ドイツのクリスマスは年越し後もまだつづく、真冬に煌めく40日間

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※本記事は特集『海外の年越し』、ドイツからお送りします。

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大量にお菓子を焼き始めたらもうすぐクリスマス

年末年始の行事といえば、日本ではクリスマスはカップルや友人同士で華やぐ行事、それが過ぎるとお正月を迎えて厳粛な気分になりますよね。ドイツは逆で、クリスマスは家族で過ごす厳かな行事大晦日から元旦にかけては友人たちが集まるにぎやかなパーティーの日です。

ドイツ人にとってクリスマスは、1年の中の最重要行事。ですから、新年よりもずっとずっと存在感があるのです。でも特別な瞬間は突然やってくるものではありません。4週間にも渡って、用意周到に準備された結果なのです。クリスマスの準備期間はドイツ語で「アドヴェント」(Advent)といいます。日本語では待降節(たいこうせつ)と呼ばれています。日本語の漢字を見れば、キリストの降誕を待ちわび、準備をする期間だということが伝わってくると思います。

アドヴェントが始まる時期は、11月27日から12月3日の間にある日曜日。この日を第1アドヴェントと呼び、翌週の日曜日が第2、翌々週の日曜日が第3と続きます。第4アドヴェントの日曜日が来ると、その数日後はクリスマス。ちなみに2017年の第1アドヴェントは12月3日です。4週間続くこの期間には、クリスマスに向けていったい何を準備するのでしょう。

まずは、クリスマスの焼菓子を買ったり焼いたりすることでしょうか。こうしたクリスマス菓子にはナッツやスパイス類が大量に使わているのですが、そうした品は以前はとっても高価なものだったのです。だからこそ、クリスマスという特別なときに食べられたのでした。

代表的なドイツのクリスマス菓子といえば、近年日本でも売られるようになってきた「シュトレン」(Stollen)。

これはイーストが入ったパンのような食感の生地に、バターやドライフルーツ、ナッツ、マジパンなどがぎっしり入った贅沢なお菓子。表面に真っ白い粉糖を振ってあり、生まれたばかりのイエス・キリストのおくるみのようです。お菓子屋さんではドライフルーツをお酒に漬け込んだり、生地を休ませたりなどで、できあがるまでに3〜4日かけているお店もあります。お菓子屋さんやスーパーで買う人が多いですが、手作りしている家庭もあるんですよ。家庭で焼く場合はあまり時間をかけず、数時間でできあがるレシピが一般的です。

そして、「レープクーヘン」(Lebkuchen)。シュトレンに並ぶ代表的なドイツのクリスマス菓子ですが、日本ではまだ知られていないと思います。レープクーヘンにはさまざまな種類がありますが、もっとも高級なものは生地にアーモンドの粉と各種のスパイスが入った、しっとりとした「エリーゼン・レープクーヘン」(Elisenlebkuchen)です。

エリーゼン・レープクーヘンは上の写真のように砂糖がかかっていたり、チョコレートコーティングされていたりします。レープクーヘンも手作りしている人がおり、家庭用レシピでは生地を休ませる時間も含めて3〜4時間ほどで完成します。ちなみに私は、買ったことしかありません、ええ。

家庭で手作りするクリスマス菓子の定番といえば、なんといっても「プレッツヒェン」(Plätzchen)でしょう。クッキーのことです。決まった形やレシピがあり、それぞれに名前が付いています。

クリスマス菓子は第1アドヴェントが始まる前後から、家庭で大量に焼き始めます。それを缶に保存しておき、来客時やお茶の時間に出してもてなします。12月にドイツの家庭に遊びに行くと、たいがいクリスマス菓子が出てきます

私は以前『ドイツのキッチン・ルール』という本でドイツ人家庭のキッチンを取材したのですが、どの家にもハンドミキサーや焼型、クッキー用抜き型などの製菓道具があったことに驚きました。ドイツの家庭には賃貸住宅でも大きなオーブンが必ずあるので、製菓道具があることも納得です。

 

カレンダーと日曜日ごとのキャンドルでクリスマスを待ちわびる

お菓子以外にクリスマス気分を持ち上げるものといえば、アドヴェンツカレンダー(Adventskalender)とアドヴェンツクランツ(Adventskranz)。カレンダーは1枚の絵に1から24までの数字が書かれた小窓が付いているもので、12月1日から24日のクリスマス・イヴまで1の小窓から順番に日めくりで開けていきます。小窓の中にはかわいいイラストが描かれていますが、チョコレートやおもちゃが入ったタイプのほうが、子どもたちには人気かもしれません。

アドヴェンツクランツは、常緑樹で作ったテーブルの上に置くリース。キャンドルが4本立っていて、第1アドヴェントの日曜日に最初の1本に火を灯し、第2では2本というように、キャンドルに灯る火が1週間ごとに増えていきます。こうやってクリスマスを心待ちにしているのです。

 

華やかなクリスマス・マーケットで暗く寒い冬を吹き飛ばす

そしてアドヴェント期間の最大の楽しみといえば、クリスマス・マーケット。アドヴェント期間だけでなく、1年のうちで最も楽しいイベントといってもいいかもしれません。

クリスマス・マーケットとは、ツリーやイルミネーションで飾られた広場に、食べ物や雑貨を売る屋台が並ぶマーケット。シュトレンやレープクーヘンなどのお菓子もここで買えますし、プレゼント用の品物を探すのにも最適です。移動式遊園地があるクリスマス・マーケットもあります。

ドイツの冬は暗くて寒くて気が滅入るのですが、クリスマス・マーケットが始まると、それまでの憂鬱さが嘘のようにウキウキします。ドイツは、年によってはマイナス10〜15℃を記録する冬もありますが、マーケットがあまりにも美しいせいか、寒い屋外でも案外長居してしまいます。

