「赤い悪魔」を名乗る韓国サッカー応援団、日韓戦からさぐる日本観

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※本記事は特集『海外のサッカー事情』、韓国からお送りします。

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軍隊でサッカーをした話は女性が嫌う

朝鮮半島は南北が分断されていることもあり、男性は兵役が義務。一部の例外を除き、30歳になるまでの間に軍隊へ行かなければなりません。入隊する時期は人それぞれ。多くの若者たちは大学へ入学したあとに休学して入隊します。

かつては兵役の期間が3年ありましたが、現在は通常であれば2年弱。とはいえ、入隊中は携帯電話すら使うことができず、兵役を終えて帰ってきた男性たちは、まさに浦島太郎状態。頭のなかは軍隊でのことばかりで、しばらくはその話しかできなくなります。

バスターミナルで切符を買う若い軍人たち

そんななか韓国でよく言われる話があります。それは「女性が嫌う話ベスト3」。下から順に挙げていくと、3位が「サッカーの話」、2位は「軍隊の話」、そして1位が「軍隊でサッカーをした話」です(順番は諸説あり)。

軍隊やサッカーは、女性にとってはどちらも関係ない話。しかも、これらは男性に会うたびに必ず聞かされる話なので、聞き飽きてしまっているから、このように言うわけです。

サッカーをしている様子(イメージ)

このベスト3は、韓国人なら誰でも知っている話。私は出会った韓国人からこの話自体を何度も聞かされ、耳タコ状態です(笑)。

ちなみに韓国では、韓国人なら誰でも知っていることについて、「~を知らなきゃスパイ(~를 모르면 간첩이다)」と例えます。つまり知らなければ「北韓(北朝鮮)のスパイだ」という意味で、この話も知らなきゃスパイというくらい有名な話です。

 

韓国ではサッカーと野球が二大人気スポーツ、eスポーツも

2017年に発表されたニールセンコリアによる、15歳以上の韓国人を対象にした「韓国人の関心スポーツ種目」のランキング結果によれば、韓国人全体では1位が野球(62%)、2位がサッカー(52.6%)、3位がゴルフ(30.9%)という結果です。(出典:한국인이 가장 관심 있는 스포츠 종목은 “야구”와 “축구(韓国人が最も関心のあるスポーツ種目は「野球」と「サッカー」))

釜山の人気球団・ロッテジャイアンツの本拠地・社稷野球場の前で

結果からしても野球やサッカーは人気の2大スポーツであり、またオンラインゲームなどで対戦するeスポーツも盛んであることから6位にランクインしています。

韓国では1981年にプロ野球リーグが始まり、1983年にはプロサッカーリーグが始まるなど、サッカー人気には根強いものがあります。

水原ワールドカップ競技場

しかし近年、韓国のKリーグの人気は低迷気味。サッカーは国内のプロリーグよりも海外移籍した選手の活躍や、国際大会に多くの関心が集まるスポーツだといえます。

2018年1月現在のFIFAランキングは日本が56位、韓国が59位と拮抗しており、日韓戦では両国のマスコミが「永遠のライバル」と語ることからも、いろいろな意味で距離を縮めているといえるでしょう。

 

日韓戦抜きにして語れない韓国のサッカー

韓国のサッカーの国際大会では、日韓戦(韓日戦)を抜きにしては語れないと言っても過言ではないでしょう。最も意識している国は、歴史的な背景からやはり日本といえます。

日本統治からの解放後初となる1954年の日韓戦、神宮外苑競技場で行われたワールドカップアジア予選の際、当時の大統領だった李承晩は、「日本に負けたら玄界灘に身を投げろ」と言ったことは有名な話です。

1910年~1945年の約36年間、日本が韓国を統治して、実質的に植民地にしていたことや、それ以前にも豊臣政権(1590~1603年)による文禄・慶長の役で、中国大陸進出への足掛かりとして、朝鮮半島を荒らしたことが理由でしょう。

日本統治の象徴、朝鮮総督府庁舎(1995年解体)

日韓戦で韓国が勝った翌朝には、韓国人の同僚から自慢をされたことを覚えていますし、たまたま日韓戦の日にサウナに出かけたら、テレビの前ではプチ・パブリックビューイングが行われ、夜が騒がしかったのを覚えています。もちろんメディアも日韓戦を煽る傾向にあります。

