なぜか海外で有名な日本語:後編(欧州・中東・アフリカ・アメリカ編)

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我々が使う日本語には、海外でもそのまま使われるものがけっこうあります。

スシ、サムライ、ゲイシャ、ハラキリ……ざっと挙げるとこんな感じでしょうか。

これはプロ野球でいえば「一軍選手」。しかし! 世界には、意外な場所で・意外な日本語が・意外な理由で有名だ、ということが分かりました。各国の海外在住日本人の方に質問、前編のアジア編につづき、今回は後編! 欧州、中東、アフリカ、アメリカ、まとめて紹介します!

https://traveloco.jp/kaigaizine/famous-japanese-in-the-world

前編はこちら!

 

ヨーロッパ編

なぜかイタリアで有名な日本語

  • バンザイ(イタリア版「たけし城」のイタリア版タイトル)
  • 中田(サッカー選手の中田英寿)

 

海外ZINEでイタリアの記事を書かれている、鈴木さんに聞きました!

 

鈴木

バンザイは割と知られている単語ですね


水嶋

いかにも、という気はしますね。戦時の影響でしょうか?


鈴木

いえ、テレビ番組の「風雲! たけし城」が人気があって、そのタイトルが「Mai dire Banzai」、直訳すると「バンザイって言うことはない」なんです


水嶋

謎の訳! いや、現地のニュアンスがあるんだろうけど!


鈴木

あとは定番のサッカーに関連したものでナカタ、中田英寿選手がACローマがリーグ優勝したときのスタメンだったのでとくに有名です


水嶋

バンザイに比べて安定感ありますね(笑)

直訳だと意味が分からないのはよくある話。

 

なぜかフランスで有名な日本語

  • スリミ(すり身、ただし味も見た目も「カニカマ」)

スリミとは、「カニカマ」の商品名のこと。1メーカーではなく、複数メーカーがSURIMIとして販売。カニカマはカニっぽい上に使い勝手も良いということもあって、なんとフランスでの消費量は日本に匹敵するレベル。ちなみに現地では赤色ではなくオレンジ色、これは国内で食べられるワタリガニが茹でた色に似せているそうです(参考:カニかまが世界で驚くほど食べられている フランスは日本に匹敵するほどの消費量)。

このカニカマがスリミになった経緯は……不明。ただ、フランス語的に「カニカマ」より「スリミ」の方が声に出しやすそうだということは理解できます。「スゥリミィ」みたいな。

これは確かにオレンジ色!/©Frrrrred

 

なぜかイギリスで有名な日本語

  • サツマ(薩摩、みかんのこと)

イギリスでの「みかん」の呼称。生麦事件に端を発した、1863年に薩摩藩とイギリスの間で起こった薩英戦争が背景です。戦果はお互い痛み分けに終わり、これをきかっけに両者の関係が深まり、その過程で薩摩藩からイギリスへ温州みかんの輸出がスタート。だから今でもみかんのことを「サツマ」と呼ぶのだとか。

左上の立て札に「SATSUMA」の文字が確認できる。

 

なぜかロシアで有名な日本語

  • イワシ
  • イクラ

 

ロシア情報サイト『おそロシ庵』を運営されているちばユウタさんにお聞きしました!

 

ちばさん

イワシでしょうか


水嶋

おー! 日本とは日本海を挟んでお隣ということもあって、漁業関係は納得


ちばさん

イクラもありますが、こちらは逆にロシア語由来で「魚卵」を意味する言葉です


水嶋

ロシア由来とは知っていましたが、「魚卵」なんですね。別に鮭って訳じゃない


ちばさん

ロシア由来はほかにもありますよ、ノルマ、インテリ、コンビナート……


水嶋

ええっ、ぜんぶ初耳


ちばさん

あと、個人的に気になるものが、スケトウダラはロシア語で「ミンタイ」なんです。日本でもメンタイ(明太)と呼ぶし中国語も韓国語(朝鮮語)も同じような語感なので、一体どれがルーツなのかなと


水嶋

言葉のロマンだ……。世界各地で知らず知らずのうちに言葉のちゃんぽんが起こっているってすごいおもしろい話ですね

ちばさんが運営する『おそロシ庵』はこちらからアクセス!

