鷹ショップはもう行った? カタール最大の市場「スーク・ワーギフ」その見どころ全網羅

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※本記事は特集『ライターがオススメする裏観光』、カタールからお送りします。

クリックorタップでカタール説明

 

ドーハの観光スポットといえばスーク、スークといえばスーク・ワーギフ。

スークとはアラビア語で市場のこと。日本ではバザールと言ったほうがイメージしやすいでしょうか。有名なトルコ・イスタンブールのグランドバザールには遠く及びませんが、ドーハの市場「スーク・ワーギフ」も迷路のような雰囲気が味わえる観光スポット。日帰り市内バスツアーでも必ずルートに入っている名所です。

迷路のようなイスタンブールのグランドバザール

そんなメジャーなスポットのどこが「裏観光」?

と、お思いでしょうか。いえいえ、小さいながらも店が混在していて、通路もクネクネと曲がっているところが多いことから、どこにどんな店があるのか在住者でも把握している人はほとんどいません

そんなスークで友達が店を経営し始めたのをきっかけに、10年ほど前はほぼ毎日、今でも週に一度は足を運んでいる私が、定番どころからディープな世界まで、その魅力をたっぷりとご紹介したいと思います。

そんなスークのすべてをお見せしましょう。

 

1世紀前の物々交換からはじまった、スーク・ワーギフの歴史。

その前に少しだけ、スークの歴史をご紹介。

スーク・ワーギフの元となったのは、ムシェイレブというエリアにあった物々交換のための市場。今から約1世紀ほど前のお話です。第二次世界大戦後も地元民にとって様々な日用品を買うための中心地でした。

約50年前のスーク・ワーギフの様子

当時のスークはどの店も窓にはめるタイプのエアコンを使用していたため、ただでさえ体感温度が50度を超える夏のドーハでは、室外機からの排熱で通路を歩くのも大変な状態だったのですが、2006年のアジア競技大会をきっかけに2年掛けて大掛かりな改修工事が行われました。その後もスークは拡張と改築を続け、地下に駐車場を持つイベント広場や、ブティックホテルなどが入る現在の姿に。

シネコンもあります

歴史の話からは逸れますが、この市場の正式名称は「スーク・ワーキフ」 (この記事では地元訛りが入った実際の発音に近い「スーク・ワーギフ」を使用します) です。多くの日本人のブログなどでは「スーク・ワキーフ」と記載されていますが、これは「Souq Waqif」という英語名からの間違った読み方が広まってしまったもので、「سوق واقف」というアラビア語からはどうやっても「スーク・ワキーフ」にはなりません。

アラビア語では長母音の位置が違うだけで、違う単語と認識されるため、タクシーなどに行き先を告げる際に「スーク・ワキーフ」というと通じないこともありますし、そもそも「きょうと」と「きょとう」と言うのと同じくらいおかなしな言い間違いなので、この記事を読まれた皆さんは、是非とも「スーク・ワーギフ」という名称を覚えてくださいね。GoogleMapですら「ワキーフ」と言ってきますので(2019年1月現在)。

 

まずは定番、食欲をそそる香りに包まれたスパイススーク。

では、海側から建物の中へ入ってみましょう。

踏み入れた瞬間からアラブの匂いが

ここにはスパイスを扱うお店が集まっています。店内だけでなく、店の軒下にも麻袋などに詰められた多様なスパイスが香りを放って、早速「これぞアラブ」という雰囲気が盛り上がります。

長く住んでいても、どうやって使うのかよく分からないスパイスなどもたくさん並んでいます。

たくさんのスパイスを眺めているだけで楽しいのですが、このスパイススークで注目して欲しいのは「乳香」です

乳香はボスウェリア属の樹木から採った樹脂から出来ていて、文字通りミルクのように白い石のような姿。これを焚いて香りを楽しみます。乳香から抽出する精油を使った香水などもあります。アラビア半島南部に自生していて、スークで売られているものはオマーン産です。

 

手頃な価格で好きなだけ布地が買えるテキスタイルスーク

お土産店が並ぶ表通りから、一筋建物の中へ入った辺りに並ぶテキスタイルショップ。ここでは様々なデザインの布生地をメートル単位で買うことができます。

カラフルな布が通路にまで溢れています

店内にところ狭しと並ぶ布生地。天井裏の倉庫にも在庫が。

妻とテキスタイルスークへ行くと、立ち並ぶ店舗を端から端まで吟味し、各店舗の品揃えの入念なチェック、そしてこれでもかという値切り交渉。旦那である私は店の中や外をカメラで撮影しながら待つというのが毎度のパターンです。毎月のようにトレンドが変わるらしく、以前購入して気に入った柄が、次に行ったときはもう見つからないなんてことも。

カラフルな布生地の殆どは東南アジアから運ばれてきたもの。特にインドネシア製が目に付きます。女性が着るアバヤと呼ばれる、ざっくりとしたワンピース形状の衣装に使う真っ黒な布生地は、韓国製がほぼ100%のシェアを持っています。

