「黄金のシャワー」に「ピンクの絨毯」、メルヘンすぎるタイの花美景

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※本記事は特集『海外の国花』、タイからお送りします。

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タイの国花は「ピンクの絨毯」と「黄金のシャワー」の二種類

タイには国花がふたつあります。ひとつは「アカバナスイレン」、もうひとつが「ナンバンサイカチ」。

日の出直前のタレー・ブアデーンに咲くスイレン。

日の出とともに湖をピンク一色に染めるスイレン

タイでは、至るところに水辺があり、そうしたところでよくスイレンを見かけます。

その中でも近年有名になってきている観光スポットは、タイ東北部のウドンタニー県にある「タレー・ブアデーン」。直訳すると「赤いハスの海」で、湖にピンク色のスイレンが咲き乱れるのですが、実はこれがアカバナスイレンかどうかはよくわかっていません。正直、ボク自身が花に詳しくないこともあるのですが、その学名と、この湖の界隈の人たちが呼ぶタイ語名が一致していないためです。

朝日と共に一斉に開花。これでもシーズンより少し前で、例年の1~2月はもっとすごいのだとか。

このタレーブアデーンがすごいのは、36k㎡もある広大なノンハン湖一面にピンクのスイレンだけが咲くところ。ほかの場所では白などの色も混じってしまいますが、ここはピンク一色に染まります。

毎年、乾季にあたる、11月ごろから翌年2月くらいまでの肌寒い早朝、朝日の出現と共に花が開く姿は確かに壮観です。湖の周りにはチャーターボートや乗り合いボートが待機しているので、ウドンタニーの街を日の出1時間半ほど前に出発すれば、スイレンの絨毯のまっただ中で、ちょうどつぼみからゆっくりと開花する様子を観察できるでしょう。

 

タイらしく豪快な国花はゴールデンシャワー

色合いが一色といえば、もうひとつの国花であるナンバンサイカチです。英語名だと「ゴールデンシャワー」ですが、タイ語名はラーチャプルック、意味は「国王の植物」。国花になった年は2009年とわりと新しいのですが、その由来にははタイ国王にまつわるエピソードが関係しています。

国民に敬愛され、2016年に崩御された前国王は月曜日生まれでした。タイでは曜日ごとに象徴の色が存在し、ひとびとはみな自分が生まれた曜日を知っていて、寺院での参拝ではその曜日の仏像に供え物を置きます。そして、月曜日の色こそが黄色であり、同じく黄色であるゴールデンシャワーが「国王の植物」、つまり国花として選ばれた、というわけです。

© Brnfvr

ゴールデンシャワーは、花に興味がないボクでさえも記憶に残るほどの花。というのも、10m前後くらいの木から50cm前後の枝にたくさんついた黄色い花が、まさにシャワーのように垂れ下がっており、その見た目は非常に美しい。花自体は数センチ程度の小さなものですが、それが1本の木から無数に溢れ出るように下がっており、「ゴールデンシャワー」とはうまく名づけたものだと感心します。

花が咲く時期はちょうどタイの旧正月の前後で、3月から5月までの期間にあたります。年間を通して最も暑い時期ですが、まだ乾期のためカラッとした気候。突き抜けるように青い空の下、国道沿いなどに何百本と植えられたゴールデンシャワーは美しく映え、その姿は圧巻です。興味のなくたって、それは印象に残りますよ。

 

参拝やお守り、あるいは闇社会の収入源に? タイの花の「光と影」

バンコク郊外のオーキッド・ファームで、これから咲き誇ろうというラン科の花。

タイにはほかにもたくさんの花がありますね。プルメリア(インドソケイ)や、オーキッド(ラン科)なども有名です。特にタイ人にとって身近なものは、ジャスミンではないでしょうか。敬虔な仏教徒が大半を占め、また目上の人や家族を大切にするタイ人は、母の日には子どもから母親に贈られたり、寺院での参拝では糸に通して輪っかにした「マーライ」と呼ばれるものを供えます

新郎新婦の首にいくつもかけられたジャスミンの白いマーライ。

マーライは香りが良いことと、お守りのような位置づけでもあることから、タクシーや長距離トラックなどの運転手が交通安全のために車内に飾ることも多いです。天然の芳香剤で清々しい気持ちになるものの、それで事故も未然に防げるという科学的根拠は、聞いたことはありませんが。

よく見るとバスのフロントガラスの向こうにはマーライがかかっています。

マーライはこのようにお守りとして使われることが多いですが、実は作っているのは普通の人です。寺の境内に暮らす人が作ることが大半ではありますが、僧侶ではなく、一般の人。ただ、すべて人々の手で作られています。長い針に糸を通し、ジャスミンの花などを刺していき、最後に結んで輪にします。

このマーライはひとつが高くても20バーツ(70円)程度です。売り手としてはどんなにがんばっても大金にはなりませんが、現金収入として手っ取り早いこともあって、貧困層の人が作って道端で売っています。タクシーなどの車内に置いているものは、ほとんどが交差点などで停車中を見計らって売りに来た人たちから買ったものであり、それが彼らの大切な収入になるのです。

寺院や参拝スポットには、販売所を構えて本格的に売る人もいます。

貧困対策として優れた商品ではありますが、残念ながらタイの裏側は一筋縄ではいきません。ときにはタイ・マフィアと呼ばれる非合法集団がカンボジア人やタイ貧困層の子どもたちを利用し、花を売らせて利益を得ていることもあるようです。先ほど安いので高給にはならないと書きましたが、組織的にたくさんのポイントで売りさばいていけば、チリも積もって、ということになります。こういった厳しい現実も花の国・タイの裏には存在しています。

 

神様へは、リアリティを徹底追求することが大切?

