風呂イスに座ってポイ捨てOK?”安っぽさ”を楽しむベトナムの路上居酒屋文化

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※本記事は特集『海外の居酒屋』、ベトナムからお送りします。

 

ベトナムは東南アジアNo.1のビール消費国

東南アジアでの旅行の楽しみ方といえば、うだる暑さの中、オープンエアの路上飯店でビールを喉に流し込む。そんなイメージを思い浮かべる人も多いのではないか。ここベトナムも、まさにそんな時間を過ごせる場所であふれている国のひとつ。缶ビールも安いものならひとつあたり50円ほどと格安で、そんな背景もあってか、国内の消費量は2017年の最新データにおいて東南アジアNo.1を誇る参考)。

ホーチミンシティで買える代表的なビール、地域色が強く北部中部ではまた部分的に変わる。

味は、日本人の味覚をして「軽い」「スッキリしてる」という声をしばしば耳にする。日本から進出、かつ成功している酒造メーカーにはお馴染みサッポロビールもあるが、その味は地場のものに比べて幾分の重さは感じるものの、それでも日本人には軽く感じるはずだ。しばしば「濃厚でクリーミィな泡」などを押し出す日本のビールテイストと比較すると、シュワシュワと弾けるとにかく「のどごし重視」といった印象で、熱帯や亜熱帯が全体を占めるしょっちゅう暑いベトナムの気候とよくマッチしていると言える。

南部最大の商業都市・ホーチミンシティのブイビエン通り、両脇に座る人々は路上居酒屋のお客たち。

北部にある首都・ハノイはホアンキエム区の旧市街が盛り場

 

体育会系ノリでビールを”一気飲み”する”野郎たち”

これは完全に私見だが、ベトナムにおけるビールは「野郎の飲み物」という印象が強い。この2~3年前の最近でこそ、外資系のコンビニでは輸入品を中心とした甘いカクテル系が見られるようになったが、それまでの商品棚はほとんどビール推し。さらに遡って2011年頃、私がベトナムに移り住んだ当時、職場のベトナム人の同僚との飲み会でまず驚いたのが、しょっちゅう「一気飲みタイムがある」ことだった

なにかにつけて、テレビ番組に挟まるCMのように、会話にちょっとでも「間」が空くとそれは起こる。誰かが「ヨー!」や「モッ、ハイ、バー、ヨー!」(1、2、3、乾杯!)と腹から声を出せば、その場にいる全員がガシャガシャ! とジョッキ同士をぶつけあい、座った目で見られながら「モッチャン!モッチャン!」(一気!一気!)と迫られるともう逃げられない。「俺も飲むからお前も飲めよ」、の合図だ。

この通り、なみなみ状態が「モッチャン」。注がれた直後のこの泡は、10秒経てば半分以下に。

ちなみにモッチャンは100という意味で、100%、つまりは飲み干す行為を指している。そしてまた、「ヨー」は南部訛りで、北部訛りでは「ゾー」。ベトナムは地域によって訛りが強く、使用する単語自体が異なるということも珍しくない。南部の「お皿」が北部は「フォーク」で、なまじっかどちらも飲食店で使うので、「お互いがそれぞれの地域で持ってきたものが違う」というのはベトナム人方言あるある。

そうやってモッチャン、ときにはナンムイモッチャン(50%100%、つまり50/100で「半分飲め」)を繰り返し、テーブルから地面(床)に至るまで空き缶が散らかるほどグデングデンになったら、バイクに乗ってサッと帰る(!)。言うまでもなくアレ。中国の春節にあたるテト(旧正月)に交通事故が多発するのは、そんな背景もあると思っている。確証はないが。ただ、以前タクシー配車アプリが「アルコールを検知したら無料で送迎」などのプロモーションを打っていたこともあり、じわじわと「飲酒運転はよくないこと」という意識が根付きはじめているようだ。事実、このところ厳罰化も進んでいる(参考)。

もちろん、一気飲みには考えるまでもなくリスクが伴うので、「危ないな」と思ったらキッパリ断ろう。良くも悪くも、よく知らない外国人相手に彼らも無理強いはしないはず(極論、人によるけれど)。

 

