タイの国民飲料はエナジードリンク!?「ファイト一発!」が拓いた土壌

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※本記事は特集『海外の飲み物』、タイからお送りします。

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タイで愛される嗜好品はなにか

タイ人の多くが好む食べもの・飲みものはなんだろうか。タバコやアルコールは日本よりも規制が厳しいくらいで、税金も高くて日常的に嗜む人が少ない。

嗜好品で括ると、他国でよく見るコーヒーもなくはないのだが、文化的には定着していない。それでいえば、むしろ日本の「あの飲みもの」が嗜好品の代表といえるくらい、定着しているのではないか。そんな気がしている。

昔ながらの飲みもの屋台はコーヒー、紅茶、ココア、ジュースなどが頼める。

 

国民的ドリンクはエナジードリンク?

それは、いわゆるエナジードリンクである。もはや国民的ドリンクといってもいいだろう。

タイのエナジードリンク市場を開拓したといえるリポビタンD。

エナジードリンクがタイで広まったきっかけは、実は日本と深く関係がある。それは、日本人なら誰でも知る「リポビタンD」の登場だ。1962年に日本で生まれ、翌年の63年には台湾、そして65年にタイに進出した。世界的に見てもタイでの販売開始は早い。

2017年11月の「SankeiBiz」によれば、タイは開発途上国で最もエナジードリンクの消費量が多い国と紹介されていた。リポビタンDが先か、元々そういった土壌だったのか、エナジードリンク市場として昔から下地があったのだ。

しかし、今もリポビタンDはタイ全土のコンビニで容易に入手できるエナジードリンクではあるが、業界シェアはあまり高くない。現在、業界トップとされるのは、リポビタンDの販売を手掛けているオーソットサパ社が1985年に開発した「M-150」だ。マーケットシェアはおよそ45%となっており、多数あるエナジードリンクの中で最も人気があるといっても過言ではない。

2000年代に入って突如現れたカラバオデーンはあっという間に業界シェア2位に。

これに追随するのが、シェア率約25%の「カラバオデーン」だ。広告塔に、イカしたジイちゃんたちの集まりといった雰囲気のカラバオという国民的バンドが立っていることも人気の理由だ。創業者はこのバンドのリードボーカルと、バンコクで人気のビアホール「タワンデーン」のオーナーで、2002年に発売開始となっている。

ライブの様子。演歌とロックが混じったような曲調がカラバオの特徴だ。

農薬を減らそうというメッセージを込めた歌。

カラバオとタワンデーンをくっつけただけの安易な名称だが売れ行きは好調で、この事業で創業者らは莫大な資産を築いたとも言われている。元々それなりに裕福な人たちが、さらに大金持ちになったというわけだ。タイのエナジードリンク業界は熱いのである。

 

レッドブルはタイ・ドリームのサクセスストーリー

タイのエナジードリンクのシェア率はトップがM-150だが、世界的にはスポーツ業界のスポンサードでよく目にする「レッドブル」がシェア率第1位を誇っていることは疑う余地がない

ただ、意外と知らない人も多いのが、このレッドブル、実はタイ発祥であるということ。

グラティンデーンは最近ラインナップを増やしてきている。

先のタイで人気のカラバオデーンは、このレッドブルのタイ語名「グラティンデーン」をモジっている。それほどに定番的な製品で、1978年に開発された。つまり、リポビタンDよりもあとではあるが、タイでは一番人気のM-150よりも早くに誕生しているのだ。

開発当初は創業者自らが、特にエナジードリンクを好むトラック長距離ドライバーに直接売り歩いていたという。しかし、リポビタンDの販売ルートを全土に持っていたオーソットサパ社のM-150に阻まれて、なかなか人気がでない。それでも、今やグラティンデーン創業者とその一族は大富豪になっている。

そのきっかけがレッドブルの登場だ。1984年にオーストリア人の実業家がグラティンデーンを見出し、販売権を獲得。それから今もなおレッドブルの世界的な快進撃は続いており、創業一族はその多数の株式を保有することで大金持ちになった。

タイには財閥などハイパー富裕層の一族がいくつかあるが、グラティンデーン創業家族はタイ国内での努力のたまものというよりは、ラッキーな金持ちといったところか。近年はゴシップ的な話題に上がることもあり、創業者の孫にあたる男性が警官を高級スポーツカーでひき殺し、使用人を出頭させるなどしてあがき、挙句国外逃亡をして、今では国際指名手配中だ。

エナジードリンクは各国の法令で含有成分が規制されているので、同じ商品名でも中身が違うことはよくある。エナジードリンクも強壮剤としての役割のものがある一方、栄養剤の役目を果たすものなどタイプも様々だ。その中ではタイは他国とは法令が違うらしい。

その違いが大きな話題になったのは、2000年代初頭に欧米のクラブシーンでレッドブルとウォッカのカクテルである「レッドブル・ウォッカ」が爆発的に人気になったことだ。「タイ製のグラティンデーンで割ると、コカインと同じような酩酊状態を味わえる」と噂が広まり、グラティンデーンが入手しやすいタイやシンガポールでこぞって注文された。

こういったことからタイ製レッドブルが入手できない国も出てきたし、実際にドイツでは「レッドブル・コーラ」の缶からコカインが検出され、販売中止になったこともあった(※)。タイのエナジードリンクが他国とは一線を画すエピソードだ。

※意図的に入れたのではなく、「レッドブル・コーラ」に使用されていた材料であるコカの葉に、人体に影響がないレベルではあったものの本来除去される薬物成分が微量残留したことが原因。

