韓国のビジネスメールは顔文字OK!? モルゲッソヨ像からみる日常の「遊び心」

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韓国ではビジネスメールにも絵文字を使う

IT大国とも呼ばれる韓国。送られてくるビジネスメールや印刷物、掲示物を見ると、よく絵文字が使われています。その多くは「^^」のような簡素なもの。

顧客へのビジネス文書にも顔文字

日本では私的なメール以外に顔文字を使うと「常識知らず」などという烙印を押されることすらあります。しかし韓国では、相手との距離もありますが、明らかに目上の人だとか、フォーマルすぎる場でなければ、「^^」のような顔文字をひとつ使うくらいであれば、許されることが多いようです。

ちなみに韓国語では絵文字は「イモティコン(이모티콘)」とよばれ、英語の’emotion(感情)’+’icon(アイコン)’を合わせた合成語。このようにビジネスのなかにもちょっとした遊び心があるのです。

韓国ではビジネスの場であっても、大勢に影響しない場面であれば、ちょっとした「遊び」の要素を入れることがあり、そのようなことに関しては比較的寛容です。今回は街中でよく見かける「オブジェ」を題材にして、韓国の遊び心を探ってみます。

 

謎めいたオブジェにみる韓国の遊び心

2018年平昌冬季五輪の際、記者などマスコミ関係者が集まるメインプレスセンターがあったアルペンシアリゾート。ここには男性が下半身を露出した3体のオブジェが置かれており、「モルゲッソヨ像」として話題になりました。

東京スポーツの記者が、その場にいた現地のボランティアに「これは何ですか」と尋ねたところ、「分かりません」という意味の「モルゲッソヨ(모르겠어요)」という答えが返ってきたことから、この言葉が広まりました。

リゾート地に堂々とそびえるキム・ジヒョン(김지현)作 「弾丸マン(총알맨들)」。

本来のタイトルは「弾丸マン(총알맨들)」。のちにオブジェの制作意図は明らかになりましたが(参照:平昌五輪の謎彫刻、狙いは何か モルゲッソヨの作者語る)、この像が置かれている場所はリゾートのなかでも目立つ場所。ここに滞在する観光客や五輪の関係者たちは、「なんでここに?」と思わずにいられなかったはずです。

実は韓国では、このようなオブジェが存在することは例外ではありません。ハッキリ申し上げて、かなり謎めいていますが、このようなものがあちこちにあるのです。なかでも私が見たなかでも最も奇妙な部類に入るものがコレ。

回転交差点のど真ん中でお辞儀をする像

角度を変えてみてみると……。

とある方角に向けてお辞儀

ここは軍事境界線に隣接した江原道・楊口(양구)郡。山やダムに囲まれ、人口は2万5千人に満たない小さな都市ですが、なんと中心街への入口となる場所に、「どーん」と立っているのがこの像なのです。

この像の名前は「グリーティングマン(Greeting Man)」。公式ページによれば、この像は「敬意と敬畏、和解と平和を象徴する」のだといい、韓国式のお辞儀をしたこの像を「地球上の意味ある場所」に建てるプロジェクト、とのこと(参照:http://www.greetingman.com)。

実は韓国国内の別の場所にも置かれており、世界にも広められるというのです。「韓国発」のグリーティングマンが、今後世界のあちこちに増えていくのかもしれません。日本にやってくる日もそう遠くないかも(!?)

 

背景は「パブリックアート」という文化政策が

なぜこのような風変わりな像が、あちこちに建てられているのでしょうか。

これは「パブリックアート」という文化政策によるもので、施設の建設費用のいくらかの割合を芸術に充てなければならないという制度によるもの。アメリカで始まったもので、西洋、アジアでも採用されている国があり、韓国もその一つ。これにより、芸術が受け入れられる土壌が醸成されているのでしょう。