ドレス用にカットされた布生地

どのくらいの長さを買えば良いのか分からない、そんな人にはドレス一着分に切り分けられた生地をお勧め。買った布生地、自分で裁縫する自信のない人は、街中の仕立屋さんへ持ち込めばピッタリサイズに仕上げてもらえます。

 

民族衣装をフルオーダーできる仕立屋

カタール人男性たちが颯爽と着ているあの白い衣装。トウブと呼ばれるワンピース状の服に、ゴトラと呼ばれるスカーフのような白い布を頭に被り、抑えにイガールと言う黒い輪っかを載せています。

真っ白な衣装が強い日差しに映えます

トウブは既成品を扱う店がいくつかあり、豊富なサイズが揃っていて、裾上げも扱っています。年齢とともにすぐサイズが合わなくなってしまう子供用のトウブは、こういった店で買うのが定番です。

棚にぎゅうぎゅうに並べられたトウブ

カラフルなシュマーグ

ゴトラとイガールを扱うお店では様々な色や柄が売られていますが、カタールでは公式に被って良い布はゴトラ、つまり白色だけです。また、古くからある赤と白の格子模様も、冬場によく見かけるデザインでシュマーグと呼ばれるもの。こちらは半公式的な扱いになるので公的なイベントなどでの着用には問題ありませんが、似たようなデザインで赤白以外の色柄モノはマナー違反になるため、カタール人は被りません。

さて、このカタールスタイルの衣装一式が揃うお店があります。ここ、スーク内で唯一となるカタールスタイルの仕立て屋でもあります。つまり、生地の選択からサイズ計測までフルオーダーでトウブを作ることができるのです。

仕立てにこだわるなら、ぜひこの店で。

以前は街中の仕立て屋にオーダーしていた私ですが、数年前にこの店を知って以来、仕立てる時はこの店でお願いしています。人気の高い日本製の生地を使い1着仕立てて約170リヤル(約5,000円)。街中の仕立て屋で頼むと200リヤルを超えることもあるので、スークという観光スポットの中にあることも考えるとリーズナブルな価格といえます。

予算が足りない場合は、やや質の落ちるインドネシア製で作れば120リヤルくらいに抑えることができます。日本製との違いは洗濯によるくすみ。「何度も洗濯を重ねても白さが褪せないのは日本製だけ」とは店主の弁。

カタール人は成長の早い小学生くらいまでは既成品を買うこともありますが、それ以降は必ず仕立て屋にオーダーします。一見ゆったりとした感じのトウブですが、ジャケットのように形の決まったものと違い、体型に合っていないと途端に不格好になります。そのため、きっちりと採寸をして好みの生地で仕立てるのです。

 

ベドウィンの嗜みを垣間見れる鷹ショップ

これこそがスークの真髄、と思っているのは私だけかもしれませんが、観光客の姿もほとんど見かけないマイナーエリア。それが鷹ショップ、鷹狩りの鷹を扱うお店です。

この建物内に入っているのは全て鷹ショップ

鷹ショップは冒頭で触れた2006年からの大改修後に開設された店舗で、スーク内で2度ほど場所を変え、現在はそのすべてが専用の建物に移転。

この中の一つが私の友人の経営する店で、独身時代には毎日午後になると店に顔を出し、紅茶を飲みながら何をするでもなく過ごしていたものです。

店に出入りしているお客さんはカタール人だらけで、店内にあるものといえば、鷹狩に使うグッズと、鷹、鷹、鷹(英訳がFalcon Souqなので「鷹」と呼んでいますが、正確には「隼」です)。

観光客にしてみれば、「鷹狩なんて自分には縁がなさそうだし、お客さんはベドウィン(=アラブ地域の遊牧民)みたいな人ばかりで入るのは怖そう」と思ってしまうかも。

店内は鷹だらけ

店内にいる鷹の殆どは、委託販売のために客から預かったもの。そのため、気軽に触ったりはできません。

ただ店によっては客引きのために置いている鷹もいるので、店員に頼めば手に載せて記念撮影出来るチャンスもあります。繰り返しになりますが、絶対に自ら鷹に触れてはいけませんよ。

写真をよく見ると目隠しをしているのですが、これは、動くものが視界に入ると獲物と判断して飛びかかるからです。

一番手前がチョウゲンボウ

どの店にも少し小ぶりの鷹がいるのですが、これは子供ではなく立派な成鳥。チョウゲンボウと呼ばれる種類の隼で、値段が手頃(相場は500〜1000リヤル=約15,000〜30,000円)なので、誕生日プレゼントや勉強を頑張った時のご褒美として子供たちに買っていくお父さんをよく見かけます。

目隠しは全て手作りです

鷹の脚に付ける紐

観光に訪れた人がさすがに生きた鷹を買って帰るわけにもいかないので、鷹が被っている目隠しをお土産にいかが? 安いものなら20リヤル(約600円)から販売されています。 この目隠しをミニチュアにしたキーホルダーもあります。鷹が飛んでいかないように脚に付ける紐も、ちょっとしたお洒落アイテムに転用できそうですね。

なお、鷹の売買の時期は法律によって決められていて、毎年9月初めから翌年の3月頃まで。これ以外の時期に鷹ショップを訪れても、店内には1羽も鷹がおらずグッズしか置いていない場合もありますのでご注意を。

