2018.08.09

なぜベルリンは集合住宅は100年以上現役なのか? DIY天国ドイツの魅力

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ドイツ・ベルリンには100年以上前からあるアパート『アルトバウ』が多い、その理由とは? 引っ越し後の部屋のキッチンや照明は自ら取り付けるという、驚きのDIY精神もご紹介。

ベルリンにはなぜ築100余年の集合住宅が多いのか?

テレビや雑誌などで、ヨーロッパの街並みをご覧になった方も多いことでしょう。大都市の中心地は、たいていどこも通りの左右にズラーッと集合住宅が並んでいます。パリ然り、ロンドン然り。私が住むベルリンも例外ではなく、一戸建ては郊外に行かないとありません

築100余年の「アルトバウ」と呼ばれる集合住宅

東京や大阪などの日本の大都市では繁華街と住宅街がはっきり分かれているものですが、ベルリンは中心部でも普通に人が住んでいます。市内中心部ならば1階はお店、2階以上は住居という構成がよくあるパターンです。

ベルリンの主な集合住宅は、築100年を超えるものが中心。こうした建物をドイツ語で「アルトバウ」と呼びます。一般的には第二次世界大戦前にできた建物を指す言葉ですが、ベルリンでは1900年前後に建てられたものがほとんどです。

理由のひとつが、19世紀後半に今のドイツの前身となったドイツ帝国が生まれ、ベルリンがその首都になったこと。そしてもうひとつは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて産業革命の時代に突入していたこと。技術の進歩によって、生活の舞台は農業から工業へと移っていき、都市には次々と工場が生まれます。すると職を求める人が集まるようになり、当然ながら住む家は足りなくなって住宅建築ラッシュが生まれます。1900年前後に集中的に集合住宅が建てられたのは、そうした背景があるからです。

それでもなお当時は住宅不足だったようで、部屋にあるベッドを昼と夜の時間帯に分けて貸し出していたという話も聞きました。夜勤の人は昼にベッドを借りるので、時間帯で分けるシステムは機能していたそうです。

 

新築よりもアルトバウが人気なのは、優美で贅沢な造りだから

そんな、築100年を超えるベルリンのアルトバウ。「ボロボロで住めないんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、心配はご無用です。確かに建物自体は古いですが、レンガ造りで丈夫ですし、ベルリンには地震もありません。外壁は塗り替えられています。室内もリノベーションされており、セントラルヒーティング(給湯器熱源装置(ボイラーなど)を設置して、熱を暖房が必要な各部へ送り届ける暖房の方式)やバスルームなどの設備が後から付け足されているので、生活は快適です。

じつは私の住まいもアルトバウ。アルトバウと新築、どちらか好きな方を選べると言われたら、私は迷わずアルトバウの住まいを選びます。なぜかって? では写真をご覧に入れながら説明していきますよ。

アルトバウができた1900年前後のベルリンでは、ユーゲントシュティールというデザイン様式が流行していました。フランスのアール・ヌーヴォー様式のドイツ版と言ったらわかりやすいでしょうか。植物などからインスピレーションを得ていて、曲線的で優美な雰囲気が特徴です。

外壁や階段の手すり、天井などにユーゲントシュティール様式の装飾が施されています。アンティークがお好きな方なら、古いもの独自の味わいに惹かれる気持ちがおわかりいただけるかと思います。

立派な彫刻が施されたエントランス。年号が刻まれています。

エントランスホールには、ユーゲントシュティール模様のタイルもよく見かけます。

趣きのある、古いドアノブ。

当時のドイツは現在のように効率一辺倒で仕事をしていなかったので、建物の造りも余裕があります。天井は3メートルを超える高さで、ひと部屋の大きさも広め。戦後の60〜70年代にできた集合住宅は、効率重視で資源も乏しかったのでもっとコンパクトです。最近の新築は天井も高くなってきていますが、それでも100年前のような贅沢な造りは、現在では叶いません。ですから、きちんと手入れが施されたアルトバウは、新築アパートよりも人気があるのです。

 

アルトバウに住んで「100年前はそれほど昔ではない」と感じるように

内部はリノベーションされてはいますが、随所に建設当時の100年前の面影が見え隠れしています。それを感じるのも、アルトバウに住む喜びです。たとえばこの写真。床の右隅が、一部だけ色が違いますよね?

