ドイツは「裸」先進国、監視社会下で花開いたほのぼのヌーディズム・FKK

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裸は恥ずかしくない。だからピクニックでトップレス?

東ドイツ出身の女性と、ひとつ屋根の下で共同生活を送っていたときのことです。会話の途中で「学生時代はよくみんなで一緒にピクニックとかしてたわね。夏はトップレスで森の中を歩いたりすると気持ちよかったのよ」と言いだしたのです。は? ピクニックでトップレス? え……と、男性もいるのに?

たじろぐ私に「何か問題でも?」という表情を浮かべる彼女。そのときからでしょうか、どうやら裸に関する感覚が、ドイツと日本でかなり違うらしいとぼんやり意識をし始めたのは。

北部ドイツのビーチにて。「ここから先、FKKビーチ」。さあ、どうする?

©Владислав Громаковский

やがてドイツにはFreikörperkultur(フライケルパークルトゥアー)、略してFKK(エフカーカー)という文化があると知りました。要するにヌーディズム、裸体主義のことです。

でも待って! エロいことを思い浮かべたあなた、違うんです! むしろエロとは対極にあるんじゃないかと思います。日本では、FKKという言葉がドイツの性風俗店と同義で使われているようですが、本来は違います。

©NAP310/シドニーでのヌーディズムイベントの様子

FKKは、全裸で自然とふれあうことを目的としています。衣服を脱ぎ、太陽の光や風を直接肌で感じることで、解放感に浸るのです。互いの裸体を見たり、性的に誘惑したりするためのものではありません。ドイツでは既に18世紀末から、FKK愛好団体が各地に存在していたそうです。その後ドイツが西と東に分かれた後も、FKK文化は両国で続きました。

ところが、なぜか東ドイツのほうが、より根付いたんですね

1954年にいったんは法律で禁止されたものの、2年後に撤回されました。今でもFKKは、西よりも東ドイツの文化というイメージが残っています。どうしてでしょう?

 

東ドイツに根付いたのは政治的な背景があったから?

素朴な疑問を解くべく私の周りの東ドイツ出身者に聞いてみましたが、FKK愛好者はおらず「裸は別に恥ずかしくないよ」という答えが返ってくるばかり。今ひとつ要領を得ないので、行ってきました。ベルリンの東ドイツ博物館に。ここは東ドイツの政治や日常生活の様子を紹介する博物館で、以前訪れた際にFKKに関する展示もあったことを覚えていたんです。

博物館の前は道幅が狭いため、その対岸から撮影。川が凍っており季節感満点。

観光客で混み合う館内を進んでいくと……ありました、ありました。パネル展示が。野外で微笑み合う全裸の親子、全裸でテニス(しかし靴は着用)、全裸でビーチバレー。見ればわかるのですが、どれもほのぼのとしています。そこにはエロスの「エ」の字も漂っていないんですよ。

東ドイツ博物館FKKコーナーの展示。実際の様子がよくわかります。

解説には、「社会に順応しなければならないことへの反抗か、あるいは裸は社会的階級からの解放の印だったのだろうか」とあります。

東ドイツでは男女ともに働いていたため、子どもたちは保育園で育ちました。トイレタイムは一列に並んだおまるでみんな一緒。こうした習慣も裸への意識に影響を与えたのかも?

第二次世界大戦後から冷戦の終わりまでつづいた東ドイツは、社会主義国家で、自由がかなり制限された社会でした。一般市民の中に秘密警察が紛れていたので、うっかり政府の批判などを口にしようものなら、誰かに密告され連行されてしまう可能性だってありました

自分の意見を大っぴらに言えず、買い物や旅行も自由にできないような生活を送っていたら、どこかにはけ口がないとおかしくなってしまいそうです。そんな社会のしがらみから逃れられた手段こそが、FKKだったのかもしれません。またそこには、解説のように「裸になればみな同じ人間。階級など関係ない」という思いもあったことでしょう。

 

FKKビーチでは水着などの着衣はご法度、撮影も禁止!

現代でももちろんFKKは存続しています。でも、ドイツ人全員が全裸愛好者ではないので、そこはきちんと住み分けがされているのです。ちょっと調べれば、FKK専用ビーチや湖畔、専用施設などがたくさん出てきますが、そこで着衣はご法度。浜辺やベンチの上にタオルは敷きますが、水着は着てはいけません。

そして、当然かもしれませんが、写真・ビデオ撮影は禁止です。FKKエリアはリラックスするための場所。興味本位と誤解されるような行動はNG。こうしたFKKエリアはドイツだけでなく、フランスなどほかの国にもあるそうです

2本の木の幹に「FKK」と信用ならないスプレー書き。人がいなかったので真偽のほどは不明でした。

ただ最近は、FKKが下火になっているというニュースも聞きます。社会のしがらみが少なくなったのか、人々の意識が変わったのか。理由はわかりませんが、時代は常に振り子のように揺り戻しを繰り返しながら変化し続けるように思うので、今はそういうときなのかもしれません。

ちなみにドイツでは、FKKエリア以外の公共の場所で裸になると刑法上は処罰対象にはならないものの、秩序違反により罰金を課せられます。あくまで、FKKが認められた場所でのみ全裸でなれるのです。そりゃあ、ところ構わず裸になられても困りますからね。

 

サウナで知った全裸の気持ちよさ。この夏はFKKデビュー?

全裸にトライしてみるのなら、まずはサウナから?

じつは私、全裸で泳ぐ気持ちよさを知っています。いえ、決してFKKではないのですが、サウナのプールで裸で泳いだことがあるんです。もぉ〜、その気持ちいいことといったら! 何ひとつ身に纏わない解放感! ビバ全裸!と思いました。

ドイツのサウナは、全裸で男女混浴が普通です。でもサウナはFKKの範疇には入りません。なぜなら、裸で入るのが当然だからです。最初は私も二の足を踏んでいましたが、友人(女性)に誘われて初めてサウナに行って以来、その解放感と気持ちよさに病みつきになっています。特に、零下にもなるドイツの冬にサウナに入ると、身体が芯から温まってポッカポカ。出た後は、「北風でも雪でもどんと来い!」という無敵状態を味わえます。

ドイツ人男性の裸体はまるでギリシア彫刻?

男性の裸が気にならないのかと言われれば、実際のところ私はあまり気になりません。ギリシア彫刻のようなドイツ人の体格を見ても、自分とは別世界のようでどこか現実味がないですし、裸でいることを誰も気にしちゃいません。恥ずかしがってモジモジしているほうが、おかしな態度に映ります。一度行けば、エロスな場所ではないことがわかっていただけるのではないかと思います。

ただし、男性の友人と行くのはお断りです(お互い様でしょうが……)。あくまでも、見知らぬ男性ならば気になりません。一人のときはレディースデーを利用したりもします。

なんだかここまで書いてきて、サウナのプールで泳いだ解放感を、もっと追求したくなってきました。何も身に着けずにビーチで太陽を浴びたら、きっと気持ちいいでしょうね……。もしかしてこの夏は、FKKデビュー?

「FKKビーチ、ここまで」。北部ドイツのビーチにて。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

久保田 由希

久保田 由希

東京都出身。ただ単に住んでみたいと2002年にドイツ・ベルリンにやって来て、あまりの住み心地のよさにそのまま在住。「しあわせの形は人それぞれ=しあわせ自分軸」をキーワードに、自分にとってのしあわせを追求しているところ。散歩をしながらスナップ写真を撮ることと、ビールが大好き。著書に『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』(大和書房)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか多数。HPTwitterFacebookInstagram

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