2018.11.05

『オルシュティンでおにぎりを』第二回:ポーランド料理は日本食に似てる?

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これは元日本語教師がポーランドで食堂を開くお話です

読者のみなさま、 Cześć!(こんにちは!)

日本語教師として世界各地を回っていた私、小林なつみは紆余曲折あり、この夏ポーランドのオルシュティン(日本でいえば軽井沢!) で日本食堂『ちらり』をオープンしました。予定よりも一年遅れるなどなど、はじめる前から山積みだった問題は……今も相変わらず。日々、笑って、泣いて、笑って、大奮闘中です!

日本語教師時代と食堂オープンまでのいきさつをつづった、前回の記事はこちら。

『オルシュティンでおにぎりを』:私、ポーランドで日本食堂はじめました。

ちらり、ちらり、って変な名前のお店だな。ひょっとしてあやしいお店なんじゃないか。みなさま、そう思われているのではないでしょうか。そこで今回は、店舗の様子や周辺環境、また肝心のメニューについて、ちらりがどんなお店なのかその全体像をご紹介いたします!

 

ちらりの店舗はオルシュティンの古民家のリノベーション

ちらりは、オルシュティン城周辺、その旧市街の路地裏にひっそりとあるお店です

お城から徒歩6分の好立地(!?)。

お店の入り口。味といえば味ですが、よく見るとタイルが剥がれてしまっています。

実はこの店舗、築170年といういわゆる古民家。もともとはオルシュティンが属するマズーリ地方で有名な画家であるAndrzej Samulowskiのアトリエ。文化財に指定されている家屋のため、修復するにしても敷居が高く、オープンにあたって変えたところは「取り外しができる日除け幕と提灯のみ」。これらは日本から取り寄せたもので、個人的には京都の町屋をイメージしています。

玄関を通ると……

右側にショーケース、奥にはキッチンがあります。

左側は客席で、古い建物の良さを残したシンプルな空間に。天井の梁と、額縁に入った絵のような、窓から見える緑が気に入っています。そのため、あえて絵などの装飾物は置いていません。

ちなみに、この窓の向こう側、お店の裏にはオルシュティン 城の城壁の一部があります。「城壁」って聞くと、ファンタジー世界のようなロマンが感じられますよね。しかし、現実は想像と違います……。

はい! 城壁ボッロボロの、草フッサフサ!

この城壁はもちろん、前述した入り口のタイルを一枚貼り直すにもコンセルヴァトール(遺産管理局)の許可が必要なのです。このようにオルシュティンふくむポーランド全体の美しい伝統的な街並みが守られているのですが……そう、これこそが工事に10ヶ月もかかった一因でもあります

雨上がりのオルシュティン城

さて、これでお店と周辺の雰囲気もいくらか伝わったかと思います。そんなオルシュティン城のある旧市街の路地裏にひっそりとある、ちらり。一体、どんなメニューを出しているのでしょうか? 食堂にとってなにより大切だとも言えるお料理をご紹介します。同時に、「ある問題」も……。

 

おにぎりや丼もの……しかし、大事な「アレ」が使えない!

首都のワルシャワやクラクフと違い、オルシュティンは小さな街です。日本食レストランは数える程、しかもそのほとんどが高価格帯のお寿司屋で、それら以外の日本食を知る機会はなかなかありません。ちらりは、そんな地元の人々へ日本に親しみを持ってもらいたいと思い、庶民的な日本料理を中心に提供しています(お寿司もあるけど、巻き寿司です)。

ちらりの看板メニューのおにぎり(1個7ズウォティ、およそ210円)

日替わりメニューのひとつ、親子丼(15ズウォティ、およそ450円)

左上から時計回りに、ちらりラーメン(28ズウォティ、およそ840円)、野菜天ぷらライスバーガー(12ズウォティ、およそ360円)、照り焼きチキン丼(15ズウォティ、およそ450円)、玉子寿司ロール(15ズウォティ、およそ450円)。

みなさん、この写真を見て、「あること」にお気づきでしょうか……?

そうなんです。ちらりでは……瀬戸物(陶器)の食器が使えません!

なんてこった……!

ポーランドでは瀬戸物の食器を使う場合、独立した洗浄室を持つ必要があります。しかし、ちらりではスペースの問題上、それを設けることができず、保健所から瀬戸物の食器の使用許可が下りなかったのです。同じ料理でもお皿の違いで味の感じ方が違いますが、このことでそれを痛感。現代の環境的な観点からも、紙皿やプラスチック容器はいただけないですよね。

現在、ちらりで、どうにか洗浄室を作ることができないか保健所職員と建築家とミーティングを重ねています。いつか、必ず、瀬戸物のお皿で料理を提供したい!

