“迫る輸入キムチ”に”韓国系中国人コミュニティ”、冊封関係に見る中韓関係。

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※本記事は特集『海外のライバル』、韓国からお送りします。

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距離的にも文化的にも近い中国

韓国は外需に大きく依存する経済構造であるため、若者たちは積極的に外国語を学び、留学やワーキングホリデーを含め海外での経験に対して貪欲です。半島国家である地理的な理由もあり、隣国の動向に左右されやすいのもまた事実でしょう。

そのようななか韓国のライバルといえば、真っ先に日本の名前が挙がるのではないでしょうか。最近では日本のメディアも韓国に対して「永遠のライバル」という言葉をよく使います。一方で黄海を挟んだ西側には人口14億近くにも及ぶ中国という大国があり、輸出入額のシェア20%以上を占める韓国最大の貿易相手国です。(参考:日本貿易会(JFTC)の資料による)

仁川チャイナタウンの街並み

日本と同様に、距離的にも文化的にも近接する中国の動きは、韓国に暮らす人々の生活にもなにかと影響してくるものです。まず、そういった例をいくつかご紹介したいと思います。

 

伝統食キムチも今や中国産が増加

韓国の国民食であるキムチも今や中国産が増えています。韓国の食堂では原産地表示が義務付けられていますが、学生街などで低価格帯の食堂に入ったときに表示を見てみると、「キムチ:中国産」と書かれていることがほとんどです。

最近では外食用だけでなく、家庭用にまで中国産が入り込むのではないか、という勢いで輸入量も年々伸び続けています。(参考:올해도 ‘중국산’ 김치 수입 최고치 찍을 듯…가정용까지 넘봐(今年も中国産キムチ輸入が最高値をつけそう..家庭用まで狙う、農民新聞)2018年10月12日)

韓国では年々最低賃金が上がり、人件費が高騰。それが国産キムチの価格にものしかかってきます。一方で中国産キムチは価格が安く、品質もそれなりに良く、韓国産キムチを淘汰しつつあり、伝統の食文化が失われると危惧している人もいるようです

とある輸入業者の方から聞いた話によると「韓国の白菜は、中国や日本の白菜よりも水分が少なく、元々キムチづくりに適している」といいます。やはり本当のキムチの味を出すには、韓国産の食材がベストなのでしょう。しかし中国産の低価格には勝てませんし、それはキムチに限ったことではありません。

 

来訪する中国人観光客の多さ

韓国を訪れる中国人観光客が日本人観光客を逆転したのは、2013年のことでした。その頃までは免税店に入ると日本語で「お客さん、海苔いかがですか」とすかさず店員が声をかけてきましたが、ある時から「你好(ニーハオ)」と声をかけられる機会が増えました。中国人の経済力が高まり、「爆買い」という言葉が日本でも流行語大賞になったその前後のことです。

2016年の年始、中国人観光客歓迎ムードの明洞

しかし2016年後半から2017年にかけて、アメリカ主導で米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)が韓国に配備されるようになると、それに対して中国が大きく反発。韓国への団体旅行を制限する報復をしたことで、観光産業は打撃を受けます。

すると地方自治体は、日本人観光客はもちろん、東南アジアからの観光客をも呼び込もうと奔走。この頃に出会ったある日本語通訳ガイドの方からは、東南アジアのとある言語の通訳案内士の資格を取得した、という話も聞きました。

このように、地理的・政治的な事情から中国をはじめとした周辺諸国の様子を常にうかがう必要があり、それによって人々の動きも変わってくる、というわけです。

 

「漢方」でなく「韓方」と表記するのはなぜ?

日本でもインターネットの掲示板などで話題になることといえば「韓国起源説」。「〇〇の起源は韓国だ」という主張です。根拠が不足しているものも多く、それが端から見ると滑稽にも見えるために取り上げられがちです。

韓国では日常生活のなかで外国人を目の前にしてわざわざ韓国起源説を主張するような人は多くありませんが、見知らぬ人とふとした会話をするときに自慢された経験はあります。実際に仏教や稲作、陶磁器などは朝鮮半島を通して日本に伝わったことは定説ですが、例えば酒や桜など根拠に乏しいものまで韓国発祥だ、という人もいます。

一方で中国文化に関していえば、韓国では「漢方」のことを「韓方」と表記するのも一つの例。ハングル表記ではどちらも”한방(ハンバン)”なので区別しにくいのですが、漢方病院を「韓医院」と表記したりします。その理由は、『漢方は中国から伝わったものの、韓国で独自の発展を遂げたから「韓方」だ』というのです。

