韓国の就職は学歴・スペック重視、流行語で知る熾烈な事情。

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※本記事は特集『海外の働き方』、韓国からお送りします。

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韓国の履歴書は「スペック重視」!

韓国で出会った人にふとしたきっかけで語学力を聞くと、TOEICが900点台という人にごろごろ出会います。たとえその点数に満たない人であっても日本語や中国語、またはその他の言語が堪能だったりします。

そのような人たちは韓国国内の語学学校に通って研鑽したり、独学で語学を習得する人もいますが、留学経験やワーキングホリデーで海外の就業経験がある人も多いのです。韓国の就職にはこのような経験が評価の対象になります。

韓国の人口は約5100万人(2018年現在)。日本と比較しても人口は半分以下であり、外需に頼る経済構造になっています。そのため、中小企業であっても外国の企業と取引している会社が多く、就職するにあたっても英語などの外国語能力が重視されるのです

そこで韓国の履歴書はどのようなものなのか、見てみましょう。

韓国の履歴書の例

韓国の履歴書(とはいっても、書式は様々なのですが……)には、学歴やこれまでの職歴に加え、資格、語学、OA能力、社会活動の経験、受賞歴などを記入する欄があります。プライバシーの観点などから批判もあるようですが、家族構成の項目まで設けられています。

このように枠がしっかり定められていると、履歴書を見たとき、個々の能力が一目瞭然。そこで韓国の学生たちは、よりよい就職に向けて「スペック」を高めていくのです

 

学歴が重視される韓国の就職

韓国では朝鮮時代、儒教を重んじていたことから学問が重視され、科挙の試験が行わなわれていました。そんなこともあり、今も学歴社会、とりわけ「学閥社会」としてその傾向が根強く残っています

そのため競争の激しい大企業に就職するためにも、できるだけ難易度の高い大学を目指します。なかでも「インソウル(인서울、in Seoul)」と呼ばれるソウル市内の大学に入ることが世間的にも評価が高く、なかでもその頂点に位置している大学が「SKY」といわれるソウル大、延世大、高麗大です。

SKYといわれる大学のひとつ、高麗大学(Korea University)

しかし近年は大学進学率が下落傾向にあるといいます。2009年には77.8%でしたが、2017年には68%まで落ち込んだ、というデータもあります。とはいえこれは依然として世界的に見ても高い状況です。

今は有名大学を出たからといって必ずしも良い就職ができるわけでもなく、起業する若者がいたりするため、大学へ進学する価値が相対的に下がっていると考えられています。参考:졸업장이 밥 먹여주더냐 … 대학 진학률 8년 새 78% → 69%、卒業証書がご飯を食べさせてくれるのか…大学進学率8年間で78%→69%(2018年3月23日、韓国・中央日報記事)

 

IMFショックまでは年功序列・終身雇用

韓国社会の大きな転換点は、1997年のアジア通貨危機でした。そのときに韓国は国家破綻寸前の危機に陥り、IMF(国際通貨基金)が介入。なんとか破綻は免れたものの、企業は倒産し、街には失業者があふれました。

ソウル中心部の屋台街の様子。IMFショック後には露店で商売を始める人が増えたという

それ以降、就職には学歴のみならず、能力までもが重視されるようになります。そして国家破綻の危機を目の当たりにした親たちは、子供たちが将来、経済的な余裕が持てるようにと教育により力を注ぐようになります。幼い子どもを母親とともに海外に送って教育を受けさせ、父親は韓国に残ってお金を稼いで送金するだけ、という「雁お父さん(기러기 아빠、キロギアッパ)」という言葉まで生まれました。

空を飛ぶ雁の様子。雁は雛のために餌を獲りに行く

厳しい大学受験を終えて、大学生になっても落ち着く暇はありません。学校のレポートや試験はもちろん、資格や就職のために日々勉強。韓国の大学の図書館はなんと24時間営業。昼夜問わず勉学に励むのです。親たちも子どもに対しては「アルバイトより勉強してほしい」と望みます。