ベトナムの路上居酒屋&ビアホイあるある

そんなベトナムのビール事情、居酒屋の空気感を体験したいと思うなら「ビアホイ(Bia Hoi)」へ行くといい。とくにハノイの中心地で地図を開き、このスペルで検索すればたくさん出てくるはず。ビアはビールでホイはガス、生ビールの一種で、それを提供するビアホールも指している(市販品の缶ビールも置いてあることが多い)。なぜここかというと、ビアホイは缶ビールよりも安いことが多い、ザ・安酒。それゆえに先に書いたような野郎たち、つまりは「酒飲みお兄さん&おじさん」が集まるからだ。

方言、さらに単語に至るまで地域性があると書いたように、ビールの飲み方にも違いがある。実を言うとビアホイは北部に根強く残るも、南部では淘汰されていっている傾向があるのだが、ここではあえて大ざっぱに「ベトナムの路上居酒屋&ビアホイはこんな感じ」ということを、あるある形式でご紹介したい。

これがザ・安酒のビアホイ、プラスチック製の容器に入って出てくる。

ビアホイのコップといえばだいたいこれ、「ソ連コップ」と呼ばれるとか(理由は不明)。

ただあらかじめ1点だけ注意しておくとすれば、このビアホイ、自家製でつくることもあるため衛生面で問題をはらんでおり、定期的に食中毒のニュースが流れている。ビアホイが悪いのではなく扱っている人の問題、その意味では日本の給食のそれと似ていると言っていい。『ハノイビール』などの市販品を扱っているメーカーが経営するビアホイもあるため、確実に安全を求めるならそういった店を選ぶと吉だ。

プラスチック製のテーブル&イスは路上店の”相棒”

アジア旅行好きならご存知の方も多いと思うが、ベトナムの路上店といえば「プラスチック製のテーブルとイス」がシンボル。すべてではないにしろ、使用率は本当に高い。座面は低めから高めまであるが、日本人的には「風呂場のイス」のイメージが近い。あとなぜか、南部・ホーチミンシティでは青色、北部・ハノイでは赤色を多く見かける気がする。なおこれ、いい店(?)になると背もたれまで付いている。

「黄色」はこのときはじめて見た、ハノイでは多いのかもしれない。

誤解を恐れずに言えば、この安っぽさこそが「ベトナムの路上店にいる!」という感覚を覚えて、個人的には最高だと思っている。ビアホイをはじめとした、路上店という演出装置の中核を為している。ただ、「安っぽい」といっても機能性が低いという訳でなく、姿勢良く座ればシッカリと体重を支えてくれる。はじめて挑戦する日本人(外国人)には「風呂場のイスに座りながら酒を飲む」風な状況に戸惑う人も多いが、またたく間に違和感が消えていく……というより、酒を飲んでいるとどうでもよくなっていく。

なによりこれ、店側にとっても最高に都合がよく、閉店するときに隅の方にただ重ねるだけでよいためかなりの省スペース。そもそも路上が衛生面で良いなんてだれもが思っていないはずなので、汚れてもサッと吹けば掃除もすぐ済む。店の頼れる相棒で、合理性の塊みたいな製品なのだ。ただし、側溝や段差などに引っかかるとその柔軟性ゆえグニョーンと曲がって転倒しかねないので身を預けるのもほどほどに。

背もたれ付きの「いいイス」

ちなみにその次に多いのがアルミ製と思われるテーブルとイスだが、これを路上店で使っていると個人的には「ちょっと儲かってる感」を抱く。日本食ブームに牽引されて、今でこそベトナム都市部の定番業態となった「路上寿司屋」の大人気店では、和風を演出するためにアルミ製テーブルがあえて黒塗りにされていた。思わず「こういう手があったか!」と興奮したものだ(塗装は剥げかかっていたが)。

列車内にて、きれいに積まれたプラスチック製のイス。おそらく補助席に使うのだろう。

冷蔵設備がなかった時代の名残? 氷入りビール

ビールの冷たさを保つために氷を入れる。味の濃厚さを売りのひとつにする日本のビールからすると、もはやビールメーカーへの挑発にもとれる行為だが、のどごし優先のベトナムビールならそれほどおかしな話じゃない。ただ、これは南部や中部にこそよく見られるが、北部ではあまり見ないらしい(私は南部に長くいたので北部でそれほど数を知らないが、長年住んでいる人から聞くところによるとそうらしい)。

