日本でも輸入解禁! アルゼンチン牛肉の味が限界突破するソース・チミチュリ

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※本記事は特集『海外のソウルソース』、アルゼンチンからお送りします。

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ジミーさんの特製カレーが国民的ソースになっちゃった!

こんにちは、奥川です。

日本のみなさん、ビッグニュースです! おいしいアルゼンチン牛肉が日本にもやってきます。

マクリ大統領がツイッターでお知らせ(日本語で!)。

2018年7月23日、首都・ブエノスアイレスから日本へアルゼンチン産牛肉が出荷スタート。今後は日本でも、アルゼンチン自慢の牛肉を食べられるのです。ここの牛肉は世界一美味しいという自信あり。何度食べても飽きません。

という訳で、改めまして、奥川です。今月のテーマは「ソウルソース」。アルゼンチンではなんでしょうか? そう、僕が持っているチミチュリです。伝統的なソースだけあって市販もされていますが、多くの家庭がそれぞれ独自のレシピを持っています

中身はこんな見た目。

チミチュリを説明する前に、まずは簡単にアルゼンチンにおける牛肉の歴史を紹介しましょう。

というのも、チミチュリはその使い方が決まっており、アルゼンチン伝統BBQのアサードや、牛の内臓から作られたチョリソ(ソーセージ)を挟んだチョリパンに添えられるものだから。つまり、チミチュリを知ることによって、これから日本でも食べられるアルゼンチン牛肉の味を何倍にも引き上げられる! ということなのです。

アサードで焼かれるさまざまな肉たち。

 

アルゼンチンの牛肉文化は16世紀の7頭の牛からはじまった

実は、アルゼンチンは人より牛の数の方が多いことで知られています。最新の2016年時点のデータでは、アルゼンチンの人口は約4,300万人(出典:アルゼンチン基礎データ|外務省)、対して牛はというとそれを上回る5,000万頭以上もいると言われているのです。

しかし、もともとアルゼンチンに牛が生息していたわけではなく、そのルーツは1536年にコンキスタドール(スペインからの征服者)が連れてきた10頭に満たない牛が「パンパ」と呼ばれる草原地帯に放たれたことから始まります。

その土地はエサとなる上質な草がたくさん生えており、まさに放牧地としてうってつけ。牛はのびのびと生活を送り、1700年までの一世紀半ほどの間に4,000万頭にまで増えたと言われています

パンパでマテ茶を飲むガウチョ(カウボーイ)たち。彼らは牛の世話で生計を立てたため、アサードはガウチョ発祥の料理とも言われます。

パンパは首都・ブエノスアイレスのすぐ隣にあります。

牛、鳥、豚、ヤギ、チョリソ、モルシーシャ(血のソーセージ)とありとあらゆる動物が含まれたアサード。

アルゼンチンで有名なフレーズが”Todo bicho que camina va a parar al asador”。意味は「全ての歩行(水中)動物はアサードにされる」。言葉の通り、この国では、牛や鶏、ヤギ、ヒツジ、豚、魚、果てはアルマジロまでアサードとなるのです。

 

アサードの味に革命を起こしたジミーさん

そんな伝統料理アサードに欠かせないソースが、チミチュリ。そもそも、「チミチュリ」って変な名前だと思いません? 由来はいくつかありますが、最も有名なのが「ジミーさんのカレー」説

ジミ―さんのイメージ絵。※当時のガウチョ像で、ジミ―さん本人ではありません。

イギリスの商人であり冒険家だったといわれるジミーさん。19世紀に起きたアルゼンチン独立運動に参加したとも言われており、国の歴史と深い関わりを持つ人物。

そんな彼がある日、カレー作りに挑戦。材料が足りないものの、なんとか本国で食べていた味に近づけようと頑張りましたが、別物になったもののこれはこれでおいしい。同行していたガウチョたちにも振る舞ったところ、その美味しさに彼らも仰天。ここからは想像もふくみますが……。

ガウチョ

俺たちの伝統料理アサードに合うじゃん! シミ―、クリーのレシピ教えてくれよ!


