お手頃なサムギョプサルから高級ブランド牛まで、韓国人が愛する焼肉の世界

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現在の焼肉の歴史はそれほど古くはない!?

韓国といえば「焼肉」。そんなイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。

その歴史はそれほど古くなく、その成り立ちには諸説あり、戦後に日本の闇市で在日コリアンたちがホルモンを焼き、それが逆輸入を経て外食産業として発展したというものや、韓国で朝鮮戦争後に家を失った人たちが屋外のコンロで肉を焼いたというものなどがあります

現代の韓国での焼肉は、職場の同僚や学生同士で気軽に、そして日常的に食べに行くもので、とくに贅沢なもの、というわけではありません。しかしそれは価格の安い豚焼肉に限ったことであり、「牛焼肉は特別な日に食べるごちそう」というイメージが強いです。

焼肉店のことを韓国語では一般的に「コギチプ(고기집)」といい、「コギ」は肉、「チプ(집)」は「家、~屋」という意味。つまり「肉屋」ということですが、一方、日本でいう肉屋は「精肉店(정육점、チョンユクチョム)」と呼びます。焼肉店のなかにも「〇〇精肉店」という看板を掲げ、肉にこだわりをもって営業する店もあります。

 

学生から社会人まで気軽に食べる焼肉、サムギョプサル

韓国の会食で定番のメニューといえば、「サムギョプサル(삼겹살)」。サムギョプサルは直訳すると「三層の肉」。日本語では「三枚肉」、つまり豚バラのことをいいます。

サムギョプサルは1980年代に流行した比較的最近の食べ物。高価な牛肉に比べ、値段も手ごろであることから日常的に食べる焼肉として広まりました。適度に脂が乗って美味しく、気軽に食べられることがロングセラーとなった理由なのではないかと思います。

焼く前のサムギョプサル

サムギョプサルを焼くときは、傾けられた鉄板で余分な油を落としながら焼きます。専用の鉄板には油の落ちる小さな穴が開いています。写真ではすでに食べやすいサイズにカットされていますが、豚バラのブロック肉がスライスされた状態で出てきたときは、食べやすいようにハサミで切ります。

こうしてこんがりと焼いた肉を、レタスの一種であるサンチュ(상추)やえごまの葉、大根の酢漬けの上にのせ、そこにネギやニンニクを添えたり、サムジャンという合わせ味噌をつけて、それをくるんで一気に口の中にほおばります。そこに韓国焼酎のソジュ(焼酒、소주)で「クーッ」と流し込めば完璧! これが韓国流の食べ方です。

わいわいと賑わう声と、ジュージューと肉を焼く音が重なり合う空間で、友人や同僚たちと、焼酎の瓶を傾け、語り合いながら一日の疲れを癒します。

食べたあとのシメのひとつとして、肉を少し残しておいて、キムチを刻み、ごま油や韓国海苔を入れ、鉄板の上でご飯を炒めます。

炭火焼の場合は、ご飯を炒めることはできないので、味噌チゲの器ごと網の上に置いて温めてご飯とともに食べたり、そのほかの〆としては冷麺を食べたりもします。

また、このように豚焼肉の代表格はサムギョプサルですが、甘辛く味付けをしておいたものを焼く「豚カルビ(돼지갈비、テジガルビ)」も人気

そのほか、首肉の「モクサル(목살)」や、横隔膜と肝のあいだの部位「カルメギサル(갈메기살)」なども焼肉店のメニューに並びます。モクサルは脂身が少なく弾力があり、噛むたびに肉の旨味を感じられます。カルメギサルもまた歯ごたえがあり、独特の触感。これらの部位はわりと専門的な店で食べられますが、チェーン化している店もあります。

韓国の焼肉を食べつくそうと思えば、ここで挙げた以外にも日本では馴染みのない様々な部位に出会うことができます。

脂分が少なく弾力のあるモクサル。近年人気チェーンを中心に話題に。

そして最近では豚焼肉の食べ方も多様化。サンチュやえごまの葉だけではなく、行者ニンニクでくるみ、わさびをつけて食べることが流行っていたりもしています。

一方で、冒頭で「ごちそう」と紹介した牛焼肉ですが、こちらはどのようなものがあるでしょうか。

 

