今日は何系?多民族の料理がはしごできるマレーシアの朝ごはん

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※本記事は特集『海外の朝食』、マレーシアからお送りします。

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マレーシアの朝は早い

クアラルンプールの夜明けは午前7時前後。外はまだ暗くても、人びとはもう動き出しています。

マレー系などのイスラム教徒は、朝6時前に一日のはじめの「夜明けの礼拝」を済ませるので早起きです。日中に飲食をしない断食期間中は、夜明け前に食事をする都合で一層朝が早くなり、わたしの友人は午前3時に起きて家族の食事の支度を始めるそうです。

各地のイスラム教徒の礼拝時間がわかる Islamic Finder。日付ごとの行に、日の出と一日5回の礼拝時間が書かれている。

子どもたちも寝坊ができません。学齢や学校によっても違いますが、マレーシアの学校は朝8時前後に始まります。子どもたちはスクールバスで通学しますが、決まったルートを回るバスは時間がかかるので、6時台にはもう住宅地を走っています。

朝6時ごろ、住宅地を回る通学バス。夜明け前なので周りはまだ真っ暗。

子どものいる家庭は、登校する子どもの朝食を用意したり身支度を手伝うために必然的に早起きになり、日本人学校に子どもを通わせているお母さんたちも、5時半には起きてお弁当の支度をしているそうです。

大方の人の通勤手段は車で、通勤時間には交通渋滞が起きます。ラッシュを避けるために、車の少ない時間に職場の近くに移動してから朝食をとる人もいるので、朝ごはんは家庭のほか、食堂や屋台、職場など、さまざまな場所で食べることになります。

 

モザイク国家ゆえに「マレーシア料理」はない?

多民族が暮らすマレーシアは、典型的なモザイク国家といわれます。国際貿易港として栄えたマラッカに外国人商人が多く定着したこと、その後イギリスの植民地になり、英領各地から移民労働者がやってきたことが、現在の多民族社会をつくりました。

主な民族は人口の過半数を占めるマレー系、都市部に多い華人(中国系)、少数派のインド系、先住民族(マレー系)。このようにルーツが違うために食習慣が異なり、加えて宗教的な禁忌がある場合は他民族の料理を食べにくいという事情があり、相互に影響は受けつつも融合しない部分が少なからずあります

ココナッツミルクで炊いたごはん「ナシ・ルマ」を売る屋台のマレー女性。

マレー系はムスリムで、豚を不浄視しているので豚肉(猪も同類)を食べません。

イスラムの戒律に沿ったものと認証されたことを示す、ハラール・マーク

一方、中国では豚肉の調理法を発展させてきたため、その食文化を継承している華人は豚料理をことのほか好みます。しかし、仏教徒の華人の中には菜食を実践している人もいるので、こういう人びとはヴェジタリアン・レストランで食事をとります。

華人の多い地域の食堂兼惣菜屋。炒めものを中心に中華風のおかずが並ぶ。

インド系は、スパイスを多用したカレーなどの料理を食べています。しかし、イスラム教徒は豚を食べず、ヒンドゥー教徒は牛を食べず、宗教的な理由で菜食主義者も多いので、キリスト教徒以外の食生活は保守的な傾向があります。

インド系の食堂。客はインド系のほか華人も多い。

というわけで、「マレー料理」「中華料理」「インド料理」などはあっても、「マレーシア料理」という分類にはなりにくく、日常的にはマレー系の人はマレー料理、華人は中華料理、インド系はインド料理を中心に食べています

 

マレー系代表はココナッツ風味の「ナシ・ルマ」

「ナシ・ルマ」はココナッツミルクで炊いたごはんに、固ゆで卵、フライドチキンや揚げた小魚、きゅうりがのった料理です。

サンバル・ソースの辛さを、ゆで卵ときゅうりが和らげる「ナシ・ルマ」

「ナシ」はごはん、「ルマ」は油とか脂肪という意味なので、文字通りの意味は「油ごはん」? パンダンというハーブの葉で包んであり、遠目にはちまきのようにも見えます。

食堂のテーブルには、持ち帰りにも便利なように、包んだナシ・ルマも置いてある。

味の決め手は、マレーシア人が愛してやまない「サンバル」という辛いソース。唐辛子のペーストににんにく、マライチャン(えび味噌)を加えて炒めた、独特の香りのあるチリソースで、これをごはんに混ぜながら食べます。わたしの場合はソースなしでも十分味がついているように感じますが、そこは好みで。付け合わせのフライドチキンやゆで卵と合わせると一皿で千カロリーを超えるため、肥満に注意といわれている一品です。

道路脇に出るナシ・ルマ屋台の行列。店主はマレー系だが、客には華人、インド系も。

 

