韓国の家には古今に渡り床暖房、「オンドル」がつなぐ変わらぬ温もり

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※本記事は特集『海外の家事情』、韓国からお送りします。

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韓国でも日本と同じく起こった団地建設ラッシュ

韓国の上空で飛行機から街を眺めたり、到着してから移動するあいだに目にする光景、それはずらりと立ち並ぶ巨大な高層マンション群。初めて訪れる方はこれらの建物に驚くようですが、韓国では最近まで大きな地震がほとんど起きなかったこともあり、背の高い建物が多いのでしょう。

これらは日本でいうマンションであり高層団地ですが、韓国ではこのような建物を「アパトゥ(아파트、以下アパートと表記)」と呼びます。

1990年頃に建てられた20階建てのアパート群/ソウル・広津区

日本では高度経済成長期の頃に、都市部の郊外には「団地」があちこちに建設されましたが、団地で暮らすことは都会に出てきて暮らす人たちの憧れであり、抽選倍率も高かったのだといいます。

韓国でもその動きはとてもよく似ており、特にソウルの江南(カンナム、강남)あたりでは、1970年代に「西欧式」の新しい暮らしができるアパートの人気が高まり、1980年代頃まで続々と建設されました。住宅が建設されるとともに周辺には商業施設等の開発が進んだため、利便性も高かったのです。2000年代に入ってからはアパートのブランド化も進んでいます。(参考:『디자인 서울투어』(ソウル特別市、2010年 ほか))

1980年前後に建てられたソウル・江南エリアの12階建てアパート群

日本と異なることは、一軒家よりもこのようなアパートの人気が今でも高いこと。仮に購入したとしても売却しやすいようです。今も首都ソウルの住宅価格は年々上がっており、ひと山当てようと投機目的で購入する人もかなりいるようです。

 

家賃は実質無料!? 驚くべき韓国の住宅システム

韓国では家賃の支払いのシステムが独特。それは入居するときにまとまったお金を家主に預け、契約期間のあいだ、家主がそれを運用して家賃をまかなう「チョンセ(전세、傳貰)」という仕組みです。その金額は日本円にして数百万円~数千万円に及びますが、これを納めることにより、月々の家賃は実質無料

とはいえ、まとまったお金をもっていない場合は「ウォルセ(월세、月貰)」の契約となります。これは保証金を預けるとともに、月々の家賃を払います。保証金は日本の敷金にも似ていますが、金額はそれよりも多めで、日本円にすると数十万円~数百万円程度。その代わりに保証人は不要です。

カラフルな看板の街の不動産会社、5~6軒並ぶ

とくにチョンセは国内の銀行などの金利が高かったことから可能だった制度ですが、最近はそれが低下してきたことから、賃貸物件は「ウォルセ(月貰)」のほうが多いようです。ちなみに韓国では契約期間の多くは2年。契約更新時に保証金や家賃の値段が上がるため、より住宅費の安い郊外へと引っ越さざるを得なくなることもあるのだとか。

このチョンセや保証金は契約期間を終え、退去するときに返還されますが、期間内に引っ越す場合にはみずから代わりの人を探さなければいけません。家主が運用のためにお金を使っているため、新たな入居者から受け取る保証金を使って返還します。

冬は洗濯物を外に干せないため、バルコニーには窓が付いている。引っ越し荷物は窓から搬入

さらに、引っ越すときは掃除をしないで部屋を明け渡すのが普通。掃除をすると「福が逃げる」といい、汚れもそのままにして出ていきます。逆に入居するときには埃だらけの部屋を掃除し荷物を搬入したあと、友人たちを招いて、引っ越し祝いの「チプトゥリ(집들이)」というホームパーティーを開くのです。

 

冷蔵庫のほかにキムチ専用冷蔵庫!? でも最近は置いてない家庭も

韓国の家庭には一般的な冷蔵庫とともに、キムチ専用の冷蔵庫があります。キムチの熟成に適した温度に保つことができ、開閉時にも温度が下がりにくい仕組みになっています。

©National Institute of Korean Language(国立国語院)リンク

韓国では毎年11月頃になると、「キムジャン(김장)」というキムチを漬ける伝統行事があり、ここで2~3か月分のキムチをまとめて漬け、キムチ冷蔵庫などで保存しておきます。ちなみにキムジャンは2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。

白菜を一枚一枚開き、ヤンニョムを絡める様子(光州広域市・キムジャンキムチ体験)※光州広域市では毎年11月に「光州世界キムチ祭り」が開催される

しかし、最近の30代~40代の家庭ではキムチを漬けなくなっており、キムチ冷蔵庫すらない家庭が増えてきているのだといいます。

実家にはキムチ冷蔵庫があるけど、うちは買ってない。キムチ冷蔵庫に入れるかどうかで、味には明らかな違いが出る。(30代既婚夫婦、子なし)

二人で暮らす家だと必要がないし、家では1日1食しか食べないので、ふつうの冷蔵庫で十分。(40代既婚夫婦、子なし)

 

韓国の極寒の冬には欠かせない伝統式床暖房・オンドル

朝鮮半島の冬は非常に寒く、韓国の首都ソウルでは1月下旬~2月上旬にかけて最も気温が下がりますが、とくに晴れた日には大陸からの寒気が流れ込み、マイナス20度近くに達します

そんな寒いなかで部屋に入ると、温もりに全身を包まれてほっと一息。韓国には古代からオンドル(온돌、温突)という伝統式の床暖房があります。現代では床にパイプを通し、ボイラーを利用して水を温めて、床全体に送り込んでいるのです。