右側の床の一部に注目。

上の写真は、私が住んでいるアパートの別フロアの部屋です。ちょうど住人が入れ替わるときに撮らせてもらったもので、私の部屋も同様に右端の床だけ違う色で、新しくなっています。最初はなぜこんな小さな部分だけが別素材になっているのか疑問でした。でもある時わかったんです。ヒントは、暖房です。

1900年前後のベルリンの暮らしがわかる小さな博物館 “Bauen und Wohnen um 1900” にて。

上の写真で右端に写っている、白と茶色のタイルでできた塔のようなものがありますよね。それは、昔の暖房です。アルトバウができた当時は、この中に石炭をくべて、部屋を温めていたのでした。現在はセントラルヒーティングに変わったことでタイル製ストーブが撤去され(まだ残っている家もあります)、その部分だけ床の素材が違っていたのでした。

わが家のリビング兼仕事部屋。窓の下にある白いパネルがセントラルヒーティングです。

わが家のキッチンの一角です。ここにも窓の下にセントラルヒーティングがあります。

現在セントラルヒーティングは各部屋にあり、窓の下に設置されていることが一般的です。
当然ながらキッチンにもあります。ところがたまに、キッチンの窓の下が棚になっている家があります。

観音開きの木の棚が窓の下にありますね。

 

じつはこれは、以前貯蔵庫として使われてきたスペースなのです。棚がある部分は外壁に面していて比較的低温なので、冷蔵庫がなかった時代にジャガイモやリンゴなどをここで長期保存していました。

現在に生きながらも、住まいの端々から、アルトバウが建てられた100年前の様子を身近に感じる日々を送っています。ベルリンに暮らしはじめてから、私の中で時間の感覚がずいぶん変わりました。10年、20年前の出来事なら最近のこと、100年前でもそれほど昔ではないと感じます。

アルトバウに住み、私の中で過去と現在が感覚的につながったことで、それまで自分には無関係だと思っていた歴史にも俄然興味が湧いてきました。過去の一瞬一瞬が積み重なって、いま私が生きている世界がある。そう思います。

 

空っぽの箱を住める状態にするために、DIYは必須技能

ところでベルリンの集合住宅は、たとえ賃貸でも基本的に家具はついていません。家具どころか、キッチンの什器さえないのも普通であり、引越し時には自分の什器も含めて退去するのです。私が今の住まいに入居したときも、キッチンはオーブン付きガス台があるだけで(本来はシンクも付いているべきたったのですが)、あとはガラーンとしていました。その状態からキッチン什器を組み立て、簡単なシステムキッチンを造って調理できる状態にするまでに2週間近くかかりました。

電動ドリルドライバーはドイツでは必須。一家に一台はあると言っても過言ではないと思います。

プロに頼むこともできますが、ドイツ人たちは自分でできることは自分でやるDIY精神が染みついています。私の家も友人たちが工具持参で入れ替わり立ち替わりやってきて、普通に生活できるまでにしてくれました。キッチンだけではありません。照明器具を取り付けるのも日本のようなシーリングがなく、ドライバーを使って線をつながなくてはなりません。慣れていない身には難しい作業でした。

購入したキッチン家具を組み立て、システムキッチンを造っている途中。

以前の住人が残していったバスルームの洗面台(これもDIYで造られたもの)が使いにくかったので交換。

ドイツ人に教えてもらいながら、正しい線同士を結んで照明を取り付けました。

 

「なんて面倒くさい」と思われるでしょうね。確かに、ドイツ人の助けなしでは到底できないことばかりでした。でも、いいこともたくさんあります。それは、住まいを自分仕様にできること。賃貸住宅でも壁に穴を開けて家具を取り付けることを前提としているので、壁に直接棚板を付けることもOK。壁を好きな色にペイントしたり、壁紙を張ることも自由です。退去時には穴をパテで塞いだり、壁を白く塗り直して元通りの状態にすれば問題ありません。そういう状況ですから、ドイツのホームセンターは非常に充実しています。一度覗いてみると楽しいですよ。

以前の住まいは壁の一面をブルーグレーにペイントしていたので、退去時に白く塗り直しました。

カーテンレールを付けるために壁に開けた穴をパテで埋めているところ。

 

住まいを作り上げることは、自分を見つめ直すこと

私はベルリンのお宅のインテリア取材を数多く行ってきたので、そこで得たアイディアを自宅で試そうと、壁のカラーペイントや壁紙張りにトライしました。こんなふうに、気兼ねなく自分好みのインテリアにできるのもメリットです。

寝室に自分で壁紙を張りました。

キッチンの一部分をワンポイント的にペイントしました。

賃貸住宅でも自分仕様にできるということは、自分を見つめ直す作業にもなります。「私はここでどういう暮らしをしたい?」「私はどういうものが好き?」とその都度自分に問いかけながら、今の住まいを作り上げました。ですから私は自分の家が大好きですし、ここで過ごす日々に喜びを感じています。

アルトバウに住んだことで、歴史のこと、自分自身のことを深く考えるようになりました。まだまだこれからも、この家を通して学び続けていくと思います。

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この記事を書いた人

久保田 由希

久保田 由希

東京都出身。ただ単に住んでみたいと2002年にドイツ・ベルリンにやって来て、あまりの住み心地のよさにそのまま在住。「しあわせの形は人それぞれ=しあわせ自分軸」をキーワードに、自分にとってのしあわせを追求しているところ。散歩をしながらスナップ写真を撮ることと、ビールが大好き。著書に『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』(大和書房)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか多数。HPTwitterFacebookInstagram

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