2018.07.23

怖くもおかしなタイ心霊の世界…「シマウマ」を見たら亡霊の影

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

タイ人の幽霊話好きは日本のそれと似ており、それは根底に同じ仏教があるのではとも考えられます。しかし、違いのひとつに、タイでは(霊場などではなく)事故や事件などの事実に基づくという点。『シマウマ』を見たら背後に注意!

タイの心霊スポットは現実的な場所ばかり!?

突然ですが、ボク(筆者・高田)はタイの心霊ライター第一人者を目指すべく、数年前から数多くの心霊スポットを訪ね、タイ人の霊能者たちに会ってきました。いよいよ日本も心霊話が盛り上がる季節になったということで、今回はタイの心霊話をさせてもらおうと思います。

実はタイ人も心霊話が大好きで、話を軽く振れば1時間でも2時間でも会話が盛り上がります。ネットでも心霊スポットがよく紹介されているのですが、よくよく聞いた話をまとめたり、読みこんでいくとおもしろい傾向があることに気がつきます。

それは、タイの心霊スポットはかなり現実的な場所であるということです。現実的というのは、例えば殺人事件が起きた場所であったり、交通事故が多発する場所など、多くがなにか「要因」を持っているのです。日本のように霊道だからといった事情で心霊スポットになっている場所はほとんどありません。

死んだ老婆が地縛霊となって暴れるという心霊スポット近辺。

バンコクだけでも有名な心霊スポットは数多くあります。ボクが実際に足を運んだ場所でタイらしさを感じた例は、チャオプラヤ河に近いサートーン通りとジャン通りの近辺にある「ワット・ドーン(ドーン寺)」。ここはバンコクでも幽霊の目撃談が絶えない場所です。

この寺があるエリアはバンコクが栄え始めたころ、中国人などの当時のマイノリティーが住んでいた地域で、今でも中国人の墓が残っています。元々タイ人は火葬後の骨は寺に預けたままにすることが一般的です。墓を作る習慣は当時の中国人にしかなかったので、そこでワット・ドーンが生まれたというわけです。

現在は満員状態であることと、中華系タイ人は墓を作らないため、どんどん古さが増していく。

ワット・ドーンは厳密にはタイ式ではなく中国式の寺院です。敷地内の大半が墓地になっているため、無数の墓石が立っている風景が見られます。よくある目撃談は、誰か(生きている人)が敷地内にひとりで入っていったのが、出てくるときにはふたりになっているというような話。墓地に眠る誰かが訪問者についていってしまうようです。

夜9時くらいまでは運動公園として運営しているので、一応明るくなっている。

今この墓地はバンコク都が推奨する運動公園になっています。墓の間の遊歩道をジョギング専用路にし、空き地には簡易的なジムができています。生きている人が健康のために運動する場所が墓地という、対極にあるものが相対するシュールさがおもしろいです。

ほかには、バンコク郊外にあるラムカムヘンの「スペイン館」跡地が有名です。なぜスペイン館と呼ばれるのか、残念ながらすでに建物が取り壊されているのでわかりません。豪奢な洋館がそう呼ばれたのかもしれません。

ここが心霊スポットになった理由は数十年前に遡り、たまたまひとりで留守番していたこの家の娘が強盗に惨殺されたことがきっかけです。その後、深夜になると泣き叫ぶ女性の声が聴こえると言われるようになり、ついには家主もこの家を放棄。数年前に取り壊されました。タイ人富裕層の一家だったという説と、欧米人家族という説のほかに、日本人が住んでいたという話も残っています。

なぜかマップ上には出てこない道があり……。

建物自体はなくなりましたが、今でも心霊スポットとしては有名です。ボクも行ってみましたが、道は地図にも載っていないのでみつけるまでが大変でした。しかし、近くまで辿りついてみれば、すでに建物がなくなったにも関わらず、そこがまさにスポットであるということは一目瞭然です。

というのは、タイではなぜか心霊スポット、あるいは死者が出たなんらかのスポットなどにシマウマの置物を供えます。ここにもそういった動物の置物があるため、すぐにわかるのです。深夜、車のスポットライトに突如浮かび上がるシマウマの置物は滑稽すぎて、逆にゾクッとします

塀の上に置かれたシマウマ。この向こうにスペイン館があったと見られる。

かえって怖い。

タイはこういった、なんらかしらの現実的な要因や原因があって心霊スポットになった場所が多いのです。

 

立ちションにクラクション……タイ人は霊への対応がかなり失礼?

