『オルシュティンでおにぎりを』第三回:ちらりに厳しすぎる冬がやってきた

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ちらり、初めて迎えるポーランドの冬!

読者のみなさま、 Cześć!(こんにちは!)

みなさんもうご存知ですよね? ポーランド名物ピエロギ

元日本語教師の私、小林なつみが、日本食堂『ちらり』をポーランドの片田舎オルシュティンにオープンして早5ヶ月! 準備からおよそ1年もかかったためか、時間の流れはあっという間で本当に早かったです。しかし、ここに来て、スピードダウン。ちらりは今……

シーン……え? 潰れた……?

いやいや、潰れてませんよ!

実は、店内でお召し上がりになるお客様が激減。売り上げのほとんどは10月から本格的に開始したデリバリー注文に。でもこれ、ちらりだけじゃなくて街全体のことなんです。なぜなら。

12月に入って気温がグッと下がり雪の日が続く

そう、ポーランドに冬がやって来たのです。

12月の時点で気温はマイナス10度前後、自分の吐く息で髪の毛やフードにあるファーが凍ります。恐ろしや、この寒さはまだまだ序の口、マイナス20度近くになることも……。夏は欧州でも屈指の湖畔浴スポットとして観光客で賑わっていた我が街オルシュティンも、ご覧の通り。

夏はテラス席も出て観光客で賑わっていたメインストリートも

冬は静まり返っている

ご覧の通り……さ、寂しい!

私は4度目となるオルシュティンで迎える冬。何度見ても、夏と冬でこんなに風景が変わってしまうことに驚きます。しかし、しょうがないと思ってばかりではいられません。なぜなら、前述の通り街の多くのお店が冬の経営に苦しんでいますが、それでもお客様が来るレストランもやはりあるにはあるのです。では、なぜちらりにはお客様が来ないのでしょうか。

や、やっぱりお皿が紙製 or プラスチック製だから……!?第二回参照

ちらりでは独立した食器洗浄室がないため、瀬戸物の食器が使えません。冬、クリスマスや年の瀬にあたるこの時期は特別な食事を楽しみたい人が多く、料理はもちろんのこと、雰囲気を重視する人が多いのは日本も同じではないでしょうか。

また、寒い思いをしてお店に来るからにはゆっくり落ち着いて食事を楽しみたいはず。

ちらりの内装(旧)

ちらりの内装はシンプルなので、少し寒々しい印象を受けることもあるでしょう。なにより、むしろ人が来ないのであれば今こそチャンス! このタイミングで、私たちは待ち望んでいた食器洗浄室を作る工事、同時にお店を居心地のいい空間にするための改装工事を行うことにしました。

内装には愛着もあり、ここに葛藤がまるでなかったといえば、嘘になります。食器洗浄室の工事はいずれと予定していたことですが、内装の改装はここに来て決まったこと。正直なところ、私たちとしては、それに対して色々な気持ちがあります。ちらりをよくある日本食レストランにはしたくない。しかし、ここは私たちのための場所ではありません。一番は、お客様なのです。

でも切ない

 

ポーランドのクリスマスは日本のお正月

12月に入ると、日本はクリスマスムード一色。一方のポーランドは、国民90%以上がキリスト教徒の国です。ならば「さぞ盛り上がっているのだろう」とお思いでは? しかし、確かにイルミネーションやショーウィンドウはクリスマス仕様ですが、浮かれ立っているというよりは、ちょっと厳かなものという印象が強いです。日本は恋人たちのためのものというイメージですが、ポーランドでは家族のためのものであるクリスマス。それは24日から26日までの三日間続きます。

儀式で使うオプワテック(Opłatek)というお菓子。英語ではChristmas waffleと呼ばれる。

24日はヴィギリア(Wigilia)と呼ばれるクリスマスイブのパーティーが開かれ、正装して家族で集まり、ある決まった儀式(お祈り)をします。それぞれが相手の健康や幸せを祈りながら、お互いの手に持ったオプワテックをちぎり、食べるのです。儀式の後は子供たちお待ちかねのプレゼントタイム!(家庭によっては食事が先)

また、子供だけでなく、家族全員、ゲストがいれば参加者全員にプレゼントを用意することが多いです。私が2年前にポーランド人の友人に招待された時は、会ったことがない友達の親戚もいたりして……「何を渡せば喜ばれるんだ」と、プレゼント選びに頭が痛くなりました。多分、親戚の方も同じだったとは思いますが(笑)。そんなプレゼントタイムが終わって、食事が始まります。24日は肉もお酒も食べないことが古くからの習慣で、出される料理もだいたい決まっています。

基本的に決まった12種類の料理が並ぶ/©Przykuta

そして25日0時になると教会へ行ってクリスマスミサに参加し、ここからお酒と肉が解禁されます。すると、イブ以上に、エンドレスに食べる! 飲む! そのあとも親戚や友人を訪ねたり、その様子は日本のお正月さながらです。

ちなみに、一般的にどこの家庭でも、クリスマスの食卓には来客予定の人数より1つ多くテーブルセットが用意されています。それは急な来客、たとえ知らない人でも受け入れて、「一緒にお祝いしましょう」という伝統のため。素敵ですよね!