コーヒーも最近は身近になった

嗜好飲料の代表と言えばコーヒーや紅茶あたりが挙がってくることだろう。タイも近年はカフェなどが乱立しはじめており、屋台でもそこそこの品質のコーヒーなどが飲めるようになっている。

コーヒーショップも全土的に増えてきている。

しかし、冒頭で触れた通り、タイのコーヒー文化は浅い。近隣のラオスやカンボジア、ベトナムといったインドシナ三国のようにそれらのかつての統治国フランスの影響などがほとんどないからなのではないだろうか。パンもタイは最近までおいしい店はほとんどなく、日本の職人などがバンコクに来てベーカリーを始めたことで普及したようなものだ

今でこそタイはコーヒーショップが多いけれど、僕自身の印象では2000年以降に「スターバックス」が全土に普及したことがきっかけで増えた。オーナーの個性が光るカフェはさらにあとの2010年以降になってからという認識だ。

以前は屋台でこうやってコーヒーを注文して作ってもらっていた。

それ以前のタイは、コーヒーといっても砂糖とミルクあるいはコンデンスミルクを大量に放り込んだものだった。それならベトナムのコーヒーも似たようなものではあるが、ベトナムは豆を焙煎して作ることが多い一方、タイは「ネスカフェ」などのインスタントを使う傾向にあったと記憶している

そして、むしろインスタントならまだいい方で、元々タイ人が飲んでいたコーヒーの中で「オーリアン」と呼ばれていたものがあった。しかしこれは実はコーヒー豆ではなく、タマリンドの種を焙煎したものだ。つまり、代用コーヒーだったわけだ。ちなみに、オーリアンは中国語の黒い飲みものという意味の「烏涼(ウーリャン)」から来ているらしい。

最近はもうオーリアンもかなり珍しくなった。タイ人もコーヒーを飲む人が増えたし、タイ産の豆も普及し、愛国心の強いタイ人は好んでそういった店でコーヒーを注文する。

北部の山奥でコーヒー豆が栽培され、それらがカフェで使われる。

元々、タイもコーヒー豆の生産量はそれなりにあった。今のタイ産豆のブームは、北部の山岳少数民族が大麻畑の代替作物としてなど、政府が主導してコーヒー豆生産を推奨してきた結果だ。そのため、タイ産豆はタイ北部が主流と思われがちだが、タイ南部の生産量も多い。昔からタイ南部でコーヒー豆が栽培されていたが、ほぼすべてがインスタントの材料になってしまうため、あまり表に出てこなかったのだ。

コンビニで買える「コフィー」という名のオーリアン。

このように、タイもコーヒーをおいしく飲める店が増えている。ただ、悲しいかな、コーヒー先進国ではないので、タイ独自のコーヒーの飲み方というのはそう見かけるものではない。だから、真のコーヒーマニアがタイを訪れても、新発見はないかもしれない。むしろ、オーリアンなどの方がタイらしいので、復権するべきなのではないかと思う。

 

嗜好飲料ならコーヒーよりも緑茶の方が一般的

コンビニなどでは缶コーヒーもそれなりの種類が売られている。とはいえ、日本のコンビニと比較すれば大した数ではない。それも、大半のブランドは日本の「味の素」社が販売するものだったり、あとはネスカフェなどがあるくらいで、結局、レパートリーとしてはおもしろみはない。

そこで緑茶をお勧めしたい。近年は日本のメーカーも多数進出していて、日本の緑茶そのものを味わえるようになっている。

チェンライ県にある、シンハビールが所有する茶葉畑。

ただ、タイのコンビニやスーパーで緑茶を買うときには注意が必要だ。というのは、加糖が一般的なので、買う前に加糖か無糖は要チェックなのだ。無糖だと思っていた緑茶が甘かったときの舌のショックレベルは非常に危険である。

「チャクザ」は茶と炭酸という、日本人からすればありえない組み合わせだった。

とはいっても、加糖緑茶も飲み慣れると案外悪くなかったりする。特にハチミツレモン味は暑くて渇いている身体を潤すにはかなり向いていると思う。僕がちょうど中学生前後のころにハチミツレモンのドリンクが流行したので、その思い出も入っていて、世代にもよるかもしれないが。

タイ政府は公共保健省がバリスタ資格を交付し始めている。

タイは年中暑い国なので、飲みものの種類は数多にある。今回は嗜好品を中心に見てきたが、果物が多い国なので安くフレッシュフルーツのドリンクもそこかしこで飲めるし、食事だけでなく飲みものでも楽しめる国だ。水分補給のついでに、ドリンクにも興味を持って観察したら、いつもとは違うタイが見えるかもしれない。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

高田 胤臣

高田 胤臣

1977年、東京生まれ。1998年に初訪タイ、2002年からタイ在住。タイの救急救命慈善団体「華僑報徳善堂」唯一の日本人ボランティア隊員。現地採用社員としてバンコクで日系企業数社にて就業し、2011年からライターになる。単行本数冊、AmazonKindleにて電子書籍を多数発行。執筆のジャンルは子育てネタからビジネス関連まで多岐に渡る。最近は「バンコク心霊ライター」の肩書きがほしく、心霊スポットを求めタイを彷徨う。

この記事を書いた人

ずんこ

ずんこ

タイを拠点に漫画家活動中。漫画作成、漫画の描き方指導、国内外のイベントにて似顔絵描きをするなどのフットワークの軽さが人気。以前シンガポールに住んでいたこともあり、シンガポールでの活動もしばしば目立つ。日本人向けタイの情報誌「バンコクマダム」などで漫画を連載中。法人から個人まで幅広く仕事を受注してます。連絡先:zunkomanga@gmail.com Facebookはこちら

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