イタリアの正月は大晩餐会、年が明けると空から家具が飛んでくる!?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

※本記事は特集『海外の年越し』、イタリアからお送りします。

クリックorタップでイタリア説明

 

とにかく食べる! イタリア流大晦日の過ごし方

神社にお参りに行ったり除夜の鐘を聞いたりと、日本人にとってはどちらかというと厳かな気持ちで迎えるものというイメージがある大晦日。中にはこたつに入ってテレビを見ながら寝てしまい、そのまま元旦を迎えるのが好きという人もいるかもしれません(私です)。

しかし、陽気でお祭り騒ぎが大好きなイタリア人にとっての年末は、静かに過ごすものではなく大騒ぎをするもの。家族や友人同士でパーティーを開き、食べて飲んで過ごすのです。

「チェノーネ」の光景、もちろんこれは始まったばかり。

大晦日は、このチェノーネ(cenone)から始まります。チェノーネとは夕食という意味の「チェーナ(cena)」に大きいものを表す接尾語「one」をくっつけたもの。あえて日本語に訳すと「大晩餐会」といったところでしょうか。だいたい夜8時ごろから家族や友人どうしてテーブルを囲み、そこから年明けまでただただ食べ、そして飲んで過ごすのです。

こちらは、チェノーネの前菜の一例。

イタリアは地中海に面した半島の国です。気候も温暖で、山の幸にも海の幸にも恵まれています。こうした背景もあり、イタリア人は食べることにかける情熱はどの国にも負けないほど強く、人と会えば「ご飯は食べたか」「何を食べたか」なんて話ばかりしているようなお国柄。そんなイタリア人が「大晩餐会」というのだから、その量は相当なものです。


©J.P.Lon

チェノーネの定番料理、コテキーノ(上:豚肉のソーセージ)とレンズ豆(下)。真ん中の黄色いものは付け合せのポレンタ(とうもろこしの粉を練ったもの)。

イタリアの食事は「前菜(アンティパスト)」「パスタやリゾット(プリモ)」「肉や魚の料理(セコンド)+付けあわせ(コントルノ)」「デザート(ドルチェ)」で構成されています。ただ、1皿の量も多いので、普段はアンティパストを省略したり、セコンドだけを食べたりするなど、お腹具合や時間の余裕にあわせて調整するのが一般的。

しかし、チェノーネの場合は4皿ともしっかり食べるどころか、プリモやセコンドが2〜3種類ずつになったりすることも。しっかりと食べる量をコントロールしていかないと、最後のドルチェまでたどり着くことはできません。食べて飲んで……を延々と繰り返します。

この量を年明けまで延々と食べ、そして飲み、さらに絶え間なくおしゃべりを続けるのだから……イタリア人のバイタリティには目を見張るばかり。

また、大晦日には必ずと言っていいほどコンサートなどのイベントが開かれているため、それに参加したり、広場で爆竹を鳴らして大騒ぎしたりするのも一般的な年末の過ごしかた。イタリアには「Natale con i tuoi, Capodanno con chi vuoi(クリスマスは家族と過ごし、正月は好きな人と過ごす)」という言葉もあり、若者たちが友達同士で集まって年明けを迎えるのもよくある光景なのです。

 

大切なものはお金と愛? イタリアの年末年始の習慣

ところ変われば常識も変わるとはよく言われますが、イタリアの大晦日は日本ではちょっと見られない光景が見られます。その中から、面白い習慣を2つほどご紹介しましょう。

レンズ豆を食べればお金持ちになれる!?

イタリアは盛大なディナーで年末年始を祝いますが、その中で必ずと言っていいほど登場するのが茹でたレンズ豆です。年末の定番料理という意味では、日本の年越しそばのようなものといってもいいかもしれません。


©DocteurCosmos

茹でたレンジ豆は、食べれば食べるほどお金持ちになるのだとか。

年越しそばを食べる理由には「細く長いことから長寿を願う」「切れやすいそばを食べることで一年の苦労を翌年に持ち越さないようにする」など諸説ありますが、イタリアでレンズ豆を食べる理由はズバリ「お金が貯まるように願う」こと。その形が金貨に似ているため、たくさんのレンズ豆を食べれば食べるほどお金が貯まるとされています。幸せのカタチは人によってさまざまですが、率直で歯に衣着せないイタリア人らしい考え方だと思うのは私だけでしょうか?

