韓国の花見は淡紫のツツジと鮮黄のレンギョウ、最近では桜も人気

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※本記事は特集『海外の国花』、韓国からお送りします。

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夏のあいだ辛抱強く咲く国花・ムクゲ

初夏から初秋にかけて、紫・白・ピンクの花を次から次へと咲かせる花、ムクゲ。この花こそが韓国の国花として認識されている花です。

韓国語では「ムグンファ(무궁화)」といい、漢字で表すと「無窮花」。朝に咲き、夜にしぼみながらも、夏のあいだ次々と花を咲かせます。

漢字からもわかるように、力強く辛抱強い花、というのが、ムクゲのもつイメージです。またムクゲを表す漢字には「槿」というものもあります。

 

ムクゲの花

ムクゲが国花として制定された理由はわかっていませんが、古代から朝鮮半島に自生していたとされていました。当時のひとびとは、ムクゲを「天の花」と呼び、9世紀後半の新羅末期には自らの地を「槿花郷」と呼んでいたほか、さらに朝鮮の美称として、前述の「槿」を含む「槿域」という言葉もあるためだとされています。

しかし、今では国花であるムクゲを道端で見かけることは、多くはありません。現代の韓国では象徴的な意味合いのほうが強いようで、警察の階級章、ホテルの等級のほか、優秀な食堂に与えられる模範飲食店のマーク、また大統領執務室の後ろにも、徽章として鳳凰とムクゲが描かれています。

大統領執務室(後ろにムクゲマーク)

なかでも最も庶民的なのが、列車の名前にある「ムグンファ号」。韓国鉄道公社の列車のひとつで、1980年代から走る優等列車ですが、ソウル駅~釜山駅まで5時間半を要し(高速鉄道KTXでは2時間台)、実質的には鈍行列車。シートは広くゆったりしており、ゆっくり旅をするには快適です。

ムグンファ(무궁화)号

時間がかかるぶん割安で、学生たちはこの列車を使って長距離移動をする人も多く、外国人がひとりで旅をしていると、誰かが話しかけてきたりすることもよくあり、最も旅情を感じられる列車です。

しかし韓国のシンボルマークとしておなじみのムクゲより、春になると野や街に咲くレンギョウやツツジのほうがより身近で親しまれているといえます。

ムクゲが法的に国花として定められているわけではありませんが、むしろこの二つの花を国花として制定してもよいと思えるくらいで、「準国花」級ともいえるでしょう。

 

街に咲く最も身近な春の花、レンギョウ

レンギョウは韓国語で「ケナリ(개나리)」といいます。もちろん繁華街では目にしませんが、公園や野山、大学構内などによく咲いており、最も身近な春の花といえます。ソウルでは3月下旬ごろ咲き、春の訪れを最も早く感じさせてくれる花でもあります。

公園や野山に咲く、最も身近なレンギョウ

ちなみにソウルの冬は最も冷え込む1月中旬から2月上旬にかけて、明け方には-20℃近くまで下がることがあり、日中でも0度を下回ることさえあります。

極寒のなかで過ごしていたためか、気温が1日を通してプラスになる頃には、コンビニの外でビールを飲む人さえ見かけるようになります。厳しい寒さを乗り越えたからこそ、春がウキウキするようで、最も早く咲くレンギョウがより美しく見えるのです。

ちなみにソウルでレンギョウの名所として知られているのは、漢江の沿いにある海抜81mの鷹峰山(ウンボンサン、응봉산 )という山。朝鮮時代は鷹狩りの名所だったことから、このような名前がついています。

黄色く染まった鷹峰山から漢江を望む

駅から徒歩約15~20分で山頂にたどり着けるほど低い山。ソウルの街と漢江の景色を一望できるベストスポットです。この時期の休日になると、レンギョウの花見を楽しむ見物客でいっぱいになり、なかには木の下にシートを敷いて、マッコリを飲んでいる人さえみかけます。

ただ、レンギョウはどこにでも咲く花、というイメージのほうが強いため、花見をするならばツツジのほうが好まれます。

 

ツツジの花見で、ツツジを食べる!?