「プルコギ」はすき焼きにも似た料理

日本でも名前はよく知られている「プルコギ(불고기)」。これは韓国焼肉の代名詞とでも思いがちですが、本場のプルコギは、日本の「すき焼き」にも近い料理です。お店では醤油や砂糖のほか、薬味などを入れて甘めに味付けをした肉を、プルコギ専用のプルコギパン(불고기판)といわれる鍋で焼いて食べます。このプルコギパンの中央が盛り上がっているため、肉を味付けたタレが溝にたまるようになっており、このタレを再び肉に絡めて焼くことで、より味が染み込むのです。

プルコギパン(불고기판)で調理したプルコギ

現代のプルコギの元になった料理は、朝鮮時代の宮中料理「ノビアニ(너비아니)」だといわれています。これは客前で焼くものではなく、厨房で味をつけて焼いてから出されるものだといい、冒頭でも説明した通り、現在のようにお店で食べる焼肉とは異なるものでした。

 

韓国の国産牛は、和牛ならぬ「韓牛(ハヌ)」。

牛肉はオーストラリア産などの輸入肉がお手頃で、特に味付け焼肉には輸入品が使われる傾向にあります。もちろん国産牛もあり、日本でいう「和牛」に相当する韓国の在来の品種のことを「韓牛(한우、ハヌ)」といいます。

日本には松阪牛や、神戸牛、山形牛といった和牛ブランドがありますが、韓国でもブランド牛が生産されており、2018年に冬季五輪が開催された平昌の隣に位置する横城(フェンソン、횡성)を筆頭に、各地に存在します。韓牛を食べるときは、基本的に焼く前には味付けをせずに、網の上で直火焼をして肉そのものの旨味を味わいます。

このような韓牛は、ソウルの韓牛専門店でも味わうことができますが、近年はセルフ式焼肉店なるものが登場しており、ソウルの馬場洞畜産市場にある精肉店や、地方の韓牛直売所でみずから選んで購入した肉を、併設の焼肉店で味わうことができます。

平昌(ピョンチャン)の牧場、エコグリーンパーク

ちなみに韓国ではこれまで霜降りの肉よりも、さっぱりとした赤身の肉が好まれる傾向にあり、韓牛にはそのような嗜好が反映されています。しかし、最近は日本の影響もあってか、和牛の霜降りの度合いと遜色のない肉も増えているようです。

そんな韓牛の美味しさは申し分ありませんが、韓国で焼肉を味わうときは、やはり韓国式に味わうことが醍醐味。包み野菜に肉をくるみ、本場のキムチを添えていただくことでヘルシーさも十二分に実感できるのではないでしょうか。さらには地方に出かけたとき、美味しい空気のなかで頂けば最高です。

 

マッコリとともに味わう二東カルビ

焼肉のなかでも代表的な存在である「カルビ(갈비)」。これはあばら肉のこと。豚や鶏の同じ部位をカルビということもありますが、単に「カルビ」という場合は基本的に牛カルビを指します。前述のとおり焼肉店は「コギチプ」といいますが、カルビを中心に扱う専門店もあり、こちらは「カルビチプ(갈비집)」と呼んで区別されます。

地方にもカルビが有名な場所はいくつかありますが、世界遺産の水原華城で有名な水原(スウォン、수원)の水原カルビ、軍事境界線の街、抱川(ポチョン、포천)にある二東カルビ(이동갈비、イードンカルビ)、これら二か所が有名です。いずれもソウル首都圏に位置しており、ドライブや観光がてらに訪れる場所です。

 

河原沿いのカルビ激戦区

特に抱川市の二東地区は、白雲山渓谷に位置し、朝鮮時代に王へ献上する酒を醸造していたことからマッコリで有名な地域でもあります。日本でも「二東マッコリ」や、「にっこりマッコリ」という名前でも販売されているため、ご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ソウルからは二東までは車やバスで約1時間30分。自家用車でここを訪れて、川にテントを張って休日を過ごす人の姿も見られますが、そのような川沿いの場所にカルビのお店が数店舗並んでいます。

