アルゼンチンの昼寝は4時間!? シエスタで回るラテンの夜型生活
アルゼンチンは”シエスタ”を中心に回っている
Hola(こんにちは)、アルゼンチン在住の奥川です。
僕がベッドにいる理由は、今回はアルゼンチンのお昼寝文化「シエスタ」について紹介するから。日本では、子どもはまだしも大人が昼寝をとることはそれほど一般的ではありません。でも、この国では当たり前、しかも2~3時間の長すぎる昼寝。アルゼンチン人のライフスタイルは、シエスタを中心に回っていると言っても過言ではありません。
子どもも大人も毎日昼寝! シエスタ文化は植民地時代の名残
シエスタの時間帯は、基本的に13:00~16:30もしくは17:00まで。たとえば、人が早くからやってくるスーパーやKIOSCO(コンビニみたいなもの)は16:30に、床屋さんのような常に人が来るわけではないお店は少し遅めの17時くらいから開きます。シエスタは昼寝もしくは休憩の時間なので、お店が閉まりますし、そもそも人が来ないから開けても意味がないんですよね。
こちらは、僕がアルゼンチン人と働いていた時の大まかなスケジュール。
驚くことに、正午前後に一度勤務が終わり、4時間のシエスタのあと再び働くという勤務体系。昼寝をするから労働時間が短いということはなく、基本的にはきっかり8時間労働です。残業はほぼないけど、意外としっかりと働いているんですよ。
アルゼンチンの小学校。12月から3月まで夏休みのため、撮影した日には誰もおらず。
しかし、子供の場合はシエスタを取れない可能性があります。というのも、アルゼンチンの学校は日本のように一日中授業がありません。中学生のアルゼンチン嫁の妹から聞いた学校では、午前中(8:30~13:00)に授業を受けるのか、それとも午後(13:30~16:30)に授業を受けるのか、学期開始前に決めるそうです。小学校・高校も同じスケジュールで授業が行われ、学校によって微妙に時間が異なるそうですが、基本的にはこの時間帯で授業が行われます。
ストリートアートが頻繁にみられるアルゼンチン。小学校の壁までもがカンバスに。
また、職場によってもシエスタの時間帯は異なります。義父は基本的には12時に一度帰ってくるのですが、たまに9時から16時まで働くこともあり、その時は16時に昼食をとって20時くらいまで昼寝もしくは休憩をしています。仕事を何時に切り上げようとも、シエスタだけは欠かせないのです。しかし、首都・ブエノスアイレスでは多忙のためか、日本と同じように9時から17時まで仕事をする企業も少なくないそうです。
先住民・マプチェ族の絵。マプチェ族はスペインの侵略に対して抵抗してきた先住民です。
アルゼンチンは、中南米諸国と並んでスペインの植民地だった時代があります。その名残は今でも強く残っており、公用語がスペイン語の国も多くあることからも分かるように、スペイン文化もまた強く根付いており、シエスタもそのひとつなのです。
文化が生まれた背景ですが、当のアルゼンチン人に聞いても答えは分からず。その後、僕とアルゼンチン人がなるほどと思ったウェブで見つけた仮説では、シエスタがある国は昼食をしっかりと食べ、暑い気候であるということ。アルゼンチンの昼食はボリューム満点で、夏は40℃を超えることもあり日射しが強い。暑い上に昼食後にやってくる強烈な眠気を我慢したまま活動しても生産性が悪いので、涼しくなる時間帯を休憩しながら待つ。ある意味、合理的な文化でもあります。
主な昼食。食文化はスペインからよりもイタリア系移民の影響を強く受けているように思います。
まるで「ヴァンパイア」!? アルゼンチン人の睡眠スタイル
ここで、アルゼンチン嫁のシエスタへのこだわりを紹介。僕の周りでは、太陽の光が室内に入ることを避ける人が多いです。寝室、特にシエスタの時間帯に日光が入ることは、アルゼンチン人にとって最悪の事態。そこで、日光を可能な限り遮断したいと考えた嫁がとった行動がこちらです。
窓を黒い画用紙で覆って。
その上からカーテンを閉める。
他の窓も、カーテンの上からさらにブランケットで覆って日光を遮断。
するとこのような結果に。これは14時頃に撮影した写真ですが、真っ暗! 写真だと少し明るいですが、体感では夜と勘違いしてしまうほど暗いです。暗室で熟睡するのが嫁のこだわりなのですが、最初にこれを見たときは正直ひきました。
何してんの?
私、日光嫌いだから、画用紙とブランケットで遮断してるの
カーテンあるじゃん
薄明りも嫌なの!
ヴァンパイアかよ……
僕の義父は大工で、友人にスペイン人の建築家がいるのですが、彼らが以前「アルゼンチン人が家を設計するときは、日光が入らない位置に寝室を作ることが多いんだよ」と話してくれ、ハッとしたことがあります。僕はアルゼンチンで家を2軒借りたことがあるのですが、どちらもシエスタの時間には寝室に直射日光が入らない設計だったからです。義父の家の寝室も、友人宅の寝室にも日光が入らない、よくよく考えるとはじめから昼寝をするための設計だったのかもしれません。
14時頃に撮影した自宅。太陽は左側にあり、寝室は2階右側。赤いカーテンがしっかりと閉められている状態が分かるでしょうか?