レンギョウが開花したあと、まもなくして咲くのがツツジ。韓国語ではチンダルレ(진달래)と呼ばれます。この花は「チョウセンツツジ、カラムラサキツツジ」ともいい、日本には咲いていませんが、中国や朝鮮半島に自生する花です。

淡い紫で山染めるチョウセンツツジ

この「チンダルレ」は日本で一般的に認識されているツツジとは異なり、淡い紫色の花弁をもちます。街中にはほとんど咲いておらず、ツツジの名所は山にあることが多いのです。

朝鮮時代の宮中では旧暦3月3日の「重三節」に野山に出かけ、ツツジを摘み、あらかじめ用意しておいた白玉粉にのせて「花煎(ファジョン、화전)」を焼き、これを食べたといいます。このようにツツジは古くから親しまれていた花であることがわかります。

ツツジの花をのせて焼くおやき、花煎(ファジョン)/撮影協力:韓国料理教室 セサミの会

ソウル都心から地下鉄で1時間ほどの富川(プチョン、부천)という街に、遠美山(ウォンミサン、원미산)という海抜165mの山があり、ここでは、3月下旬から4月上旬にかけて、山一面にツツジの花が咲きます。

「学校の裏山」のようなツツジの名所、遠美山

この周りには住宅街や総合運動場のほか、小中高大の教育施設があり、まさに「学校の裏山」という場所なのですが、4月上旬の花祭りの期間には、道端に屋台が出たりして、花見客が訪れます

遠美山の一面に咲くツツジ

ツツジといえば、韓国人なら誰でも知る詩人、金素月(キム・ソウォル、김소월)(1902~1934)の「つつじの花(진달래꽃)」という詩が有名です。

その舞台となる北朝鮮の平安道にある寧辺(ヨンピョン、영변)の薬山はツツジの名所。詩の解釈には諸説あるようですが、男女の別れの歌として知られており、メロディーがつけられ、歌謡曲としても歌われています。その詩碑は遠美山にも建てられていました。

ちなみに春になると、レンギョウやツツジにも開花予想が発表されます。その後しばらくしてから、桜の開花時期が発表されるのです。

 

「桜=日本」のイメージなのに人気上昇中!?

近年春の花としての認識が高まっているのが、「桜」の花。そのインパクトの度合いは、ツツジを越えているのではないかと思うほどです。

公園の花見客と露店

日本統治時代には各地に桜が植えられ、日本から独立したあとは、「日帝残滓」として切り倒されたところもあったとか。しかし1960年代に「王桜」という桜の品種が済州島原産だと認められたことから、桜を愛でる人が増えていったようです。

とはいえ「桜=日本」というイメージは強いため、決して国花にはなり得ない花だと思いますが、今では多くの韓国人が桜の花見を楽しむことは事実なのです。

韓国で最も有名な桜の名所といえば、ソウルを流れる漢江の中州、汝矣島(ヨイド、여의도)。ここには国会議事堂や 、韓国放送公社などがあり、韓国の政治と経済の中心地でもあります。

汝矣島・輪中路の桜並木

汝矣島の桜は、国会議事堂のまわりを取り囲むように咲いています。この桜が咲く通りは「輪中路(윤중로、ユンジュンノ)」とも呼ばれているのですが、これは日本語の「輪中提(わじゅうてい)」に由来するようです。漢江の洪水を防ぐため、堤で囲った場所なのです。

ときには桜を「日帝残滓」だと唱えながらも、政治の要衝である国会議事堂の周りが桜に囲まれ、この通りが日本語由来の通称で呼ばれているのは皮肉な気もしますが、一般の人たちはそんなことはお構いなしに、花見を楽しみます。

歩きながら桜の花見を楽しむ人々

ちなみに韓国の花見スタイルは、お酒を飲んでどんちゃん騒ぎをする、日本とは異なります。桜の木の下を歩いて散策したり、海苔巻きのようなお弁当を持っていき、公園にシートを敷いて桜を眺めながら、日向ぼっこをしたりする感覚です。

とはいえ、華やかさを好む傾向にある韓国人たちは、満開の桜や舞い散る花の華麗さを楽しんでいるのであって、わりと日本的な価値観と思われる「散りゆく桜にしみじみ」といった感情は薄いのではないかと思います。

 

力強く咲く国花ムクゲ、春は多様な花を楽しめる韓国

夏のあいだ力強く咲き、象徴的な花として認識されている韓国の国花ムクゲ、そして春になると野山を彩り、多くの人に親しまれてきたレンギョウとツツジ。そして日本のイメージが強かったものの、近年、春の花として人気が上昇している桜。

日本では「花見=桜」という認識が強いですが、韓国では多様な花を楽しめます。もし春の季節に韓国を訪れるなら、桜を眺めるのもよいですが、古来から親しまれているレンギョウやツツジにも目を向けていただけたら、と思うのです。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

東方神起やJYJと同年代の1986年生まれ。「韓国を知りたい」という思いを日々のエネルギー源とするも、韓国のオシャレなカフェには似合わず日々苦悩。ソウルや釜山も好きだが、地方巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。SNSでは「トム・ハングル」の名で旅の情報を発信。Profile / Twitter / Facebook / Instagram / 韓旅専科

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