この先に、住宅地で焼き殺された女性が徘徊すると言われるスポットがある。

そんなタイは敬虔な仏教徒が多い国で知られますが、仏教が入ってくるまでの主要な信仰は「精霊信仰(アニミズム)」でした。タイの仏教は日本のそれと違い、ヒンズー教などから影響を受けている宗教になります。一方で、精霊信仰があったこともあり、タイ人は日本人の八百万の神の考え方と同じように、すべての事象に魂や霊が宿ると信じています

ただ、木々などに宿る精霊を信じるわりには、会いたいときのおまじないや挨拶の手順が日本人には到底理解しがたい方法だったりすることも興味深いです。

木などの生物だけでなく、駐車場の柱にまで精霊が宿ると信じられているタイ。

例えば、タイの精霊に「ナーンターニー」という霊がいます。グルアイターニーという、バナナの木の一種に宿る美しい女性の精霊です。勝手に木を切ったり、無礼なことをしない限りは害はありません。すべての木に宿るわけではなく、稀にナーンターニーが宿るのです。この精霊は木のまわりを掃除しているなど、古風な女性らしい一面を持っています。

ところが、です。こんな美しい精霊に会いたいという男性も中にはいます。そんな男性諸氏がこの精霊に会うための方法は、ナーンターニーが宿る木に立ちションをするようにと語り継がれています。いやいや。失礼極まりないですよね。でも、タイではそう信じられています。

木に宿る精霊は主に女性である。

ナーンターニーと同じく木に宿る精霊に「ナーンタキアン」もいます。これはフタバガキ科の木であるタキアン(コキという木)に宿る女性の霊で、ナーンタキアンが宿る木で家や船を造ると安全が守られると言われています。タイの木製の船の先端には布が巻かれているのですが、それはまさにナーンタキアンに捧げる供え物です。ボクはそれを見るたびに「いや、切っちゃってるじゃん」とツッコミを禁じ得ないです、正直。

イスラム教徒の漁師の舟の舳先にも供え物があった。

ほかには交通事故が起こりやすい場所には祠があり、そこにいる霊に供え物をします。そして、ここを通る車は災いが降りかからないよう通るときに挨拶をするのですが、それは3回クラクションを鳴らすというもの。これも騒々しくて精霊に失礼じゃないかとボクは思うのですが、タイ人は大まじめにクラクションを鳴らします。

 

タイの幽霊は姿形は全然違えど、『日本の妖怪』とほとんど同じ

交通事故で亡くなった大学生が手招きをするという歩道橋。

タイでは幽霊や心霊話で出現する「なにか」は大きく3つに分かれます。ひとつは「ピー」と呼ばれるもので、一般的に言う霊や幽霊がこれに当たります。ほかには、人に宿っている魂などを指す「ウィンヤーン」精霊などは「クワン」と言います。タイ人は心霊話が大好きですが、一般の人でこの3つの違いをちゃんと説明できる人もあまりいないので、すべてをひっくるめて「ピー」と呼ぶことが多いです。

そんなピーは現代の街中に現れる幽霊や亡霊のほかに、妖怪などのような、昔から語り継がれている幽霊もいます。日本なら「四谷怪談」のお岩さん、ろくろ首といった、誰でも知っている昔話に登場する幽霊といった位置づけになります。

日本のこっくりさんに相当する「ピー・トゥアイゲーウ(ガラスコップの幽霊)」もある。

興味深いのは、日本とタイではベースに仏教があることから、形はまったく違うのに、実は同じ幽霊だというものがいくつもあります。例えば「餓鬼」です。難しく言えば、仏教の六道(天道、人間道、修羅道の三善道と、畜生道、餓鬼道、地獄道の三悪道)のうちの餓鬼道に生まれた者。ネットで画像検索すると栄養失調で腹の出た、浅黒い肌の妖怪が出てきます。これが日本の餓鬼です。

タイの餓鬼は「プレート」と呼びます。これは語源になるサンスクリット語の「preta」から来ていることがわかります。日本の餓鬼は36種類ですが、タイの餓鬼・プレートはすべてをひっくるめたようなタイプであり、かつビルのように背が高いと言われています。

プレートと聞いてタイ人が思いつくのは、バンコク都庁の向かいにある「ワット・スタット(スタット寺)」です。ここはプレートが現れた寺として知られ、寺院内の壁画にもプレートが描かれています。ただ、最近は寺院の前にある「サオチンチャー」という鳥居のような建造物を昔の人が見間違えたという説が有力になっています。

深夜にそびえ立つサオチンチャー。執筆時は工事などでこのようにきれいには見えない。

サオチンチャーは巨大なブランコの柱で、実際に1932年まではブランコをかけて、水平になるまで僧侶が漕ぐという儀式があったのですが、死者も出るなどの理由から今は柱だけが残っています。今でこそサオチンチャーよりも高い建物は多いわけですが、大昔は街灯もそれほどない上に高い建物もないので、地方から来た人が深夜に見間違えたとされるのです。

 

実話だと信じられ、何度も映画化した古典怪談の悪霊

オンヌット通りにある「ワット・マハーブット」。

プレートの話からも分かるように、タイではこういった古典的な怪談も真実だと思っている人が少なくありません。その最たるものが、バンコクの高架電車のBTSオンヌット駅から近い「ワット・マハーブット(マハーブット寺)」です。ここはメーナークという悪霊が鎮められた場所として知られます。

