なぜか海外で有名な日本語:前編(アジア・東南アジア・インド編)

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我々が使う日本語には、海外でもそのまま使われるものがけっこうあります。

スシ、サムライ、ゲイシャ、ハラキリ……ざっと挙げるとこんな感じでしょうか。

これはプロ野球でいえば「一軍選手」、きっとすでにご存知の方も多いでしょう。しかし! 世界にはその国や地域だけで、意外な日本語が意外な理由で有名だったりすることが判明しました。各国の海外在住日本人の方に質問。その結果分かった、20カ国&地域での結果をお伝えいたします。

https://traveloco.jp/kaigaizine/famous-japanese-in-the-world_2

後編はこちら!

 

アジア編

なぜか中国で有名な日本語

  • 顔芸
  • なに!?(毛利小五郎のリアクション)
  • メシ(飯)、おい、バカ
  • 工口(エロ)

 

中国では、大連と上海に合計7年住んでいた翻訳者の水谷さんに話を聞きました。

 

水谷さん

中国では、台湾でもですが、若者言葉やサブカル系はだいたい通じる気がしますね


へー、たとえば……?


水谷さん

「カオゲイ(顔芸)」とか


いきなり変化球がきた


水谷さん

ただ、ネットでよく使われるので、漢字はOKでも音では伝わらないかもしれません


なるほど……。漢字を使う中国と日本ならではの現象だ


水谷さん

あと、名探偵コナンの毛利小五郎のセリフもネットスラング化していますよ、『なに!?』とか


何それ!? でも確かにアニメではよく言う気がする(笑)。聞き慣れない外国語だから耳に残るのかもしれないですね

中国のインターネットには毛利小五郎がい~っぱい!

水谷さん

あとは抗日ドラマの影響で役者が話す日本語は有名ですね。「メシ」「オイ」「バカ」とか


ドラマの中の日本人、どれだけ語彙がないんだ!


水谷さん

役者はほとんど中国人ですからね、日本人が中国人のキャラクターに語尾に『アル』と付ける感覚に近いと思います。相手にもよりますが、『メシ』と言えば笑いが取れるかもしれません。『ミシ』の方がドラマの発音と近いですが


中国を観光したときにはじめて抗日ドラマを見たときは固まったけど、聞けば聞くほど印象も変わるなぁ


水谷さん

そのほかはー、


まだあるんかい!


水谷さん

おもしろいところで、『工口』もネットスラングとして当たり前に使われています


あぁ、エロか、それは察しがつくつく、下心は世界共通!


水谷さん

エロじゃないですよ。よく見てください、工口(工事の『工』に入口の『口』)です


あっ……それ、もしかして漢字!?


水谷さん

そう、漢字。そのまま日本語のエロの意味で使われています


なんと……!! 心の中の中国が一気に近まりました

何気に発明。

 

なぜか台湾で有名な日本語

  • アタマコンクリ(頭コンクリート=石頭)
  • おじさん(おじいさん)、おばさん(おばあさん)
  • ハンドル、マクニラ(バックミラー)、おれん(おでん)、てんぷら、など

 

台湾から、YouTubeチャンネル『SAYULOG さゆログ』を配信しているさゆりさんに聞きました!

 

さゆりさん

「アタマコンクリ」が有名だねー


いやいやなにそれ、なに!?


さゆりさん

日本でいうところの『石頭』、ただ「頭固い」というよりは「頭わるい」「イカれている」みたいな意味で使われるね


ほほう……日本統治時代に伝わったのかな


さゆりさん

そうだと思う。冗談で、「あいつマジないわ」みたいな感覚でよく使われているよ

こういうことか……?

この頭コンクリート、台湾に住んでいた日本人だけが使っていたかと思いきや、そもそも戦前の日本で使われていたんだとか。日本最古のコンクリート橋が1903年にできたので、台湾のインフラ整備が統治時代に行われた背景も踏まえると、当時の日本人のコンクリートへの信頼感といえばそれはもうものすごかったのでしょう。もともとあった石頭をわざわざ置き換えるくらいですから。

さゆりさん

50年間の統治下で日本から持ち込まれた言葉はたくさんあって、思いつくだけでも、ハンドル、ライター、ラジオ、バックミラー、ドライバー、おでん、ちくわ、てんぷら、おじさん、おばさん、なんてものがある


お~、すごいあるんだな~!


さゆりさん

ただ、現地で話しやすい言葉に変化して、バックミラーは「マクニラ」、ドライバーは「ロライバー」、おでんは「おれん」、ちくわは「ちくら」、という感じになってるね


日本語的には舌っ足らずな感じでかわいく感じるなぁ


さゆりさん

でも、おじさん・おばさんは、おじいさん・おばあさんの意味だから、相手によっては良く思わないかも


異口同音とでも言うか……迂闊には使えないね


さゆりさん

てんぷらもさつま揚げのことなんだけど、これはもともと西日本での呼び方で、それがそのまま台湾のソウルフードになってるよ


へ~!!