一方で韓国の伝統家屋、韓屋(한옥、ハノッ)に備えられた伝統式のオンドルは、台所で調理をするかまどの下で焚き木や炭を燃やしたりして、そこから出た煙を床に送り込んで部屋を暖める仕組みです。煙は床下を通り、煙突から外に出ます。

韓屋の煙突

台所がない場合は、下の写真のような焚口があり、ここで薪や炭に火をつけて床下に煙を送り込んで部屋を暖めます。

オンドルの焚口

実際にオンドルを燃やす様子が下の通り。くべた薪に火をつけ、点火されるまで待ち、その後ふたをします。まきを燃やす香ばしい匂いがあたりに漂ってきて、心地よく感じられます。薪を燃やすと温度調節がしにくいことがデメリットではあるのですが……。

薪をくべてオンドルに点火する様子

しかし、伝統式のオンドルは弊害も多かったのは事実。無尽蔵に木を伐採するためにかつて多くの山が禿山になったともいわれます。伝統式のオンドルがある施設では、今でこそ管理が行き届いてますが、かつては火災が発生したり、練炭の煙が漏れ出て一酸化炭素中毒になる例もあったようです。

とはいえ、形をかえて現代の住宅にも息づくオンドル。冬の韓国の家では足元から温まり、とても快適で半袖で過ごせることも。東京にやってくる韓国人留学生たちは、外の気温は温かいにも関わらず、「日本の家のほうが寒い」と口を揃えて言うほどです。

※韓屋・オンドルの写真は公州韓屋村および、百済世界遺産センターの協力により撮影しました。公州韓屋村は実際に個人での宿泊も可能。公州は百済時代の都であり、当時の遺跡はユネスコ世界遺産にも登録されています。(日本語サイト

 

冷麺は夏の料理ではない!?冬にオンドルのきいた部屋で

韓国にはこのオンドルがあるがゆえ、冬の料理とされているものがあります。それは冷麺です。2018年4月、南北首脳会談の晩餐会で平壌冷麺が出されたことにより、韓国では今年、ちょっとした冷麺ブームが巻き起こりました

ソウル・南浦麺屋の冷麺 (店内の樽で「冬沈」を作り、スープの素材に)

韓国でのとある冬、その年で最も寒かった日に、年下の大学生から「冷麺を食べに行きましょう」と誘われ、思わず「えーっ」と答えてしまうほど困惑したことがあります。

今は夏の料理として認識が強い冷麺ですが、本来はこれが正しい(?)食べ方。わかりやすく例えるならば、冬に暖かい部屋でアイスクリームを食べるような、贅沢でもあり風流な料理ともいえます。

1849年に書かれた『東国歳時記』によれば、冷麺は旧暦11月(現在の暦では11月下旬から1月上旬)に記述があり、蕎麦麺に大根漬や白菜漬を入れ、その上に豚肉を和えたもの、とされています。当時も冬にはオンドルを使っていたわけですから、極寒の季節に暖かい部屋で食べる料理だったことがうかがえます。

旧暦11月のところに、冷麺の次に記述されている食べ物が、「冬沈(トンチミ、동치미)」。これは小さな大根を塩漬けにしたもの。

トンチミ(동치미)

壺のなかで数週間漬けておくことで発酵し、酸味が生まれます。冷麺のスープは上の写真のお店の冷麺もそうですが、大根漬けの汁を入れたりもし、後味がとても爽やか。牛肉などからとったスープに混ぜて食べたりもします。

 

見直される伝統家屋、韓屋(ハノッ)の良さ

オンドルがある特徴的な韓屋ですが、近年では伝統家屋が見直されており、実際にアパートではなく新築の家を購入して住む人もいます。

ソウル北部にある恩平韓屋村(은평한옥마을、ウンピョンハノンマウル)は、住居用に形成して分譲する伝統家屋の街。 伝統の様式で建設するとコストがかさむため、新しいスタイルで建てられており、韓屋の家屋の趣を残したまま、内部は現代的なアパートと何ら変わりない形になっています。

恩平韓屋村(ソウル・恩平区)

このような新たな韓屋村は、各地で行政が主導で建設しており、「前から韓屋に住んでみたかった」という人などが購入に踏み切っているようです。

展示施設として使われている韓屋の内部。木のぬくもりが感じられる。

このように新たに造成するところもある一方、昔からの韓屋を住居としているところもあります。また、韓屋を改造し、カフェやレストランとして店を開くところもあります。ある意味ではビジネス的な匂いもするのですが、韓国人だけでなく外国人もまた韓屋の趣を楽しむことができるのです。

 

日本にもあったらいいのに、あったかオンドル

現代の韓国ではアパート住まいが主流。近年は単身世帯が急増しており、ワンルーム(원룸)に住む人もいるようですが、新たに家族をもつ世代はやはりアパート暮らしをする人が多いようです。

一見すると、どこの国にもありそうな住居形態にも思えますが、冬が寒い国だけあってバルコニーやオンドルのような床暖房が特徴的であり、特にオンドルは韓屋から形を変えて今もなお引き継がれています。

オンドルをいちど経験すると、その暖かさが忘れられず、日本の家にも設置してみたいと思うようになるほどです。韓国を訪れたときはぜひ一度は泊まって体感してみていただけたらと思います。

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この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

東方神起やJYJと同年代の1986年生まれ。「韓国を知りたい」という思いを日々のエネルギー源とするも、韓国のオシャレなカフェには似合わず日々苦悩。ソウルや釜山も好きだが、地方巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。SNSでは「トム・ハングル」の名で旅の情報を発信。Profile / Twitter / Facebook / Instagram / 韓旅専科

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