ストーリーはこの通り。夫が出征中に身ごもったまま死亡した妻ナークが、夫を愛するあまりに死にきれず、亡霊となります。周囲は知らずに帰郷した夫に妻が死んでいることを告げるのですが、そのたびにナークが周囲の者を呪い殺し、いつしか手のつけられない悪霊になるという物語になっています。

ナークが身ごもったまま亡くなったときに葬られた寺が、ワット・マハーブットだったとされる。

メーナークが本物だと信じられているのは、怪談に登場する寺院や、メーナークを鎮めた僧侶がすべて実在するからです。一方で、裏を返せば一途に夫を愛する姿でもあり、タイでは一種のラブストーリーとしても人気があって、悪霊でありながら愛されるキャラクターでもあるのがほかの妖怪とは違います。何度も映画化されるなど人気があり、2013年には初めて夫側の立場で描かれた「愛しのゴースト」が公開され大ヒットしました。日本でもDVD化されているようですので、興味のある方はぜひご覧になってください。

実際に祀られているメーナーク像。

今もワット・マハーブットにナークを祀る祠があり、参拝客が絶えないのですが、このメーナークがタイらしいと感じるところは、ここに来る人は主に宝くじ当選の祈願に来る人が多く、現在は金運の神様のような存在になっていることです。「恋愛成就じゃないんかい!」というツッコミは多くの外国人が心の中でしていることです。

 

タイで霊に取り憑かれたら寺に行くか、『プラー先生』の元へ行け!?

ナコンラーチャシーマー県の田舎にある魔のカーブに作られた祠。

タイ人にもし霊に憑依されたらどうするか? と聞くと、多くが「寺に行く」と言います。日本でもそうですから、もうそれしかないですね。しかし、ほかにも霊能者に除霊などをしてもらうという方法もあります。

現在、タイで一番有名な霊媒師は「モー・プラー(プラー先生)」です。テレビにも出演する有名人で、テレビでは「ムープラープ・サンパウェーシー」と名づけられました。サンパウェーシーとはウィンヤーンが成仏せず悪霊へと変化してしまったタチの悪い霊で、ムープラープ・サンパウェーシーは「悪霊払い師」という意味になります。日本のテレビでも紹介されたので知っている人もいるかもしれません。

モー・プラーは20代で突如霊能力が開花。以来、この力を使って人を助けることを使命として生きている。

彼はバンコクから西へ、車で2時間強走ったペッブリー県にいます。驚くべきことに、相談料は無料。しかも、症状が重い人を泊まらせるための施設も作り、それも無料で利用できるようになっています。医者から見放され、身体に出る謎の症状に手を焼いた人や家族が最後の望みとしてここに来ています。

家のことを相談に来て、なにもかも言い当てられていた家族。

ただ、彼の悪霊払いの方法が、首の付け根をうしろから強くひっぱたくことなので、ときに患者とケンカにもなるようです。ですが、取材で訪問したときは、自宅に霊がいるかもしれないと相談に来た女性に対し、みなまで言われる前にあれやこれやと家のことを言い当てていましたから、霊能力は本物だとボクは信じています。

 

タイ人と仲良くなりたいなら、心霊話を振ろう!

タイにも日本の座敷童のように招き入れたい幽霊もいる。

すでにおわかりのように、タイ人は本当に心霊話が好きですし、ほとんどの人が霊が実在すると信じています。日本では考えられないのですが、タイでは大手メディアやテレビの報道番組でマジメにどこそこで霊が出たとニュースにするくらいです。ときにはバラエティ番組で紹介していた古典的幽霊が出たという情報を、大手新聞が朝刊の一面で追随することだってあります。

それくらい、タイ人は心霊のネタが大好きですので、例えばタイ人とのコミュニケーションで迷ったら、心霊のネタをちょっと振ってあげるのはどうでしょう。そうすれば、話は間違いなく盛り上がります。意外とみんなネタを持っていて、例えばバンコクだったら霊現象のないホテルなんかないのではないか、というくらい、たくさんの体験談や噂話が飛び出してきます。

同じアジアであり、似たような宗教観。元々タイ人と日本人は相性がいいですが、こういったサブカルチャー的なネタも共通点がいっぱいあるのです。

  • ※当サイトのコンテンツ(テキスト、画像、その他のデータ)の無断転載・無断使用を固く禁じます。また、まとめサイトなどへの引用も厳禁です。
  • ※記事は現地事情に精通したライターが制作しておりますが、その国・地域の、すべての文化の紹介を保証するものではありません。

この記事を書いた人

高田 胤臣

高田 胤臣

1977年、東京生まれ。1998年に初訪タイ、2002年からタイ在住。タイの救急救命慈善団体「華僑報徳善堂」唯一の日本人ボランティア隊員。現地採用社員としてバンコクで日系企業数社にて就業し、2011年からライターになる。単行本数冊、AmazonKindleにて電子書籍を多数発行。執筆のジャンルは子育てネタからビジネス関連まで多岐に渡る。最近は「バンコク心霊ライター」の肩書きがほしく、心霊スポットを求めタイを彷徨う。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

特選記事

関連記事

    関連記事は見つかりませんでした。