ポーランド人の血はウォッカ仕込み? 寒く長い冬を越えるための命の水

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※本記事は特集『ライターがオススメする裏観光』、ポーランドからお送りします。

クリックorタップでポーランド説明

 

ポーランド人のお供は「お水ちゃん」

みなさん、ポーランドからCześć!(こんにちは!)

友人曰く、「マイナー国の中ではまだメジャーな方(?)」だけど、まだまだ知るひとぞ知る国・ポーランド。今回はその、隠れた魅力をご紹介します。それが……こちら!

お水じゃないですよ。

お酒好きの方であれば、ピンとくるのではないでしょうか。蒸留酒「ウォッカ」です。原料は小麦や大麦などの穀物、またジャガイモなどで、無色透明の無味無臭。実は、ポーランドはウォッカ大国。耳にしたことがある人もいるでしょう、世界最強のウォッカ・Spirytus(スピリタス)もポーランド産なのです。

なお、発祥にはポーランド説とロシア説があり、ポーランドがソビエト連邦に占領されていたころは、「ウォッカはロシアの発明だ」というようなプロパガンダもあったとか。それもあってことさらプライドがあるようです。

ワルシャワにある、スターリンの巨大な置き土産・文化科学宮殿(Pałac Kultury i Nauki)

みなさんはこちらの建物をご存知でしょうか?ワルシャワのランドマークである文化科学宮殿。これは1955年、スターリンによってソビエト連邦からポーランドに贈られたプレゼントなのです。この建物をポーランドでは「スターリンの墓」と呼ぶ人もいることからわかるように、多くの人がソビエト支配の尊重として嫌悪しています……。

そんな様々な歴史もあり、今はポーランドも意地でも引き下がらないことでしょう。

ウォッカの話に戻りましょう。ポーランド語では”wódka”(ヴトゥカ)と言い、”woda”(ヴォダ)が”水”で、”wódka”は「ちっちゃなお水ちゃん」という、なんと、まぁ、かわいい響き!

イメージはこれ

しかし、かわいいお水ちゃんのアルコール度数は……平均して40度! さきほどのスピリタスに至っては95-98度……! 日本では第4類危険物に指定されていて、ガソリンと同等のレベルで厳重な管理が必要です。タバコの火程度でも引火しちゃう危ないやつ。それ、本当に飲むの? と思っちゃいますよね。そのまま飲んじゃう強者もやはりいるようですが、主に果実酒を作るのに使う人が多いようです。

 

スーパーに行けば会える100種以上のウォッカたち

さて、そんなポーランドで愛されるウォッカに会いたいなら、手っ取り早く、お近くのスーパーマーケットやコンビニに飛び込みましょう。

ショッピングセンター内の大手スーパーマーケットへ

アルコールコーナーの大半を占めるウォッカ!

所狭しとウォッカがずらり……その数、なんと100種類以上! ハーブや蜂蜜、フルーツなどの豊富なフレーバー、大中小様々なボトルサイズ展開! 一番小さい100mlのボトルは5zł(約150円)ほどと、日本に比べて圧倒的なリーズナブル価格で買うことができます。

Spirytusも発見!

しかしながら、こんなに色々あるとどれを買うべきか悩んでしまいますよね。そこでオススメしたいものが、“żubrówka”(ズブロッカ、ポーランド語ではジュブルフカ)

パッケージにはバイソンが描かれている

ポーランドウォッカで一番有名ではないでしょうか。こちらはフレーバーウォッカで、ボトルに入っている香草”żubrówka”ことバイソングラスは、世界遺産に指定されているビャウォヴィエジャの森でしか採れない貴重な植物なのです。バイソングラスという名前からわかるように、絶滅危惧種である聖牛ヨーロッパバイソン”żubr”(ジュブル)がこの草を好んで食べることから由来しています。

その味は、人によってはアーモンドやバニラ、なんと「日本の桜餅に似ている」とも言われています。お酒に強くない人はりんごジュース割りがおすすめ。このカクテルはその味と香りから、ポーランド語で「アップルパイ」を意味する”szarlotka” (シャルロッカ)と呼ばれています。

これが香草”żubrówka”

 

愛される理由は……単純明快、「寒い」から!

