2018.05.15

W杯にベトナムは自殺者続出? 経済発展とともにダークホースは本命に

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2018年ワールドカップ、はじまりますね! そこで海外ZINEでは、世界各地のサッカー事情について調査&レポート。サッカーベトナム代表、まだ出場に及ぶほどの力はありません……。でも、人気はとんでもなくあるんです! 何しろ最も売れてるスポーツ紙がサッカー専門紙。あとW杯のたびに自殺者が出る。え、なんで? さぁ、まず倒すべきはお隣のタイだ!

 

サッカー後進国・ベトナムでもW杯は大盛り上がり! その理由とは?

世界中が熱狂するサッカーの祭典・ワールドカップの夏がやってきました! でも、それって出場できない国の人たちに関係あるの?

はっきり言って、筆者が長年暮らすベトナムは、アジアの中でもサッカー後進国。男子のフル代表(ナショナルチーム)がワールドカップに出場したことは過去に一度もなく、6大会連続で出場している日本から見れば、どうしても格下感は否めません……。

ベトナム代表サポーターの写真

しかし、東南アジア諸国ではサッカーが非常に盛んで、ことサッカー熱に関しては、日本人の想像をはるかに超えるものがあります。日本では、野球やサッカー、バスケ、相撲など複数のスポーツが人気を分け合っていますが、ほとんどの東南アジアの国において、スポーツと言えば、「一にも二にもサッカー!」。 フランス植民地時代にサッカーが伝わったとされるベトナムでも、もちろん掛け値なしの一番人気スポーツ。ちなみに、ベトナム語では「Bóng đá(bóng=ボール、đá=蹴る)」と呼ばれています。

ベトナム国内で最も読まれているスポーツ紙は、ベトナムサッカー連盟(VFF)が発行している「Bóng đá新聞」で、一日の平均発行部数は約12万部。中身は、サッカー記事が約9割を占め、国内だけでなく、欧州リーグやUEFAチャンピオンズリーグの情報も網羅しています。

Bongda紙

発展途上国のベトナムは、まだまだ娯楽が乏しいということもあり、週末に開催されるヨーロッパサッカーの中継をテレビやインターネットで夢中になって観戦する人々の姿が街のあちらこちらで見られます。普段からそんな状況なので、4年に一度のワールドカップが盛り上がらないわけもございません

レストランでのサッカー中継

さて、そんなサッカー大好きなベトナム人ですが、ワールドカップが盛り上がる背景には、違法サッカーくじの存在があると言われてきました。社会主義国のベトナムにおいて、ギャンブルは長い間、御法度とされ、国内のカジノではベトナム人の入場は厳禁。そんな中でも、国境に沿ってカンボジア側にあるカジノが大勢のベトナム人客で溢れていたことからも分かるよう、実はかなりのギャンブル好きな国民。旧正月(Tết)には、親戚一同で集まって、朝から晩まで賭けトランプやビンゴに興じています。

ベトナム一流ホテル併設のカジノ。

当然サッカーも賭けの対象となり、ベトナム国内では、Xã hội đen(Xã hội=社会、đen=黒、つまりマフィア)が管理する違法サッカー賭博と、これに関連する八百長が横行。かつては、スタジアムで試合中に現ナマが飛び交っていましたが、近年はインターネットを介したサッカー賭博が増加し、公安省ハイテク犯罪特捜局(C50)とのいたちごっこが続いていました。ワールドカップやEUROといった大きな国際大会の時期になると、違法賭博が活発化。こういうのは往々にして得をするのは元締めだけ。賭ける側は借金地獄に陥る人も多く、返済や新たに軍資金を調達するため、質屋(Cầm đồ)が繁盛したり、ひったくりが増えたり、自殺者が急増したり、というのがこの時期の風物詩でした。

ベトナム政府は2017年初め、国外でギャンブルに興じるベトナム人が多いことによる資金の国外流出を重く受け止め、ベトナム国民のギャンブルを条件付きで試験的に解禁。同年3月末には、競馬やドッグレース、サッカーくじについても解禁し、管理を分かりやすくすることで、反社会的勢力の排除に向けて動き始めました。ギャンブル解禁については、依然として賛否両論がありますが、関連機関への意見聴取を終えた政府は近く、国際大会を対象としたサッカーくじを正式に合法化する方針で、このままいくと、2018年のロシア大会はサッカーくじ解禁後で初めてのワールドカップになりそうです。果たして解禁の効果は見られるのか……あるいは、いつもの風物詩が繰り返されるのか、このあたりも見ものです。

質屋(cầm đồ)

 

東南アジアサッカーの勢力図。ベトナム代表の立ち位置は「永遠の…」?

