“日本人はデュッセルドルフの一部です”…日独の蜜月関係が生んだ街

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世界各地に存在する日本人街。実際のところ、どんな様子なのか? 現地からレポートしてもらうと、驚きの実態や歴史が分かってきました! ドイツの商業都市、デュッセルドルフ。実はこの街には欧州屈指の日本人街があります。成り立ちを調べてみると、そこには戦前からつづく日独が歩んだ工業都市としての太いつながりがありました。駐在員の中でも一番人気という、日本人街ぶりをご覧ください。

 

欧州最大級の日本人街があるデュッセルドルフってどんなとこ?

デュッセルドルフはドイツ西部、ライン川沿いに位置する街です。ドルフとはドイツ語で「村」という意味ですが、実際のデュッセルドルフは人口約60万人のわりと大きな都市。

日本から観光のためにやってくる人は少ないと思われますが、ドイツ在住、いや欧州在住日本人の間では、欧州最大級の日本人街がある「デュッセル」(日本人は略してそう呼ぶ)としてその名を轟かせています

ライン川畔で一番美しい街といわれるデュッセルドルフ

まさに日本の街角そのもの! なデュッセルドルフの日本人街

焼き鳥居酒屋。お寿司にカレー、麺類まで幅広いメニューが人気。

約400もの日系企業がオフィスを構え、約7000人の日本人が住むデュッセルドルフは、ノルトライン=ヴェストファーレン州(以下NRW州)の州都。ドイツの地図がすぐに思い浮かばない人でも、「ルール工業地帯」といえば聞き覚えがあるのではないでしょうか。そう、社会科の教科書に載っていた、あの工業地帯がある州がNRW州。ドイツ産業の要であり、ドイツ16州のなかで一番人口が多い州です。

デュッセルドルフは第二次世界大戦で街のほとんどを破壊されたものの、戦後の経済復興とともに再生し貿易の中心都市として発展。現在は、世界各国の企業が欧州拠点を置く国際的な商工業都市となっています。

ナポレオンが整備したという道。「小パリ」と称され高級ブランドショップが軒を連ねる。

「現代アートのメッカ」(有名な芸大があり美術館やギャラリーが充実)、「モードの発信地」(多数のアパレル企業やファッション関連のメッセ(見本市))、「小パリ」(ナポレオンが整備したという美しい街並み)、「世界最大のバーカウンター」(バーや居酒屋が密集することで有名な旧市街)などなど、様々なキャッチフレーズを持つデュッセルドルフですが、この街を一番有名にしているのはなんといっても「リトル・トーキョー」と呼ばれる日本人街

欧州最大の日本関連イベント「日本デー」は今やデュッセルドルフの名物祭り

デュッセルドルフ市をして「日本人はデュッセルドルフの一部です。」と言わしめ、観光局の広告にも使われるほど親しまれている日本人街。毎年春には州政府とデュッセルドルフ市、日本商工会議所主催の「日本デー」が大々的に開催されるなど、もはやこの街にはなくてはならない存在となっています。

この街には、マンガやアニメをきっかけに日本に興味を持つ若者たちも大勢やってきます。市内にあるハインリッヒ・ハイネ大学にはドイツ最大規模の「現代日本研究所」なるものが置かれ、約500名の学生が様々なテーマで日本文化の研究に励んでいるとのこと。

大学だけでなく語学学校や市民講座で日本語を学ぶドイツ人も多く、街でいきなり日本語で話しかけられてびっくり、なんてことも少なくありません

 

日本人街ができたワケは「日独の工業国化」

ところで、首都ベルリンでもなく、ミュンヘンでもフランクフルトでもなく、なぜデュッセルドルフにこんなに大きな日本人コミュニティができたのでしょうか?

