2018.09.20

ミャンマーの発酵ソース「ガピ」はおふくろの味、ただし匂いはイカ塩辛の3倍強烈!?

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日本のソウルソースといえば、「醤油」や「味噌」あたりではないでしょうか? そんな世界の定番ソースを集めてみました! ミャンマーのソースといえば、ガピ。魚あるいは海老を発酵させてつくられるもので、濃厚な旨味が特徴。ただ、その調理前の状態はどう見ても、泥。そしてまた匂いも強烈なんだとか……。そんなガピを美味しく食べる、ミャンマーの人々の食事風景をご紹介!

 

とっても臭い魚介の発酵ソース「ガピ」

ミャンマーのソウルソース、それはなんといってもガピでしょう。

ビルマ語で「ガ」は「魚」、「ピ」は「圧する」を意味し、ガピという名称は魚を漬物のように樽に圧し詰めて発酵させる製造方法に由来しています。調理前のガピは見た目は泥の塊、匂いはイカの塩辛の臭みを3倍増しにしたような強烈なものです。

こちらは「臭い泥の山」が並ぶ市場のガピ販売店。

私は何を隠そう、納豆やくさやなどの臭い系食品が大好物。ガピも初対面ではたじろぎましたが、2度、3度と食べるうちにその濃厚な旨味にやみつきになり、鼻をつんざくような臭い漂うガピ売り場も、今ではいい香りだとさえ感じるようになりました。

なお、ガピには川魚で作る魚ガピと海老で作る海老ガピがあり、海から遠いヤンゴンでは海老ガピの価格は川魚ガピの1.3倍ほどするため、高級品のイメージがあるようです。もっとも魚のガピでも、使用する魚の種類によって価格はピンキリではあります。

海老ガピはこちら。昭和時代に日本の商店街にあった味噌店を思い起こします。

 

プライベートエリアに踏み込まれるのを嫌がるミャンマー人

ガピはそのままでは食べられません。そこでまずは、ガピの調理過程やガピを囲んだ家族団らんの食事風景を撮らせてもらおうとミャンマー人の友人たちにあたってみました。

板坂

ガピを調理するところの写真を撮らせて


友人

うちはガピを食べないんだよね


板坂

ガピの調理風景や家族団らんを撮りたいんだけど…


友人

我が家もガピは食べないんだ

というやりとりを、繰り返すこと5回。「あれ? お店ではガピを食べてるけど、家では食べないものなのかな?」と在住歴の長い日本人の友人に相談したところ、「自宅の台所に写真を撮りに来られるのが嫌だったんじゃないの?」とのこと。あー…。

そうでした。ミャンマー人は恥ずかしがり屋で、プライベートエリアに踏み込まれるのをけっこう嫌がります。それでいて頼まれ事にNOと言えない。なので、差しさわりのない断り文句として「家でガピを食べない」と言ってる可能性は確かに高いのです。そこを追求するとさらに苦しめることになりそうなので、オフィスで撮らせてほしいとお願いしたら、そこはすんなりOKになりました

 

オフィスのランチタイムでは会社がガピを用意

ミャンマーの会社員のランチは弁当が主流。会社によってはお手伝いさんを雇い、昼食を用意してくれるところもあります。今回、撮影させてもらった会社もオフィスにキッチンがありお手伝いさんもいるため、社員たちは持参したおかずを会社が用意するご飯で食べます。その際、お手伝いさんがご飯とともに必ず用意するのがガピなのです。

さて、ランチタイムのキッチンを覗いてみましょう。中央にでんと置いた椀に入っている赤黒い液体がガピ。正確には、ガピで作ったガピイェというソースになります。ガピで作るソースには液体状のガピイェと味噌状のガピタウンの2種類があり、ヤンゴンではガピイェの方が一般的です。ガピイェとガピタウンは区別する必要がある場合のみ言い分け、通常はどちらも「ガピ」と呼びます。

ガピは茹で野菜のソースにしたり、煮込み料理に調味料として入れたりします。おかずを買えない貧しい家庭ではご飯にガピだけをかけて食べることもあり、日本でいえば醤油かけご飯に近い位置づけでしょうか。

こちらはガピとご飯をまぜたガピタミンという料理。レストランでお金を払って食べるような料理ではないので、置いている店を探すのに苦労しました。

 

ガピ作りは石臼を突く音とともに

ではガピイェの作り方を見せていただきましょう。

魚ガピと海老ガピのどちらを使うか、そこへどんなスパイスを加えるかは家庭によって様々です。そう、ガピイェの味はミャンマーでは「おふくろの味」なのです。

ここのオフィスのお手伝いさんが作るガピイェは黒っぽい魚から作るガピを使い、そこへ干し海老、生唐辛子、生ニンニク、味の素、ウコンを入れます。

まず、生唐辛子とニンニクをみじん切りにし、干し海老とともに石臼で突いて粉にします。私はローカルの団地住まいですが、毎朝上の階の人が石臼を突くトントントントンという音で目が覚めます。朝ごはんの準備をしているのでしょう。