2017年末以降のFIFAランキングで、東南アジア首位をキープしているベトナム。しかし、過去に国際タイトルを獲得したのは、2008年のAFFスズキカップ(東南アジアサッカー選手権)のみ。東南アジア的には、“永遠のダークホース”というイメージが定着しています。東南アジア諸国が重視している国際大会としては、フル代表が出場するAFFスズキカップと五輪世代が出場するSEA Gamesがありますが、ベトナムの定位置はベスト4。予選リーグでは、強さを見せるものの、決勝トーナメントに入ると、途端に勝負弱くなって自滅するという悪い癖があります。ベトナムのファンは、「予選突破は当たり前。決勝トーナメントからが本当の勝負」と考えており、予選リーグだといまいち盛り上がりません。

スズキカップのトロフィー

東南アジア域内で、実力的にベトナムと肩を並べるのが、マレーシアとインドネシア。このあたりは、ほぼどんぐりの背比べと言っていいでしょう。バスケットが国技のフィリピンは、サッカーの若手育成に本腰を入れておらず、外国育ちのハーフを帰化させて代表チーム(通称アズカルズ=雑種の野犬)を強化しており、脅威と言えるのは年齢制限のないフル代表だけ。この他では、ミャンマーとカンボジアが地道な若手育成の成果が出てきて台頭しつつありますが、まだまだベトナムを脅かすほどではありません。かつての強豪シンガポールは、長い低迷期に入っており、もはやベトナムが恐れる存在ではなくなっています。

ベトナム代表のプレー風景

そんな中、ベトナムが強烈にライバル視する国があります。それは、お隣のタイ。ワールドカップ予選などの重要な局面で、常にベトナムの前に立ちはだかってきた因縁の相手です。ベトナムサッカー連盟のお偉方も、「とにかくタイには負けたくない!」と口々に語っており、選手もファンもタイ戦は、いつも特別な気持ちで臨んでいますが、負け続けてきた歴史があるため、どうにも苦手意識が強く、(予選では)出来れば対戦したくないというのが本音のようです。

永遠のライバル・タイ

 

こんなところでもライバル心。タイがセパタクローならベトナムはダーカウだ!

私はサッカーライターという仕事柄、タイのサッカー関係者と接する機会も多いのですが、そんな時、彼らがしばしば(ドヤ顔で)語ることとして、「タイは国技セパタクロー(足を使ったバレーボールのような競技)があるので、独特の体の動きを幼いころから修得しており、それがサッカーでも強みになっている」というのがあります。

ベトナムとタイ

実際には、地面にボールがついた状態でのプレーがないセパタクローは、サッカーと全く別物。これが上手いからといってサッカーの試合でどれだけ役に立つかは甚だ疑問ですが、ネット際で見せる空中でのアクロバティックな動きは、まるで元スウェーデン代表イブラヒモビッチのようでもあり……初めて試合を見たときは、その迫力に圧倒されました。セパタクローという競技が、股関節の柔らかさや身体能力そのものを高めるという点は否定しようがありません。

しかし、タイのセパタクロー自慢話を聞かされると、すっかり現地化してベトナム贔屓になっている筆者としては、「だから何? ベトナムにだってダーカウ(Đá cầu)がある!」と言い返したい気持ちになります、と言うか既に何度か言い返しています。

ダーカウの羽根

ダーカウ(Đá=蹴る、cầu=羽根)は、セパタクローとよく似た足を使うスポーツですが、使用するのはボールではなく、先端に重りがついたシャトルコック(羽根)。道具が球状じゃない分、さらにサッカーから遠ざかる気もしますが、そこはあえて無視。ベトナムの国民的スポーツ「ダーカウ」は、紀元前5世紀の中国で始まった「チェンズ(Jianzi)」を起源とすると言われており、現在は、東南アジア、東アジア、ヨーロッパにも広まり、2年に一度の世界選手権も開催され、ダーカウ王国・ベトナムは過去の全大会で総合優勝しています。

公園で見かけるダーカウのプレー風景

的が小さい分、初心者では、上手く足に当てることすら難しいダーカウ。足の甲、内側、外側を使う基本的な動きは、サッカーのリフティングによく似ており、膝や足首の柔軟性を身に着けると言う意味では、最適と言えるかもしれません。

