2大文明に挟まれたミャンマーの朝食! 中・印・英が揃い踏み

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※本記事は特集『海外の朝食』、ミャンマーからお送りします。

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インダスと黄河の2大文明に挟まれたミャンマーの朝食

世界4大文明に数えられるインダス文明の末裔インドと、黄河文明を生んだ中国の狭間に位置する国、それがミャンマーです。朝ごはんのテーブルにも、偉大な文明たちの大いなる流れを感じることができます。

大衆喫茶ラペイエサンの朝

ミャンマーは周辺諸国に比べて外食産業があまり発達しておらず、国際市場調査会社ユーロモニターによる2011年の調査では、共働きが当たり前で外食が盛んなベトナムの1/10程度の規模と推察しました。

もちろん、国内最大都市ヤンゴンの中心部には屋台が目につきますが、郊外や地方都市では飲食店を探すのにも苦労することがあるほどです。この背景には、敬虔な仏教徒が人口の多くを占めるミャンマーでは食事はもてなすものであってお金を取るものではない、という考え方が根底にあるためといわれています。しかし、一人暮らしのワーカーたちは別。特に男性は「ラペイエサン」と呼ばれる大衆喫茶で朝食をとる人がかなりの数います。

ラペイエサンで多くの人が飲むのが甘いチャイ

ラペイエサンでのドリンクの主流は練乳がたっぷり入ったチャイ。練乳の量に応じ、最も甘い「チョーゼイ」から甘さ控えめ(とはいえかなり甘い!)の「チャーゼイ」まで、それぞれに呼び名のついた段階があります。飲み物を注文すると、テーブルの上に置かれたヤカンやポットに入った中国茶が飲み放題に。ドリンクだけで既に中印揃い踏みですよね。

チャイ専門店には16段階の甘さを指定できる店も

飲み物を運んでくると、次に店員は様々なスナック類をテーブルに置いていきます。食べた分だけ最後に払うシステムですが、それらが実に多彩。シュウマイやちまき、肉まんといった中華風のものから、サモサやロティといったインド料理、さらには旧宗主国だったイギリス風のパウンドケーキまで、大陸横断な料理が並びます。

中国とインドの味がミャンマーのテーブルで一堂に介す!?

もちろんメニューからも注文できます。朝食の鉄板メニューといえば、ふかしたエンドウ豆をご飯にのせたペータミンやご飯をナンのようなパンに替えたペーパラータ、そして麺料理です。

ミャンマーにおける朝食麺の主流は地方により異なり、ミャンマー最大都市であるヤンゴンではモヒンガー、東部シャン州ではシャンカオスエ、中部マンダレーはマンダレーミーシャイといった具合です。もちろん、各々の地域でもほかのエリアの麺は食べており、特にモヒンガーは全国的に広く、朝食麺として普及しています。

 

地方色豊かな朝食の王様麺モヒンガー

朝食麺の定番中の定番モヒンガー

モヒンガーは米粉を発酵させて作ったソーメンのような細い麺で、日本でいうところのビーフンにそっくり。これにナマズをベースに、バナナの茎やレモングラス、玉ねぎなどを入れてじっくり煮込んだスープをかけます。豆粉や米粉も入れてドロッとした食感に仕上げ、豆を円盤状の掻き揚げにしたものや、ヒョウタンの天ぷらなどをトッピング。お好みで唐辛子やライムの果汁、パクチーを加えます。

ミャンマーでは豆を掻き揚げにして食べる

全国に普及しているだけあり、味にも郷土色が顕著。たとえば潰したヒヨコ豆がたっぷり入るヤンゴン風に対し、南部モン地方のものはあっさり澄んだスープが特徴です。そのため、ヤンゴンっ子がモンのモヒンガーを「あんな水っぽいスープはありえない」と評したり、逆にモン出身者が「ヤンゴンのモヒンガーはどぶのようにドロドロ」と揶揄したりと、関西人と関東人のうどん・蕎麦論争に近いやりとりも耳にします。