次に、ガピと水、ウコン、味の素を鍋に入れて煮詰めたら汁だけ取り出し、残りは捨てます。

そこに石臼で突いたものを加えて出来上がりです。家庭によっては、トマトや玉ネギのみじん切りも加えます。

ちなみに、こちらはある食堂のガピ。色が全然違いますよね。原料の魚や加える調味料の配合で味も見た目もかなり変わるのです。

 

地方によってもガピの味は違う

ガピの味はおふくろの味と書きましたが、地方によっても傾向があります。

たとえば長い海岸線をもつミャンマー南部のモン州では、安く手に入るため海老ガピ利用がポピュラー。唐辛子やニンニクに加え、玉ネギやライムも入れます。

中部のマンダレーでは魚ガピに焼川魚の身を加える家庭が多く、玉ネギは用いません。旨みが濃いそうで、マンダレー出身の友人は「ヤンゴンのガピはシャブシャブして薄味過ぎ」と不満げです

また、辛いもの好きで有名な西部のラカイン州は青い生唐辛子がたっぷり。ガピ好きでも知られ、何の料理にもこの激辛ガピを入れます。

 

ミャンマーからタイへ伝わったガピ

ガピはタイでも広く調味料として使います。

こちらはチェンマイで広く食べるナムプリック。茹で野菜にガピを添えた料理で、タイ版バーニャカウダといったところでしょうか。タイでの名称もビルマ語と同じ「ガピ(カピと呼ぶ人も)」で、そのことからもわかるようにミャンマーから伝わりました。もともとガピの発祥地は、ヤンゴンがある「下ビルマ」一帯だといわれています。

大稲作地帯であるこのエリアは雨季と乾季の差が激しく、川魚の漁獲期が限られます。特に豊漁になるのが、用水路の出口に網を仕掛けて獲れる雨季終盤。この時たくさん獲れる魚を保存する術として、発酵食品化が編み出されたのではないでしょうか。雨季終わりの川魚は稚魚が多く燻製や干物には向かないですが、発酵には最適なのです。

 

豆やタマリンドなど……ガピ以外のソースもいっぱい

ミャンマー全土、どこに行ってもたいていの食堂がガピを常備していますが、実はマンダレーがあるミャンマー中部から北では、南部ほどはガピを食べません。マンダレーや東部のシャン州でソウルソースといえば、むしろペーボッがそれに近いといえます。

ペーボッは豆の発酵食品。納豆を潰して煎餅のように平たく延ばして乾燥させたような味と香りです。火であぶった後に潰して料理に入れたり、ニンニクを揚げた油や砕いたピーナッツ、干し海老、胡麻などと混ぜてご飯にかけたりします。

ガピやペーボッ以外でミャンマーでポピュラーなソースといえば、居酒屋や串焼き店でよく出てくるマジーチン。上の写真がそれで、甘酸っぱいタマリンドのソースです。さらに日本人にも馴染みのある味と香りといえる、醤油にニンニクと唐辛子を入れたアチンも、たいていのレストランが用意しています。

 

ガピの将来は減塩化? インスタント化?

先日、ミャンマー人の友人が海外に住む親戚を訪ねるにあたり、先方からガピを持って来るよう頼まれました。海外在住の日本人が日本から来る人に味噌を頼むようなものでしょうか。しかし、利用航空会社が発酵食品の機内持ち込みを禁止。聞いた話では、荷物にこっそり隠して機内に持ち込む人もいるそうですが。そこで友人は仕方なく、インスタントのガピ粉を大量に買って行きました。

最近は、ガピからガピイェを作る手間を省きたい主婦向けに、水で溶かすだけのインスタントガピがスーパーなどで売られるようになってきています。日本でも鰹節や煮干から出汁をとる人が減ったのと同様、これもひとつの時代なのでしょう。

塩分濃度の高いガピは高血圧の原因でもあり、冒頭に登場する友人たちの中には建前でなく本当にガピをやめた人もいたことでしょう。日本で減塩醤油が普及したように、近いうちに減塩ガピなんてものも誕生するかもしれません。なにしろガピは、ミャンマー人にとってなくてはならないソウルソース。社会の変化を敏感に映す変化を、今後も続けていくに違いありません。

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この記事を書いた人

板坂 真季

板坂 真季

ガイドブックや雑誌、書籍、現地日本語情報誌などの制作にかかわってウン十年の編集ライター&取材コーディネーター。西アフリカ、中国、ベトナムと流れ流れて、現在はヤンゴン在住5年目。エンゲル係数は恐ろしく高いが服は破れていても平気。主な実績:『るるぶ』(ミャンマー、ベトナム)、『最強アジア暮らし』、『現地在住日本人ライターが案内するはじめてのミャンマー』など。Facebookはこちら

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