ディアンドルだけじゃない!郷土愛がつまったドイツ民族衣装フェスティバル

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※本記事は特集『海外の民族衣装』、ドイツからお送りします。

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その「ドイツ」の民族衣装、じつはバイエルンのもの?

まずはちょっと画像検索してみてください。入れる言葉は「ドイツ」と「民族衣装」(ドイツ 民族衣装 – Google 検索)。するとこんな感じの服装ばかりが出てきませんか?

ドイツの民族衣装といえば……。

これ、「ドイツ」の民族衣装だと思いますよね。確かにそうなんですが、ドイツ全国に共通したものではなく、南ドイツ・バイエルン地方とオーストリアの民族衣装なんです

じつはドイツには、共通の民族衣装はありません。日本で民族衣装といえば、全国どこでも着物になるのかもしれませんが、ドイツは地域によって独自色が大きいのです。

日本では、冠婚葬祭以外でも普通に着物を着る人はいますよね。でもドイツの日常で民族衣装を見かけることは、ほとんどありません。唯一バイエルン地方だけは若干目にします。ですが、民族衣装そのものが消え去ってしまったのかといえば、そうではないんです。各地域には民族衣装愛好会が存在していて、そこで生き続けています。

 

民族衣装は愛好家たちの間で生きている

今春、各地の民族衣装同好会が集まったパレードに行ってきました。もう、それはそれは、めくるめく多彩な民族衣装のパラダイス! どんなに多彩かは、写真でたっぷりご覧いただきましょう。

ドイツ南西部バーデン・ヴュルテンベルク州の青少年民族衣装愛好会。

ドイツ東部ニーダーラウズィッツ地方ブルクの郷土・民族衣装愛好会。

ドイツ北東部メクレンブルク・フォアポンメルン州のダンス連合会。

ドイツ北西部ニーダーザクセン州アーペレルンのダンス・民族衣装コミュニティー。

ドイツ北西部シュレースヴィヒ・ホルシュタイン州のグループ。

気になった民族衣装はありましたか?

このパレードは、3年から5年おきに開かれる『ドイツ民族衣装フェスティバル』でのもの。全国から約70の団体が開催都市に大集合するお祭りで、今回(2019年)は東部ドイツのリュッベンで開かれました。とにかく、さまざまな民族衣装のめくるめく大行進に、見ているこちらもそりゃあ大興奮です。当日は太陽が照りつける暑い日だったにもかかわらず、みなさん笑顔で手を振りながら行進。私も自然に笑顔になっていました。

パレード前後には、民族衣装姿のみなさんが買い物をしていたり、レストランで食事をしていたりして、町全体がテーマパーク状態に。日常ではなかなか見られない光景でした。ちなみに次回の『ドイツ民族衣装フェスティバル』は、2022年に南部ドイツのブルックで開催予定です。

一般の人に混じって民族衣装姿の人々が買い物。

 

ドイツ国内で、民族衣装が有名な地域

日常生活で民族衣装を見る機会はほとんどないドイツですが、国内には民族衣装が有名な地域もいくつかあります。

 

郷土愛とオクトーバーフェストで、バイエルンの民族衣装はいまも現役

まずはバイエルン地方。バイエルンはドイツにある16州のうち、おそらく最も郷土愛が強い州だと思います。「自分たちはドイツ人である前にバイエルン人」と言う人がいるように、この地の伝統と文化を誇りにしている人が多く、民族衣装を見かける確率が高いのはそのせいかもしれません。世界的に有名なオクトーバーフェストでは、観光客たちもバイエルンの民族衣装を身に着けてやって来ます。

民族衣装着用率が高いオクトーバーフェスト。

もちろん給仕のみなさんも民族衣装。

 

有名な「ボレンフート」以外の民族衣装もある黒い森地方

それから、ドイツ南西部の黒い森地方。ここはポンポンのついた「ボレンフート」という帽子が有名で、黒い森産の食品やお酒などによくボレンフートのイラストが載っています。

地元の商品に描かれるボレンフート。

しかし、じつは黒い森でボレンフートをかぶる地域は3つだけ。黒い森のハスラッハにある民族衣装博物館を訪れると、村ごとに異なっていたことがわかります。

パネルを見れば地域ごとに細かく異なるのが一目瞭然。

ボレンフートをかぶるグータッハなど3つの地域。赤いポンポンは未婚女性、黒は既婚女性を示す。中央の女性がかぶる円盤状のきらびやかな被り物は、結婚式の冠。

黒い森・シェーンヴァルトの民族衣装。以上3点すべてハスラッハの民族衣装博物館。

黒い森・キンツィヒ谷地域の民族衣装同好会のみなさん。

なぜボレンフートだけ有名になってしまったかというと、黒い森を舞台にした映画にボレンフートが登場したことが一つ。もう一つは、19世紀後半に黒い森に鉄道が開通した先がグータッハで、ここにアーティストたちのコミュニティができ、ボレンフートが描かれ全国に広まったから、ということが理由のようです。

 

