朝の渋滞の原因はカルダモン入りミルクティー?カタール定番の飲み物”カラク”

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※本記事は特集『海外の飲み物』、カタールからお送りします。

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出勤前にまずは”カラク”でリフレッシュ

毎朝、出勤の途中で目にする風景。

出勤前に頭をリフレッシュさせようとティーショップへやってくる彼らの目的は、 “カラク” と呼ばれる飲み物です。味はインドのマサラティーに似ており、違いもありますが、それはのちほど。スモールサイズの紙コップに入れられた熱々のカラクは1杯1リヤル(約30円)と、だれにでも手の届きやすいお手軽価格です。

職場についてから、ゆったりと味わうことも

 

そもそもカラクはどこからきたの?

そんなカラクはインドが発祥。カタールに大勢いる、インド南部地域を中心とした南アジア出身の外国人労働者たちが持ち込んだものです。

彼らがやってきたのは、1950年代後半から1960年代にかけて。ちょうど油田が発見されてカタールが大きな発展を始めた頃に、ビルやインフラ建設に従事するために大勢の労働者がインドやパキスタンからやってきました。そこで彼らが “故郷の味” として持ち込んだもの、その一つがカラクだったのです。

”カラク”とはヒンディー語やウルドゥー語で「強力な」という意味の単語で、これは茶葉を大量に投入し、非常に濃く淹れる作り方に由来しています。出勤前の一杯に気つけとして飲む行為は、まさに由来通りです。

床屋に行くと毎回出てくるカラク

私とカラクとの出会いは、行きつけの床屋さんでした。インド人の店主が、散髪の合間に店の奥で作った甘いカラクを飲ませてくれたのです。

最初はその甘ったるさに驚き、単に砂糖をタップリ入れたミルクティーかと思っていましたが、飲み慣れてくるとスパイスの香りを感じられるように。今では激甘でないと満足できない体に(笑)。

 

カラクはカルダモンのミルクティー

冒頭で「味はインドのマサラティーに似ているが違いもある」と書きましたが、それは使用するスパイスの数。マサラティーが様々なものを使うことに比べて、カラクは基本的に一種類だけ。カルダモンです。そのためカラクは、出勤前にティーショップで手軽に買える一方で、家でつくれる飲み物でもあります。

では、我が家での作り方を少しご紹介しましょう。

まず材料は、

− 湯(800cc)
− 紅茶の葉(大さじ5杯)
− ミルク(100cc)
− エバミルク(無糖練乳)(300cc)
− 砂糖(大さじ5杯)
− カルダモン(3〜5粒)
− 生姜(小さじ1杯)

※これで小さめの紙コップ5~6杯分

 

カルダモンはインド原産の”スパイスの王様”

アレンジでサフランやシナモン、クローブといったものを加えることもありますが、基本はこの5つ。

最初に茶っ葉を鍋に入れます。これはティーバッグと同じルーズタイプ。

そこへ、先に沸かしておいたお湯を全体の半分くらいまで注ぎます。

我が家ではそこに生姜を加えるのがポイント、お好みで。

ミルクは牛乳ではなく、無糖練乳(エバミルク)と呼ばれる濃縮牛乳を使用します。練乳ではないのでご注意を。

通常の牛乳よりもコクのあるミルクを惜しげも無く大量に投入することで、カラクの濃厚な味わいを作り出します。スタンダードや低脂肪など数タイプが売られていますが、数年前からは、カルダモンが最初から入っているタイプが発売されて重宝しています。これはカラクを家でつくるという需要のあらわれとも言えそうです。ここへ更に、ミルクを加えて量を調整します。

砂糖もタップリ入れるのが基本ですが、最近は健康を気にして控えめにオーダーする人もちらほら。

我が家ではブラウンシュガーを少なめに使用しています。

更にカルダモンを加えて味を強めに。

ひと煮立ちしたら出来上がり。

最近はインスタントタイプも出回るようになりましたが、お味の方はそれなりかな(個人的感想)。

 

こだわり派はポット持参で出勤

カタールでは、大抵の職場にはスタッフや来客者に飲み物を提供するための台所が設置されていて、専属の給仕たちがコーヒーや紅茶など要望に応じて提供しています。もちろんカラクも対応可能です。

