鶏丁」が好きすぎて、大量に作って冷蔵庫にストックするのが幸せ。

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