氷入りビール。中心に穴の空いた筒状の氷が入っており、大を1~2つ、小をたくさんのパターンがある。

で、ここで突然のちょっとした愚痴。このビールに入れる氷でよく言われがちなのが、「お腹を壊す」といって拒否する旅行者が多いこと多いこと! 今でもガイドブックに載っているらしいが、私が6年間に渡って数百杯は飲んだ中で、いまだにお腹を壊したことがなければ、周りからそんな話を聞いたこともないので訝しい。10年以上前なら露知らず、衛生状況に改善を重ねられた現代で、それほど心配する必要はないと思う(責任は持ちませんけど)。そもそも単純に、日本と違って飲料水が硬水で、そのほか料理に入る調味料や香辛料が胃に慣れず、そんな状況で腹痛の原因などそうそう簡単に特定できるものではない。

しかし、そんな事情を分かってか、外国人だと分かると氷を入れずにビールを出してくる場合も多い(そして「氷を入れてくれ」と言うちょっぴり手間のかかる客になってしまう)。そもそも氷を入れる行為は、当時は冷蔵施設が十分ではなかったという背景もあって生まれた習慣。今はすぐにでもキンキンに冷えたビールを出せるお店がほとんど。8年前、友人のために買うケーキといえばバタークリームを使用したものが当たり前で、それが段々と生クリームに変わっていったのも、冷蔵施設の普及が背景にあったにほかならない。そんな最近の動きだったと考えてみれば、忌避されることに無理もないのかもしれないが。

北部の観光地・サパのラオカイ州の地ビール、氷入りどころかワイングラスで出た珍しいパターン。

ちなみにこの氷を入れるという習慣は、時間が経つと当然かなり味が薄まってきて、先述の「突然の一気飲み大会」のときにも「あらかじめ薄めておく」という、効果の高い酩酊対策にもなる。水をがぶ飲みする辛さは変わりないが、大して酔わない(結果としてたくさん飲めてしまうのだが)。これは想像だが、そんな一気飲み大好きなベトナム人の野郎たちにとっても、暗黙の了解になっているのかもしれない。

つまみを売る行商と”珍客(?)”たち

ビアホイはじめ居酒屋ではさまざまな料理が注文できる。空芯菜とにんにくの炒めものは定番で、イカのフリッターや、貝料理、海鮮などが入ったチャーハンや焼きそば(ほぼ必ずインスタント麺の縮れ麺)など、さまざまだ。鍋料理に七輪のBBQを出してくれる店もある。しかし路上店ともなると、いやときには屋内でも店内へときおり、お構いなしにズンズンと「おつまみ行商」がやってくる

落花生・うずら卵・マンゴーの定番三品(南部だけ?)を手売りしている行商の女性

靴下でも干すかのようにスルメを並べた行商

彼ら(多くの場合は女性だが)が扱うものは、落花生、うずら卵、熟していないマンゴーなど。また、ガスコンロを備え付けた自転車やリアカーを引っ張って、いつでもあったかいスルメや炒めたバターコーンなどを売っていたりもする。100円を超えないことも多いので、ぜひ「路上の味」を楽しんでほしい。

無論、店側は彼らに対して、営業妨害だとか、そんな野暮(?)なことは何にも言わない。というより、行商どころか、宝くじ売りはもちろん、ガムを売る子ども、流しのカラオケ歌手、火吹きパフォーマンスをする少年、などなど、とくに路上居酒屋の多い盛り場で飲んでいるとさまざまな「珍客」がやってくる。盛り場であればあるほど多く、とくにパフォーマーあたりは外国人に照準を合わせていると感じる。

ホーチミンシティで見かける火吹きパフォーマーの少年

最近でこそ見なくなったが、「移動式体重計を運ぶ人」までいた時代もあった。これはずっと謎だったが、ベトナムは、建国の父・ホー・チ・ミン氏が運動を推奨したこともあり、朝6時頃から公園などに運動する人で溢れているというかなりの健康大国だ。もしかしたらそれも影響しているのかもしれない。

そんなさまざまな珍客たちを眺めながら飲むビールもまた格別だ。路上の居酒屋はときに大衆劇場。ただ注意してほしいことが、彼らに対してあからさまに興味を示していると、近寄って売り込んでくる(パフォーマーならおひねりを求めてくる)ので、それがいやなら騒いで写真を撮ったりしないこと。チラ見で我慢しよう。ただ、旅行者なら、買ったりおひねりを渡すのも旅の良い思い出にもなると思うが。