「甜不辣」は、塩水雞という呼ばれる揚げ物店の定番メニュー。

割と目立つところに「甜不辣」の文字。ちなみに左側奥に見えるものがそれ。

 

なぜか韓国で有名な日本語

  • お元気ですか(ヒットした邦画のセリフ)
  • にっこにっこにー(アニメキャラの挨拶をアイドルが披露)
  • キモティー(AVのセリフから。西武のG.G.佐藤選手説もあり)

 

海外ZINEで韓国の記事を書かれている、吉村さんに聞きました!

 

韓国では「お元気ですか」という言葉が有名ですね


「元気」じゃなくて、「お元気ですか」、ですか?


日本の映画の影響です、1995年に撮られた北海道が舞台の「Love Letter」という


あ~、そういうことか!


これを見た世代にとって北海道といえば連想されるくらい、韓国では有名なんです


へ~。かつての「韓国=冬のソナタ」みたいなもんですかね


ほかにも最近は、「にっこにっこにー」は世代に関係なく知っている人が多いみたいですね。韓国だけじゃないらしいですが


な、なんだそれは……

「お元気ですか」と聞くと、一休さんのEDを思い出します。

調べると、元ネタはアニメ『ラブライブ!』の登場人物の自己紹介。男性アイドルグループ『SUPER JUNIOR』のヒチョルがラブライブ好きだったためそれをよく真似しており、次に女性アイドルグループ『TWICE』の日本人メンバー・モモがバラエティ番組で披露してさらに認知度アップ。同アニメがアジアを中心に多言語展開されていることも関係していそうです。

そういえば、個人的に気になる言葉があるのですが……一時期「キモティー」という言葉が流行ってましたよね?


日本のAVを見ている人が多いから、という理由ですね、ちなみに韓国ではAVを制作すること自体が違法なんです。他に「ヤメテ」という言葉も知られています


おぉ~、韓国ではウッカリ「やめて」って言えないですね……


キモティーって最初は西武のG.G佐藤選手が言ってたんですよね、実は私は西武ファンなのですが


え、そうなんですか。まぁ、確かに「キモティー」という言葉もAVでそれほど頻繁には……ゲフッ、ゲフン!

ちなみに、台湾と同様に、韓国でも日本統治時代に伝わった日本語が多いとのこと。「たまねぎ」とか「満タン」という言葉は今でもそのまま通じることもあるようです。

 

東南アジア編

なぜかインドネシアで有名な日本語

  • 自爆(「無謀なことをする」という意味も)
  • 心の友(五輪真弓の曲として認識されている)
  • まさこ、まゆみ(味の素が現地で販売している調味料)

 

海外ZINEでインドネシアの記事を書かれている、武部さんに聞きました!

 

武部

ベタですが、「心の友」


ドラえもん映画のジャイアン的な……?


武部

いや、五輪真弓の「心の友」が第二の国歌級に有名でというだけです


ちゃんと単語としての意味も知られているんですか?


武部

曲名として知ってるだけで意味は誰も知りません(笑)


「心の・友」じゃなくて、あくまで「ココロノトモ」なんですね(笑)

「心の友」と聞くと、彼を思い出します。

ほかにも味の素が製造&販売している調味料で「まさこ」「まゆみ」というものも。インドネシア語で「料理をする」が「Masak(マサック)」であったということがまず先にあるそうです。「まゆみ」はマヨネーズで、由来は「mayones+yummy」とのこと。なるほど、よくできてる……。

武部

あとはー、「自爆」とか


なんともハードな日本語が出てきましたな

これはインドネシアが旧日本軍占領下にあった頃、インドネシア語とともに日本語が普及。そのあと、日本の敗戦後に独立を巡ってのオランダとの戦争で自爆攻撃を仕掛けたことで認知。それが今では「無謀なことをする」という意味に。近年増えた自爆テロの背景もあるのかもしれません。

武部

ただ、「Seventeen」というバンドが2003年に出した曲で「Jibaku」というタイトルのものがあって、その歌詞の大意は「好きな女性を友人に譲る」というもの。自己犠牲の精神を表していることと思われます


自己犠牲って日本らしい考え方な気がしますが、言葉だけ残って本来の意味に寄ってきているっておもしろいですね

「Masak」に「o」で「Masako」(まさこ)。

なぜかタイで有名な日本語

  • サバ
  • サンマ
  • モチ(北部のお菓子、もしかしたら日本由来?)
  • 新芽ちょうだい(お茶のCMのセリフ、シリーズ化され有名に)

 

海外ZINEでタイの記事を書かれている、高田さんに聞きました!

 

高田

タイでは、魚の名前に日本語が使われている場合が多いです


ほう!