調べてみると、欧州の中心に位置するため交通の利便性が高いというほかに、日独の歴史的背景にも大きな理由があることがわかりました。

デュッセルドルフは欧州の中心に位置し、陸・水・空の交通の要所でもある。

ここでちょっと歴史のお勉強を……。時ははるか、日本の鎖国時代までさかのぼります。

今から150年以上前の1860年、日本の江戸港に入港したプロイセン(現在のドイツ西部からポーランド西部を領土とする、当時の王国)の使節団が、翌1861年に日本とプロイセン間の「友好通商航海条約」を締結。以後、プロイセン人の日本での貿易が可能になりました。

当時、工業国だったプロイセンは、さらにルール地方の重工業に力を入れます。1873年にエッセンを訪問した岩倉使節団はその技術に感心し、日本国内初の近代的な製鉄所を発注。ルール工業地帯は日本の目標となり、日本への技術輸出やドイツ企業の進出が増えていきました。

多数の産業遺産が残るルール地方。写真は博物館として公開されているドルトムントの炭鉱跡。

戦後日本では、機械や重工業製品の需要増大とともにルール地方との貿易がますます盛んになっていきます。その取引の中心となったのが「ルール地方の事務机」といわれるデュッセルドルフ。1955年の三菱商事を皮切りに、ほとんどの大手商社がデュッセルドルフに事務所を構えることになったのでした。

1978年に設立された独日センタービルには日系企業が多数入居。当時は日本総領事館や商工会議所も置かれていた。(現在は移転)

60年代になると日本の景気に引っ張られNRW州も好景気となり、両者間の企業進出がますます盛んに。当初は単身赴任だった日本人駐在員も家族と一緒に赴任してくるようになり、日本人の増加とともに日系商店、銀行、病院、商工会議所、総領事館、日本人学校などのインフラも徐々に整っていきました。

そんなわけで、デュッセルドルフと日本の間には150年以上にわたる深~い関係があったのですね。2014年には成田とデュッセルドルフ間のANA直行便も運航し、その結びつきはますます強くなっています。

※日独の歴史についてはデュッセルドルフ商工会議所の資料を参考にさせていただきました。

 

「リトルトーキョー」インマーマン通りは「日本レベル」が高い

デュッセルドルフの日本人街の中心となっているのが、中央駅から延びるインマーマン通り(Immermannstr. )。

日系企業や店舗が密集するインマーマン通りは路面電車も通る大通り。

通りの中ほどにある独日センタービルには「ホテル・ニッコー」や旅行代理店など日系企業が入居し、インマーマンのランドマーク的存在となっています。

インマーマン通りには日本食レストランや居酒屋、ラーメン屋にとんかつ屋、カフェ、パン屋、ケーキ屋、おにぎり屋、スーパーマーケット、書店、雑貨店、クリーニング店、美容院にマッサージ店……などなど、あらゆるジャンルの日系のお店がずらりと並びます

日本からの輸入品となるとお値段は2~3倍ほどになりますが、インマーマンに来ればたいていのものは手に入るでしょう。

日系書店は3店ほどあり。書籍のほか文具や雑貨も販売されてます。

クリーニング店に不動産屋も。デュッセルは日本語で生活できる街。

日本食ブームのドイツでは、和食器や料理本も人気が高い。

海外の日本食レストランはいまひとつ……と思ってる人、たくさんいるのでは? ドイツでもいわゆる「なんちゃって和食」のお店はありますが、ここデュッセルドルフは例外。

なにしろ日本人の密集度が高い。なかでも舌の肥えた駐在員家族が多い。つまりヘタな料理を出すとあっというまに噂が広がってしまうという土地柄なので、きちんと美味しい日本食がいただけるお店が多いのだと思います。しかも欧米にしてはお手頃価格、ラーメンも定食もランチなら10ユーロ(約1300円)くらいで食べられます。

日本と変わらないような新鮮で美味しいお寿司が食べられます。

インマーマン通りと交差するオスト通りや1本北側にあるクロスター通りにも、蕎麦にラーメン、ミシュランの星を持つ高級懐石までと日本食レストランが多く、このエリア一帯が「リトル・トーキョー」と称される日本人街となっています。