ハノイの人気ビアホイ店のおいしそうな料理たち。厚揚げ、落花生、野菜炒め、コーンを揚げたものなど。

ハノイでは定番の、コーンに小麦粉をまぶして多めの油で炒めた料理。

ゴミをそのへんの床や地面にポイポイ捨てる

居酒屋に限らないが、路上店のあるあるのひとつが「ゴミを床や地面に捨てる」だ。口元を拭いたティッシュ、しゃぶりついたあとの骨、空芯菜の噛み切れなかった固い部分、あらゆるゴミをポイポイ捨てる。現代の日本人の衛生観念には信じられないかもしれないが、そんなに悪いものでもない。とくに路上。

というのも、店側からするとあまりにも掃除が楽なのだ。なにしろ、別段真っ平らでもなければ、場合によっては私物ですらなく公共の場である路上。閉店時の片付けはゴミをホウキでバッサバッサと履くだけで済ます。それを一箇所に集めてゴミ箱にドーン! ……なんなら、ゴミ掃除担当として、店で飼っている犬や猫が骨を食べてくれるところもある(そして客が「食べられるゴミ」を催促されるのもお約束)。

料理店の床に散らばったゴミたち

しかし、少しずつながら、テーブルの真下や真横にゴミ箱を置く店も増えてきた(これもまたプラスチック製だったりする)。それでも、ゴミ箱に入っていたり、やっぱり周辺に散らかっていたり、店も「よろしかったらゴミ箱にどうぞ」という感じだが、少しずつ衛生観念も変わってきていると感じている。

居酒屋ではないが、客が捨てる骨を待ちわびる店の飼い犬。

 

“グローバル水準の盛り場”と”昔ながらの居酒屋”の狭間で

そんなユニークな魅力あふれるベトナムの路上居酒屋文化だが、近年は路上での営業やバイクなどの駐車を取り締まる流れで、かなり数、というより路上店が占有するスペースが遠慮がちになった。数ヶ月経ったらまたそこそこに元通りになるのはお約束の展開だが、それでも少しずつ「キレイになろう」という国や都市側の思惑が見え隠れし、少しずつながらそれは現実のものとなっていっていると感じる。

そこに合流するかのように、世界各地で見られる潮流だが、最近はホーチミンシティを中心にクラフトビールを提供するお店も増えてきて、欧米人客を中心とした「グローバル水準の盛り場」が増えてきた

ホーチミンシティを中心に流行しているクラフトビールのお店

今でこそまだ「酒は野郎の飲み物」というイメージが強いベトナムだが、この数年でファッションなどをはじめとして、女性の見た目を通して見えてくる考え方もずいぶん大きく変わったように思う。昔の絵画や写真などを通して見ても、それまで黒髪のロングヘアが美しきベトナム人女性像とされてきたが、最近はショートヘアも増え、若者が集まるエリアでは喫煙する女性も増えている。酒飲みも増えるだろう。

今、ベトナムの路上居酒屋文化は過渡期にあると思う。選択肢が増えることはもちろん望ましいし、性別などに関係なく酒好きが酒を楽しめばいいことは言うまでもないが、昔ながらの光景はそれはそれで変化しつつも残ってほしい。ひとりの在住外国人として、そんなワガママな思いを抱かずにはいられない。

最後に余談となるが、居酒屋文化としてビールを中心にお伝えしたものの、北部を中心にウォッカなども飲まれる。中にはネプモイと呼ばれるもち米の焼酎があり、まろやかで甘く個人的にもオススメだ。都市部の大きなお土産店、また空港に行けばしばしば扱われているので、ぜひ可能なら試飲してほしい。

54の少数民族が暮らすベトナムでは、地方に行けば独自の酒文化もある。どぶろくのようなお酒を壺に入れ、ストローを挿して回し飲みも。酒というテーマでは、今回紹介したものは極々一部だが、世界共通のフォーマットだ。ベトナムに来られた際にはぜひビアホイふくむ路上居酒屋を体験してほしい。

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この記事を書いた人

ネルソン水嶋

ネルソン水嶋

『海外ZINE』編集長です、こんにちは。2011年のベトナム移住をきっかけに現地生活を綴るブログ『べとまる』をはじめ、『ライブドアブログ奨学金』『デイリーポータルZ新人賞』などを受賞、ライターに。今はこの通り編集も。たまにドリアンを着てヤフーに載ってた人だと言われますが、まさしくそれです。/べとまるTwitterFacebooknote

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