このように日本を特別にライバル視するなど、日韓戦が騒がしくなる理由を単純に言うならば、その根底には「日本にやられてばかりで悔しい」という気持ちがあるからだと思います。その気持ちは選手もサポーターも同じではないでしょうか。

©Whoisgalt

もちろん、スポーツの応援が過熱するだけなら何の問題もありません。しかし2012年のワールドカップ日韓戦では、韓国の選手が「独島はわが領土(독도는 우리땅)」と書かれたカードを掲げたり、翌2013年の東アジアカップ日韓戦では、サポーターが「歴史を忘れた民族に未来はない」という横断幕を掲げるなど、政治的にもヒートアップしてしまいます。

また日本側もこれに呼応してか、韓国側が日本帝国主義の象徴だとして嫌っている「旭日旗」を掲げることがあります。(日本側からすると必ずしもそのような考えで掲げているわけではないともいえますが……。)

いずれにせよ政治や歴史問題を主張する場として利用することは、当然ながらルール違反。しかしメディアを通して、韓国サポーターのそのような行動だけを見て「嫌韓」への意識へとつながってしまうのは残念に思うところ。より広い視野で考えてみる必要があります。

さて一般の韓国人たちは、日本に対してどう思っているのでしょうか。

 

日本が嫌いとはいっても、日本人には好意的な韓国人

数年前、私が韓国の地方に出かけたとき、たまたま出会った60代中盤ほどの男性と楽しく雑談をしていました。その年代は日本による支配からの解放後に生まれた世代。この機会に日本に対する認識を尋ねてみました。

天安・独立紀念館

するとその男性は「我々の世代は特に反日教育が強かったから、正直日本が嫌いだけれど、決して日本人を憎んでいるわけではないんだ」というのです。ちなみに韓国で反日感情が最も強いとされているのは、1945年の解放直後に生まれた、まさにこの方の世代です。

このように「日本が嫌い」と話す人には実際によく出くわしますが、多くの方は似たり寄ったりのことを話してくれます。それでも目の前にいる日本人を嫌っているわけではありません。ほかの外国人と同じように親切に接してくれる人がほとんどですし、「礼儀正しい、マナーが良い」という印象を持っていることが多いのです。

たしかに日本統治時代には実質的な被害を受けたり、不利益を被った人がいて、それを恨みに感じていた人はいたでしょう。しかし70年以上が経過した今では、韓国でも音楽やアニメなどの日本文化が受容され、年間700万人を超える観光客が日本にやってきます。

その一方、日本戦では前述のように「過去の悔しさ」をぶつけているようにも思え、「日本には負けられない」というその気持ちこそが、試合に勝つための原動力となっているのでしょう。

このように日本に対する考え方は、かなり複雑。韓国は反日だとか親日だとか、単純にそのような言葉で片づけられるものではないのです。

 

2002年の日韓共催ワールドカップ

2002年には日韓共催FIFAワールドカップが開催。韓国でも日本と同様、ワールドカップ開催を機に、全国各地で競技場が建設されました。当時建てられた施設は「ワールドカップ競技場」という名前で今も使用されています。

[2002年FIFAワールドカップ 水原ワールドカップ競技場 サッカー博物館 蔵]

なかでも注目に値する場所が、ソウルワールドカップ競技場。その建設予定地とされた場所は、ソウルの漢江沿いにある蘭芝島(ナンジド、난지도)という場所でした。そこは上岩洞(サンアムドン、상암동)という町で、現在は近くにテレビ局が集まるデジタルメディアシティという新しい街が形成されています。

蘭芝島はソウルが急速に発展するなか、1978年からゴミの処分場として使われていました。処分場とはいえ、単純にごみを集めて積んでいく「オープンダンピング」だったため、悪臭や有害物質による汚染が深刻でした。

オープンダンピングのイメージ

当初はその場所に競技場が建設される予定だったのですが、ごみの山を埋め立てて、その場所を公園化。それが「ワールドカップ公園」です。この公園のなかには4つのエリアがありますが、その一つが「空の公園」という意味の「ハヌル公園」。ここがまさにごみを埋め立てた丘に当たる場所。