もはや和食のイメージすら浮かぶイクラ、名前は実はロシア由来。/©Netinformerin

 

中東(サウジアラビア)編

なぜかサウジアラビアで有名な日本語

  • ニシムラ(西村)

 

海外ZINEでサウジアラビアの記事を書かれている、鷹鳥屋さんに聞きました!

 

鷹鳥屋

「ニシムラ」一択ですね!


水嶋

いや誰ですかそれ(笑)


鷹鳥屋

W杯でも審判を務めた、日本人のサッカー審判員です。AFCチャンピオンズリーグで、サウジアラビアとオーストラリアのクラブ同士の対決があり、結果は前者の負けだったのですが、このことを「審判の西村のせいで負けた!」とサウジアラビアのサッカーファンは考えるようになったんです


水嶋

審判の仕事、怖……


鷹鳥屋

以降、中東全体も巻き込んで、日本代表が試合で負けたり際どい判定があると、「ニシムラを忘れるな」「今こそニシムラの報いを受けるべき」と言われるようになりました。そのこともあって、中東、とくにサウジアラビアでは日本人だと分かるとよく「ニシムラを知っているか?」と聞かれます(笑)


水嶋

サッカーを知らない人からすると、たくさんいすぎていや、誰だよ」ってなりますね(笑)

いくらでもいる西村たち。

 

なぜかカタールで有名な日本語

  • タケシ(「風雲!たけし城」「ビートたけし」のタケシ)

 

カタールにお住まいの、福嶋タケシさんにお話を聞きました!

 

福嶋さん

「タケシ」です


水嶋

え、それって福嶋さんのお名前ですよね? 私こそが! ってこと……?


福嶋さん

違います。現地の30~40代の人には「風雲たけし城」が有名なんですよ


水嶋

おぉ~! そこかぁ~!


福嶋さん

といっても中東全体なのでカタールに限った話ではないのですが


水嶋

今調べたら昨年サウジアラビア版を制作するという発表も出てるようですね

 

「風雲!たけし城」サウジ版制作へ 王子らTBS訪問 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News
伝説の番組「風雲!たけし城」が、サウジアラビアで「要塞」と呼ばれ親しまれていた | ハーバービジネスオンライン

 

福嶋さん

これもあって、私の名前はすぐに覚えてもらえます


水嶋

世代の人からするとけっこう感動かもしれませんね、「あのタケシか!」って

聞かされない限り、砂漠の国とタケシはなかなか結びつかない……。

 

アフリカ(というよりスーダン)編

なぜかスーダンで有名な日本語

  • キャプテン翼(キャプテン翼が印刷されたクッキーが大衆的なお菓子)

 

海外ZINEでスーダンの記事を書かれている、田才さんに聞きました!

 

田才

キャプテン翼でしょうか


水嶋

なるほど、マンガやアニメが人気なんですね!


田才

というよりも、もはやクッキーとして有名ですね


水嶋

???


田才

スーダンのスーパーや露店ではだいたい主人公の大空翼のイラストが印刷されたクッキーが売られていて、安くて手軽に手に入るということもあり、キャプテン翼のクッキーは朝食やお菓子の定番なんです。そのため、老若男女に渡ってみんな異様にキャプテン翼を知っています


水嶋

な、な、謎すぎる

これがそのクッキー、日本のアニメコンテンツは意外な場面で活躍している……。

人気の背景は90年代のアニメ放映ですが、今はクッキーのほかに、「環境問題に興味を持ってほしい」ということでJICA主導の元、ゴミ収集車にまでキャプテン翼の登場人物が印刷されているそうです。なんと、スーダンは「キャプ翼大国」だったのか……。

日本のソフト・パワーと連携した国際協力——「キャプテン翼」が張られたごみ収集車をスーダンへ | 2015年度 | トピックス | ニュース – JICA

 

アメリカ大陸編

なぜかアルゼンチンで有名な日本語

  • ミヤギ(映画「ベスト・キッド」に登場する人物名)

 

海外ZINEでアルゼンチンの記事を書かれている、奥川さんに聞きました!

