2018.02.01

世界最悪の大渋滞はビジネスチャンス! インドネシア・ジャカルタの通勤地獄

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インドネシアの首都・ジャカルタを中心とした首都圏は、知る人ぞ知る渋滞地獄。空港に向かったけど搭乗時刻に間に合わず、という逸話もよく聞きます。その背景には経済発展や交通マナーなどがあるようです。そんな中で少しでも快適な通勤ライフを過ごすための工夫など、現地在住ライターの武部さんにご紹介いただきます!

インドネシア在住のライター、武部洋子さんにご紹介いただきます。

 

バイクタクシー通勤の悲喜こもごも、ジャカルタは通勤地獄

ジャカルタの通勤について語る時避けては通れない問題、それは世界最悪とも言われる恐るべき渋滞。ジャカルタを訪れた者、住んでいる者すべてが渋滞にまつわる戦慄の逸話を持つため、ご存知の方も多いかもしれません。

あれはまったくネタでも誇張でも、たまたま不運だったわけでもなし。通勤往復時間は3~4時間が当たり前、郊外に住む自動車通勤者はまだ月がきれいな夜明け前から家を出ます。ピーク時の市内では、徒歩10分の距離が車で1時間かかることなど日常茶飯事。

「だったら歩けばいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、ジャカルタは全体的に歩道が少なく、車と車の間が少しでも空いていればところてんのごとくバイクが流入するので、哀れな歩行者のスペースなど皆無に等しい状態です。

そして、これが私の通勤スタイル。月曜から金曜まで、朝9時に出勤しています。通勤手段は配車アプリ「GO-JEK」によるバイクタクシー。これを利用する理由は我が家からオフィスまで電車が通っていないこともありますが、「渋滞がいやだから」「通勤時間が短縮できるから」、そしてなにより「風を切って走るのが楽しい」から。

Spotify(音楽配信サービス)でお気に入りのプレイリストを聴きながらジャカルタの街を飛ばしていると、まるで映画のワンシーンみたいで、月曜の朝でも、疲れて帰る夕暮れ時でも、いつでも気分が上がるのです。我が家からオフィスまでの距離は17キロ。朝は車でおよそ80分、バイクだとおよそ50分。貴重な朝の時間にちょっぴり余裕が生まれます。

帰宅時、バイクの後部席から見た風景。

なんともやっかいな存在は雨季です。ジャカルタでは10月ごろから半年ほど雨季に入り、帰宅時間になると一天にわかにかき曇り、暴力的なまでの雨が街を襲う日々……。すると流しのタクシーは皆無、アプリで呼んでも指定場所に来るまでどれだけ待てばいいのかわからない

適当にオフィス周辺でお茶でも飲みながら雨がおさまるまで待つこともありますが、どうしても早く帰りたい時や、いつまで待っても土砂降りだったりするともう意を決してバイクタクシーで帰宅します。当然帰るとびしょ濡れなんですが、それを少しでもマシにするための装備は常に持ち歩いています。それがこちら。

私の通勤グッズです。基本的に、ヘルメット、使い切り用のマスク、雨合羽はドライバーが貸してくれますが、ドライバーが持っているヘルメットは大きすぎたり、あごひもがちゃんと締まらなかったり臭かったりする。マスクだって時々在庫が切れていたり、あまりにも薄っぺらかったりする。雨合羽はたいてい猛烈に臭う。

というわけで、毎日往復利用する私は、こうして全部持ち歩いた方が気分よく通勤できるのです。眼鏡は朝用と夜用の2種類。ビーチサンダルは雨の時用。移動を楽しく過ごすためのイヤフォン。一番右のカード入れの中には、交通機関用の電子マネー、オフィスのアクセスカードなどが入っています。

 

大渋滞の陰には、経済発展、インフラ開発、運転マナーなどなど

街中が渋滞であることを示す、真っ赤なGoogleマップ。

ジャカルタでは、日時に関係なく渋滞が多いので、移動にはいつでも細心の注意が必要です。GoogleマップやカーナビアプリのWAZEなどで渋滞状況をしっかり確認の上、計画を立てる必要があります。

特に恐ろしいケースは空港行き。ルートが限られているので、一旦渋滞にはまると、最悪の場合はフライトを逃す羽目に陥ります。早朝でもない限り、最低でもフライト前4時間は余裕を見ておかなくてはなりません。実は、2017年12月より市内から空港行きの電車(30分毎の運行)が開通、約1時間でたどり着けるらしいのですが、駅までの移動を考えると、結局出発時間は同じような気が……。

©OpenStreetMap

なぜ、これほどまでにジャカルタは渋滞がひどいのでしょうか?

