直前招待はシャイだから?会場は老人ホーム!?ミャンマー結婚式事情

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※本記事は特集『海外の結婚式』、ミャンマーからお送りします。

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結婚できるのは年に8ヶ月だけ

ミャンマー仏教では7月頃から10月頃にかけての約3か月間(月の満ち欠けによって毎年時期が異なる)、引っ越しや出家、そして結婚など、生活を大きく変える行事が行えない時期があります。さらに3月頃にも、結婚禁止期間が1か月ほどあります。つまり、結婚できるのは年に8か月ほどしかないため、同じ時期に結婚式が重なりがちになります

ミャンマーは多民族国家。写真はモン族(仏教徒)の伝統ウェディング。

ここでは、ミャンマーで人口の約9割という大多数を占める、仏教徒の結婚事情について解説します。日本にも仏教徒は多いですが、その事情は大違い。これがミャンマーの仏教結婚式の常識です!

 

STEP 1 準備編

ミャンマー人カップルが結婚式を挙げることに。さて、まずは何から手を付ければいいのでしょうか。その段取りを順に追ってみていきましょう。

日取り決定は占い師頼み

占い好きのミャンマー人は、式の日取りを占い師に見てもらって決める人が大多数です

占いの主流は手相と占星術。生まれ曜日などもかかわってくる。

ただ、最近は人気の会場を押さえる都合で、ある程度日にちを当人たちが決めていて、占い師に「この日あたりに挙げたいんだけど……」という相談の仕方をする人も多いそうです。何のための占いやら……。

年々派手になるウェディングフォト撮影

日取りが決まれば、式の前にどうしてもやっておかねばならないのが、ウェディング写真の撮影です。

式の際、入口付近にふたりのラブラブのウェディング写真を飾る。

近年、この撮影がだんだん派手になってきており、風光明媚な地方へロケ隊を伴って撮影旅行に行く人も増加中。中には、海外に撮影しに行くセレブもいるとか。

招待状はオリジナルで印刷

次に取り掛かるのは、印刷店への招待状の発注。ちなみに、ミャンマーでは葬儀の際に故人の名前などが入ったオリジナルうちわを配るのですが、この葬儀用の印刷も婚儀用の印刷店が請け負います。日本人からすれば縁起悪い気もしますが……。

31番通りに建ち並ぶ印刷店。

こうした印刷店は ヤンゴンではダウンタウンのインド人街、特に31番通り周辺に集中しています。印刷技術はイギリス植民地時代にインド人職人たちを通じて持ち込まれたからなのかもしれません。仏教色が色濃く出る儀式の印刷物を非仏教徒が多いインド人(全てではないですが)が作っているというのは、多民族国家ならではとも言えるでしょう。

もっと早くに配ってほしい招待状

招待状が出来上がると、新郎新婦が出席者の職場や自宅に配って回ります。ミャンマーでは招待状は手渡しがマナーなのです。困ったことにこの招待状、式直前に配られることが本当に多い! 職場の直属の上司など、是非参列してほしい人にでも1週間前、下手をしたら2~3日前に持って行きます。理由は恥ずかしいから。

男女関係に保守的なミャンマー人は、「恋人がいる」というのも親しい友人以外にはあまり言いたがりませんが、「もうすぐ結婚する」というのはそれを上回る恥ずかしさなのだとか。なのでその恥ずかしい期間を少しでも短くするために、ギリギリに配るんだそうです。もう結婚するのだからいいじゃない、と思うのですが……。

僧院付属の披露宴会場。仏像が鎮座しているのが、いかにも。

 

STEP 2 結婚式編

さて、いよいよ挙式です。

結婚式は挙式と披露宴の二段構え

日本では挙式と披露宴を分けて行う人が多いですが、ミャンマーも同じ。

日本でお経といえば葬式だが、ミャンマーには挙式用のお経もある。

僧院で僧侶を前に行う挙式と別に、友人を招いて食事をふるまう披露宴を行います。挙式と披露宴を同じ僧院で続けて行う人もいますが。日を改めるケースが多いようです。

僧院での挙式のあとは、招いた僧侶や参列者に食事をふるまう。

最近はホテルのバンケットルームで豪華披露宴を行う人が富裕層を中心に増えてきましたが、やはり一般的なのはレストランや僧院、そして日本人には驚きなのですが、養老院(老人ホーム)も人気の披露宴会場です

養老院での結婚式で功徳を積みまくり

養老院での披露宴の場合、入居する老人たち全員に披露宴の食事をふるまい、式に先立って院に寄付もします。

立派な披露宴会場を備える養老院も多い。右の大きな建物が結婚式場。

養老院の老人はいわば社会的弱者。そうした人たちへの寄進は、”功徳ポイント”が高いとされています。ですから、功徳を積むことが人生最大の目標であるミャンマー仏教徒たちには、一挙に大きく積めるとあって大人気。私の友人にも「養老院で結婚式をあげて功徳を積むのが小さい頃からの夢だった」と言って、養老院で披露宴をした女性がいます。

 

STEP 3 参列者編

結婚式のたびにロンジー(民族衣装)を新調!?