ラウジッツ地方の民族衣装は、少数民族ソルブ人のアイデンティティ

そして、民族衣装で忘れてはならないのが、ドイツ東部のラウジッツ地方。ここには少数民族のソルブ人たちが住んでいて、彼ら独自の文化や言語を残す努力をしています。民族衣装も文化や言語と同様に、少数民族である自分たちのアイデンティティを確かめるために重要なのだと思います。

ラウジッツ地方のソルブ人民族衣装も地域によって異なる。ソルブ博物館にて。

ここでも地域によって民族衣装は違いがあります。

北部のニーダーラウジッツ地方にあるブルクという村では、郷土・民族衣装フェスティバルを毎年開いています。この辺りの民族衣装の特徴は、左右に大きく張ったラパという被り物で、フェスティバルのパレードで見られます。

毎年8月に開かれるブルクの郷土・民族衣装フェスティバルのパレードで。

同じくブルクのパレード。ラパの中は紙で作った台紙が入っています。

一方、南部のオーバーラウジッツ地方では、ソルブ博物館で多くの民族衣装を知ることができました。

ソルブ博物館の展示の一部。左2体は結婚式での花嫁の母と付添の女性の衣装

手の込んだ装飾。赤は幼少期、緑は成人期を示し、特に結婚式の衣装で強調された。

ラウジッツ地方では、クリスマスに幸運と無病息災をもたらす「クリストキント」(幼子イエスの意味でこの地方ではベシェールキントとも言う)が家々を回るという風習があったそうです。

神聖な存在のため、誰にも顔を見られてはいけないことから顔をベールで隠しています。これもニーダーラウジッツとオーバーラウジッツでは多少違うのですが、顔を隠すという点では共通していました。

ニーダーラウジッツのクリスマスマーケットで歩いていたクリストキント。ベールで前が見えないので、お付きの人が先導する。

オーバーラウジッツにあるソルブ博物館でのクリストキントの展示。

これまでご覧に入れてきた民族衣装は、結婚式やお祭り、宗教儀式などいわゆる晴れの日に着用するもの。普段は農作業などをするための日常着がありました。

ブルクのパレードで。普段はこうしたシンプルな日常着でした。

デザインはさまざまでも、民族衣装で共通しているのは属性がわかるようにしているということ。特に女性は、衣装や被り物の色などで未婚・既婚・未亡人であることがすぐにわかるように区別しています。それは日本でも同じでしょう。振袖や留袖など、着物の種類を見れば、婚姻の有無がわかります。以前はそういった情報が重視されたことを物語っています。

現在は性別・年齢などによる服装の縛りは緩くなってきています。属性が重視される時代から個人の時代へと移り変わっているのではないでしょうか。誰もが好きな服を着られる自由があるのは喜ばしいことだと思います。

一方で、民族衣装はかつての伝統を保存するという意味で、これからも残っていってほしいです。

 

バイエルンの民族衣装は流行服として全国を制覇?

伝統を守るという色彩が強い民族衣装ですが、バイエルンの女性用衣装であるディアンドルだけはモダンなデザインが登場して、民族衣装という枠を超えた気がします。スカートがミニ丈だったり、レースがふんだんにあしらわれていたりなど、かわいくセクシーなデザインも珍しくありません。

ほかの地域の民族衣装を入手するのは大変ですが、ディアンドルと男性用のレーダーホーゼ(革製の半ズボン)は、店舗やオンラインショップがたくさんあるので簡単に買えます。

これは前述の通り、オクトーバーフェストで着る人が多いのが大きな理由かもしれません。観光客も民族衣装を着てビールを飲めば、より一層気分が盛り上がるというもの。また、オクトーバーフェストはミュンヘンだけでなく、ドイツ全国に広まりつつあります。いえ、ドイツ全国どころではないですね。日本では年中どこかの街でやっていますし、ちょっと調べただけでもイギリス、中国、アメリカ、カナダ、ブラジル、インドにナミビア……果たしてオクトーバーフェストがない国などあるのだろうかと思うくらいの世界進出ぶりです。

当然のごとくベルリンにもあり、その期間が近づくとバイエルンの民族衣装をデパートで売り出したりします。

オクトーバーフェストが近づくと、ベルリンのデパートでもバイエルンの民族衣装を販売。

もちろん現代のセンスに合わせて進化したデザインも人気の理由の一つでしょうし、ブラウス・ジャンパースカート・エプロンと、構成がシンプルで誰でにも着やすい点もポイントだと思います。こうしてモダン化していくのも、民族衣装が生き残る一つの道なのかもしれません。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

久保田 由希

久保田 由希

東京都出身。ただ単に住んでみたいと2002年にドイツ・ベルリンにやって来て、あまりの住み心地のよさにそのまま在住。「しあわせの形は人それぞれ=しあわせ自分軸」をキーワードに、自分にとってのしあわせを追求しているところ。散歩をしながらスナップ写真を撮ることと、ビールが大好き。著書に『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』(大和書房)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか多数。HPTwitterFacebookInstagram

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