ジャカルタは、面積が東京23区とほぼ同じで人口は1000万人以上、ジャボデタベック(ジャカルタ、ボゴール、デポック、タンゲラン、ブカシの略称)と呼ばれる都市圏全体で約3000万人で、この数は地方からの流入で日に日に増えています(参考:Jakarta Population 2017)。

これだけの人々が毎日ジャカルタとその周辺を移動しているにもかかわらず、公共交通機関が十分に発達していない中で、さらに2019年開通に向けてMRT(※1))や、LRT(※2)、高架道路に高速道路など、新しい交通インフラが市内各所絶賛建設中、この工事のせいで車線が狭まっているのです。

他にも、比較的入手しやすい価格帯の自動車が増え、それを所有できる層が増えていること、バイクの数が多いこと、好き勝手に停車や路線変更をしたり、隙間さえあればぐいぐい入り込むなどドライバーたちの運転マナーがよくないこと、車線が突然少なくなるボトルネック状の道路やぼこぼこの道路が多い、時々起こるデモなどなど、渋滞を引き起こす要因は枚挙にいとまがありません。

※1 (ジャカルタ中心部に開通予定の)地下鉄を含む大量高速鉄道
※2 郊外から市内を結ぶ次世代交通システム

MRTの建設工事中で車線が狭まっているオフィス街、スディルマン通り。

また、配車アプリ企業のUBERが2017年に発表した調査によると、ジャカルタにある自動車の数は2230万台。このままだと、2022年にはジャカルタの道路はまったく身動きできない状態になるそうです(参考:Uber | Unlocking Cities)。なお、さきほどの人口との比率がすでにおかしいのですが、ジャカルタ市民の全員が所有しているのではなく、一家に何台も持つ富裕層や社用車のためかと思われます。その状況を表したビデオがこちらです。

 

オジェック? バジャイ? ジャカルタ交通機関のいろいろ

2016年時点で、通勤に最も使われている交通手段はオジェック(ojek)と呼ばれるバイクタクシー。そのあと、バス、電車、トランスジャカルタ(Transjakarta)、タクシー、三輪タクシーのバジャイ(bajaj)、という順番でした(参考:じゃかるた新聞)。

多くの人はどれかひとつだけではなく、うまく組み合わせて利用しています。例えば、家の最寄り駅まではオジェックで移動して、勤務先の最寄り駅まで電車で移動、そのあとはバスやバジャイで目的地まで、といった感じです。オジェックは次の項目で説明するとして、いくつかの交通手段を紹介します。

バス

ご存知、バス。一般道路上を走るもの。写真のようにドアを閉めず、車掌がコインでガラスをカンカンと叩きながら行き先を叫んで乗客を集めます。ドアの閉まるエアコン付きのものもあります。

運賃はおよそ30~40円程度で、車掌に直接払う。停留所は一応ありますが、「ストーップ!」と叫べばけっこうどこでも止まってくれます(でもそれが渋滞の一因でもあったり)。完全に止まっていない時に降りる場合は、必ず左足から降りないと、足が絡まって転びます(インドネシアは左側通行)。

トランスジャカルタ

トランスジャカルタは道路上のバス専用レーンを使って走るバスです。

利用は電子マネーのみ使用可で、およそ30円の運賃を改札口でタップして入る方式。現在、市内のあらゆる方面に向かってトランスジャカルタ網が複雑に展開しています。ただ、ルートによっては運行台数が少なかったり、交差点などで一般車線と混じり合ったり、いくら取り締まってもレーンに侵入する一般車両があったりで、必ずしも全ルートで快適にすいすい!というわけにはいきません。(ルート図

右側のバス専用レーンに入り込む一般車両。

電車

画像提供:PT Kereta Commuter Indonesia

ジャカルタに電車が登場したのはオランダ植民地時代の1924年。その3年後には市内をめぐる電車網が完成したものの、路線が少ないので、現在ではどちらかというとデタベックの郊外からの市内通勤者に重宝されています。乗車にはおよそ80円のデポジットが必要になりますが、運賃自体はおよそ25円。

市内を走る電車のほとんどは日本からの中古車両なので、快適な電車に乗っていると自分がどこにいるか一瞬わからなくなることがあります。個人的には、川沿いに走るマンガライ駅からスディルマン駅間の景色が四谷~市ヶ谷間の風情を醸し出していてお気に入りです(ルート図)。

