「丸好き」の中国で「四角フェチ」の私が選ぶ上海の名建築たち

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※本記事は特集『ライターがオススメする裏観光』、中国・上海からお送りします。

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「丸いもの」を愛する中国人

基本的に中国人は丸いものが好き。中華料理に欠かせない円卓、せいろ、上海の東方明珠タワー。街を歩いていると、丸いもの、流線型を利用したものなど、やわらかい形のオブジェや建造物が多いような気がする。先日観にいったライブ会場の「メルセデスベンツアリーナ」も、これ以上ないくらいに丸っこかった。

左上から時計回りに、上海のメルセデスベンツアリーナ、蘇州にある寺の門、上海のショッピングモールにあるオブジェ、北京の天壇。

周りの中国人数人に「丸と四角はどちらが好き?」と聞いてみたところ、しばしきょとんとした後に「……丸だけど」と。ほとんどがこのようなリアクションであった。

風水的にいいのかどうかは調べられなかったが、中国には「団団圆圆(トゥアントゥアンイェンイエン)」という言葉がある。日ごろは様々な地域にいる家族・親戚が丸いテーブルに集まって輪になって団欒するという意味だ。主に中国のお正月である春節でのことで、その時に「湯園(タンユエン)」というスープに入った丸い団子を食べたりもする。やはり丸いものは縁起がいいそうだ。

湯園や小籠包(ショウロンポウ)など丸い食べ物も多い。

しかし、私は無類の四角好き。特に立方体が好きで、面と面の境である「辺」が鋭利であればあるほど萌える。かつて日本で放送していたお昼の番組「ごきげんよう」で使われていた、辺が丸っこいサイコロにはいらいらさせられたものだ。

自慢じゃないが、それだけではない。この5センチ四方の立方体は、わざわざステンレス会社に勤めている知人に頼んで特注で作ってもらったものだ。手が切れたら危険だからと辺を面取りされてしまったのが残念だが、理想に近い立方体が手に入って満足している。

というように私は、丸いものを好む中国にて、常に四角い物体にアンテナをはっている。

 

日の丸に見えると言われしかたなく四角になった空洞

上海の浦東にある高層ビル群。その中で二番目に高いのが「上海ワールドフィナンシャルセンター」だ。

ビルって基本的に四角いものだと思うのだが、上海浦東地区の高層ビル群を見渡すと、やはり、球体をはじめ、流線型が多く使われているように感じる。その中にあってこのビルは比較的角ばっている。通称「栓抜きビル」と言われているようにその先端には四角い空洞があるのだ。

この空洞は平たくなっているビル上部への風による加重を下げるためのものだが、当初は丸くくりぬく予定だった。しかし、「日の丸を連想させる」との声があり、このように仕方なく四角いデザインになったという。このエピソードからも、やはり中国人は丸が好きなことが窺えるだろう。

ちなみにこの空洞の上部は展望台になっている。

 

租界時代に増えたアールヌーボー・アールデコ様式

また、中国人の丸(曲線)好きは、近代的な建物に見られるばかりではない。

1842年の南京条約締結を機に、フランス、イギリスなどの租界が形成された上海市内には、今でも当時の名残である欧風の古い建造物が多い。曲線を多用したアール・ヌーボー様式であったり、直線を使いつつもわりとごてごてと複雑なデザインのアール・デコ様式であったりと。

なんてことのない古い団地の塀でも、よく見ると曲線を利用した凝ったデザインが施されていることもよくある。

アールヌーボーかアールデコか、そのどちらでもないのかわからないが、古いアパートの門はこのようにアーチになっていることが多い。それはそれで素敵だと思いつつ、やはり私はモダンな四角っぽい建築物が好きなのである。

そんな租界時代の雰囲気が色濃く残る上海にある四角たちを紹介したい。

 

上海の四角い建築は日本人設計多し!

中国、とりわけ上海には日本人建築家の作品が多い。そして、やはり日本人は私のように四角好きが多いのか、彼らの作品には四角くスタイリッシュな建造物が多数見られる。

 

建築系学部が有名な大学に集まるモダンな四角

まず向かったのは、中心部から北に地下鉄で20分ほど北上した場所にある「同済大学」。総合大学でありながらも、建築デザイン関係の学部がとくに強く、その分野においては上海でNo1、中国でもトップクラスのレベルだという。

大学の建物自体は古いが、周辺には大学関係施設や、デザイン関係の会社が多く入ったモダンなビルが建ち並んでいる。

こちらは安藤忠雄氏設計の「上海国際設計中心(上海国際デザインセンター)」

大学の研究室やオフィスが入っている。写真からは伝わらないかもしれないが、建物自体はかなりのボリュームがある。

硝子とコンクリートの使い方は、同じく安藤忠雄が設計した表参道ヒルズにも似てるような気がする。

街全体としては新しくはないのだが、この他にも界隈にはモダンな四角いビルが数多い。

私としては大げさでなく!

歩いているだけで鳥肌が立つ街だ……!

