アルゼンチンの主食は肉! 年越しは「ヤギの丸焼き」と「キスタイム」

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※本記事は特集『海外の年越し』、アルゼンチンからお送りします。

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アルゼンチン人は特別な日に豪快なBBQを食べる!

Hola(こんにちは)! アルゼンチン在住の奥川です。今回は現地の大晦日の過ごし方について紹介します。その前に、まずは国民食のアサードについて簡単に知ってもらう必要があります。僕が写真で示しているのがそうですね。アサードとは、男性が作るBBQのこと。

アサードが男の料理であることを証明する写真。

元々は、ガウチョと呼ばれるカウボーイたちが、アルゼンチンの広大な土地で肉を豪快に焼いていたことが始まりです。男の中の男であるガウチョたちの料理だったので、今でもアサードは男性が作ります。厨房が見えるレストランに行ったら、アサードの作り手に注目してください。きっと男性が作っているはずですよ。

「美味いアサードを作れる男はモテる」by アルゼンチン嫁

アサードの主役は間違いなく牛肉(写真左)です。他にもチョリソ(写真真ん中。香辛料が入ったソーセージ)やモルシーシャ(写真右下。血を詰めたソーセージ)も焼かれます。

以前、嫁と友人の女子会での会話を聞いて驚いたことがあります。

友人

この前、フランコが作ったアサード食べたんだけど、超おいしかった!見直したわ


友人

ゴンサルオっていう友人がいるんだけど、彼のアサードは本当にまずいフランコのアサード食べてみたい

奥川

アサードは恋愛で重要なの?


嫁

結婚したら旦那が作るアサードを毎週日曜日、60年以上彼の作ったアサードを食べ続けるようになるわけ。月に4回、年に48回、60年で2,880回食べるのよ。3,000回近くもまずいものを食べたくないでしょ美味いアサードを作れる男はモテる

もちろん全員がこうというわけではありませんが、アサードを重要視する女性がいるのも事実。ちなみに嫁や他の女性に聞いた美味しいアサードは、塩加減、焼き加減、そして肉の質が良いものだそうです。高いお肉ほど質がよくなるので、アサードで経済力を測れるのかも……。

家族を大切にするアルゼンチンでは、伝統的に、毎週日曜日のランチには家族・親戚が集まり、ゆっくりと時間をかけてアサードを食べます。他にも誕生日や祝日、特別なイベントの日にも、そしてまた、大晦日も例外ではありません。

 

「年越しそば」ならぬ「年越しヤギ」で大晦日を過ごす

Chivitoがヤギのこと。ヤギはスーパーなどで頭単位で購入します。現地の大晦日の過ごし方は、家族や親戚が勢ぞろいして、アサードを食べたり、ダンスをしたりします。大晦日らしい点は、普段は切り分けられた牛肉を焼くアサードですが、大晦日にはヤギ1頭を豪快に焼くことです。

子ヤギ1頭でも迫力がすごい。22年間の日本生活では見られなかった光景。

なぜ牛肉ではなくヤギなのか? 友人や嫁の親戚に聞いてみると、「ヤギの方が豪勢だから」と言われました。牛肉を使ったアサードはおよそ1,000~1,500アルゼンチンペソ(およそ6,400円から9,600円)。それに対して、ヤギは1頭2,000ペソ(およそ13,000円)。ヤギに加えてチョリソやモルシーシャといったソーセージ類、そしていつものように牛肉も買わないといけないので、値段はかなり高くなります。

また、豪勢さのほかに非日常感もヤギにはあります。アルゼンチン人の主食は肉(特に牛肉)と言っても過言ではありません。本当に毎日肉を食べます。そう考えると、特別なイベントだからと、牛一頭焼いても「また、牛かあ……」となりません? 極端な例で言うと、日本人が特別な日に炊飯器じゃなくて大釜で白ごはんを焚くようなものです。しかし、ヤギは普段は食べられないもの。豪勢さと非日常感を味わえるから、特別なイベント時にヤギを食べるのかもしれません。

 

ヤギは特殊な道具で串刺しにして2時間たっぷり炙り焼き

義父のパリーシャ。各家庭に1台パリーシャがあるといっても過言ではありません。

一般的なアサードはパリーシャ(スペイン語でグリルの意)と呼ばれる専用釜でお肉をじっくりと焼き上げます。パリーシャは写真のドラム缶タイプ、もしくは釜の中にグリルを置くタイプのものが一般的です。しかし、パリーシャはヤギを置くには小さすぎる。そこでヤギのアサードを作るときは、下の写真のようにします。

この特殊道具にヤギをつけて炙り焼きます。ヤギのアサードは特別なイベント時にしか作られないので、この道具の使用頻度は年に2~3回。大晦日やクリスマス、あとは女の子の15歳の誕生日(大人の女性とみなされる年)などにヤギを食べます

調理時間は最低でも2時間。じっくりと焼くので、余分な脂が落とされ、ジューシーながらあっさりとした味わいに。そして、このヤギを張り付ける道具の所有者は、嫁の親戚の中ではただ1人。その人物こそが、嫁のおじいちゃん!