参拝ではいろいろな花が用いられます。この寺で売られているのはハスの花。

そんなマフィアすら絡んでくる厳しい現実がタイにはありますが、現実的な思考は案外男性より女性の方が強い傾向にあるのではないでしょうか。というのも、タイの参拝にまつわる花はいろいろとありますが、女性に好まれるものとしてバラがあるからです。

タイではバレンタインデーに男女問わず、意中の相手に花や菓子などをプレゼントします。ホワイトデーは存在しないだけに、バレンタインの前はデパートなどでプレゼントを探す若い人であふれかえるほどです。そして、街中ではバラを一輪ずつ売り歩く人も現れ、プレゼントを買いそびれた人が手にしていきます。

バラをバラ売りする少年。マーライ同様にこういった現金収入が貧困対策になります。

タイでバラは、愛情を示す花として認識されています。そのため、恋愛成就の効果が高いとされる寺院や祠では、供える花はジャスミンではなくバラになるのです。特にバンコクで有名な恋愛の祠は、日本のデパート・伊勢丹の前にある三神一体の「プラ・トリームーラティ」です。ここには主に正真正銘のシングルの女性が男性と出会えることをお願いしに来る場所です。

伊勢丹の近くには三神一体のひとりであるブラフマー神を祀った「エラワンの祠」もあります。こちらは商売繁盛を祈る人が多いようです。

基本的な参拝方法は現地で聞いてもらうことにして、その際に大切なことがあるそうです。それは恋愛のお願いをする場合、「彼氏がほしい」とかではだめなのだとか。漠然過ぎて、神様も誰を紹介したらいいかわからないので、収入はいくらくらいで、顔立ちはどんな人――それこそ芸能人の某に似ているでもいいようですし、とにかく事細かに注文をしなければいけません

特に祈る日に良いとされるのが毎週火曜日と木曜日。この日、この像に神が降りてきて、想いを叶えてくれるのだとか。だから「この日は特にたくさんのバラが売れる」と花売りは笑っていました。バラは美しくも、トゲがいっぱい。タイ人女性のリアルを表しているようです。

 

タイは花が身近すぎて、「フラワーアレンジ」は存在しない?

ある寺院の参拝用の花はガラスボールに入れられてちょっとおしゃれに。

南国のタイは、果物と同じように花もたくさんの種類があります。北部の山奥では1月ごろにサクラ(ただし日本とは種類が違うようですが)が咲くし、道端にも名前の知らない花がいつも咲いています。まあ、名前を知らないのは単にボクの知識のなさですが。

タイ北部にある、タイで3番目に高いチェンダオ山の山頂から望む風景。この森の先で桜が咲くのだとか。

同種のヒマラヤザクラ。/©京浜にけ

タイは花が身近すぎるからか、意外とフラワーショップを見かけません。バンコクの中華街・ヤワラーから王宮方面に向かっていくチャオプラヤ河沿いに花市場はありますが、花を売るショップをあまり見ないのです。思い返してみると、フラワーアレンジメントといったムーブメントもタイではまったくないのではないでしょうか。高級ホテルなどでは花を飾っていますが、どちらかというと枯れてしまう生花よりはオブジェが多い。

タイで外国人が生活していれば、生活範囲内で誰でも何人か飲食店経営者と顔見知りになり、年に何回かなにかしらのオープニングセレモニーに招待されます。タイでもそんなときの贈り物は花が無難です。

タイ人向けの店は鉢ごと売る園芸店ばかり。

しかし、花を贈るにしてもフラワーショップそのものがあまりないので、いつも店探しに苦労します。あってもほとんどのショップは富裕層向けの店で、値段がそこそこに高いです。小さな花束を作ってもらっても安くて500バーツ(約1500円)はしますから、物価指数を考えると、タイの花束は高級品になります。

タイ人にとって花は身近な存在です。贈り物としての花を買うことは大変ですが、身近に花があるという点では、タイは花好きにとって魅力のある環境なのかもしれません。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

高田 胤臣

高田 胤臣

1977年、東京生まれ。1998年に初訪タイ、2002年からタイ在住。タイの救急救命慈善団体「華僑報徳善堂」唯一の日本人ボランティア隊員。現地採用社員としてバンコクで日系企業数社にて就業し、2011年からライターになる。単行本数冊、AmazonKindleにて電子書籍を多数発行。執筆のジャンルは子育てネタからビジネス関連まで多岐に渡る。最近は「バンコク心霊ライター」の肩書きがほしく、心霊スポットを求めタイを彷徨う。

この記事を書いた人

ずんこ

ずんこ

タイを拠点に漫画家活動中。漫画作成、漫画の描き方指導、国内外のイベントにて似顔絵描きをするなどのフットワークの軽さが人気。以前シンガポールに住んでいたこともあり、シンガポールでの活動もしばしば目立つ。日本人向けタイの情報誌「バンコクマダム」などで漫画を連載中。法人から個人まで幅広く仕事を受注してます。連絡先:zunkomanga@gmail.com Facebookはこちら

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