赤い下着が幸運を運んでくれる

日本人にとっては「え?」と声が出てしまいそうな話ですが、イタリア人は大晦日の夜に赤い下着を身に着けます。本当です。こう書くと「それは一部の若い人だけなのでは」と思う人もいるかもしれません。しかし、イタリアでは赤い下着が幸運を呼ぶとされており、大晦日には老いも若きも男も女も、みんな赤い下着を身につける習慣があるのです。

その理由は定かではありませんが、一説によると古代ローマ時代に赤い色が権力や富、健康の象徴とされていたことに由来しているのだとか。権力者のようにおおっぴらに赤い衣装を身につけることははばかれるため、1年の終わりにこっそりと下着として身につけたというのが通説なのだそうです。

ちなみにこの下着は家にある使い古したものはなく、新品で、しかも他人にプレゼントされたものであることが大切なのだとか。これも古代ローマから続く伝統なのかどうかは分かりませんが、なんともセクシーな習慣で、さすがアモーレ(愛)の国といったところでしょうか……。


©Twice25

年末が近くなるとお店には赤い下着がずらり、少し目にやり場に困る光景です。

こうした理由もあり、イタリアでは年末が近くなるとショーウインドウに赤い下着が並びます。中には「どうやって身につけるの?」と不思議になるようなアグレッシブなデザインのものもあり、なかなか壮観な光景です。

 

要注意! ナポリでは5階からテレビが降ってくる

イタリアの大晦日は家族でごちそうを食べ、若者たちは友達同士で出かけるというのが定番の過ごし方。ただ、南イタリアのナポリだけはもうひとつ、他の都市にはないイベントがあります。

ナポリでは「新年を迎えるにあたり、古いものは持ち越さない」という考え方があり、カウントダウンがゼロになった瞬間に、家にある古いものを捨てるという習慣があります。これだけ聞くと断捨離みたいなものかと思うかもしれませんが、通常と違う点は物を窓から放り投げてしまうということ。それも、5階や6階など高層階に住む住民までが気にせずポイッと、物を投げるのです。

大晦日のナポリの様子、物だけでなく爆竹も。阿鼻叫喚な感じ伝わりますでしょうか?

このゴミ捨て大会とでも呼ぶべきイベント、投げ捨てるものは皿やフライパン、花瓶などの小さなものが多いようですが、便器やタンス、テレビなどの大物が降ってくることもあるというから油断できません。さらに、他の都市でも定番の爆竹も鳴り響くため、0時を越えてからしばらくは街中がとんでもない状態に。

ナポリ出身の友人に聞いてみたところ、花火を投げそこねて指が吹き飛んだとか、酔っぱらいが空に向けて銃を発砲したなんて物騒な話も毎年のようにあるらしい。もともと爆竹など大きな音を鳴らす行為には「邪気を取り払う」という意味があるらしいのですが、かえって余計な不幸を呼んでいるのではないでしょうか……。

いろいろと危険なナポリの年越しですが、その友人によると「pero, comunque si fa(でも、それでもやるんだ)」とのこと。そういえば日本でも毎年のようにモチを喉につまらせる、なんてニュースを聞きますが、人の習慣はそう簡単には変えられないってことなんでしょうか。

そういうわけで、日本のような静かな年越しをイタリアで楽しむことはまず不可能ですが、慣れてみればこれはこれで楽しい経験でもあります。もし年末にイタリアに来ることがあれば、ぜひその雰囲気を味わってみてください、なんとなく元気になれますよ。

 

 

編集:ネルソン水嶋

  • ※当サイトのコンテンツ(テキスト、画像、その他のデータ)の無断転載・無断使用を固く禁じます。また、まとめサイトなどへの引用も厳禁です。
  • ※記事は現地事情に精通したライターが制作しておりますが、その国・地域の、すべての文化の紹介を保証するものではありません。

この記事を書いた人

鈴木 圭

鈴木 圭

イタリア・ミラノ在住、フリーライター。広告ディレクターや海外情報誌の編集者などを経て2012年にイタリアに移住。イタリア関連情報や海外旅行、ライフスタイルなどの分野を中心に活動中。旅行先の市場でヘンな食べ物を探すのが好き。「とりあえず食べてみよう」をモットーに生きてます。HPTwitterInstagram

  • このエントリーをはてなブックマークに追加