クリスマス・マーケットが始まる時期は、第1アドヴェントの頃。2017年のベルリンでは11月27日から始まり、普通はイヴの12月24日頃に終わります。クリスマスを迎えるためのマーケットですから、クリスマスには終わってしまうんです。

 

ドイツの子どもは24日と、6日にもプレゼントをもらえる

ところで、日本ではクリスマスプレゼントをもらうタイミングは12月24日の夜と決まっていると思います。ドイツでもイヴの夜にプレゼント交換をするのですが、じつは子どもたちはそれ以外にもプレゼントをもらえる日があるんです。

それは12月6日の聖ニコラウスの日。5日の夜に子どもたちが靴を磨いて置いておくと、いい子のものにはお菓子が入っています。ただしニコラウスは、クネヒト・ループレヒトというお供を従えていて、悪い子はループレヒトにムチで打たれてしまいます。ループレヒトは茶色または黒い衣装に身を包んでいますが、地域によってその姿にはバリエーションがあります。

聖ニコラウスは4世紀に実在した司教で、サンタクロースのモデルと言われています。その後16世紀のドイツでは、宗教改革者のルターが聖人崇敬の廃止から聖ニコラウスの日をなくし、24日の夜にキリストがプレゼントを持ってくると説きました。しかし、さらに時代が進み、現代の子どもたちにとっては、6日も24日もプレゼントをもらえる日になっています。6日のプレゼントはちょっとしたお菓子、24日はおもちゃなど豪華な品をもらうことが多いようです。

 

24日のイヴにようやくツリーを飾りつけ

家庭で飾るクリスマスツリーには、生の針葉樹を使います。プラスチック製ではありません。毎年アドヴェントになるとモミの木市が街角に出現し、そこで背格好のいいモミの木やドイツトウヒなどを選んで家に持ち帰ります。とはいえ、木1本を運ぶのはかなり大変。車の屋根や自転車にくくりつけたりしています。

モミの木自体は早い時期に買っていたとしても、ツリーを飾りつけるのはイヴの24日に行うことが伝統です。もっと早くからデコレーションして楽しめばいいのにと思いますが、生のモミの木ですから、あまり早くから飾ってしまうと乾燥して葉がパラパラ落ちてしまう問題もあるんです。

ツリーに飾るオーナメントは、手吹きガラスやプラスチック製のボールや藁の飾りなどが定番です。キャンドルは、なんと本物。クリップで枝にしっかりと留めて、火をつけます。「火事にならないの?」と心配になりますが、「キャンドルの炎が枝にかからない場所に留めるように注意している」そうです。

 

12月25・26日のクリスマスは1年でも最も静かな日

日本ではクリスマスは12月25日だけで、日付が26日に変われば街はいきなりお正月モードに早替りしますよね。でもドイツでは25日と26日の2日間がクリスマス。クリスマスは家族が水入らずで過ごす日です。前日までにぎわっていた街も、25日になればお店もすべて閉まって、ひっそり静まり返ります。日本の元旦に近い感覚といえば、想像しやすいかもしれませんね。

家族行事ですから、みんな実家へ帰省します。地方から来ている人が多いベルリンは、24日の午後あたりからどんどん人がいなくなり、25日はガラガラに。以前クリスマスにベルリンで電車に乗ったら、車内にいたのは私のような外国人とホームレスらしき人だけ。こんな日に外を出歩いているのは、帰る場所がない人だけなのね……と、寂しくなりました。

だから、12月25・26日にドイツに旅行に来てもきっと困ってしまいますよ。クリスマスの華やかな雰囲気を楽しむのなら、必ずクリスマス・イヴより前にいらしてください!

 

ロケット花火の煙にまみれて年明け、新年6日にクリスマスは終わり

ドイツのクリスマス期間は25・26日で終わらないんですが、ここでいったん新年がやってきます。

ドイツのクリスマスが日本の元旦に相当するような、静かな家族行事だとしたら、ドイツの新年は派手に楽しむ日本のクリスマスに似ているかもしれません。大晦日は、友人たちが家に集まってダンスや食事をするにぎやかなパーティーの日。

日付が変わる0時近くになると、誰もがおもむろに花火を手にして外に出ます。この花火は、年末だけ販売が許可されるド派手なロケット花火。これを大勢が街中で打ち上げるのですから、煙が立ち込めヒューヒューバンバン大変な騒ぎです。「戦場のようで怖い」という人も。0時前後は危険なので、路上にいるのはやめましょう。そうやって大騒ぎした翌朝、つまり元旦の朝はみんな疲れて眠りこけています。そして1月2日はもう平日です。

新年を迎えても続いていたクリスマス期間がいよいよ終わりを迎えるのは、1月6日。聖書では、東方の三博士が、誕生したイエスの元にたどり着いたとされている日。この日をもって、第1アドヴェントから続いてきた一連のクリスマス行事は終わりを迎えます。

役割を終えたクリスマスツリーは、オーナメントを外して決められた日に路上に出しておくと回収してくれるのが、なんとも合理的なドイツらしいと思います。きらめいていたツリーが路上に打ち捨てられている姿を見るといたたまれない気持ちになることもありますが、それはよいクリスマスを過ごしたということ。1年のハイライト期間を終え、再び日常に戻っていくのです。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

久保田 由希

久保田 由希

東京都出身。ただ単に住んでみたいと2002年にドイツ・ベルリンにやって来て、あまりの住み心地のよさにそのまま在住。「しあわせの形は人それぞれ=しあわせ自分軸」をキーワードに、自分にとってのしあわせを追求しているところ。散歩をしながらスナップ写真を撮ることと、ビールが大好き。著書に『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』(大和書房)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか多数。HPTwitterFacebookInstagram

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