車が通ると一斉に手招きをして呼び込みをする

この近くにはかつて屠畜場があったことから、カルビ通りが形成されたようです。

ちなみに、韓国では同業者が同じ場所に集まる傾向にあります。さらに飲食店に関していえば、どの店も「元祖(원조、ウォンジョ)」を掲げているので、最初にお店を始めた店がどこなのかはパッと見ただけではわかりません。老舗では創業者のおばあさんの肖像を掲げたりして、信頼感とその伝統をアピールします。

お店の前を車が通るたびに、それぞれのお店の人が一斉に手招きをして客を呼び込もうとするのですが、それもまた不思議な光景です。

 

カルビは生カルビとヤンニョムカルビから選べる

韓国のカルビは大きく分けて2種類があり、味付けをしていない生カルビ(생갈비、センカルビ)と、下味をつけたヤンニョムカルビ(양념갈비)の2種類があるます。このときに注文したものは生カルビ。韓国の焼肉店では2人前の注文が必須です。

牛肉の旨味をそのまま味わえる生カルビ

二東(イードン)はマッコリでも有名、焼肉とともにマッコリ

焼肉には本来ソジュ(焼酒、소주)が合うとされ、ビールはあっても、マッコリを置いていない店もあります。しかし、マッコリの産地でもあるここ二東では例外。マッコリも注文でき、カルビと一緒に味わってもよいのです。

一説によれば、「二東マッコリは焼肉に合う」ともいわれており、実際に飲んでみると、ほかの地域のマッコリに比べて、飲み心地がさっぱりしているようです。これなら脂の多い焼肉に合うということも納得です。

 

済州島は黒豚が有名、皮のついたオギョプサルも

そして、韓国のリゾート地である済州島(チェジュド、제주도)では黒豚が有名。ほかにも緑茶、ハルラボンというみかん、アワビやサザエなどが名物で、いずれも済州島ならではの特産品です。

そんな済州島にある家々では、かつて庭先で豚を何匹か飼育しており、豚に人糞を食べさせるためのトイレがありました。トイレの床には穴が開いており、その下に出された人間の排せつ物を豚が食べる仕組みになっています。

最近はトイレが水洗式になったために姿を消しましたが、済州島の民俗村を訪れると、使われなくなったトイレの遺構が残っており、そこでは観光客への見せ物として今でも豚を飼育しています。

京畿道水原市にあるトイレ博物館「解憂斎(ヘウゼ)」にある済州島のトイレの再現

このように人糞を飼料とする豚は、直訳すると「糞豚」という意味の「トンデジ(똥돼지)」と呼ばれ、「味が良かった」と回想する人もいるそうです。時代とともに旧来のトイレは姿を消しましたが、今もなお養豚業が盛んで、黒豚は済州島の名物です。

済州島の焼肉店に行くと、名物の黒豚を味わうことができるのですが、済州島で黒豚を注文すると、サムギョプサルに皮がついた五枚肉の状態で出てきます。これを「オギョプサル(오겹살)」といいますが、済州島に来たら一度は味わっておきたい焼肉です。

黒豚のオギョプサル(左)と、首肉・モクサル(右)

サムギョプサルよりも、肉厚でジューシーなオギョプサルを網の上で焼き、これをやはりサンチュなどの包み野菜にくるんでいただきます。

韓国の焼肉店では料理を注文すると、白菜キムチや包み野菜が出てくることは基本。サラダや漬物類などのおかずがたくさんついてきてテーブルを彩ってくれます。そのためわざわざ注文しなくてもバランスのよい食事ができるうえ、包み野菜やおかずは足りなければ補充してくれることも韓国ならではの魅力といえます。

もし韓国に出かけたときには、日本で食べられるような牛焼肉だけではなく、韓国の人々が日常的に味わう豚焼肉、サムギョプサルはもちろん、ほかの部位にまで目を向けて、焼肉店の雰囲気とともに味わっていただければと思います。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

東方神起やJYJと同年代の1986年生まれ。「韓国を知りたい」という思いを日々のエネルギー源とするも、韓国のオシャレなカフェには似合わず日々苦悩。ソウルや釜山も好きだが、地方巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。SNSでは「トム・ハングル」の名で旅の情報を発信。Profile / Twitter / Facebook / Instagram / 韓旅専科

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