ランチセットから夜のおつまみまで、日本人には嬉しいメニューが並ぶ。

昼時は日本人ビジネスマンや奥様グループで賑わい、夜は「お疲れ様でーす!」「かんぱーい!」なんて声があちこちで飛び交うような日本と変わらない光景が繰り広げられ、一瞬外国にいることを忘れてしまいそう。実際、この辺りでは日本語だけで生活することも可能なくらいです

(筆者は未体験ですが)カラオケやバーなど夜のお店も揃ってます。

 

ヨーロッパ1のラーメン激戦区!?

ありとあらゆる日本食レストランが揃うなか、一番の人気はなんといってもラーメン。世界的なラーメンブームといえど、海外でこれほどラーメン店が密集している街はないんじゃないでしょうか。ここ数年で店舗も増えて、インマーマン周辺だけでも数えてみると6軒ありました。

夏には冷やし柚子塩ラーメンも登場。日本のビールもしっかり冷えてます。(※ドイツでは普通ビールをキンキンに冷やしません)

昔ながらの中華そばからこってりとんこつ、あっさり鶏がらスープ、北海道ラーメンにつけ麺まで選択肢も豊富。ラーメン激戦区なだけに各店それぞれ工夫が見られ、味も進化していっているような気がします。日本人コミュニティの口コミの影響力といったらそれはそれは巨大ですから、どのお店も日夜努力されているのでしょう。

ラーメン屋の行列はいまやデュッセル名物。遠方からやってくる人もたくさん。

食事時にラーメン屋の前にできる長い行列は、いまやインマーマンではお馴染みの光景。日本と変わらぬ味のラーメンをお手頃価格で楽しめるとあって、日本人はもとよりドイツ人や各国旅行者の姿も多く見られます。

欧州在住の日本人にとってデュッセルドルフは「一番近い日本」なので、近隣諸国から日本食のためにはるばるやってくる人もたくさん。様々な国でラーメンを食べた筆者も、たしかにこの街はラーメンの選択肢が一番豊富で、味のレベルも高いと感じています。

 

リトル・トーキョーからリトル・アジアへ?

日本食だけでなく韓国料理店も多い。メニューには日本語・ドイツ語・英語も表記。

日本人街として有名なインマーマン周辺ですが、じつは日本食だけでなく中国や台湾、韓国、タイなどアジア各国のレストランが集まっています。特にここ数年で目覚ましい勢いで増えているのが韓国系。以前からあった伝統的な韓国料理レストランにくわえて、最近では韓国風居酒屋や韓流フライドチキン、ビビンバ専門店、韓国風カフェなど、今現在ソウルで流行ってるようなモダンなお店がどんどんオープンしているんです。

おしゃれなビビンバ・カフェ。最近はモダンな雰囲気の韓流店が増加中。

日系のレストランはお寿司や天ぷら、うどん、定食などがメニューに並ぶ伝統的な和食店が多いのに対して、韓流はいろんなジャンルのお店があって、若者でも気軽に楽しめるカジュアルなお店が増えている印象。美味しくてボリュームがあって夜でもお手頃価格なお店が多く、筆者もよく利用しています。

デュッセルドルフの人口を見ても中国を筆頭にアジア勢が増加しているためか、最近ではリトル・トーキョーというよりはリトル・アジアと言った方がしっくりくるような雰囲気。インマーマンを歩いているといろんな国の言葉が聞こえてきて、ドイツでも日本でもない、どこかアジアの国の街角にいるような気分になります。

 

一方で「コスプレイヤーの聖地」としての顔も

「リトル・トーキョー」デュッセルドルフは、ドイツ中の日本アニメ・マンガファンにとっては憧れの「聖地」。週末になるとたくさんのコスプレイヤーたちがインマーマンにやってきます。様々なコスチュームに身を包んだドイツの若者たちが、日本のおにぎりやアイスキャンデーを食べてる風景はなかなか面白いものです。