うちのカタール人の同僚には「カラクを飲めば頭痛が止まる」と豪語する人も少なくありません。それほど彼らにとってカラクは必須アイテムなのですが……残念ながら、職場で出てくるカラクはティーバックを煮出して作る、言わば「なんちゃってカラク」なのです。

これはこれで美味しいのですけどね

以前、職場の台所でのんびりと「なんちゃってカラク」を飲んでいたら、突然ドアが開き「タケシ、それカラクちゃうで」と言うので振り返ると大臣が。カタール人、どこまでカラク好きなんだか。

そんな真のカラク好きは、職場であろうと諦めません。それならばと、「ティーバッグを破いて中の葉を直越煮出せば良いんだ」と給仕に指導する者がいれば、自宅で作ってポットに入れて持参する者まで。時間の余裕がない人は、冒頭で紹介したティーショップで出勤途中にポット買いです。

そして我が家も、平日の午後に近所の公園までプチピクニックに出かける際には、ポット持参でアパート周辺のティーショップへ。料金は注いだカップ数で割り出し、それに応じた数の紙コップも付けてくれるので重宝しています。ちなみにティーショップはどこも基本的に24時間営業です。

ピクニックのお供に

 

渋滞の原因になるほど増えるティーショップ

私が住むエリアの中だけでも、3〜4軒のティーショップがあり、当然売れ筋はカラク。もちろんカラク専門店という訳ではなく、紅茶やコーヒーなども置いてあるのですが、それでもカラクが主力なのです。

どの店の前も大型四駆などでごった返しています。これ、ティーショップに限らず、カタール人がよくやる「即席ドライブスルー」。特にティーショップは比較的交通量の多い道路沿いなどにあるため、常に渋滞の原因として新聞などでも話題に取り上げられることがあります。渋滞を生むほど魅力の飲み物なのです。

一方、最近はコーヒーブームも秘かに盛り上がっています。こちらはモールへの出店が中心で、テーブル席でゆったりと過ごすスタイルがウケているようです。街中にこじんまりとした店構えで、テイクアウトが主なティーショップとは、うまく棲み分けができているようです。

 

ガホワを少量注ぐのは砂漠で生まれたマナー

ここまでカラクについてご紹介しましたが、カタールの飲み物といえば実はそればかりではありません。そんなカラクに並ぶ、カタールを代表する飲み物と言えば、「アラビックコーヒー」です。アラビア語で「ガホワ」(これは湾岸方言、正確にはカホワ)と呼ばれるもので、私たちが飲み慣れたコーヒーとは違い、超浅煎りの豆を使うのが特徴です。

煎る豆を砕いて粉にしたものがスーパーなどで売られており、これをお湯で煮出します。この時にカルダモンを入れるのはカラクと同じ。煮立ったら底にサフランを入れたポットへ移します。カラクと同じように生姜を加えたりと、ガホワにも各家庭それぞれの「こだわりの味」があります。

飲む時はフィンジャール(もしくはフィンジャーン)という小さなカップに注ぎます。この時、一口か二口で飲み干せるほどのごく少量だけ注ぐのがマナー。これは水が貴重だった砂漠生活の名残りで、その場にいる全員に行き渡るようにという気遣いが元になっています。

フィンジャールで飲むガホワ

マジリス(カタール人の家に必ずある大きな客間のこと。部族にとっては親族の寄り合い所)に行き、着席するとまずはガホワが出てきます。これはベドウィンのおもてなしの一つなので、出されたら必ず一杯は飲むのが礼儀。おかわりが不要な時は、カップを上から握るようにして左右に軽く振ると「もう結構です」の合図になります。

 

まったく違うけどカタールを象徴するふたつの味

南アジアから入ってきたカラクはどちらかと言えばカジュアルな飲み物。一方のガホワはアラブの砂漠で生まれた、いわばアラブ文化の一つであり、作法を伴うフォーマルな飲み物と言えるでしょう。それはそのまま、昔から外国人労働者が多いことや砂漠とともにあるという、カタールの歴史や伝統を象徴しています。

カタールへお越しの際には是非とも両方の味を楽しんでみてください。

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この記事を書いた人

福嶋 タケシ

福嶋 タケシ

1970年生まれ、大阪出身。1999年にUAE大学留学。2002年よりカタール在住。現地政府所属の公務員として、写真撮影およびメディアリサーチ等を担当。ラクダをこよなく愛し、鷹匠に憧れる日系ベドウィン。Instagram / 『遊牧民的人生

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