 

奥川

「ミヤギ」なら多くのアルゼンチン人が知ってますね!


水嶋

宮城…県ですか?


奥川

「ベスト・キッド」に出てくる主人公の師匠の名前です


水嶋

あぁ、あのミヤギ! いや、名前ははじめて知ったけど(笑)


奥川

この映画はアルゼンチン国内でめちゃくちゃテレビ放映されていて、日本(人)といえばミヤギのイメージらしいです。僕も最初よく「日本といえばミヤギだよな!」と言われました


水嶋

あぁ、仙台の! 牛タンの! って言ったら噛み合わなくなりそう(笑)

ハポン(日本)といえば……!

 

なぜかメキシコで有名な日本語

  • マルちゃん(現地で販売されている「マルちゃんラーメン」から)
  • ツル(日産のセダンタイプの車の通称)
  • ニシカワ(ピーナッツ菓子の名称で、西川氏によってつくられたから)
  • サオリ(アニメ「聖闘士星矢」の登場人物名、人気の影響で娘の名前にする人が続出)

 

海外ZINEでメキシコの記事を書かれている、Mariposaさんに聞きました!

 

Mariposa

メキシコで日本語ならマルちゃんですね


水嶋

マルちゃん? マルちゃんラーメンのですか??


Mariposa

はい。「『マルちゃん』はなぜメキシコの国民食になったのか」という本のタイトルになるほど有名です


水嶋

驚きですねぇ……


Mariposa

ほかには、ツル。これは1982年から日産のセダンタイプの名称がそう呼ばれていたため、ツルを聞くとセダン車を思い浮かべる人が多いと思います。あとはスナック菓子でカカワテ・ハポネース(日本風ピーナッツ)というジャンルがあるのですが、この元祖は西川家のつくったNISHIKAWAで、メキシコにおける日本人の名前でもっとも有名と言ってもいいでしょう


水嶋

パッケージも着物を着た女性でいかにもという感じですね

日本感漂う定番のピーナッツ菓子『NISHIKAWA』。

Mariposa

人名といえば、サオリも知られています


水嶋

誰ですかそれ?


Mariposa

聖闘士星矢に出てくる登場人物の名前です


水嶋

めちゃくちゃ予想外!(笑)


Mariposa

メキシコでは聖闘士星矢がテレビ放映され、ある世代にはとても人気で、その作中のヒロインでもある城戸沙織というキャラクターから自分の娘に名付ける人もいるんですよ。私が昔住んでいた街の八百屋のおじさんに、「うちの娘、サオリって名前を付けたんだけどどういう意味?」と聞かれたときは「意味も分からず付けたんかい」と思いましたけど。理由は「かわいいから」だそうです


水嶋

あははは! 適当でいいですねぇ

ちなみにこの聖闘士星矢の人気の背景には、星や太陽の動きを重視していたマヤ文明とも共通するところがあり、メキシコ人の琴線に触れるものがあったのではないか? という指摘もあります。

南米で絶大な人気を誇るアニメとは? | OKWave.com

 

なぜかアメリカ(ニューヨーク州)で有名な日本語

こちらはとあるウェブサービス(後述します)を使って在住者の方々に教えてもらいました。

  • 羅生門

複数人の証言が食い違うこと。黒澤明監督の『羅生門』から来ている。

  • コンブチャ(紅茶キノコ)

日本の昆布茶が飲まれている……かと思いきや、紅茶キノコです。健康に良いとしてセレブの間で火が付き、今ではスーパーに専用コーナーがあるほどの定番商品に。

  • シボリ(絞り染め)

ヒッピー文化の象徴でもある、タイダイ(Tie Dye)。あのカラフルに絞られたTシャツの技法を指します。そこから派生して日本の絞り染めもファッションとして人気に、「シボリ」という言葉が定着しつつあるとか。

  • 生き甲斐

ビル・ゲイツが2018年頭に使ったことで話題に。ただし英訳することが難しく、ビジネスパーソンやIT関係者など、言葉の意味を知る人は彼の考えに関心を抱く人に限られる。

セレブ御用達『KOMBUCHA』!