高田

サバとか、サンマとか。日本語とは少し違うのですが、大衆魚のティラピアはもともと日本の皇室から贈られたものということもあり、現地の呼称の「プラーニン」の「ニン」はお名前の「明仁」からとられています


へ~! しかも、調べてみたら「プラー」は「魚」、つまり「仁魚」なんですね

タイと日本の友好を示す食用魚「プラーニン」。/©Germano RobertoSchüür

高田

あとは北部の餅に似たお菓子の名前が「モチ」なので、戦中に日本から伝わったのかもしれません。ほかには「新芽ちょうだい」。お茶のCMで青虫の子どもが言うセリフで、話題になりました。そのあとに続編や演歌までつくられて、聴いているとイライラするんですけど、妙に耳に残ります(笑)


「新芽ちょうだい」って、背景を知らないと意味が分からない(笑)。でも、CM由来というところもタイらしい。おもしろい広告が多いですもんね


世界のCM界で話題をさらった過去の名作。

勢いはそのまま演歌(?)まで生み出した。イントロ長め。

 

なぜかミャンマーで有名な日本語

  • 牛久(牛久大仏)

 

海外ZINEでタイの記事を書かれている、板坂さんに聞きました!

 

板坂

「ウシク」が有名ですね、牛久大仏の


これまた、ひょうたんからコマみたいな話ですね


板坂

仏教国ということもあって、ミャンマー人は大仏好きなんですよ。なので、日本でも牛久大仏が鎌倉の大仏と並んで有名。一度は生で見てみたいという憧れの大仏なんです


大仏好きの人からしたら、デカイというだけでさらに価値が上がるのかな……。まるでメッカ的存在だ

耳を澄ませば意外とビルマ語(ミャンマーの公用語)が聴けるかも。

 

なぜかベトナムで有名な日本語

ベトナムは、住んでいた私自身から。友人から聞いた話もまとめて紹介いたします。

  • ホンダ(バイクメーカー)

バイクの総称。他ならぬ車メーカーのホンダがベトナムのバイク社会を築いたことで、あとから参入したヤマハやカワサキなどのバイクもすべて「ホンダ」と呼ばれることに。地方の修理屋の看板にも「HONDA」と書かれている。

  • おしん(同名のドラマから)

日本の同名ドラマがベトナムで放映。おしんが健気に頑張る様子が、家政婦として働く人が多いベトナム人の心に響いた。今は少なくなったが、「おしん」は「家政婦」を指す意味に。

  • 頑張れ千秋(日本のドラマ「スチュワーデス物語」のセリフ)

日本のドラマ「スチュワーデス物語」が90年代にベトナムで放映。人気を博し、主人公の千秋は日本人の名前として一躍有名に。作中のセリフ「頑張れ、頑張れ、千秋」は、他人やまた自分までをも奮い立たせるときに言うおまじないとして流行し、果ては喜劇のギャグとしても使われたとか。

おしんと言い、ベトナム人は健気に頑張る姿を好むのかもしれない……。

私の世代(30代)には、予備知識なしだとさっぱり意味が分からない。

 

南アジア(というよりインド)編

なぜかインドで有名な日本語

  • さよなら

1966年に制作されたヒット映画「Love in Tokyo」、そこで歌って踊るシーンで流れる曲名とフレーズが話題になって定着。

  • ひまわり、しろ(クレヨンしんちゃんの登場人物)

クレヨンしんちゃんが人気、登場人物名として「ひまわり」「しろ」という日本語が有名に。

こちらが「Sayonara Sayonara」のシーン。60年代の日本の姿が新鮮です。

 

アジアでは戦中とコンテンツ由来の日本語多し

さて、いかがでしたでしょうか。

アジア編だけでも予想をはるかに超えてたくさん集まりました。日本と地理的にも近い訳だし、戦中の影響があったので多かったことも納得……と、思いきや! なぜか有名な日本語はアジアだけではありません! とくにアメリカ大陸では日系移民のひとびとが根付かせた言葉が、その功績とともにたくさん発見! とくにブラジルがものすごいです。

次回は『なぜか海外で有名な日本語:後編(欧州・中東・アフリカ・アメリカ編)』、この公開から一週間後の9/6(木)の公開です。乞うご期待!

 

https://traveloco.jp/kaigaizine/famous-japanese-in-the-world_2

公開しました!

 

なお今回は、ライターや友人のほか、トラベロコのQ&A機能を使って回答をいただきました。無料で現地のことを教えてもらえ、また気に入った方にはそのまま仕事を依頼することもできるサービスです。なにか困りごとがあったらぜひどうぞ。というよりも、海外ZINEはトラベロコのオウンドメディアです。名前だけでも覚えて帰ってください(若手芸人の古き良きツカミ)。

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この記事を書いた人

ネルソン水嶋

ネルソン水嶋

ブロガー、ライター、編集者。2011年のベトナム移住をきっかけにはじめた現地生活を綴るブログ『べとまる』から『ライブドアブログ奨学金』『デイリーポータルZ新人賞』などを受賞を契機に、ライターに。2017年11月の立ち上げから2019年12月末まで、海外ZINEの編集長を務める。/べとまるTwitterFacebooknote

この記事を書いた人

ずんこ

ずんこ

タイを拠点に漫画家活動中。漫画作成、漫画の描き方指導、国内外のイベントにて似顔絵描きをするなどのフットワークの軽さが人気。以前シンガポールに住んでいたこともあり、シンガポールでの活動もしばしば目立つ。日本人向けタイの情報誌「バンコクマダム」などで漫画を連載中。法人から個人まで幅広く仕事を受注してます。連絡先:zunkomanga@gmail.com Facebookはこちら

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