しかし、なぜポーランド人はこんなに強いお酒を好むのか。その理由は単純明快、ポーランドの冬は寒く、そして長いからです

マイナス20度近くになることもあるポーランドの冬。そこでアルコール度数が高くて凍らないウォッカは、冷えた身体を温めてくれるため重宝されてきたというわけです。

以前、なぜそんなに好きなのか聞いたところ、「これは遺伝子レベルなんだ」「厳しい冬の寒さを凍らないウォッカを飲んで越えてきたんだ」と熱く語られたことも。まさかそこまでとは……恐れ入りました!

また、古くから「風邪をひいたらウォッカを飲め!」なんて言われることも。胡椒を入れて飲んだり、紅茶に入れて飲んだり。正直なところ「今の時代でそんな人はいないだろ」と思っていたのですが、友人が「俺もやるよ」と。しかも、「ウォッカがウィルスを殺す」という理由で医者までも勧めているとのこと。真偽の程は分かりません。

 

それってただ飲みたいだけじゃない? 危険なウォッカゲーム

実際にポーランド人のパーティーに参加すると、とにかく、ウォッカ! ウォッカ! ウォッカ! 「お水ちゃん」と呼ばれる通り、お水のように飲み続けます。

日本では考えづらいですが、ウォッカを使ったゲームも多彩(他のお酒でも代用可)。中にはボードゲームなんてものもあるんですが、今回はお手元にウォッカがあれば今すぐ! 気軽に! 始められる2つに絞って紹介します。

 

“Never Have I ever”

「経験したことがないこと」を言い、ある人が名乗り出てウォッカのショット飲まなくてはならないというゲーム。例えば、誰かが「日本に行ったことがない」と言えば、日本に行ったことがある人は全員飲むことになる。

 

“Drink movies”

映画を観る前に「○○したらウォッカのショットを飲む」というルールを設定。例えば、ハリーポッターなら「魔法を使うたびに飲む」など、全員が初めて観る映画ならフェアだと思いますが、映画の内容は全く入ってこないかもしれませんね。

 

実際にやってみるとわかりますが、最終的な勝ち負けは無いような飲みたいだけのゲームです。酔っ払ってグダグダになって終わることがほとんど。

やっぱり気軽にやっちゃいけなかった

 

飲んで終わりはもったいない! ポーランドウォッカ博物館でお勉強

そんなポーランドのウォッカ。しかし、飲むばかりではもったいない。なんと、ウォッカの歴史や製造方法について学べる施設があるのです。それが、ワルシャワのプラガ地区にあるMuzeum Polskiej Wódki(ポーランドウォッカ博物館)

私自身ポーランドに来るまで馴染みのないお酒だったこともあり、たいてい家では飲みやすいポーランドビール(これまた最高!)を楽しみがちで、ウォッカはパーティーや特別なイベントの時だけ嗜む程度。これを機に、勉強してきました。

こちらがその外観。2007年まで実際にウォッカ製造工場として使われていた建物を改装し、2018年6月に博物館としてオープン。

この博物館のあるプラガ地区、かつては工業地帯で治安の悪いエリアでした。しかし近年はポーランドの経済成長に伴い、開発が進み、ユニークなギャラリーやショップ、お洒落なカフェ、穴場的レストランなども増えて、感度の高い若者達が集まるエリアに。

来館者は全員、約1時間ほどのツアーに参加する必要があり、費用は40PLN(約1200円)と現地では少しお高めの設定。外国人観光客向けと思われる価格帯からも、ポーランドがいかにウォッカを観光資源として重要視しているかが窺えます。

ツアーの対応言語はポーランド語の他に、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語。ポーランド語と英語のツアーは毎時間ありますが、他の言語は博物館に問い合わせる必要があります(HPは記事の最後で)。

さっそくロビーの壁にはウォッカボトルが陳列されている

 

最先端インタラクティブ展示と、見る間を与えないガンガンガイド

ツアー開始時刻が迫るとロビーには20人ほどの外国人観光客が集まってきました。私達の参加時刻は15時40分で、土曜日ということもあり、どうも混雑しているタイミングのようです。

バーチャルでオリジナルウォッカを作ることができるパネル

最近、ポーランドの新しい博物館で見かけるようになった、インタラクティブと言われる展示スタイル。参加者は一方的に情報を受け取るのではなく、情報を得るためにパネルにタッチするなどアクションをとる必要があり、興味がそそられる仕組み。しかし、終始、ガイドの方……というよりは、もはやタイムキーパーの方(!?)のペースでガンガン進んでいくため置いて行かれないようとにかく必死。