代表的なパブリックアートの一つ。ニューヨーク・マンハッタンの6番街55丁目にある、ロバート・インディアナの『LOVE』。

それにしても、韓国のオブジェは「モルゲッソヨ像」や「グリーティングマン」のように、奇妙で不可解なものが多いのではないかと思います。

韓国人には、ご用心!』(2012年、三五館)の著者、平井敏晴氏は、ソウルランドにあるバラ園のなかに置かれた「蜂女のオブジェ」を一例に挙げ、「信じられないほど素晴らしいあの空間に、ちょっと間抜けたものをわざと入れる」と述べるとともに、こうしたものをドイツ語由来の「キッチュ」だと説明。「間抜け・ズッコケの妙こそ、韓国の味」と好意的に評しています。

蜂女のオブジェ(『韓国人には、ご用心』p129より引用)

「キッチュ」は辞書的には「芸術気取りのまがいもの、粗悪品」という意味ですが、こうしたものが街中にポツンと置かれることで「あれは何だ?」と目にとまります。もちろんスルーしてしまう人もいるはずですが、私もこれを魅力的に感じ、「韓国らしい」と妙に心が弾むのです

美しい場所や、ときには堅苦しくも思える場所に、奇妙で風変わりなものを置く謎のセンス。これを私は、韓国ならではの「遊び心」と解釈しています。本来の目的や主題から、わざとピントをずらすように造形物を配置するところに、その要素を感じます。

それは公的な機関でも例外ではありません。ソウル駅の目の前にある「ソウル南大門警察署」の屋上には、警察官がスクールバスを持ち上げているオブジェがあります。バスの車体には「暴力のない幸福学校(폭력없는 행복학교)」と書かれ、いじめ相談ダイヤルの「117」番が宣伝されています。

ソウル南大門警察署(ソウル・中区)

地方にも自然のなかにも風変わりなオブジェ

オブジェは地方でもよく見かけます。前述のグリーティングマンがあった、江原道楊口郡の中心街。軍人たちが駐屯する街だけに、そのど真ん中には、軍人のヘルメットを模したオブジェが置かれています。その横には派手なコスメショップがあるという、なんだか不釣り合いな構図です。

SKINFOOD(左)は韓国の大手コスメブランド。ヘルメットのオブジェ(右)

そして全羅南道求礼郡山東面にある、通称・山茱萸(サンシュユ)村。ここには遠い昔、中国・山東省から持ち込まれて植えられた「山茱萸」の木が一面に広がります。春には黄色く小さな花を咲かせますが、秋には赤い実がなり漢方薬にもなります。

この場所は山に囲まれた長閑な場所なのですが、丘の上に目をやると、山茱萸の花をかたどった巨大なオブジェが一つだけ「どーん」と置かれています。こちらは自然のなかに配置されており、やはりなぜこの場所に一つだけ、というパターンです。

山に囲まれた丘の上にぽつんと山茱萸のオブジェ(全羅南道・求礼郡)

つづいては、全羅南道・順天市の順天湾。韓国初となるラムサール条約にも指定された湿地があり、水鳥をはじめ多様な生物が生息しています。ここには木道が設置され、葦が生い茂るなかを歩いて散策できます。

順天湾には野生のムツゴロウが生息しているのですが、散策路の入口に置かれていたのは、ムツゴロウの顔の上にカニが乗っかっているシュールなオブジェ。ご当地キャラも顔負けです。

ムツゴロウの上に乗っかるカニの姿(全羅南道・順天市)

オブジェは山や湿地だけでなく海辺にも。こちらは忠清南道・保寧市の大川海水浴場。女性が目を閉じたセクシーな顔、さらにはサーフボードに乗る男性と、水着姿でポーズをとる女性のオブジェ。「Welcome To Boryeong(保寧)」との文字が書かれ、訪れる海水浴客を迎えてくれます。

大川海水浴場(忠清南道・保寧市)

地方にある美しい自然だけでは、なにか物足りないと考えるためでしょうか。「なんでここに」と思わずツッコミを入れたくなるどころか、どこへ行っても飽きさせてくれません。

 

首都ソウルの街中もオブジェがあちこちに

オブジェは、地方だけでなく首都ソウルにも。2012年に歌手PSY(サイ)の世界的なヒット曲となった「江南スタイル」の振り付けをモデルにして作られた手のオブジェ。この中央に立つと音楽が流れます。ですが、これはわりと普通な感じがします(!?)。

カンナムスタイル(ソウル・COEX前)

そして韓国では「うんち」ネタがわりと人気。「うんちパン(똥빵、トンパン)」という名の焼き菓子が販売されていたりもしますが、ソウルの大学路という街の歩道に置かれていたのは、このうんち型の造形物! 大きな犬の落とし物でしょうか?それとも人糞?