ちなみに赤い顔をしたこの電車はカレル君というキャラクターになっており、テレビ東京のアニメ『トレインヒーロー』のスピンアウト編に登場もしています。日本に在住の方に限って、こちらのリンクから視聴可能

バジャイ(bajaj)

もともとガソリンを燃料としたオレンジ色の車両がメインだったのですが、現在ではガスで動く青いものに取って代わりました。運賃は交渉制、ルートがあるわけではなく、タクシーみたいに好きなところで止めて好きな行き先を告げます。大通りなど通行制限があり、主に近距離の移動の際に利用。

その他

その他に考え得る通勤手段といえば自転車、タクシー、配車アプリによるサービス、自家用車、自家用バイクなど。

自転車はオートバイの代わりというよりは、ある程度収入がある層の趣味的な位置付けです。「Bike to Work」という、環境のために自転車で通勤しようという個人が集まるコミュニティもありますが、天候や排気ガス、それに交通状況などを考えるとかなりハードルが高く、そうそう気軽に取り入れられるものではありません。

配車アプリによるサービスは、先述のバイク以外にも四輪車があり、時間帯によってはタクシーよりだいぶ安く乗れます。競争の激化により、主要タクシー会社はすでに配車アプリ各社との協業を始め、ユーザーにとっては非常に使いやすい環境になってきました。自家用車は本人が運転する場合もありますが、会社から提供されたり、家庭で雇った運転手がいる場合もよくあります。

 

渋滞はもはや文化? 童謡からビジネスチャンスまで

交通インフラの開発も背景のひとつとはいえ、渋滞はつい最近の現象というわけではありません。90年代前半には『Si Komo Lewat Tol(コモちゃん、高速道路を行く)』という童謡の中で、コモドオオトカゲを摸したキャラクターのコモちゃんが登場、「♪ 渋滞渋滞、またまた渋滞、コモちゃんが通ったせい ♪ 」という歌が大ヒットしました。

当時のインドネシアはスハルト大統領の強権支配下にあり、「この歌詞は、スハルトが通るたびに通行止めがあることを風刺したものだ」「コモちゃんはスハルトなのだ」という噂がまことしやかに囁かれましたが、作詞者はこれを否定しています。

ただ、私は90年代からジャカルタに住んでいますが、ここ数年の渋滞に比べれば、コモちゃんの起こしていた渋滞などまだまだ牧歌的だったなあと思わざるを得ません。

緑と黒のジャケットを着たGO-JEKとGRABのドライバーたち。

そんな渋滞の中、急成長を遂げたビジネスがアプリを利用したオジェックです。オジェックはそもそも個人営業で、近所にたむろしているバイク・ドライバーに声をかけ、値段交渉して乗るものでした。これが組織化され、決まった料金体系の下でアプリによる配車ができるようになったのです。

これこそが、通勤手段の第一位。現在は、GO-JEK、GRAB、UBERなどの各社がしのぎを削っていますが、GO-JEK社は米フォーチュン誌による「世界を変えた50の企業」にアジアで唯一選ばれるほどの活躍ぶり(参考:Gojek Masuk Daftar 50 Perusahaan Pengubah Dunia versi Fortune)。さらにバイクタクシー以外にも、ヘアスタイリスト・ネイリスト・マッサージ師・お掃除スタッフなどの出張サービス、フードデリバリー、ショッピング、公共料金の支払いなどなど、このアプリひとつでなんでもできるという便利さです。

支払いはGO-JEKの場合、GO-PAYというプリペイドシステムを利用するとキャッシュレスかつ割安になるうえにポイントが稼げます。

ちなみに、渋滞問題解決のためのビジネスとしては、最近ではついに首都圏移動のヘリコプター移送まで登場したようです。莫大な経済的損失を生み出す渋滞、対策をすべて政府に任せて指をくわえて待ってはいられない状態なんですね。

さて、果たしていつの日かジャカルタが渋滞から解放される日は来るのでしょうか? 期待しないで見守りつつ、私は今日も楽しくバイク通勤です!

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この記事を書いた人

武部 洋子

武部 洋子

東京生まれ、1994年からジャカルタ在住。現在はインドネシア国籍を有する。上智大学文学部新聞学科卒。『旅の指さし会話帳インドネシア語』(情報センター出版局)、『単語でカンタン!旅行インドネシア語』(Jリサーチ出版)など著作の他、『現代インドネシアを知るための60章』(明石出版)執筆、辰巳ヨシヒロ作『劇画漂流』インドネシア語訳など。インドネシアへの入り口がロックだったので、90年代インドネシアロックにはうるさい。Twitterはこちら

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