2018.06.04

雨が降ったらチヂミが食べたい韓国人、音がむすぶ情緒的なその理由。

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一年の間でも億劫に感じる季節、梅雨。楽しい夏がはじまる前に、試練のように日本を襲う。気を紛らわせられるかどうかは分かりませんが、海外の梅雨(雨季)も覗いてみませんか? 日本と近いこともあって、韓国も6~7月は梅雨。日本にてるてる坊主を吊るしたりという情緒的な習慣があれば、韓国では「食」に寄るようです。なんと、「雨音を聴くとチヂミが食べたくなる」んだとか……。その、聞けば納得の情緒的な理由とは?

 

韓国でも日本と同様に6~7月は梅雨

韓国は距離的に近いだけあって、気候も日本とよく似ています。そのひとつが「梅雨」。韓国ではチャンマ(장마)といいますが、ソウルでは6月下旬頃から梅雨入りし、7月下旬までのあいだ、雨の季節が約1か月続きます

東京の梅雨はどんよりとした曇り空が毎日続き、時々雨が降り、いつもジメジメしているという天気ですが、韓国の梅雨は雨の日と晴れ間がはっきりとした印象。降るときにはざあざあ降りで、止むときにはピタッと止みます。

大陸性の気候が影響する韓国では、日本と比べると雨が降る日数が少なめで、梅雨がやってくる6~8月に降水量が集中します。

ちなみに韓国では長い傘よりも、折り畳み傘が主流。雨の日に地下鉄の構内を歩いていると、小さく畳んだ状態でぶら下げている人をよく見かけます。ただ近頃は長い傘やビニール傘を使う人がだいぶ増えてきました。

 

韓国では雨の日といえば、チヂミ

梅雨の季節はもちろん、雨が降った日に、ひときわにぎわうのがチヂミのお店。韓国人は雨が降るとチヂミが食べたくなります。それをあてに、マッコリを一杯やるのです。

雨の日に釜山で食べた金井山マッコリとパジョン

なぜチヂミを食べるのでしょうか? その理由は諸説あります。ひとつは雨が降ると、買い物に行かずに家にある材料、多くの場合は小麦粉で料理を作ろうとするから、ということ。

そのため、チヂミもそうですし、韓国式うどんのカルグッス(칼국수)も雨の日に食べたくなる料理だといわれています。

韓国式うどん、カルグッス

それでもやはり雨の日の食べ物といえば、チヂミ。日本のお好み焼きにもよく似ていますが、お好み焼きよりも油を多く敷いて焼くことが多く、鉄板の上でパチパチと焼き上がる音が、雨がポツポツと地面に落ちる音に似ているから、という説が最も広く知られています。

マッコリを一緒に飲む理由は、チヂミに合うお酒だからということ。韓国ではその食べ物に相性のよいお酒が決まっており、辛い食べ物や焼肉の場合は、チャミスル(참이슬)のような小瓶に入った甘めの焼酎を飲みます。

 

韓国ではチヂミとは言わない

日本では「チヂミ(지지미)」として知られているお焼きは、韓国では一般的に「チヂミ(지지미)」とは呼ばれず、南部地方の方言だとされています。韓国では一般的に、チヂミの類は「プチムゲ(부침개)」といいます。また、食材に小麦粉をまぶして衣をつけ、油で焼いた料理の総称として「ジョン(전)」という言葉をよく用い、その前に食材の名前を組み合わせて「~ジョン、~プチムゲ」という言い方をします

このように日韓で呼び名に違いがあるのは、オールドタイマーの在日コリアンたちに南部地方出身者が多いことが理由ではないかと思います。

そこで様々なチヂミの種類を紹介したいと思います。

 

様々なチヂミの種類をご紹介!