 

ポーランド人の舌を探れ! 試行錯誤のメニュー開発

一見すると日本で見る日本食と違いがないように見えるちらりのメニューですが、ここにはローカライズ(現地の嗜好に合わせた工夫)が詰まっています。そこでオープン前に時間をさかのぼって、日本食をポーランドのひとびとへ提供するにあたって重ねた工夫や苦労話をご紹介しますね。

私はこの国に来るまで、ポーランド料理というものについて一切知りませんでした。そんな私がはじめの方に口にして感じた印象が、「あれ? なんだか懐かしい……」、というもの

例えば、『ジュレック』というライ麦のスープは日本のお味噌汁に似ているし、『ビゴス』という酢キャベツの煮込み料理は切り干し大根の煮物に似ています

ジュレックは、お皿代わりのパンとともに提供されることも多いです。

ほかにも、『日本風ニシン』なんてものあります。卵とニシンを和えた料理なのですが、「日本人はニシンの卵(数の子)が好き」というのが間違って「日本人はニシンと卵が好き」という風に伝わってしまったらしいです。おーい!

実際、日本から遊びに来た友人たちもポーランド料理が口に合うようで、帰国後も「ポーランド料理が恋しい」「インスタントスープ送って!」と連絡して来るほどです。日本人にポーランド料理が合うのだから、ポーランド人に日本食が合わないわけがない! でも、確証が持てない……!

そこで、オープンにあたって、お店のプロモーションも兼ね、20回を超える試食会を行いました。

時には、出向いて。

時には、まだ工事中のちらりで。

時には、ナイトクラブで……!

試食会では手応えを感じました。やはり、私の考えは間違っていなかった! そう思いました。しかし、それはあるメニューを除いて、それは……。

おにぎり!!

当初からちらりの看板メニューとして考えていた、おにぎり。最近でこそこちらのコンビニやスーパーでもちらほら見かけるようになりましたが、知名度はまだまだ低い。そもそも、それについても形状はおにぎりなのにも関わらず、パッケージには『寿司』と書かれていて、実際に酢飯が使われているなんてことも……

ヴィジュアルは好評でしたが……

「米がドライ」「具が少ない」と、試食会当初のレビューは散々!

ご飯が甘くておいしいと感じたり、少しのおかずでご飯をたくさん食べられたりするのは日本人だけの感覚なのかもしれません。だからと言って、ローカライズしすぎて日本のおにぎりからかけ離れたものを作ってしまうのは、「庶民的な日本食を伝えたい」という思いからすると本末転倒。

「伝えたい日本食」と「ポーランド人が好む味」を行ったり来たりと、そのラインを探る日々でした。

そうして誕生した「ちらりのおにぎり」!

 

「ビーガン」に「宗教」に……日本以上に多種多様な食事情

こうして改良を重ね、ようやく納得できるおにぎりが完成し、ちらりはオープン。良かった、良かった、と思っていたら、今度は……

「ベジタリアンメニューある?」
「グルテンフリーはどれ?」
「ビーガンなんだけど……」

アレルギーだけでなく、様々な思想や宗教のため(例えば、カトリックの古い習慣では金曜日に肉を食べない)、日本以上に多様な食事情があるようです。だれだって口に入れるものには気を配りたい。次々と新たな問題が生まれますが、ちらりはオルシュティンの食堂です。みんなにおいしく食べてもらいたい! という思いから、日々試行錯誤中。

ベジタリアンやビーガンの方も食べられるよう開発中の、『ベジおにぎり』。

しかし、そのようにハードルを越えるようなことばかりでもなく、「ちらりをはじめてよかった!」と思える出来事もたくさんあります。オープンから2ヶ月、落ち着くこともなくずっとバタバタ! 常に気が張った状態。そんな私を癒してくれるのは……『おにぎりお兄さん』。

おにぎりとの出会いから、それ以降ほぼ毎日来てくれる常連さんに。

やっぱりお客様! ちらりによって、ほんの少しでも世界が広がっている人を見られるのはうれしいです。もちろんポジティブな意見ばかりでなく、厳しいものもいただきますが、その全部をエネルギーに変えて、みんなが集まる温かい場所を作っていきたいです。

夏の終わりのウキエル湖

もうすぐ、ポーランドは美しくも短い黄金の秋を迎えます。そして、厳しい冬が今年もやってくるのです。冬になると街は人出が極端に減ります。なんなら、外で誰ともすれ違わないなんて日もあるくらい。お客さんが来なかったら……ちらりはどうなっちゃうんでしょう!? その様子もいずれお伝えしたいと思います。また次回、お会いしましょう!

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この記事を書いた人

小林 なつみ

小林 なつみ

1987年生まれ、東京出身。日本語教師生活5カ国目のポーランドにて、なりゆきで日本食レストランの立ち上げを任されることに。絵を描くことが好き。仕事で日本語教材のイラストや漫画を描く。海外生活を漫画で綴ったInstagramはこちら

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