韓国最大の韓方市場・ソウル薬令市

いずれにせよ、韓国では伝統的なものは中国の思想や文化が元になっていることが多く(日本もそういう面が多々あります)、韓国独自の文化といえるものが曖昧になっている実情はあります。たとえば、ユネスコ世界無形文化遺産に登録された江陵端午祭ですが、その「端午」は本来中国の文化だ、ということで中韓で論争が起こったこともあります。

江陵端午祭の様子。端午は中国発祥とはいえ、中身は韓国独自

韓国起源説のなかには根拠のないデマのようなものも確かにありますが、現実にそうした主張が存在していることは事実です。それにはやはり韓国と中国との間に歴史的な深いつながりが背景としてあるからではないかと思います。

 

その理由は東アジアの冊封関係に

古代から中世までの東アジアの国々では、中国の皇帝へ朝貢し、冊封(爵位を授けてもらうこと)によって外交関係を築くという事大主義がとられてきました。

なかでも明(1368~1644)は、中国こそが文化の中心、つまり「華」として、それ以外の国々を文化の遅れた「夷狄(いてき)」とみなし、朝貢させていました。これを華夷思想(中華思想)といいます。朝鮮や女真(のちの清)、日本、琉球も、明からすれば夷狄となりますが、自らを中国に近いと考えていた朝鮮としては、女真や日本をより下に見ていたのです。

 

日本だけでなく、中国(清)も朝鮮に侵攻した歴史がある

その後、豊臣政権が朝鮮半島を侵略した際に、明は朝鮮に援軍を送りますが、間もなく弱体化。中国を支配する国が女真族をルーツとする清(1616~1912)へと変わります。

清は朝鮮に対して朝貢することを求めますが、それを拒まれ1636年に攻め立てます(これを丙子の乱、韓国では丙子胡乱という)。翌年には朝鮮第16代王の仁祖(인조、インジョ)が、ソウル郊外の南漢山城(남한산성、ナマンサンソン)に逃げて40日間籠城しますが、最終的に降伏。仁祖は清の皇帝・ホンタイジの前で屈辱的な臣下の礼をさせられます。

南漢山城は2014年にユネスコ世界遺産登録された

仁祖がホンタイジに臣下の礼の礼をする様子

その後は表面的には清に従属して朝貢をしつつも、朝鮮みずからを中心である「華」と考えて「小中華」を自称し、華夷思想の継承者とします(これを小中華思想という)。その後は日清戦争後の1895年の下関条約によって日本が朝鮮の独立を認めさせるまで、清の影響は及びつづけていました。そして1897年、朝鮮は大韓帝国として独立します。(参考:小中華思想についての参考文献:小倉紀蔵『韓国は一個の哲学である―「理」と「気」の社会システム』(講談社現代新書))ほか

日本からの解放後に勃発した朝鮮戦争(1950~1953)では中国人民軍が北朝鮮側についたため、長らく敵対関係になりますが、中華人民共和国とは1980年代から交流をはじめ、1992年に国交を樹立。なお、そのときに台湾(中華民国)とは国交がなくなります。

さらに現代の韓国は、アメリカとも同盟関係にあります。しかし中国は距離的にも近く、最大の貿易相手国でもあることから、何かと配慮しなければならない実情があり、板挟みのようになっているのです。前述のようにアメリカ主導でTHADDの配備が行われた際には中国から報復をうけ、対中感情はかなり悪化したようです。

 

「韓国人は愛国心が強い」といわれる理由

さて「韓国人は愛国心が強い」とよく言われます。それが何故なのか疑問に思っていたのですが、とある韓国人の知人は「隣には中国や日本という大国があり、うかうかしていると潰されてしまうから、そのように教育されるんだよ」と教えてくれました。

愛国の表現の仕方も独特

全員がそうではないとはいえ、わざわざ韓国起源説を掲げる人がいることは端から見ると虚勢を張っているようにも見えますが、長い歴史によって形成された「小中華思想」が人々の意識の根底にある、ということなのではないでしょうか。

さて話は変わりますが、次に韓国に在留する韓国系中国人、朝鮮族の存在に触れてみたいと思います。

 

韓国社会における朝鮮族の存在

朝鮮族とは何か?