参加者は知りたい情報を選んで調べることができる

展示品から伝わってくる並々ならぬポーランドのウォッカ愛。私はポーランドに住んで三年半になりますが、全体的にシャイな性格の人が多いと感じます。もちろん一概には言えませんが、冬は精神的にも内向的に。そんな彼らが陽気になるのが、ウォッカを飲むとき。強いお酒だとすぐに酔って楽しい気持ちになれますよね。

もしかすると、彼らのウォッカ愛にはそんなスイッチを入れられるといった理由もあるのかもしれません。私自身、ウォッカを飲んで気がついたら知らないポーランド人と踊っていたなんていうことも(シラフだとまずしません)。

美しいウォッカボトルに見入る友人

さて、展示の話。個人的には、ウォッカボトルのデザインの歴史がわかる展示室が美しく印象的でした。寄贈品が多く、そのほとんどが未開封のはずなのですが……おかしい。中身が減っている? 長い年月で、気化してしまっているためのようです。

1970年代のものと思われる”żubrówka”のボトル

 

ツアーの締めはウォッカの試飲会

ツアーの最後には、お待ちかねの! 試飲会です。ツアーの受付時に試飲するかどうかを聞かれるのですが、なにしろ相手はあの、ときにはタバコの火ですら引火する「お水ちゃん」です。いくら試飲といっても、体調やその後の予定を考慮した方がいいでしょう。

試飲会場はおしゃれなバー

本日の3本はこちら

試飲するウォッカは一種類ではなく、なんと3つ! そう、「ききウォッカ」が楽しめる。左から「WYBOROWA(ライ麦/40度)」「LUKSUSOWA(芋/40度)」「OSTOYA(小麦/40度)」。なお、見た目の違いは全くない無色透明。

お水ちゃん達とお水(右端)

乾杯! Na zdrowie!(ナズドロヴィエ!)

……。

うん、甘かった。いや、味がではなく、味が分からないという意味で。

正直なところ、美味しさがわかるようになるにはあと10年は欲しいところです。それだけ、深い世界なのです。なにしろ遺伝子レベルの話ですから。しかし、こうして飲み比べることによって、それぞれの飲みやすさや味の違いについてはよく分かりました。

なにより、試飲用のほんのちょっとのウォッカでも、身体がカーッと熱くなり、マイナス10度の外に出てもしばらくホカホカ。みなさん、ホッカイロ代わりに一杯飲むのはいかがでしょう(冗談です)。

Muzeum Polskiej Wódki(ポーランドウォッカ博物館)

 

「飲んでみたい! でも、ちょっと怖いかも……」そんなあなたへ

「ウォッカを飲んでみたいけどあんまり強いのはちょっと……」
「甘いウォッカは無いの?」

そんな方もいらっしゃるかもしれません。

前述の通り、フレーバーウォッカというジャンルもあり、中でもフルーツフレーバーウォッカが飲みやすくておすすめです。アルコール度数も若干低め。スーパーマーケットでも購入可能ですが、クラクフにある可愛らしいフレーバーウォッカのお店”Szambelan”をご紹介しますね。日本から友人が来たら、必ず連れて行くこのお店。お気に入りの一本が見つかるはずです。

店内には20種類以上のフレーバーウォッカ

桃ウォッカとラズベリーウォッカ

1ショットグラスから注文可能。瓶を選んで、好きなウォッカを100mlの瓶から詰めてもらうこともできるので、お土産にも最適。クラクフ一の観光地、旧市街の中央広場から近いので、ぜひ!

Szambelan

ポーランドウォッカの世界の深さを身をもって感じた今回。私にとって、入門編のプロローグと言ったところでしょうか。お酒を飲むとその土地がわかると言いますが、あえて極寒の季節に、ポーランドへウォッカを飲みに来ませんか?

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

小林 なつみ

小林 なつみ

1987年生まれ、東京出身。日本語教師生活5カ国目のポーランドにて、なりゆきで日本食レストランの立ち上げを任されることに。絵を描くことが好き。仕事で日本語教材のイラストや漫画を描く。海外生活を漫画で綴ったInstagramはこちら

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