では、アルゼンチン人が考える最高の昼寝環境とはなんでしょうか? 僕が住む地域に限れば、雨が降ったときと答える人が多いでしょう。僕はネウケン州というパタゴニアに住んでいるのですが、年じゅう乾燥しています。つまり、雨がほとんど降らず。アンデス山脈からやってくる強風「パタゴニアの風」が吹き荒れます(強風が原因で停電することはしばしば)。飛行機の上から初めて見た、パタゴニアのどこまでも続く広大な土地の感動は今でも忘れません。
そんな雨が滅多に降らない地域だからこそ、パタゴニアに住む人々は雨を喜びます。乾燥した空気に水分を与え、砂や埃で汚れた植物を綺麗にしてくれる。ザーザーと降る雨音を聴きながら昼寝をする時間が、この上ない喜びだそうです。
もちろん、昼寝をしないアルゼンチン人もいますし、かくいう僕自身も2時間も昼寝することはほとんどありません。今でこそ「昼寝」の意味でシエスタを使う人が多いですが、元々の意味は「昼休憩」。30~60分間の昼寝をして、残りは読書や映画を観たりしています。
賑やかな町も、シエスタの時間はゴーストタウンに……!
嫁撮影の「突然アルゼンチンに移住した彼氏と一緒に、久しぶりにシエスタってるナウに使っていいよ」写真。
シエスタの時間帯は、ほとんどのお店が閉まっていれば、外を歩いている人もいません。そのゴーストタウンぶりを紹介するために、眠気に耐えながらシエスタ中の町を撮影してきました。ちなみに、いつもは嫁がカメラマンとして協力をしてくれますが、「シエスタすっぽかしてまで仕事できるか! 」と怒られたので、一人で撮影してきました。
まずはスーパー。日本では朝から晩まで開いていますが、シエスタ中は閉まっています。
右側に営業時間が記されていますが、シエスタ中は閉まっていることが分かりますね。
【月曜日~金曜日】8:30~12:30/16:45~21:15
【土曜日】9:00~13:00/16:45~21:15
【日曜日・祝日】9:00~13:00
鶏肉屋さんも閉店中。ここの骨付き鶏肉が3㎏60アルゼンチンペソ(およそ380円)なので贔屓にしています。嫁のおじいちゃんの60歳代の彼女がここで働いています。
ラテンな嫁のおじいちゃん(80歳くらい)は何年も前に奥様を亡くしている。そんなおじいちゃんが倒れたのは約2週間前、数日の入院ですんだのが不幸中の幸い。いや、おじいちゃんにとっての幸いは別のことかもしれない。おじいちゃんに彼女ができた。相手は僕の行きつけの鶏肉屋の店員。みんな大喜び。
— 奥川@アルゼンチン (@Writer_Okugawa) 2017年11月24日
これはATM。数が少ないので普段は行列ができるんですが、シエスタの時間帯だけは空いています。思わずシエスタの時間帯にお金をおろしたくなりますが、アルゼンチン人が言うには「シエスタの時間帯は危険」ということ。町から人がいなくなるので、ひったくりや強盗に遭っても誰も助けてくれないらしいです。だから、安全面も考慮してお店も閉まっているのかなと思いました。
ちなみに、日本のクレジットカードやデビットカードでは基本的に、1枚につき1日4,000ペソ(およそ25,650円)しか下ろせません。大きなデメリットかなと最初は思ったんですが、盗まれても最大で25,000円しか損しないというポジティブな発想もできます。
右上から時計回りに、教会・KIOSCO・八百屋さん・住宅街。どこも閉まっていれば、家の前に車が止まっているのに外に出ている人は誰もいません。みんな昼寝もしくは休憩をしています。日本人からしたら信じられませんよね。
シエスタ中心に回る、「遅め」なアルゼンチン人のライフスタイル
19時頃の公園の様子。この時間帯は風が気持ちよく過ごしやすい。
シエスタがあるため、季節に関係なくアルゼンチン人が活動する時間は遅いです。特に夏は13~17時までは日差しが非常に強いので、18時半頃から買い物や外に出かけることがほとんど。日の入りは21時頃なので、子供は夜遅くまで遊んでいます。
退勤時間も基本的には20~21時、夕食は必然的に22時以降になります。最近では20時頃にオープンするレストランも増えてきましたが、多くは22時以降にオープンして25時に閉まる。観光に来る際にはレストランの営業時間を確認しましょう。ただし、昼食以降は22時まで何も食べないというわけではなく、18時頃に軽食をとることが多いです。マテ茶や紅茶を飲みながら、菓子パン、パンとジャム、ハムやチーズやサラミなどを食べるのでお腹は22時まで持ちます。
パンのほかには、手作りのケーキやチュロスなども食べます。
アイスクリーム好きのアルゼンチン人、子供よりも大人のお客さんの方が多いかも。
アルゼンチン人は平日に夜遊びをすることは少なく、理由は「次の日も仕事があるから」……意外と真面目ですよね。夏の平日は夕食後に散歩をしてアイスクリームを食べることが多く、冬場は読書や映画などの文化活動ばかりです。
しかし、金・土曜日の夜は思いっきり楽しみます。友人とサッカーをした後にビールを飲む、夜遅くまでおしゃべりをする、そしてクラブに行くなど。特に、クラブで一晩中踊り明かすことが若者の定番の娯楽です。老若男女ともにダンス好きなところは、ラテン文化を感じますよね。
肩の力を抜いた暮らしがアルゼンチン流
アルゼンチン人にとってシエスタは欠かせません。一度嫁に「なんで毎日昼寝する必要があるの?」と聞いたところ、「疲れてるから休憩する、当たり前じゃん。無理しても意味ないでしょ」と返され、カルチャーショックを受けたことがあります。日本人は無理しすぎるところがありますが、アルゼンチン人のように肩の力を抜く生き方もあるのかと。
アルゼンチンに来た際には、くれぐれもシエスタを考慮して旅行計画を立ててください。真昼間に出歩いても、店が閉まっている可能性は高く、強盗に遭っても助けてくれる人がいません。現地の人々のように、日本では考えられないほど昼寝をしてから、ショッピングや観光を楽しむのもいいですよね。
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編集:ネルソン水嶋
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