2017.11.23

300の民族を擁する多民族国家インドネシア、その多彩な朝食

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インドネシアは世界最大の群島国家で、国土は日本の5倍、そして300近い民族が暮らしているそうです。そんな特徴は朝食にも顕れており千差万別、宗教や自然環境などが絡み合って複雑な様相を見せています。その中で、ジャカルタで食べられる朝食は何なのか?ナシゴレンの意味が実はすごくシンプルということにも驚きです!

インドネシア在住のライター、武部洋子さんにご紹介いただきます。

 

めくるめく、バラエティに富むインドネシア料理の世界

インドネシアは国土が日本の約5倍という巨大な国です。

それだけ大きければ自然環境もさまざまで、米が主食の地域が大多数である一方、稲作が適さないために、キャッサバやサゴヤシなどが主食の土地もあります。住む人々も多種多様、全人口の9割近くが豚肉を食さないイスラム教徒ですが、地域によっては豚料理もあります。ジャワ料理、スンダ料理、パダン料理、バリ料理などなど、すごく辛かったり甘かったり、こってりだったりあっさりだったり。地方ごとの特色あふれた料理から構成されている点が、インドネシア料理の特徴です。

これはバリの豚料理、バビグリン(babi guling)。写真はNusantara Kitchenから許可をいただいてお借りしました。奥深いインドネシア各地の料理についてご存知になりたい方におすすめのブログです。

では、朝食について私が住んでいる首都・ジャカルタを中心に見ていきましょう。

まずはナシゴレン(nasi goreng)、日本で一番有名なインドネシア料理ではないでしょうか。つい先日、日本では「警視庁 ナシゴレン課」なんてタイトルのテレビドラマが放映されていたようです。気になって調べてみたら、内容はナシゴレンとは何の関係もなさそうでしたが。ちなみにインドネシア語でナシとはご飯の意味。「ごはんはナシ」とダジャレで覚えられます。ゴレンは揚げる、炒めるという意味です。

これがいわゆるナシゴレン、要はチャーハンです。これは、旅先の宿で撮った朝食の写真。ナシゴレンは特に朝ごはんだけのものでもないのですが、国内旅行をしていると、宿の朝ごはんのオプションが「ナシゴレン」「ブブールアヤム(bubur ayam 鶏肉のおかゆ)」「トースト」「パンケーキ」ということはよくあるパターンです。

一般家庭でも朝食にナシゴレンをよく食べます。なぜなら、前日の残りご飯を食べきるのにとても便利だから!

 

インドネシア料理といえばこれ! ナシゴレンの作り方

ここで突然ですが、実際に我が家でご飯が残っていたのでナシゴレンを作ってみましょう。

これは、シンプルで手っ取り早い一人分のレシピです。ご飯、卵1個、にんにく2片、バワンメラー(bawang merah シャロット)1片、赤唐辛子1本、オレンジのものは特に辛い種類の唐辛子(ただ、これより小さい緑の唐辛子ほど辛くない)、コショウ、ケチャップマニス(kecap manis 甘い大豆ソース)、左のMASAKOというのは顆粒状のチキンストックです。

作る人は私ではなく、うちで長く働いてくれている住み込みお手伝いのムイさんです。都市部の中間層以上の家庭では、このようにお手伝いさんを雇うのが一般的。人件費がそれほど高くないので、家事をサポートしてもらっておいて共働きをするほうが効率的に生活できるのです(ムイさんの場合、月給と毎週のお小遣いを合わせて1万4000円くらい。住み込みなので、光熱費や食費は私持ち)。私も今や、ムイさんなしの生活は想像できません。

突然ナシゴレンを作れと言われたうえに写真を撮りまくられて若干戸惑い気味のムイさんですが、早速作っていただきます。

まず、材料を多めの油で炒めます。ここでは手っ取り早くみじん切りにしていますが、スパイス類はまとめて石臼ですりつぶすことが多いです。

香りが立ってきたら、卵を投入して炒めます。写真手前のこれがいわゆるケチャップマニス。黒大豆とヤシ砂糖からできたソースで、調理にも使うし、スープやおかゆなど料理のうえにお好みでかけることも。ナシゴレンのレシピはいろいろあれど、たいていはこのどろりと甘いケチャップマニスを入れて甘辛に仕上げます。ごはんとMASAKOも入れて、しばらく炒めたらさあ出来上がり。

ありがとう、ムイさん!

 

ごはんにパンに具だくさんスープまで、インドネシアの朝食いろいろ

さて、ナシゴレンの他にもいろいろな朝食メニューがあります。

拙書『食べる指さし会話帳 インドネシア』(情報センター出版局)から、朝食に関するページの抜粋です。緑の豆を甘く煮込んだブブールカチャンヒジャウ(bubur kacang hijau)、ターメリックで黄色く色づけしたごはんナシクニン(nasi kuning)におかずを載せたもの、ブブールアヤム、インスタント麺、トースト、シリアルなど。なにかと忙しい朝、簡易なメニュー以外は外で買うことも。

ソトアヤム(soto ayam チキンスープ)。

ブブールアヤム(bubur ayam 鶏肉のおかゆ)。

家の前を通りかかるいろいろな物売りに声をかけて買うこともあれば、屋台でテイクアウトすることもあります。中部ジャワのムイさんの実家では、隣に飯屋があるので、ジャックフルーツの煮物、テンペ(tempe 大豆の発酵食品)の揚げ物などを買ってきて家でごはんといっしょに食べるそうです。