 

日本食はクリスマスに受け入れられるのか?

さて、ちらりではそんなポーランドのクリスマスイブに合わせて、巻き寿司のスペシャルセットを用意しました。これ、なにも突拍子もない話ではないんです。前述の通り、イブは肉が食べらないので、鯉やにしんを始めとする魚がよく食べられます「それなら寿司もいけるのでは?」と。というのも、ポーランド人の友人のクリスマスパーティーに招待された時に私は寿司を振る舞ったことがあり、それがとても好評だったのです。きっと期待できるはず……!

クリスマスに寿司が付け入る隙はあるのか?

スタッフと相談の上、人気のフィラデルフィア寿司ロールとスパイシー海老天ぷら寿司ロールに、卵焼きと和風ピクルスを添えたセットを用意しました。試しに買ってみようかなと言う気持ちになるように、あえて小さいサイズ、値段は低めに設定。

こちらがクリスマスちらりセット 65PLN(約1950円)この他にハーフちらりセットとベジセットも用意

そして、気になる結果ですが……通常営業(デリバリーのみ)よりは少し高い売り上げ程度

正直、期待していたほどではなかったです。反省点は、お店が工事中ということもあり、うまく宣伝できなかったこと。またイブに働けるスタッフがいなかったため、デリバリーなしの完全予約注文で、お客様自身が忙しいイブに店頭でピックアップしなければならなかったこと。しかし、伝統的なポーランドのクリスマスの食卓に、ポーランド料理と一緒にちらりのお寿司が並んだのを想像すると……なんだか胸がいっぱいに!

日本のクリスマスはKFCのケンタッキーを食べる人も多いですが、KFC発祥のアメリカにそういった文化がもともとある訳ではありません(七面鳥はあっても)。毎年続けていくことで、少しずつお寿司がポーランドのクリスマスに馴染んでいけたらいいなと願っています。

で! これは後日談になりますが、このクリスマスイブから1週間後の大晦日に巻き寿司がちらり史上最も爆売れ……!! 今年一番の驚きでした。他の日本食レストランでも巻き寿司を買い求めるお客様で長蛇の列が見られましたので、新しい文化として根付き始めているのかもしれませんね。

 

夢まぼろしオルシュティン のクリスマスマーケット

最後に、クリスマスの話題に戻りましょうか。

ヨーロッパのクリスマスといえば、きらびやかなクリスマスマーケット(ポーランド語で『ヤルマルク・シフョンテチヌィ(Jarmark Świąteczny)』)を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。ただ、大きい街では一ヶ月ほど続くマーケットも、オルシュティンのような地方の街では数日で終わってしまう。例年、クリスマス1週間ほど前の週末に行われ、クリスマス前には完全撤収されます。あれは夢だったの? というくらい、寂しく、虚しくなる、クリスマス前です。

青く照らされた広場の図書館と様々な出店

毎年やってくるメリーゴーランドは年季が入りすぎて若干怖い

この記事が公開される頃は2019年ですが、みなさんはどんなクリスマスを過ごされましたか? 私はというと、クリスマスツリーを飾って、友人と楽しいクリスマスを過ごしました。

ポーランドに来て、初めてのホワイトクリスマス

完全に浮かれている私(いらない情報)

2019年もちらり共々よろしくお願いいたします! 私の新年の願いはただひとつ……

工事早く終われ(※案の定すんごく遅れています)。

ちらりオープン前にとにかく時間がかかったこともあって、工事というものにトラウマがあり、ちゃんと終わるのかが心の底から不安です。今回もちゃんとしたデザイン図が無く、勢いで始まった工事(現在はあります)。新生ちらり、本当に本当に大丈夫なんでしょうか? 次の記事ではいいご報告ができるといいな……。それでは、また次回、お会いしましょう!

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

小林 なつみ

小林 なつみ

1987年生まれ、東京出身。日本語教師生活5カ国目のポーランドにて、なりゆきで日本食レストランの立ち上げを任されることに。絵を描くことが好き。仕事で日本語教材のイラストや漫画を描く。海外生活を漫画で綴ったInstagramはこちら

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