また、ナマズの産地であるエーヤワディ風は特に美味とされ、とりわけ河川漁業基地のひとつであるミャウンミャのモヒンガーはピリリと効いたコショウの風味もあって、ヤンゴンでもとても好まれています。ミャウンミャ出身のオーナーが経営する人気モヒンガー専門店「ミャウンミャドーチョー(ミャンマー語で「ミャウンミャのチョーおばさん」という意味)」はチェーン展開しており、同店特製のインスタントモヒンガーも売られているほど。人気のラーメン店をフィーチャーした日清食品の「行列ができるラーメン店」シリーズのラーメンのようなものかもしれません。

こちらが人気店ミャウンミャドーチョー

 

早朝にしか食べられない究極の朝食麺

ヤンゴンでモヒンガーの次に定番といえるのがオンノウカオスエ。小麦麺にココナッツミルクベースのカレースープをかけたもので、最近日本で人気が出てきた北タイ料理カオソーイとよく似ています。北タイはかつてミャンマーの王国が支配していた時期もあり、カオソーイはミャンマーの影響を受けた料理だという人もいます。

この麺を出す店はたいてい朝5時頃から営業し、8時くらいまでには売り切ってしまいます。というのもココナッツミルクは足が速く、常夏の国ミャンマーでは日が高くなる頃には腐ってしまうからです。オンノウカオスエはまさに朝食のためにのみ存在する麺といえます。

ミャンマーでは珍しいココナッツミルクベースのスープを使うオンノウカオスエ

ほかにもシャン州発祥で、細い米麺にクリアなあっさりスープをかけ甘辛く煮た鶏肉ないしは豚肉をのせるシャンカオスエ、辛めのタレと豆粉を小麦麺にからめた汁なし麺ナンジートゥ、春雨炒めチャーゼンジョーなどが朝食麺といえるでしょう。

 

ボリュームを求めるなら麺料理にごはんを投入

ここまであげた朝食は主に外食料理です。単身者の場合はこうした食事をラペイエサンや路上屋台で食べる人が多いですが、実際のところミャンマーでは自宅で家族と一緒に朝ごはんを囲むのが一般的です。では家庭では朝ごはんに何を食べているのでしょうか。実は、昼や夜とそう変わらない料理を朝から食べる家庭が多いのです。

モヒンガー店には人数分を買いに来る家庭も多い

前述したようにミャンマー人はあまり外食を好まないため、学校や職場での昼食には弁当を持参します。そのため、たいていの家が朝からご飯を炊きます。だから炊き立てのご飯に前日の残り物の煮込み料理をかけたり、お弁当用に作った料理を朝も食べたりするのです。

外食朝ごはんの王様モヒンガーも、調理に手間がかかるため家庭ではあまり作りません。ほとんどの家庭では近所のモヒンガー店で購入し、持ち帰って食べます。食べ盛りの男性だと、モヒンガーにご飯を足して食べる人もけっこういます。

こうした食べ方は麺料理を箸で食べる日本人には理解しがたいかもしれません。しかし、ミャンマーでは中国に近いエリアを除き、麺料理は基本的に手かスプーンで食べるために最初から短く切ってありますし、麺にコシを好まないので米と混じっておじやのようになってしまってもそう違和感はないのです。

オフィス街の朝の路上にはモヒンガー屋台が店開き

まさにところ変われば品変わる。中国料理系の汁入り麺料理を食べる西の限界ともいえるミャンマーでは、麺の食べ方も東の端の日本とは大きく異なるのかもしれません。朝食シーンひとつをとっても、東アジアから東南アジア、そして南アジアへと続く食文化の大きな流れを感じることができるものですね。

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この記事を書いた人

板坂 真季

板坂 真季

ガイドブックや雑誌、書籍、現地日本語情報誌などの制作にかかわってウン十年の編集ライター&取材コーディネーター。西アフリカ、中国、ベトナムと流れ流れて、2014年1月よりヤンゴン在住。エンゲル係数は恐ろしく高いが服は破れていても平気。主な実績:『るるぶ』(ミャンマー、ベトナム)、『最強アジア暮らし』、『現地在住日本人ライターが案内するはじめてのミャンマー』など。Facebookはこちら

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