「一生懸命勉強してください」と書かれた大学図書館の立て看板」

さらに大学生は休学までして、語学留学やワーキングホリデーでどんどん海外に出ていくのです。これには日本と比べて休学費用が安いこともあるでしょう。実際に事情を知ろうと、20代のふたりに話を伺ってみました。

みんな大企業に入るために頑張りますね。私は日本語通訳科でしたが、就職も考えて学校の勉強や、JLPT(日本語能力試験)のための勉強を頑張りました。ワーキングホリデーのときに日本で履歴書を書いた経験は、日系企業への就職に役立ちました。(20代・女性)

英語圏に1年間語学留学し、TOEICも900点超えて卒業したのですが、大企業を目指していて2年くらい就職が決まらずでしたね。これ以上先延ばしにすると価値が下がってしまうから、あきらめて今の会社に入りました。年俸はあまりよくないけれど。(20代・女性)

このように海外経験がある、というのは、韓国では決して特別なことではありません。「息子や娘が海外に留学している」などという話も含め、こういった話は行く先々でよく耳にすることです。

ちなみに韓国の就職は、日本のような新卒一括採用ではありません。在学中にインターンシップとして働き始め、そのまま仕事が決まったり、親戚や知人とのコネクションで仕事が決まったりと人それぞれ。

上のコメントにもあるように、在学中に就職が決まらないことも普通のため、必ずしも焦って就職するわけではありませんが、履歴書に空白期間ができることを嫌い、卒業を先延ばしにする人もいます。

ソウルの学生街、弘大(ホンデ)、ストリートパフォーマンスを眺める若者たち

また韓国の男性は、20代のあいだに約2年間の兵役があることから、雇い入れる企業は年齢には比較的寛容。韓国の年齢(数え年)で30歳くらいまでに就職すれば大丈夫、という考えもあり、休学を繰り返して30歳近くまで大学生を続ける人もいます。

 

就職してからも大変! 大企業と中小企業の働き方

韓国では大企業と中小企業の賃金格差が大きいことから、インタビューにも表れていたように、多くの人は大企業に就職することを目指します。そのため履歴書に書く「スペック」を上げることに必死になるのですが、運よく大企業に就職したあとも激しい競争にさらされます。

大手企業や証券会社が多い、ソウル・汝矣島のビジネス街

このような企業社会のなかで生まれた言葉を紹介したいと思います。

38線、45定、56泥

「38線、45定、56泥」という言葉。「38線(삼팔선、サムパルソン)」は、朝鮮戦争の休戦ラインに例えた言葉。38歳という年齢で結果を残しているかどうかで、その後の処遇が線引きされるというもの。そして45定(사오정、サオジョン)は、西遊記の「沙悟浄」と音が同じで、45歳で定年、つまり退職を促される、ということ。さらに56泥(오륙도、オユクド)は「五六島」という釜山にある島の名前で「56歳まで会社に残っていると泥棒(도둑、トドゥク)」という意味です。

このような大企業の実情を表す世知辛い言葉は、IMFショック後の2000代前半に生まれたため今ではあまり使われなくなりました。しかし現実に、2017年のデータでは、韓国の会社員の平均退職年齢は52.6歳とされています

役員にまで出世すれば60歳近くまで働けるけれども、事務職は「50歳になるとそろそろ退職かな」という話になってくる。すると今まで貯めたお金を使ってチキン屋を始めるとか飲食店をやるとか、何かを考えるのが普通。技術がある人は60過ぎて会社に残っ ている人もいるけれども。(一般企業勤務/30代男性)

現実的に50代はまだまだ働き盛りであり、子どもにもお金がかかる世代。そのようななかで肩たたきに遭う、という流れは今もそれほど変わってはいないようです。

 

88万ウォン世代、ヘル朝鮮……。言葉にみる韓国社会

88万ウォン世代(88만원세대、パルパルマヌォンセデ)」とは、2007年にベストセラーになった本のタイトルです。IMFショック以後に非正規雇用者が増え、当時の20代の非正規職の月給が88万ウォン(現在のレートで8万8千円)と算出されたもので、若者たちの実情を示した言葉として広まりました。