おじいちゃんは僕の義父のお父さんです。アルゼンチンに来てから、たくさんアサードを食べてきましたが、おじいちゃんがつくるものが一番おいしい! 塩加減が絶妙なんですよね。大晦日はいつもおじいちゃん宅に20人ほどが集まって、ヤギ1頭と牛肉などを食らいます。日本人が年越しそばを食べるように、アルゼンチン人はヤギを食べるのです。

 

新年を迎えたら……恋人や家族とキス・キス・キス

大晦日はこんな感じで親戚一同が集合します。

ヤギのアサードが完成したら、あとは食べるだけです。アルゼンチン産ワインやビールを片手に、みんなでワイワイしながら食事を楽しみます。食事が終わったら、ゲームをしたり、ラテンの国らしく踊ったりする過ごし方が一般的です。

椅子取りゲームの様子。他にはジェンガやドミノ、プレイステーションでFIFAなど、意外と素朴です。

アルゼンチンは日本と季節が真逆。大晦日の時期は真夏なので、フルーツたっぷりのサングリアも作られます。季節を問わず飲むのはアルゼンチン産ワインやビール、そしてフェルネ(コーラと混ぜて飲む薬草リキュール)などです。

写真のように頬と頬を合わせて、口でチュッと音を出します。

そして、日付が変わる24時になったら、みんなでハグとキスをして新年を祝います。かなり情熱的ですよね。まずは恋人と口でキスをします、「家族の前でキスなんて恥ずかしい!」と言ってたところで関係ありません。だって、義父母も親戚カップルもみんなキスしているんですから。恋人とキスした後には、「去年も君と一緒にいれて幸せだったよ。今年はもっと幸せになろう。愛してる」などと言えば完璧です。

頬キスを嫁と実践しました。2回してますが、通常は1回です。

恋人とのキスが終われば、その場にいるみんなと頬キスとハグをします。アルゼンチンでは頬キスは日常的に行われる挨拶です。誰かに会ったとき、そして別れるときには必ず頬にチュッ。

日本人には、花火よりもアサードの方が見ごたえあるかも……

日本の大きなカウントダウンイベントだと、新年を迎えると花火が空を彩りますよね。アルゼンチンの首都・ブエノスアイレスでも豪華な花火が打ち上げられます。しかし、僕の住むネウケン州では小さな花火を個人で打ち上げる人が多いです。

州にもよりますが、個人で打ち上げ花火をする行為は禁止されています。それでも、大晦日は警察も甘くなるので、このルールはあってないようなもの。かなりの数の爆竹も道路にまかれるので、深夜の24時~25時は外に出ない方が賢明です。

 

日曜日は「家族の日」、移民の歴史が育んだ伝統的な家族愛

毎週日曜日の光景。

日本だとクリスマスや大晦日、そして誕生日なども恋人や友達と過ごすことがありますよね。そのまま、年をとると両親や兄弟・姉妹などの家族と過ごす時間の方が短くなります。しかし、アルゼンチンでは毎週日曜日はもちろん、クリスマスや誕生日などのイベントは家族で過ごすことが当たり前なのです。

ここでいう家族とは一世帯のことではありません。日曜日には僕の家庭、義父母の家庭、そして嫁のお姉さんの家庭、合計3家庭10人が集合します。毎週末にあなたと両親、そして兄弟・姉妹家族が顔を合わせるってすごくないですか?

手前右にいる美人が義母。「美人」をつけろと言われたのは、ここだけの秘密。

逆に、土曜日には友人と過ごします。バーでお酒を飲んだり、クラブで踊ったり、サッカーをしたり。そして、日曜日には家族でのんびりと過ごすのです。アルゼンチン人が命の次に、いや、命と同じくらい大切にしている存在が家族。なぜ、これほどまでに家族を大切するのでしょうか?

以前、義母が僕に話してくれたことがあります。。「シュン、『ゴッドファーザー』知ってる? あの映画はイタリア系アメリカ人の家族を描いてるけど、アルゼンチンの家族も同じようなものよ」。彼女の先祖もまた、イタリア系移民でした。

移民国家と呼ばれるアルゼンチンですが、特に多いルーツがイタリア系移民です。イタリア料理や文化に強く影響を受けているので、彼女の言うように家族愛を大切にする文化もそこから来ているのかもしれません。

僕は嫁と結婚するために移住したので、アルゼンチン人の家族はいます。しかし、アルゼンチンに1人で移住することを想像すると、その孤独感は計り知れません。正直なところ、周りに日本人がいないために孤独感を感じることもあります。

そんな今の僕と同じく孤独だった移民が唯一頼れる存在が、家族。僕にとっては嫁たちで、昔の移民だと一緒に移住してきた家族でしょう。彼らだけは絶対に裏切らない存在です。アルゼンチンの移民の歴史が、家族を尊重する文化を築いたのかもしれません。

嫁と親友(左)。なんと彼女とは4歳からの付き合いだそう。今でも週2~3回一緒にマテ茶を飲んでいます。マテ茶について詳しくはこちらをどうぞ。

アルゼンチン人は「友達が少ない」と話す人が多いのですが、それは日本人と友達の定義が違うからだと思います。日本だと、知り合い=友人、もしくは1回でも遊べば友人と思う方が多いものの、アルゼンチン人は違う。嫁が言うには、知り合いこそたくさんいますが、友人は少ない。なぜなら、友人とは困ったときは側にいてくれる人、そして何があっても裏切らない人だから。アルゼンチン人にとって友人と家族は似ています。だからこそ、友人の数は多くなく、また彼らを生涯大切にするのでしょう。

少し話がそれてしまいましたが、アルゼンチンでは年越しそばの代わりに肉を食べる、というお話でした。ヤギのBBQは難易度が高いかもしれませんが、今年の年越しは、彼らのように家族と特別な時間を過ごしてみてはいかがですか?

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

奥川 駿平

奥川 駿平

1992年生まれ、福岡県古賀市育ち。アルゼンチン在住歴3年。美人アルゼンチン人嫁と結婚するために、新卒という大きすぎるブランドを捨ててアルゼンチンに移住。毎日マテ茶を飲むほどのマテ茶好きで、同世代で最もマテ茶を消費していると自称。今さらながら、Twitterにドはまりしています。

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