デュッセルの名物イベント「日本デー」。ライン川沿い遊歩道を埋め尽くすコスプレイヤーたち。

毎年5月または6月には日本文化を紹介する欧州最大規模のイベント「ヤーパン・ターク(日本デー)」が開催。書道や生け花といった伝統文化から日本食、ポップカルチャー、フィナーレを飾る花火まで、様々な日本文化を堪能できるとあって来場者60万人以上の名物祭りとなっています。この日の主役ともいえるのがライン川を埋め尽くすコスプレイヤーたち。コスプレ大会で優勝すると日本行きチケットが授与されるので皆さん気合が入ってます。

デュッセルドルフはドイツ最大のアニメイベント「DoKomi」の開催地でもあります。マンガやゲーム、音楽など日本の最新ポップカルチャーにフォーカスしたイベントには、ドイツ国内のみならず欧州各国からファンが集合。会場となるメッセに隣接したノルト公園は撮影大会の舞台と化し、コスプレイヤーであふれかえります。

「DoKomi」参加者の撮影大会の場と化すノルト公園。

筆者はこれまでに様々なコスプレイベントの取材経験がありますが、ドイツのコスプレイヤーは全体的にちょっとシャイでほのぼのとしてる印象。日本(のポップカルチャー)ファンが多いため、皆さんいつも日本人である私に温かく接してくれてとても癒されてます。

 

もうひとつの日本人街「オーバーカッセル」は高級住宅街

じつはデュッセルドルフには、インマーマンのほかにもう1つ日本人街があるんです。それは、ライン川の向こう側に広がるオーバーカッセル地区。デュッセルドルフの中では富裕層が多く住むことで知られる閑静な高級住宅街で、日本人駐在員家族の多くがこの辺りに住んでいます。

美しい日本庭園を有するお寺。ここがドイツって信じられます!?

この地区には日本人学校や幼稚園、塾、日系スーパー、病院、美容院など生活に必要なものは何でも揃っていて、ラーメンに焼肉、抹茶カフェなど日系飲食店も充実。そのうえなんと日本庭園を備えたお寺まであり、大みそかには除夜の鐘をついて年越しをすることもできるんです。

海外にいながらにして日本とほぼ変わらない生活ができるデュッセルドルフは、駐在員の間で「世界で一番赴任したい街」ともいわれているそうです。駐在員の奥様達、いわゆる駐妻の皆さんも同じ思いでしょう。

オーバーカッセルに住む筆者の友人である駐妻Cさん宅や周辺の日本人家庭には、週に1回、骨無しの鶏もも肉や生食できる卵(どちらも普通はドイツには無い)を訪問販売するドイツ人がやってくるのだとか。まさに至れり尽くせり。中国、フランスなど世界各地に暮らした経験のある駐妻Hさんは、「これまでのとこに比べたら、デュッセルドルフは天国みたい!」とおっしゃっていました。

コミュニティの密集度が高く、凝縮されている分、ある意味では日本よりも日本らしいデュッセルドルフ。とにもかくにも唯一無二の街だなあ……と日々感じている筆者なのでした。

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この記事を書いた人

坪井 由美子

坪井 由美子

日本では食に関する仕事に従事。テレビ東京『テレビチャンピオン・甘味王選手権』で3度優勝。2003年よりドイツを中心に欧州の食文化を探求しつつ、クライアントへの情報提供や、ドイツ・欧州関連の記事を日本のメディアへ寄稿するフリーライターとして活動。情報サイト『オールアバウト』ドイツガイド担当 / ドイツ大使館ウェブマガジン『ヤングジャーマニー』ブログ連載 /『ドイツニュースダイジェスト』でレシピ連載中。
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