激戦の中国系代表は「海南チキンライス」

「日本に行ったときは、朝食を食べられるところを探すのに困りました」とマレーシア人に言われたことがありますが、特に中国系は朝の外食メニューが豊富。田舎町に行っても、駅やバス・ターミナル、市場など人の集まるところに行けば、いろいろな朝食があります。

「海南チキンライス」は、東南アジア各地にある鶏のせごはん。ベトナムに近い海南島出身の中国人が始めた料理といわれていて、ゆでた鶏を、鶏の油で炊いたごはんにのせて食べるごはん料理です。付け合わせは、輪切りの唐辛子に、にんにくや生姜をきかせたソース。

海南チキンライス、これは鶏1羽分。この店は、しょうゆベースのたれに、好みでしょうがのすりおろしとチリソースを加えて食べる。

シンプルな料理ですが、「鶏をゆでるときに高温にしすぎないこと」、「肉を取り出すのは湯が冷めてから」などいくつかコツがあり、薄味な分ごまかしがきかないのか、実はお店によって味が違います。チャイナタウンにある有名店では、一日40羽をゆでるそうですが、だいたい4時間で売り切れになるほど。

麺類も豊富で、お粥はたいていの食堂に用意があります。

ポーク・ヌードル(豚肉麺)を、麺の種類を変えてふたつ注文。奥の白い麺はビーフン、手前の茶色い麺は伊麺(イーメン)。

油条(揚げパン)と豆乳も根強い人気があり、揚げたてを待って屋台に行列ができます。

荷台部分を調理台やショーケースにしたフードトラックもよく見かける。搾りたての新鮮さが売り物の豆乳屋トラック。

ほかほかと湯気が上がる蒸籠を見かけたら、そこには点心があるはず。日本でいう飲茶のことですが、当地では広東語で点心(ティムサム)と発音します。小ぶりなたらいほどの蒸籠に、饅頭(中身のないまんじゅう)や包子(肉まん、あんまん)、焼売などが入っているので、ふたを開けて蒸籠の中を見せてもらって選びます。

蒸したての点心。本来はお茶を楽しむための添え物だったはずが、種類も量も充実して軽食的な位置づけに。

 

インド系代表は南部の平パン&カレー「ロティ・チャナイ」

わたしは、土曜日の朝は近所のインド人屋台で食べることにしています。メニューはインド系の平パン「ロティ・チャナイ」で、甘いミルク・ティー「テー・タリック」をつけます。

ロティはインド南部の、薄い層状に折りたたんで焼く平たいパン。この日はロティ・ピサン(バナナ入りロティ)とチキンカレーの組み合わせ。

マレーシアのインド系は、タミールやケーララなどインド南部の出身者が多く、カレーといっしょにごはんもよく食べます。少し遅い時間になると、ずらりと並んだバットからおかずをいくつか選んでごはんにのせる、かけめし「ナシ・カンダール」も食べられます。

「ナシ・カンダール」の名は、インド系のムスリムの商人が、いろいろなおかずと「ごはん」(ナシ)を天秤棒で肩に「担いで」(カンダール)売り歩いたことに由来。

 

同じテーブルで違う料理が楽しめるマレーシアの朝ごはん

代表的なメニューを紹介しましたが、マレーシアの朝ごはんには、まだまだ種類があります。
イギリス統治時代の名残の「カヤ・トースト」もそのひとつ。薄切りのトーストに、東南アジア式カスタード「カヤ・ジャム」を塗ったもので、半熟たまごとテー・タリックのセットがお約束。

カヤ・トーストは、カヤ・ジャムとテー・タリック(ミルクティー)の甘さで、目の覚める組み合わせ。

屋台が集まる「ホーカーズ」や、ショッピング・センターなどにあるフードコートでは、毎朝違うメニューを頼んだとしても、全種類食べるのに数週間はかかりそう。マレー料理と中華料理など、違う系統の朝ごはんが食べられるので、家族や友達と出かけて、それぞれの好みの料理を注文すると結構楽しめます。ついつい食べてしまうので、頼みすぎにご用心ください。

いろいろな屋台が並ぶ「ホーカーズ」。好みの料理を注文してテーブルに届けてもらう。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

森 純

森 純

マレーシアを中心に東南アジアを回遊中。東南アジアにはまったのは、勤めていた出版社を辞めて一年を超える長旅に出たのがきっかけ。十年あまりの書籍・雑誌編集の仕事を経てマレーシアに拠点を移し、ぼちぼち寄稿を始めました。ひとの暮らしと文化に興味があり、旅先ですることは、観光名所訪問よりも、まずは市場とスーパーマーケットめぐり。街角でねこを見かけると、つい話しかけては地元の人に不思議がられています。

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