 

ほかにもまだまだ、スークを彩るバラエティあふれるお店たち。

と、定番からディープまで、ひと通りのオススメのお店たちを紹介しましたが、スークにはこのほかにもまだまだ特色あるお店が軒を連ねています。最後にそれらを大放出して、記事を終わりにしたいと思います。

仔ウサギから鶏までいるアニマルスーク

鷹が飼われているのなら、他の動物も飼っているのでは? と思った方もいるでしょう。

実は、カタールではペットを飼う習慣が元々ありませんでした。彼らにとって身近な動物はラクダやヤギ、羊。それらはいわゆる家畜だったのです。ところが最近は事情も変わってきており、子供たちを中心に小動物を飼うことは珍しくありません。

人気はウサギや小鳥

数年前までこの動物スークでは、人工的に色付けされたウサギなどが販売されていたことがありました。「虐待だ」として各方面から批判を浴び、現在はそのようなことは行われていません。

写真には写っていませんが、この隣には鶏が売られていました。食用なのでしょうか?

とにかくお土産が欲しいという人は

スークの目抜き通りの両側には、民芸品からアクセサリーまで様々なお店が軒を連ねています。

道行く人たちの姿が異国情緒を盛り上げます

キーホルダーや置物といった定番モノから、伝統的な刺繍の施されたクッションやラグ、アラビアンなポット、短剣まであらゆるものが揃っています。

各国料理が楽しめるレストラン街

トルコ料理レストランにて。ピタパンで覆われた器には羊肉の煮込みなどが入っています。

スーク内には、レバノン料理やシリア料理といったアラブ系はもちろん、トルコ料理からインド料理やタイ料理まで各国のレストランが入っていて、本格的な味を楽しむことができます。

バルコニー席から通りを見下ろしながらの食事はムード満点

レストランでガッツリ食べるほどではないけれど、少し歩き疲れてお腹が空いたなという時は、アラブ風クレープなどいかがでしょうか?

ローカル衣装を身にまとった女性が、1枚ずつ焼いてくれます。中身はチョコクリームやチーズ、玉子などから選べて5リヤル(約150円)なり。

異国情調を味えるブティックホテル

小さくて小ぶりなスークとはいえ、それぞれのエリアをじっくり見ていると1日では足りません。

いっそのこと、スークの中に泊まってみますか? 知っている人は案外少ないのですが、実は4軒ほどのホテルがあります。

いずれもブティックホテルと呼ばれるジャンルで、それぞれこじんまりとしながらも、アラブな雰囲気がたっぷり味わえる作りになっています。

イベント盛りだくさんの大広場

建物の外へ出てみると、西側に大きく開けたスペースがあります。

クラシックカーのオークション

ここは元々は駐車場。ゴツゴツとした石畳で走りにくく、またスペースの幅が狭くて駐車しづらかったのですが、鷹スークの目と鼻の先だったので、毎回しぶしぶ利用していました。

その後改修工事が行われ、駐車場は地下へと移動。地上部分は大きな広場へと姿を変え、クラシックカーのオークション、デーツ(なつめやし)の展示販売、馬の品評会といった様々なイベントが行われています。

駐車場所を忘れても大丈夫

地下の駐車場は2層構造で、事前精算機のディスプレイには「あなたの車はこれですか?」と確認メッセージと共にカメラで撮影された候補車両が。自分の車を選択すると、駐車場所とそこまでのルートが表示されます。広い駐車場内で「あれ、どこに停めたか忘れてしまった」というウッカリさんもこれで安心。

精算機ではクレジットカードも使用可能ですが、カードも現金も持ち合わせがないという人は、スマホのアプリから支払うことも可能です。

 

カタールの全てが揃うスーク・ワーギフ、もう退屈な街とは言わせない。

いかがでしたか?

スークを訪れれば、カタールの昔から今に至るまでが体験できますし、時間が少ない時のお土産探しもバッチリです。かつては某有名ガイドブックで「世界一退屈な街」と呼ばれたドーハですが、もうそんなことを言わせないだけの魅力があります。

実はまだまだ紹介しきれないゾーンもあるのですが、それは実際にスークを訪れて、自分の足で探してみるのも面白いかもしれませんよ。

 

おまけ:もう一つのスークもオススメ

実はドーハには、スークと名の付くスポットがもう1ヶ所あります。

ドーハから南へ車で15分ほど下ったところにある「スーク・アル・ワクラ」がそれです。アル・ワクラ市内の海沿いに5年ほど前に建設された、まだ新しいスーク。

子供向けに電動式のミニミニバスも走っています

スーク・ワーギフほど店の数は多くありませんが、浜辺に向かってレストランが建ち並び、海を観ながらの食事が楽しめるところが、このスークの魅力です。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

福嶋 タケシ

福嶋 タケシ

1970年生まれ、大阪出身。1999年にUAE大学留学。2002年よりカタール在住。現地政府所属の公務員として、写真撮影およびメディアリサーチ等を担当。ラクダをこよなく愛し、鷹匠に憧れる日系ベドウィン。Instagram / 『遊牧民的人生

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