ジミー

いいですよ。あと私の名前はジミーですし、クリーじゃなくてカレーです


ガウチョ

ありがとう、シミ―! 俺たちもシミ―・クリー作るぞ!


ジミー

もうそれでいいや

正しく英語で読むと「ジミーズ・カリー」ですが、アルゼンチン人にとって英語の発音は難しく、シミ-・クリー→シミクリ→チミクリ→チミチュリと変化した。これが「ジミーさんのチミチュリ説」です。

義母直伝のチミチュリ・レシピ

そんな気になるチミチュリの味は、とてもさっぱりとしていて、お肉料理全般に合います。ここからは、義母直伝のレシピを紹介しましょう。

材料を並べてみました。

<材料 1~3人分>

玉ねぎ:半玉
ニンニク:1~3片
パセリ:適量
唐辛子:適量
パクチー:適量

<香辛料>

オレガノ:たっぷり
ブラックペッパー:少々
塩:少々
オリーブオイル(100%伝統的なチミチュリをつくりたいならひまわり油):適量
ワインビネガー:少々

<作り方>

材料をみじん切りにし、ブラックペッパーと塩を加え軽く混ぜます。

オリーブオイルたっぷり、ワインビネガーを少なめに加え混ぜて完成。感覚的にはオリーブオイル:ワインビネガー=4:1がベスト。

こちらはオリーブオイル多めのチミチュリ、焼いているお肉にかけると最高です。

<食べ方>

チョリソをパンに挟んで、チミチュリをのせます(パンに塗ってもOK)。

豪快にかぶりつきます。

「あっ、うまい」と感動します。

アサードでは色々な種類や部位のお肉が焼かれます。バラエティに富んだ交響楽団みたいなものですが、そのままではまとめ役がいない。そこにチミチュリが指揮者として、みんなを率いてくれるわけですよ。つまり、チミチュリがあることでアサード交響楽団のハーモニーが完成されるのです(決まった)。

分量は適当なので、お好きなように調整してください。辛いもの好きな方は、みじん切りにしたメキシコの青唐辛子ハラペーニョとバジルを加えるのがオススメ。また、チミチュリは冷蔵庫で半日から1日置いておくと具材に味が染み込み旨みが増します。

 

パクチニスト必見! チリ移民がアルゼンチンへ伝えた伝統ソース

チリから渡ってきたソウルソース・ペブレ

チミチュリの親戚ともいえるソースがアルゼンチンの隣国チリにあります、それがペブレ。こちらもまたチミチュリ同様に、アサードや魚介類、チョリパンと一緒に食べられるもので、チリのレストランに行けば前菜としてパンと必ずセットで出てきます。

ペブレがアルゼンチンで広まっている理由は、チリからの移民が多いため。僕にはチリ人の親戚もいるんですが、アサードのときは食卓にチミチュリとペブレ、両国のソウルソースが並ぶこともあります。しかし、トルタ・フリータ(揚げパン)にのせて食べるスタイルが主流です。

トルタ・フリータについて詳しくはこちらをどうぞ。雨の日に食べる揚げパンでもあります。

https://traveloco.jp/kaigaizine/rainy-argentina

ペブレの誕生は1780年代。スペインの植民地下にあったチリでは、イタリア人建築家Joaquín Toescaの監理のもと、サンティアゴ・メトロポリタン大聖堂などの建築が行われていました。

サンティアゴ・メトロポリタン大聖堂/©Robert Cutts from Bristol, England, UK

そのため、当時のチリには現在のスペインのカタルーニャ州から、優秀な技師や石工師が働きに来ていたのです。その彼らが塩とパクチー、油、お酢で作ったシンプルなソースが、『ペブレ』と呼ばれるようになりました。

おばさん直伝のペブレ・レシピ

ここからは、チリに住むティア(おばさん)に聞いた、本場のレシピを紹介しましょう。

<材料 2~3人分>

トマト:1個
玉ねぎ:半玉
ニンニク:2片
パクチー:たっぷり
塩:少々

<作り方>

1.材料をみじん切りにします。
2.器に材料を入れ、混ぜて、塩を加えたら完成。

ペブレもまた人によってレシピは異なり、他の親戚はオリーブオイルやレモン果汁を加えるとのことでした。簡単に作れる上、どんな料理とも合う万能ソースなので、ぜひ試してみてください。

 

アルゼンチン経済を支えた裏ソウルソースは、油!?