ネギチヂミ(パジョン)

ジョン(전)のなかでも、普段よく食べる庶民的なものがパジョン(파전)。「パ(파)」はネギのことで、ネギを入れて焼いたチヂミです。

釜山・東莱パジョン

特に有名なのは釜山(부산、プサン)の温泉街として知られる東莱(동래、トンネ)という地域のパジョン。この地域には元々ネギ畑が多く、海に面した釜山だけにエビやホタテなどの海産物が使われるなど、この地域の特徴がよく出ています

伝統的な東莱パジョンは、軽く火を通して出されるので、もんじゃ焼きよりは固まっていますが、柔らかめ。海産物の風味が感じられるパジョンです。

 

緑豆チヂミ(ピンデトッ)

ピンデトッ(빈대떡)もまた庶民的な食べ物。緑豆を挽いたものを生地にしてカリッと焼いたものがこれです。「トッ(떡)」はお餅の意味ですが、これもチヂミの一種。「緑豆ジョン(녹두전、ノクトゥジョン)という言い方もします。

緑豆を挽き、生地にして焼いたピンデトッ

このピンデトッが特に有名な場所は、ソウルにある広蔵市場(광장시장、クァンジャンシジャン)。特に食べ物屋台の様子が情緒的で、テレビでもソウルの名所としてよく取り上げられます。

とはいえ観光市場というより地元ローカルな雰囲気をよく残しており、仕事帰りの人たちもここをよく訪れます。

ソウル・広蔵市場の屋台街

そこでアジュンマ(아줌마、おばさんの意味)たちが鉄板の上でジュージューと焼いているのがピンデトッ。地元の人も観光客も一緒になって、長椅子に腰かけながらチヂミをつまみにマッコリを楽しみます。

ちなみに一般的によく食されるチヂミの類は、パジョンやピンデトッだけでなく、キムチを入れたキムチジョン(김치전)、牡蠣を入れて焼いたクルジョン(굴전)、ニラが入ったプチュジョン(부추전)、海鮮が入ったヘムルジョン(해물전)など、その種類は様々です。

 

ジャガイモのチヂミ(カムジャジョン)

チヂミの多くの種類は、前述のように小麦粉で作られます。しかし平昌オリンピックが行われた平昌・江陵が属する江原道(カンウォンド、강원도)では、寒冷地ということもあってか、ジャガイモが育ちやすく、ジャガイモを材料にチヂミを作ります

ジャガイモは「カムジャ(감자)」といい、ジャガイモで作ったチヂミは「カムジャジョン(감자전)」と呼ばれています。ジャガイモをすりおろして、身とでんぷんを分離させたあと、それを混ぜ合わせてから焼き、それを口にしてみると、もっちりした食感とともにジャガイモの風味が漂ってきます。

生地はジャガイモ100%のカムジャジョン(東京・三田「東光」にて)

東京・三田で韓国田舎料理 「東光」を切り盛りする、江陵出身の崔順女(최순녀、チェ・スンニョ)さんにお話を伺ってみたところ、約50年前の江陵ではコメの収穫が始まる秋までのあいだ、ジャガイモを使ってすいとんを作ったり、このカムジャジョン(감자전)を作って食べていたと話します。

今でこそジャガイモは一年じゅう手に入れることができますが、基本的には夏の食材。ジャガイモは食料が足りない時期に食べる、救荒食のような食べ物だったのでしょう。ちなみに2018年4月に行われた南北首脳会談の晩餐会では、スイスのレシュティ風に仕上げた「スイス式カムジャジョン」が供されました。

 

ソバのチヂミ(メミルジョン)