韓国内における中国を語るうえで欠かすことができないのは「朝鮮族(조선족、チョソンジョッ)の存在です。朝鮮族とは中国東北部に位置する吉林省や、延辺朝鮮族自治州のあたりに暮らす朝鮮民族、つまり韓国系中国人のことを指します。また、このあたりは戦前に満州と呼ばれていた地域でもあります。

中国東北部にある延辺朝鮮族自治州

朝鮮族の人たちは主に日本の統治や朝鮮戦争から逃れてこの地に移り住み、その後定着した人たちのことをいいます。彼らの国籍は中国にありますが、近年では韓国で就労できる在外同胞ビザを取得しやすくなり、韓国で活路を求める人も現れるようになりました

 

朝鮮族に対する差別(中国人についての差別意識)

しかし、朝鮮族は本来韓国人とルーツが同じ民族のはずですが、北朝鮮の人々ともまた異なる「中国人」としてみている人が多いのです。朝鮮族の人たちは韓国映画でもヤクザのような悪者として描かれたり、現実の社会でも蔑視されることが多く、その態度も露骨であるように思います。事実、韓国在住の朝鮮族の友人が「なぜこうも嫌うのか」と嘆いていたのを聞いたことがあります。

とはいえ現代の韓国ではこうした韓国系中国人がかなりの人数を占めており、その数49万8000人、これは韓国に暮らす外国人全体の33.6%に達します(外国人人口は約2.9%、朝鮮族を含む中国人は外国人全体の約48%)。※数値は韓国統計庁「2017年人口住宅総調査」による。参考:大韓国際新聞 2018年8月29日

人口全体でみれば、もちろんマイノリティではありますが、韓国社会を構成する一員となっています。また、朝鮮族のなかには韓国へ帰化する人もいるようです。

 

朝鮮族が多く暮らすエスニックタウン

朝鮮族の人たちが多く暮らす町はソウルやその周辺にも数多く存在しており、例えば冠岳区の大林(대림、デリム)洞や、九老区の加里峰(가리봉、カリボン)洞あたりに特に多いとされています。このあたりは工業地帯であり、おもに出稼ぎ労働のためにやってきた人が定着したことによります。

以下の写真は中国東北部の飲食店などが多く、中国語とハングルの看板が混在する加里峰市場とその周辺の様子です。

そのなかでも加里峰洞の市場は韓国の街中によくあるような商店街でありながら、中国食材や、お惣菜が売られている場所であり、出かけてみると非常に楽しめる場所です。

 

中華料理でも韓国料理でもない朝鮮族料理

朝鮮族については先に述べたような実情があるほか、彼らが経営する飲食店はこうした特定の地域に多いとはいえ、韓国全体の食文化としても非常によく根付いています。ジャージャー麺やチャンポンといった一般的にもよく食べられる韓国式中華料理とは別に、朝鮮族の料理というものも存在します。

 

ラム肉の串焼き(ヤンコチ)

韓国では「ヤンコチ(양꼬치)」という名前で知られる、串刺しの羊肉(ラム肉)。これは中国東北部の食べ物。日本でも食べられるお店はありますが、韓国ではかなりポピュラーな料理になっており、朝鮮族が多く住むエリアのほか、ソウルの学生街である建大入口駅周辺にもそういった店が集まっています。

 

延吉冷麺

冷麺は朝鮮半島の麺料理ですが、中国東北部の地名を冠す延吉冷麺(연길냉면、ヨンギルネンミョン)もあります。これには韓国の冷麺にはないキャベツが入っていることが特徴。スープは牛ダシで酸味が強めで、なかにはパクチーが入っているものもあるようです。

 

パワーバランスのなかで養われる韓国人の愛国心

韓国にとって、中国は貿易面でも欠かせない隣国でありますが、同時に米国との同盟関係のこともあります。そんなふうに板挟みのなかで、その時における周辺国の力関係がやはり人々の意識や行動にも影響を及ぼすことは事実でしょう。

また長いあいだ中国に朝貢していたという歴史もあってか、韓国独自の伝統文化が見えづらくなっていることは事実。そういった状況だからこそ、韓国人として強い愛国心が養われるものなのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

東方神起やJYJと同年代の1986年生まれ。「韓国を知りたい」という思いを日々のエネルギー源とするも、韓国のオシャレなカフェには似合わず日々苦悩。ソウルや釜山も好きだが、地方巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。SNSでは「トム・ハングル」の名で旅の情報を発信。Profile / Facebook / 韓旅専科

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