秋になるとススキ野原が美しく、夜になるとライトアップまでされる幻想的なスポット。今では当時の様子を想像させる余地はありません。

秋には一面にススキが広がるハヌル公園

このように2002年のワールドカップ開催を機に、ごみの山は一転して、環境を重視した場所へと生まれ変わりました。そのハヌル公園からは漢江や、隣にあるワールドカップ競技場を一望でき、カップルたちが集うデートスポットにもなっています。

ソウルワールドカップ競技場

オリンピックやワールドカップのような国際大会は、急速に発展を遂げた国にとっては浄化作用になったり、市民意識を向上させることにもつながるものですが、それは韓国でも同じです。

 

スキーのジャンプ競技場がサッカー場に!?

一方では既存の施設をサッカー場に転用した例があります。それは平昌五輪で使われたアルペンシア・スキージャンプセンター。

オリンピックが決定する以前からあるジャンプ競技場ではありますが、サッカーの試合を行うことができる広さを有していることから、2016年から地元・江原道(カンウォンド、강원도)のチーム「江原FC」がKリーグの試合を開催しています。

左・観客席と選手出入口、右・ジャンプ台のすぐ下がゴール

初夏に訪れたところ、高原の涼しい風が吹き抜け、ジャンプ台の前には美しい天然芝が広がっていました。ここにゴールを置けば、サッカー場に生まれ変わります。世にも珍しいスタイルの競技場です。

実際にノーマルヒルのジャンプ台から眺めてみると、少しはサッカー場らしく見えてきませんか?

ノーマルヒルのジャンプ台から望むグラウンド/手前、奥がゴールの位置

しかし交通の便がネック。最寄りとなるバスターミナルからはおよそ4キロほど離れており、バスの便も悪いのです。そして平昌郡の人口もわずか4万人強。観客席は1万5千人収容できるとはいえ、それほど多くの観客の動員は見込めないようです。それでも夏場に有効活用できることのメリットは大きいと思います。

国際大会を行うにあたっては多額の資金が投入されるもの。しかしその後どのように活用されるかはどこも課題になっているはずです。そんななか平昌のジャンプ台は、他の国も参考にする事例となるのではないでしょうか。

 

韓国サポーターは赤い悪魔、耳に残る「テー・ハン・ミン・グ」応援

韓国の国際大会のサポーターたちは「赤い悪魔」という意味の「プルグンアンマ(붉은악마)という名前です。英語では”Red Devil”。

韓国代表のユニフォームが赤だったことが理由で、このように呼ばれるようになりました。マスコットは蚩尤(しゆう)という中国や朝鮮の神話に出てくる神をモチーフにして描かれています。

レッドデビルの応援グッズ(水原ワールドカップ競技場 サッカー博物館蔵)

応援の時は「大韓民国」という意味の「テー・ハン・ミン・グッ」といい、そのリズムにあわせて5回手を叩くスタイルです。韓国サポーターたちはこのように応援します。

今回のロシアでのワールドカップ、実際に観戦に行かれる方もいらっしゃるでしょう。そんなとき、現地で韓国サポーターと交流するときにも覚えておきたい言葉、それは「ファイティン!(화이팅)」。

これは日本語で「ファイト!」「がんばれ!」と同じ意味。もし韓国サポーターに出会ったら、お互いの健闘を称えあい、韓国人に「テーハンミング ファイティン!」と言ってみたら、仲良くなれるかもしれません

 

 

韓国の日本観を考えるきっかけに

韓国の国民的スポーツのひとつ、サッカー。とくに国際試合は日韓戦を抜きにして語れないところがあります。そんななかでの2002年のW杯共同開催は歴史的な快挙でもありました。

日韓戦という場では、どうしてもヒートアップしすぎてしまうところもありますが、そういったとき「韓国人は日本に対して、どのように考えているのか」を再考してみることも必要ではないでしょうか。

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この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

東方神起やJYJと同年代の1986年生まれ。「韓国を知りたい」という思いを日々のエネルギー源とするも、韓国のオシャレなカフェには似合わず日々苦悩。ソウルや釜山も好きだが、地方巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。SNSでは「トム・ハングル」の名で旅の情報を発信。Profile / Twitter / Facebook / Instagram / 韓旅専科

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