インドネシア人は暑い1日のはじまりと終わり、朝夕の2回水浴びをします。起きたらまずお祈りして、水浴びして、と準備をしていると、朝ごはんを食べている余裕がなかなかありません。渋滞のひどいジャカルタではなおのこと。そんな勤め人たちのために、オフィス街ではこんなお弁当が売られています。これで130円くらい。

住宅街を回るクトプラ屋さん。クトプラ(ketoprak)とは、お米をヤシの葉で編んだものに入れて茹でられたクトゥパット(ketupat)にビーフン、きゅうり、もやし、豆腐などを載せてピーナツソースとケチャップマニスをかけた料理です。

ジャカルタの町中のあちこちにある、ミニマートを覗いてみましょう。

インスタント麺の豊富なバリエーション。汁物やミーゴレン(mi goreng 焼きそば)の他、カップ麺もあります。画像からお気づきかと思いますが、日本メーカーの商品も最近は出てきています。インドネシア人は非常に麺好きで、インスタント麺の消費量が世界第2位というデータまであります(2016年付。ちなみに1位がダントツ中国、3位がだいぶ間をあけて日本)。参考:Global Demand for Instant Noodles

パンはメセス(meses)と呼ばれるチョコふりかけ、ピーナツバター、ジャム、ヌテラ(Nutella イタリア産のヘーゼルナッツ風味スプレッド。高級品)などで食べます。インドネシアは20世紀中頃まで約350年間もオランダの植民地でしたが、支配者と被支配者の生活を完全に分ける政策をとっていたせいか、現代インドネシアの暮らしの中でオランダの名残を目にすることはあまりない……と、思っていました。ところがどっこい、どうやらメセスはオランダが発祥のようです。

パフ〜パフ〜と若干マヌケなホーンを鳴らして街を自転車で周る昔ながらのパン屋さん。この写真のパン屋さんは、植民地時代に「オランダ人はパンが好き」と商機を見出した華僑タン・エック・チョアン氏がジャカルタの南、ボゴール(Bogor)の町で1921年に始めた老舗です。そもそもオランダ人にとってなくてはならないものとしてパンとメセスがセットでインドネシアに登場し、商人を通して広まったのでしょう。

メセスのドーナツ。

このように、インドネシア人にとってパンを食べる習慣はしっかり定着しています。若い世代の多い国ですから、パンの消費はこれからもますます伸びることが予測されています。とはいえ、お腹を満たすのは「やっぱりお米だよね!」というのが一般的なインドネシア人の胃袋。あれだけ大好きな麺も、単品で食べるよりは、おかずとしてご飯の上にのせて食べるスタイルがみんなのお気に入りです(さきほどのオフィス街のお弁当にも焼きそばが見えますが、あの下には実はご飯が詰まっています)。

 

おいしいものがいっぱい、ポーク解放区を歩く

私の住む北ジャカルタのクラパガディン(Kelapa Gading)はグルメエリアとしてジャカルタでも有名。せっかくですから、街に繰り出してみましょう。前述のように、イスラム教徒が大多数を占めるインドネシアでは豚肉を出す店が非常に限られていますが、華人の多いこの地区ではかなり豚肉に出会う確率が高い。私はこれを「ポーク解放区」と勝手に名付けて喜んでいます。

解放区の朝ごはんで一番のお気に入りはこれ。

豚まんを自慢する私。町中で普通に売られているまんじゅうは中身が緑豆のあんこ、チョコレートや鶏肉で、豚にはめったにお目にかかれません。

続いて市場前の交差点でひときわ賑わっていたクトプラ屋さんに入ってみることにしました(こちらは豚無しです!)。二人のおじさんが右から左へ、見事なまでの連携プレーで次々と入るオーダーを手際よくこなしていきます。ほとんどがテイクアウトのお客さん。

早く! とおじさんの背中に無言のプレッシャーを与える私とお客のみなさん。いつもこういう場では知らない人同士でもおしゃべりをしたりしますが、なにぶんお腹がすいているせいか、お互いに(私が先!)とけん制しあうようなピリピリした空気が漂います。時々後ろからおじさんをつついて「一人前ね。全部のせで、辛さは普通」とリマインドしつつ半時間ほど待ちました。

そしてようやく出てきたものがこれ! 日本円にして約85円ほどでおいしくてお腹いっぱい。上にもりっと乗っているのはクルプック(kerupuk)といわれるチップスです。インドネシアではおかずとして欠かせません。

 

先日乗ったバイクタクシーのおじさんに「今朝何食べた?」と聞いたところ、「朝4時からごはん食べないで出っぱなしですよ! 結婚10年でようやく家内が妊娠しましてね、来月生まれるんです。がんばって稼がないと!」とのことでした。このおじさんといい、クトプラ屋のおじさんといい、のんびりしてそうに見えて意外と働き者(コラ)のインドネシアのひとびと。やっぱり朝はしっかり食べて暑い一日に備えることが大切です。ま、昼間も揚げ物やらお菓子やら、ひっきりなしに食べるんですけどね。

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この記事を書いた人

武部 洋子

武部 洋子

東京生まれ、1994年からジャカルタ在住。現在はインドネシア国籍を有する。上智大学文学部新聞学科卒。『旅の指さし会話帳インドネシア語』(情報センター出版局)、『単語でカンタン!旅行インドネシア語』(Jリサーチ出版)など著作の他、『現代インドネシアを知るための60章』(明石出版)執筆、辰巳ヨシヒロ作『劇画漂流』インドネシア語訳など。インドネシアへの入り口がロックだったので、90年代インドネシアロックにはうるさい。Twitterはこちら

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