 

なぜかブラジルで有名な日本語

こちらも、同上のウェブサービスを利用。

  • ミョウジョウ(即席麺、正確には「ミオジョ(Miojo)」)

メキシコのマルちゃん同様、ブラジルを代表する即席麺。しかし明星食品とは関係なく、もともとは台湾の会社が明星を模して販売したもの(だからMyojoではない)。後に日清に買収され、現在は日清がミョウジョウを販売するという複雑な形に。料理のできない男性がよく「ミョウジョウしかつくれない」と言ったりする。

  • 日清

ミョウジョウを販売していることもあって有名。即席麺メーカーとしてはシェアトップ。

  • 焼きそば

ブラジルでもっとも庶民的な日本食のひとつ。

  • 二世/三世(ニセイ/サンセイ)

日系ブラジル人二世三世の呼称としてそのまま使われる。

  • ガイジン(外人)

日系人以外のブラジル人を指す言葉として使われる。映画のタイトルにもなり話題に。

  • デカセギ(出稼ぎ)

もともとは日本からの移民の出稼ぎを指す言葉だったが、ブラジルから日本への出稼ぎが増えたことにより、最近でもよく使われている。

日清ロゴの右下にちょこんと確認できるMiojoの文字。/©Yusuke Kawasaki

 

有名な日本語を知ることで、その国と日本との歴史が見えてくる。

なぜか海外で有名な日本語、以上です!

いや~、前後編を合わせると1万字を超えてしまいました。長かった! まさかこんなにあるとは……。

https://traveloco.jp/kaigaizine/famous-japanese-in-the-world

 

まだ前編を読んでないという方は、上記からどうぞ!

後編でも相変わらず興味深い言葉が続出しましたが、個人的にはブラジルがおもしろかったように思います。

日本からの移民は100年の間に13万人もいるとのことで、現在の南米における日本人のイメージには、彼らのたゆまぬ努力によって築いてきた実績があるようです。さまざまな農作物を現地で生み出し伝えたことによりブラジルの食文化は大きく変わり、貢献してきた日本人は「農業の神様」と評されたのだとか。

海外の日本語が伝わるまでの経緯には、移民、製品、コンテンツ、そして戦争、これらがあるということが分かりました。スシやサムライなどのワールドワイドな日本語ではなく、こういった現地特有の日本語を調べると、その国と日本の歴史や関係性が見えてきますね。海外から日本を見つめ直す、とても良い時間になりました。

今回、直接現地在住の方に教えてもらったほか、トラベロコというウェブサービスのQ&A機能を使用しました。というより、この『海外ZINE』ってそんなトラベロコのオウンドメディアなんです。質問のほか、現地在住者の方に現地でのあらゆるサポートも依頼できる、マッチングサービスです。よろしくお願いします~!

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この記事を書いた人

ネルソン水嶋

ネルソン水嶋

ブロガー、ライター、編集者。2011年のベトナム移住をきっかけにはじめた現地生活を綴るブログ『べとまる』から『ライブドアブログ奨学金』『デイリーポータルZ新人賞』などを受賞を契機に、ライターに。2017年11月の立ち上げから2019年12月末まで、海外ZINEの編集長を務める。/べとまるTwitterFacebooknote

この記事を書いた人

ずんこ

ずんこ

タイを拠点に漫画家活動中。漫画作成、漫画の描き方指導、国内外のイベントにて似顔絵描きをするなどのフットワークの軽さが人気。以前シンガポールに住んでいたこともあり、シンガポールでの活動もしばしば目立つ。日本人向けタイの情報誌「バンコクマダム」などで漫画を連載中。法人から個人まで幅広く仕事を受注してます。連絡先:zunkomanga@gmail.com Facebookはこちら

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