『88万ウォン世代』は日本でも出版された

その後2010年代前半には、「ヘル朝鮮(헬조선、ヘルチョソン)」という言葉も生まれました。受験や就職戦争が過酷なうえ、さらには親の経済力によって身分が固定されてしまう、といった実情について、皮肉を込めて「地獄の朝鮮」と呼ぶというものです。

経済力が不安定な若い世代は、恋愛、結婚、出産を放棄する「三放世代(삼포세대、サムポセデ)」とも言われていたのですが、それに加えて人間関係、マイホーム、夢、就職をあきらめた「七放世代(칠포세대、チルポセデ)」という言葉も生まれました。

公務員予備校街の屋台通り。値段も安くボリュームが多い。

こうしたなか、韓国を捨てて海外就職を選ぶ若者も増えているといい、そのなかでも日本を就職先に選ぶ人も多いのです。「日本の中小企業は待遇がよい」という噂もあるのだとか。

とはいえ、実際に日系企業で働いたことのある女性に尋ねてみると、こんな声も。

大手企業や中小企業とかよく調べず、(昔のイメージで)給料がよいと思っている人もいると思います。実際に外国人を雇う会社は人手が足りなくて、サービス業など大変な仕事も多いですね。給料もよくないし。正社員になるまで何年もかかるの で、その前に辞めてしまう。(20代・女性)

韓国での就職も大変な状況ですが、現実には海外就職も前途多難のようです。

以上のように就職が決まるまでの過程も、働き始めてからのキャリアも過酷に見える韓国ですが、普段の働き方を見ると、いくらかゆとりが感じられます。次に韓国の日常の働き方を見ていきます。

 

何かと融通が利く、韓国の日常の働き方

勤務中にメッセージを送っても返事が来る

韓国では規則やマニュアルがあっても、建前上は守らなければならないものです。しかし顧客の要望があれば、そこに担当者の裁量が働くことがあります。一旦は断ったとしても「本当はダメなんですが……」といいながら、何かサービスをしてくれるといったようなことです。

その傾向は働き方にも表れています。例えば、私用の連絡。勤務中にメッセージを送ったとしても、ものすごく忙しいわけではない場合は、仕事の合間をみて返信が返ってくることが普通。業務以外の行動も多少なら許されるというわけです。

夜勤は食事をとることが必須

韓国の会社では残業のことを一般的に「夜勤(야근、ヤグン)」ともいうのですが、この夜勤が長引くとき場合には、食事をとることが普通。韓国では食事をとることを重視しているためで、給与とともに食事手当(非課税扱い)が支給されている会社も多いのです。

出前の定番、韓国式ジャージャー麺(짜장면、チャジャンミョン)

ときには昼酒も許されることがある

日本の感覚からは考えられませんが、韓国では昼酒(낮술、ナッスル)すら許されることがあります。職場によっては日中に会食や接待が行われることもあり、その場合、食事とともにお酒を飲んでいるサラリーマンを見かけます。もちろんその後の仕事に支障がない範囲ではありますが……。

マッコリで乾杯。もちろん韓国焼酎やビールもよく飲むお酒

 

スペックに出世競争に……でも日常は融通がきくことも。

就職はハイスペックな争いのうえ、就職してからも気を抜けない韓国。しかし実際の働き方にはゆとりがみられ、規則にがんじがらめにならず、何かと融通が利くという点は日本にはないところ。「パルリパルリ(早く早く)」の精神が根付いており、スピード感があり、本気になると物事はものすごい速さで進んでいくことさえあります。

韓国の働き方は少し粗いところもあるとはいえ、臨機応変にテンポよく物事が進んでいく様子を見ると、日本には足りない何かが見えてくる気がします。

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この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

東方神起やJYJと同年代の1986年生まれ。「韓国を知りたい」という思いを日々のエネルギー源とするも、韓国のオシャレなカフェには似合わず日々苦悩。ソウルや釜山も好きだが、地方巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。SNSでは「トム・ハングル」の名で旅の情報を発信。Profile / Twitter / Facebook / Instagram / 韓旅専科

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