男女別シングルス、ダブルス、3人制、男女混合ダブルスで行われる公式戦は、セパタクロー同様に相手チームとネットを挟んでのプレーになるので、敵陣に羽根を蹴り返す時はサッカーのオーバーヘッドキックのようなアクロバティックな技も飛び出します。つまり……セパタクローで身に着けられる動きは、ダーカウにも(大部分)共通する! だから、あんまりデカい顔すんなよタイ! ベトナムだって負けてないぞー!……負けてないよね? あまり偉そうにしないでほしいなぁ……(タイコンプレックスのせいで、ついつい卑屈になってしまうのが、悲しいベトナムファンの性)

動画:ダーカウのプレー風景

 

もう夢物語じゃない! ワールドカップは「観るもの」から「参加するもの」へ……

今はテレビやインターネットで気軽にヨーロッパサッカーが楽しめる時代。八百長の噂が絶えず、レベルも高いとは言えない国内リーグ「Vリーグ」より、ヨーロッパサッカーの方が断然いい! というベトナム人も多いですが、代表チームとなると話は別です。

国の誇りであるサッカーベトナム代表(通称ゴールデンスター)の人気は非常に高く、今年1月に中国で開催された23歳以下のアジア選手権でベトナムが準優勝した際は、国中が一体となって応援。特に、決勝トーナメント以降の盛り上がりは凄まじく、勝ち上がるたびに街中は、ファンファーレ代わりのクラクションを鳴らしながら走り回るバイクの群れで溢れかえり、大変な熱気に包まれました。

バイクの群れ

この大会では、延長・PK戦での劇的な勝利が続いたこともあり、決勝進出を決めた頃には、国民のボルテージは最高潮。何しろアジアサッカー連盟(AFC)主催大会でベトナムが決勝にコマを進めるのは初めてのことだったのです。一部のローカル企業や学校は、この国民的行事に備えて、臨時でお休みにしたほど。

在ベトナム日本国大使館および在ホーチミン日本国領事館は、安全面の観点から決勝戦が行われる夜は、外出を控えるよう注意喚起を発信。結局、大雪の中で行われたウズベキスタンとの決勝は、延長の末にベトナムが敗れて準優勝に終わったものの、若きベトナム代表の健闘を称えるファンたちは、「ベトナムチャンピオン!」の大合唱で深夜までお祭り騒ぎを続けたのでした。

U23フィーバーに沸くHCM市

因みに、日本はこの大会でベスト8敗退。ベトナムの躍進に驚いた日本人サッカーファンも多かったと思いますが、実はベトナムサッカーの育成年代は、経済発展で台頭してきた財閥各社が、インフラの整備や外国人指導者の招聘などで積極的な投資をしてきたおかげで、急速に力をつけているのです。ジュニアユースやユース年代で、ベトナムのチームがJリーグの下部組織を下すことは、もはやサプライズとは言えません。

ベトナムとJ下部組織の親善試合

ベトナムにとって、今まで遠い世界の出来事だったワールドカップ。それは夢の舞台から明確な目標へと変わりつつあります。若手の急成長に加え、ワールドカップの出場枠が今後拡大することもあり、これまで縁がなかった東南アジアの国々にも出場の可能性が広がっています。

ベトナムでは、一足早くフットサル代表が2016年のワールドカップに初出場。サッカーでもアンダー世代の代表が2017年のU-20ワールドカップに初出場を果たしました。ベトナムサッカー連盟は、2030年のワールドカップ初出場を目標に掲げていますが、このまま順調にステップアップしていけば、世界の大舞台でベトナム国歌が聴ける日も、そう遠くはないでしょう。

ベトナムサポーター

  • ※当サイトのコンテンツ(テキスト、画像、その他のデータ)の無断転載・無断使用を固く禁じます。また、まとめサイトなどへの引用も厳禁です。
  • ※記事は現地事情に精通したライターが制作しておりますが、その国・地域の、すべての文化の紹介を保証するものではありません。

この記事を書いた人

宇佐美 淳

宇佐美 淳

愛知県名古屋市出身の翻訳家・編集者兼スポーツライター。2005年からベトナム・ホーチミン在住。2011年からベトナム情報配信サイト「VIETJO」の編集長を3年程務め、在職中の2013年に個人的野望からサッカー専門サイト「ベトナムフットボールダイジェスト」を立ち上げる。現在は、ベトナムのフリーペーパー「VINABOO」の編集者として働く傍ら、日越サッカーの架け橋となるべく、日々活動を続けている。最近は、サッカーエージェント業も細々と営んでいる。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加