上の写真の右下に写っているが、塀の上に立方体のランプが置かれているさまは、まさに「四角」を意識したつくりといえよう

駅の近くまで戻ってくると、四角いビルの前で踊っている集団に遭遇した。比較的年配の方々が趣味でやっているこのようなダンスは、「広場ダンス」と呼ばれ、中国各地で見ることができる。彼らは四角いビルの前で円になって踊っていた。

 

フランス租界だったレトロな街でも見つけた四角

お次はこちら。

上海中心部の、いわゆるフランス租界と呼ばれるエリアにあるモダンな建築「Z58」は通常のオフィスビル。駅からは20分以上歩く、少し不便な場所にある。しかもこの日は寒かった。

発見! このような光る素材✕四角の組み合わせは個人的に大好物なので、駅からの長い道のりも忘れ、一気に体が熱くなる。

見よ! 見上げるこの迫力! もう、興奮しかない(みなさん付いて来てますか?)。

設計者は2020年東京オリンピックのメインスタジアム・新国立競技場を手がける隈研吾氏。細長い木や鉄の角柱を多用するスタイルは隈氏の作品に多く見られるので、その中においては典型的なデザインと言ってもいいかもしれない。

Z58の近辺にも四角くモダンな建築が集まっているエリアがあった。こちらはレストランやカフェ、書店など楽しめる施設が充実していた。とにかくすべておしゃれ。上記左の写真も光る素材✕四角であり、かなり好みである。

四角は四角で集まる習性でもあるのだろうか。レトロで味がある老房子(上海の古い家を指す呼称)が多い界隈でも、この一角だけは四角い建築が多く見られた。

こんな私でも1日中四角探しをしていると、疲れが襲ってきた。昔ながらの老街(ラオジエ/古い街)でしばし四角を休憩。

 

巨大なランプ? モダンログハウス調レストラン

日本人建築家つながりということで、こちらもご紹介。

こちらは市内中心部の一等地である静安寺エリアに構える、坂茂氏設計の高級レストラン「CALYPSO」。三角屋根ではあるものの、デザインの基本は四角ガラス張りであるため、夜は内部の光が漏れ、建物全体が巨大なランプのようにも見える。

 

名前が最高なホテル、その名も「ザ・キューブ」。

最後はこちら。

上海の浦東空港に程近い場所にある高級ホテル、その名も「ザ・キューブ」。外観はご覧の通りで、ホテルのWEBサイトを見る限り内装も適度に四角形が使われている。このホテルの設計者は不明だが、その名に恥じない四角っぷりだ。いつか泊まってみたい。

このように、郊外エリアにもどんどん「四角の波」が寄せてきている(ような気がする)

 

上海嘉定ニュータウンは四角好きにとっての天国

実は私の自宅から地下鉄で2駅と、比較的近い場所に四角いニュータウンがある。四角が好きすぎて、四角が私を呼んだと言ってもいいくらい、家から目と鼻の先にある上海嘉定ニュータウンは四角い建築物にあふれている街だ。

この街のシンボルはこちら。

これもまた安藤忠雄設計の高級ホテル「ハイアットリージェンシー嘉定」。

ザ・四角! なぜそこをずらす! と言いたくなるデザインも、角が増えることで、私のような四角好きの興奮をさらに増すことに成功している。この上層部(ホテル)と下層部(オフィス)の「ズレ」は、素人の私でも、設計は相当大変に違いないと想像する。ちなみに客室内はごく普通のモダンデザインでありました。

そのハイアットリージェンシーのお隣にある建物がこちら。

昼間から、

夜まで眺めても飽きない。

こちらもまたまた安藤忠雄設計の「上海保利大劇院」。上海は安藤忠雄が好きすぎるのではないか。そういえば、昨年上海にある安藤忠雄設計の書店にて彼の展覧会も行われていた。

さて、上海保利大劇院の話に戻る。世界の有名なバレエ団や交響楽団の公演も行われる本格的な巨大劇場である。美しすぎて、写真のように明るいうちから日が暮れるまで、ずっと外観の見学をしていても全く飽きることがなかった。

他にも、このニュータウン内にはたくさんの四角い建物が存在する。

こちらはなんと幼稚園。「かわいい」「まるい」という元来のイメージを覆すに違いない設計だが、外観くらいはこれくらいかっこいい幼稚園があってもいいだろう。四角好きびいきだと言われれば否定はしないが。

段々と趣味の世界に入りつつありますが、まだまだあるので最後にまとめてぜひ紹介させてください。

左上から時計回りに、マンション、マンション、図書館、建築途中のマンション、オフィスビル、オフィスビル。

まだまだ設計中のものも多数あるので、これからこの街はどこまで四角くなっていくのか楽しみな次第。

実はこの嘉定ニュータウンは日本人建築家の黒川紀章や、日本の大手デベロッパーが都市計画に関わっているそうで、「やはり日本人は基本的に四角形が好きな人が多いのではないか」という思いがより強くなりました。

四角だけのお堅い街ではなく、こんなザリガニオブジェが突然現れるお茶目な一面も。

 

古きよき時代、新しき時代、どんな建物もみんないい。

丸いものが好きな人が多い中国に抗うように、上海では郊外エリアを中心に、日本人をはじめとした有名建築家による四角いビルもどんどんできている。租界エリアのレトロな建築と、シンプルモダンな四角い建築。さらには、日本でも幻の新国立競技場で話題にになったザハ・ハディド作のような、モダンで丸い建築もどんどん増えてきている。まさになんでもありだ。

そんな中国、上海は日々古い建物が壊され、新しいビルが建築されてと、目まぐるしく変化しており、見ているほうとして飽きない。もちろん、重要文化財など国で指定された建物はしっかりと残されている。

上海全体で見ると今はまだ少ないが、いずれモダンな四角い建築が逆転するのか、しないのか。それは神のみぞ知るのかもしれない。

シムシティのように典型的な四角い建築物が続々と建っていく様から目が離せない。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

海辺 暁子

海辺 暁子

2016年より上海在住。日本にいるときから典型的なO型と言われ続けてきましたが、こちらにきてさらにO型っぷりに磨きがかかりました。色々なことが自由なので体重も順調に増してます。中国の家庭料理「宮保鶏丁」が好きすぎて、大量に作って冷蔵庫にストックするのが幸せ。

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