そして、平昌(평창)あたりではそばが名産。ジャガイモの収穫を終えた後にソバを植えて二毛作にしているところもあるようです。

したがって、そんな平昌周辺の地域では、そば粉を使ったチヂミが名物。これをメミルジョン(메밀전)といいます。メミル(메밀)は「蕎麦」という意味です。

ソバのチヂミ、メミルジョン

具材は季節や地域によっても異なりますが、キムチのほか、白菜やミツバ、ワケギのような野菜を入れて焼きます。

私も家で実際に作ってみたことがありますが、そば粉はボソボソとしており崩れてしまうため、つなぎが必要。そこで小麦粉を少し混ぜたりもします。

大きさにもよりますが、市場では1枚1,000ウォン~3,000ウォン(100~300円)ほどで売られています。元々安いこともあってか、小売をしてくれない店もあり、箱に入れてまとめ買いをする人の姿も見られます。

 

生ビールならぬ、生マッコリ。

マッコリが雨の日の飲み物、というわけではありませんが、チヂミと相性がよいことからここで触れておくことにします。

マッコリは米で作るどぶろく、濁り酒のような酒で、現地の発音に近づけると「マッコルリ(막걸리)」といい、原義としては粗く濾した酒という意味です。

そのイメージは「古臭いお酒」。マッコリが好きで飲んでいたら、「おじいさんみたい」と言われたことすらありました。また「庶民的なお酒」というイメージもあり、実際にコンビニでは750mlボトルが1,500ウォン(約150円)前後で購入できます。

近年ではクリやトウモロコシなど各地の特産物を使ったマッコリが売られていたり、都市部では創作料理とともにマッコリが味わえるオシャレな店が増えているなど、垢ぬけないイメージは払拭されてきているようにも思えます

マッコリのアルコール度数は6%前後。甘くて飲みやすいことから、ついつい飲みすぎてしまい、二日酔いになりやすいという人もいます。飲みすぎは禁物です。

マッコリには生ビールならぬ、「生マッコリ」があります。「生」とは、酵母が生きた微炭酸の状態。ボトルは発酵によるガスを抜くためにキャップに少し穴が開いていたり、ゆるく締めてあるので、逆さまにすると漏れ出ることがあります。

しかし日本の一般のスーパーで販売されているマッコリのほとんどは殺菌マッコリ。炭酸があるタイプは、殺菌マッコリにあとから炭酸が封入されているものなのです。生マッコリはコリアンタウンや通販のほか、日本国内でも製造している会社が一部あります。

缶マッコリ(ともに殺菌マッコリ。左は韓国、右は日本で市販)

韓国でも缶マッコリを中心に、殺菌マッコリが市販されてはいますが、マッコリといえば「生マッコリ」が主流です。乳酸菌の効果により、飲むと便通が良くなる、という人もいます。

私が韓国で下宿していたころ、生マッコリが要冷蔵であることを知らずに暖かい部屋においておいたのですが、そのことを隣の部屋の学生に話したところ、「酸っぱくなりますよ」と言われたことがあります。

その後、実際に飲んでみたところ、発酵が進んで味が変わっており、飲める状態ではなくなったことを覚えています。

生マッコリの賞味期限は要冷蔵で30日程度が一般的ですが、韓国国内では製造日当日や翌日のものが流通しており、新鮮な状態で味わうことができます。

 

雨が降ったらチヂミとマッコリを

今では日本でも大手の会社からチヂミ粉が市販されていたり、お惣菜で売られていたりもして日本でも馴染みのある食べ物になりつつあります。マッコリもスーパーやコンビニで気軽に手に入れられるお酒です。

チヂミは雨の日に食べるもの」という認識が日本でも高まれば、それに便乗するようにして、スーパーのお惣菜コーナーで雨の日に大々的にチヂミが売り出される日もそう遠くないかもしれません(ちょっとした願望をこめて……。)

梅雨の季節、外に出るのがおっくうなときは、家でチヂミを作り、マッコリを飲みながら、雨の音とともに楽しんでみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

1986年生まれ。ライター。「韓国を知りたい」という思いが日々のエネルギー源。誰も訪れない地方都市巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。国内では2月号『散歩の達人』コリアンタウン特集執筆ほか。SNSでは「トム・ハングル」の名で韓国の小ネタを日々発信中。HP / Twitter

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