これは僕が勝手に言ってるんですが、アルゼンチンには裏ソウルソースがあります。それが、ひまわり油

パンパにあるひまわり畑。

実は、アルゼンチンは世界有数のひまわり生産国。2016年には約300万トンのひまわりを生産し、ウクライナ、ロシアに次いで世界第3位にランクインしています。

アメリカ合衆国原産のひまわりはロシアに渡り、アルゼンチンにやってきました。そして現在では、アルゼンチン産のひまわり製品が世界各国に輸出されているのです。

アルゼンチンひまわり協会(ASAGIR)によると、アルゼンチンにひまわりが持ち込まれたのは19世紀のこと。ロシアに住むユダヤ人が食用として、ひまわりの種をブエノスアイレスやサンタフェなどに持ってきたことがはじまりです。

ひまわりはすぐに国内に普及し、たちまちアルゼンチンの主要農産物に。さらに第二次世界大戦の特需により油の価値が高まり、アルゼンチンは莫大な量のひまわり油を輸出したことで1930~1950年代にかけて栄華を極めました。

その後は、利益率の問題からひまわりから大豆への転換が行われたものの、いまだにひまわり油は国内で根強い人気を誇ります。スーパーの店員に聞いたところ、購入されている油のほとんどがひまわり油で、おそらく全世帯の60~70%で使用されているだろうとのこと。

左上から時計回りにミラネッサ、トルタ・フリータ、エムパナーダ。

アルゼンチン料理には油が欠かせません。ミラネッサ(牛カツ)や揚げたエムパナーダ(パイの包み焼)を揚げるときにも使い、また、トルタ・フリータ、チミチュリ、そしてサラダにはレモン果汁とひまわり油を大量にかけて食べます。

かつて油が大幅に値上げされるという噂をきっかけに、瞬時にしてスーパーからひまわり油がなくなったことすらありました。その後も入荷してはすぐに売り切れるという状況が繰り返されたため、一時期スーパーには「一つの家庭につきひまわり油は3本まで」という張り紙まで出されるまでに。

もちろん、他の種類の油もあります。特に、アルゼンチンにはイタリア系移民が多いことからオリーブオイルの生産は盛んです。味・香り共に力強いオリーブオイルは美味しいのですが、いかんせん高い……。

世界有数のオリーブオイル輸出国であるものの、国内消費量は一人当たり年間260ml以下。写真右のオリーブオイルは最も安かったもので、250mlで75アルゼンチンペソ(約300円)。左のひまわり油は900mlで40アルゼンチンペソ(約160円)でした。

今回はレストラン仕様のため(あとリッチ感が出て見栄えがいいのも理由)オリーブオイルでチミチュリを作りましたが、実はひまわり油を使うケースがほとんどなのです。

 

チミチュリとアルゼンチンビーフを日本で楽しもう!

みなさん、これでもう、チミチュリとペブレの予習はバッチリでしょう。スーパーなどでアルゼンチン産牛肉の文字を見つけたら、そのまま今回のレシピ通りの材料を買い揃えましょう。BBQで食べようというものなら、ようこそ! そこはもうアルゼンチンです。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

奥川 駿平

奥川 駿平

1992年生まれ、福岡県古賀市育ち。アルゼンチン在住歴3年。美人アルゼンチン人嫁と結婚するために、新卒という大きすぎるブランドを捨ててアルゼンチンに移住。毎日マテ茶を飲むほどのマテ茶好きで、同世代で最もマテ茶を消費していると自称。今さらながら、Twitterにドはまりしています。

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