さて、招かれる方はどんな感じでしょうか?

私はベトナムや中国にも住んだことがありますが、両国とも結婚式は平服参加でOKでした。でも、ミャンマーは日本と同じで、みんな精一杯着飾って参列します。これまで披露宴に10回以上参加していますが、友人女性たちが同じロンジー(ミャンマーの民族衣装)を着ているのを見たことがありません

ロンジーのファッションショーと化す披露宴会場。

職場や親戚関係など、同じ顔ぶれが集まる式に参列するときは、姉妹や友人同士で貸し借りしてでも、同じロンジーを着ないよう努める人も多いとか。さすが、“着道楽”のミャンマー人です。

ポットは天下の周りもの?

そして御祝儀について。

新郎新婦がもらって嬉しいのはやはり現金でしょうが、持っていく側としてはそれなりの額でないと現金は格好がつきません。そのため、同僚や友人の式にはお祝いの品を贈る人が多いようです。その際、かさばるものが好まれます。ミャンマー人、なかなか見栄っ張りのようです。

きれいな包装紙でラッピングして持参するのがマナー。

人気は食器、炊飯器、鍋など。あまり親しくない人の場合、ポットが金額のわりには大きさもあってよいらしく、新婚夫婦は式後、“ポット長者”になるのだとか。ポットばかりそんなにあってどうするのでしょうか? と思いきや、実は転売したり、他の結婚式のお祝いに回したりする人も多いといいます。ミャンマーの結婚式において、ポットは天下の回り物といったところでしょうか。

引き出物には専門店もある。

引き出物の習慣もあります。ミャンマーでは受付でご祝儀と引き換えに配布。栓抜きや携帯電話立て、マグネットといったささやかな品が一般的です。

参列客は入れ替わり立ち替わり

元来、ミャンマーの披露宴はなんとなく始まってなんとなく終わっていました。出席者数もあいまいで、来た人から席について食事をするとすぐに帰り、同じ席に次に来た人が座るというスタイルです。

ヤンゴンにある某僧院付属の披露宴会場。ホテルのボールルームと変わりない。

ですから出席者数を明確にする必要はなく、出席する方からしても、かなり長い時間帯の中の都合のよい時間に行けばよく、招待状がギリギリに配られて他の予定が入ってしまっていてもどこかで参加できたりしました。

中央が新郎新婦。両側の白い衣装はブライドメイド。

しかしここ数年、祝辞や余興、指輪の交換、両親への花束贈呈などショーアップ化が進んできており、途中入室や退席がしにくい式も増えてきました。そのうちミャンマーも、空中ゴンドラで会場に現れる、なんてことになるのでしょうか。

 

ドレスに憧れて……ミャンマーの結婚式も変わっていくのか?

最後にミャンマーの将来の結婚観を示唆するエピソードを。

先日、ちょっと珍しい結婚式に参列しました。ともに仏教徒である新郎新婦が、僧院と教会の両方で挙式を挙げたのです。新郎の親族にキリスト教徒がいたことはいたのですが、新婦がウェディングドレスでの教会式をやってみたかったという理由が大きかったのではないかと思います

新郎新婦、親族、列席者。ほぼほぼ仏教徒が占める教会結婚式。

日常的なパゴダへの参拝や読経、托鉢が根付くミャンマーは、日本とは比べ物にならないほどの敬虔な仏教国です。この式の新婦も熱心な仏教徒でした。それでも教会で式を挙げたい。かつて神前式や仏前式から変化していった日本の結婚式が歩んだ道を、ミャンマーもまた歩むのでしょうか。

式後は、人形や花で飾り立てた車に乗って新居へ向かう。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

板坂 真季

板坂 真季

ガイドブックや雑誌、書籍、現地日本語情報誌などの制作にかかわってウン十年の編集ライター&取材コーディネーター。西アフリカ、中国、ベトナムと流れ流れて、2014年1月よりヤンゴン在住。エンゲル係数は恐ろしく高いが服は破れていても平気。主な実績:『るるぶ』(ミャンマー、ベトナム)、『最強アジア暮らし』、『現地在住日本人ライターが案内するはじめてのミャンマー』など。Facebookはこちら

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