歩道に配置されたうんち型の造形物(ソウル・大学路)

さらにソウル・清凉里駅前のデパートの入口では、熊が吠えていました。遠吠えをしているようです。

デパートの入口で吠えるクマと、顔のどアップ(ソウル・清凉里)

そして龍山のドラゴンシティという、2017年に新しくできた外資系高級ホテル街の入口にはこのオブジェ。

龍山電子街とドラゴンシティ(ソウル・龍山)

角度を変えてみてみると……。腰かけてどこかの方向を指さしています。

平昌オリンピックで話題になった「モルゲッソヨ像」をはじめ、韓国の各地にはいかに一風変わったオブジェがありふれているか、ご理解いただけたのではないかと思います。

ニュースで登場するオブジェは、政治的な文脈で伝えられる「慰安婦像」や「徴用工像」ばかり。しかし、より明るい文脈で捉えられるであろう、奇妙で不可解なオブジェは韓国の街なかにも自然のなかにもあるのです。しかも「なぜこんなところに」という場所に。

謎のオブジェはなぜ多いのか、韓国人の友人に尋ねてみました。すると「観光客誘致のためじゃないかな」と、よくありがちなピンと来ない答えが返ってくるとともに、しまいには「よくわからん(잘 모르겠어、チャル モルゲッソ)」との答え。まさにモルゲッソヨはモルゲッソヨなのです。

 

オブジェのみならず「遊び心」にあふれる韓国

韓国の家電製品

このような遊び心の要素は、韓国の家電製品にも見られます。韓国メーカーの洗濯機のなかには、洗濯が完了したあとにメロディーが流れる機種が多かったりもします。(最近は日本でもそのような機種があるようですが……。)

洗濯機は一例ですが家電製品のなかには、単なる「ピー」という音ではなく、メロディー風の電子音が流れる機種も多く、生活のなかに潤いを与えてくれます。

着ぐるみを着たキャラクター

街中によくいる着ぐるみをかぶったキャラクターをよく見てみると、人間の腕や足を露出していたり、時には道路に寝そべっていたりすることも。単に「気のゆるみ」かもしれませんが、遊んでいるようにも見えます。

世界遺産の寺社でHipHopダンス

そして世界遺産にも登録された慶尚北道・慶州市にある「仏国寺(불국사、プルクッサ)」。旧暦4月8日の釈迦誕生日に行われた舞台行事。ここでは仏様の肖像画の前で、HipHopダンスが行われていました。

日本の常識であれば、伝統的な行事のなかでこのようなイベントが行われることは少ない気がしますが、伝統を守りつつも、新たな要素を取り入れることには比較的寛容なようにも見えます。これも一種の「遊び心」といえるのではないでしょうか。

このように韓国を訪れ、町を歩いてみたとき、ふと気に留めてみると、「遊び」の要素があちこちに見られます。韓国人と話してみると、会話のなかに冗談をよく混ぜる人がいますが、こうした「遊び心」が韓国人の身体感覚として身についているのかもしれません。韓国をよく観察すると面白いですよ!

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

東方神起やJYJと同年代の1986年生まれ。「韓国を知りたい」という思いを日々のエネルギー源とするも、韓国のオシャレなカフェには似合わず日々苦悩。ソウルや釜山も好きだが、地方巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。SNSでは「トム・ハングル」の名で旅の情報を発信。Profile / Twitter / Facebook / Instagram / 韓旅専科

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