発祥地を巡り論争勃発!? スペインの田舎町で愛される「宝箱」料理とは

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そもそもパエリアってなに? 実は料理名じゃない!?

世界に名を轟かせるスペイングルメ、実はまだまだ知られていないものがたくさんあります。今回はそのうちの一つ、「アロス・コン・コストラ」というグルメについて取材して来ました。

パエリアみたいなご飯をベースにした料理なのですが、ここでちょっと豆知識。みなさんパエリアの語源ってご存知ですか? 実は意外な「アレ」が由来なんです。

スペインを代表する料理の一つパエリア。現在はすっかり料理名として定着していますが、本来は米料理を作るためのフライパンのことなんです。道具名がそのまま料理名になっているんですね。

そのためフライパン以外の、たとえばお鍋などで作る米料理はパエリアとは呼ばず、それぞれが個別の料理名を持っています。中にはお米と牛乳を使ったスイーツなんかもあって、米料理のバリエーションはとても豊富。炊飯器を使う文化はないので、全てお鍋やフライパンを使ってアルデンテにしていきます。

 

パエリアとスパニッシュオムレツが一体化した料理とは?

スペインの伝統的な米料理の一つに「殻かぶりご飯」というのがあります。スペイン語では「アロス・コン・コストラ」といい、パエリアのフライパンではなくカスエラという陶器の調理器具で作られる米料理です。全体を覆う卵が特徴的で殻のように見えるためそう呼ばれていますが、この卵がなかなかの迫力。オムライスのような繊細な卵ではなく、オーブンで外側をカリカリに焼いた分厚い卵なんです。

ご飯部分はパエリア同様サフランを使って調理するため、現地の人がこの料理を知らない人にどんなものなのかを説明するときは「パエリアとスパニッシュオムレツを合わせたような料理」と説明します。

ここで思い出すのが、近年日本でも流行っているハイブリッドグルメです。今を輝くクロワッサンたい焼きやオムつけ麺のような、2つの料理を掛け合わせて生まれた別の料理のことですが、これら人気グルメの元祖は、実はスペイン発祥のこの伝統料理なのかもしれません。

 

「隠れたご当地グルメ」を探しに村・オリウエラへ

アロス・コン・コストラの歴史はとても長く、ナポリ王フェルナンド1世(1423-1494)に仕えた料理人によって書かれたレシピ本が一番古い文献資料とされています。600年近く前から存在していることになりますが、昔も今も食べられる地域はとても限られているのがこの料理のもう一つの特徴です。ほかの地域では食べられていないどころか存在を知らないスペイン人も多く、知る人ぞ知るご当地グルメなのです。

具体的に食べられている地域は、バレンシア州のアリカンテ、エルチェ、ペゴ、そしてベガバハというエリア。しかし、私もこれまでに何度も足を運んでいるのですが、アリカンテの中心地ではパエリアしか食べたことない人も多いようなので、都心部から離れた村に行けば行くほどアロス・コン・コストラを作る人の割合が増える印象です

オリウエラの噴水と私

そこでアロス・コン・コストラを食べたい人は村に行くわけですが、意外にもこのメニューを置いているレストランはなかなかありません。手間とコストがかかることなどから、パエリアやほかの米料理しか提供していないところがほとんど。いや、でもこれ一般的には逆ですよね。少なくとも私なら「レストランだからこそ手間のかかったものを食べたい」と思ってしまうのですが……。

しかし、それもそのはず。アロス・コン・コストラは「特別な日に家でつくるごちそう」だからです。

 

その存在は、「ワクワクする宝箱」から「市民が誇る宝物」へ

かつて、アロス・コン・コストラは「宝箱」とも呼ばれていました。豪華な具材と、卵で中味が見えないワクワク感がその由来です。

宝箱なだけあって日常的に食べる料理ではなく、特別な日を象徴するごちそうです。以前、オリウエラのバルで話しかけてくれたおじいさんとも、こんなやりとりがありました。

関根

オリウエラの郷土料理ってなんですか?


おじいさん

そりゃあアロス・コン・コストラだよ


関根

やっぱりそうなんだ


おじいさん

内戦で大変だった時代も、本当に特別な日には工夫してなんとかつくって食べたもんだよ。砕けた米を使いながら、肉を減らしたり安い食材を混ぜて肉団子にしたりしてね。私たちの歴史が詰まった料理なんだ

飽食の時代になった今日では宝箱と呼ぶほどの高級料理ではなくなりましたが、長い歴史と独自性を持つアロス・コン・コストラは、今でも地元の市民の誇りなのです。

オリウエラの街並み

 

今も続くアロス・コン・コストラをめぐる村同士のバトル

アロス・コン・コストラの発祥地には諸説あり、現在もアロスコンコストラが食べられているベガバハの村「オリウエラ」とアリカンテの北に位置する都市「エルチェ」が、それぞれ自分の村で生まれたと主張しています。日本でいう静岡県と山梨県の富士山論争のようなものです。

この2つの村はほかにも、アーモンドケーキ発祥地や、スペインを代表する詩人ミゲル・エルナンデスの出生地、椰子園などさまざまなものをめぐって対立していて、お互いにライバル意識を持っています。

30年前まではオリウエラの方がエルチェよりも街が繁栄していて発信力もあったのですが、現在はその立場が逆転してエルチェ市民の方に少し余裕が見られるというのが第三者から見た印象です。

その論争、実際にどのような「口撃」が繰り広げられているのでしょうか。実例を紹介します。これは以前、それぞれの村出身の方が言い合っていた内容をかいつまんだものです。

 

オリウエラの村人

エルチェみたいにひよこ豆とかほかの穀物をごちゃごちゃ入れるのは邪道。よりシンプルにウサギ肉で作ったものがオリジナルに近い


エルチェの村人

より多くのバリエーションがある土地の方が、人々に愛されて需要があった証拠。そうやって人の手で育んでいかないとね、文化ってものは

オリウエラの村人

エルチェみたいにひよこ豆とかほかの穀物をごちゃごちゃ入れるのは邪道。よりシンプルにウサギ肉で作ったものがオリジナルに近い


エルチェの村人

より多くのバリエーションがある土地の方が、人々に愛されて需要があった証拠。そうやって人の手で育んでいかないとね、文化ってものは

なるほど。第三者が聞いていると、どちらの意見にも一理あるように聞こえますが……。さらに、このバトルは別の分野にも広がっていきます。

オリウエラの村人

最近のエルチェは大きさとか表面的な部分ばかりで競っていて、歴史の長さとか、本質的な部分で説得力に欠けるんだよね


エルチェの村人

今こうして街が大きくなったのは、人々が住みたいと思う魅力があるっていうことの証だよ。魅力に欠けると、街は衰退していくものだからね


オリウエラの村人

ミゲル・エルナンデスもオリウエラが生んだ偉大な詩人なのに、エルチェに彼の名前の大学なんて作っちゃって。いつもそうやって自分のものにしたがる! アロス・コン・コストラだってどうせ同じ理屈だよ


エルチェの村人

結局大切なのは、その後にどう発展したかっていうこと! 古いだけじゃダメなんだよね。ちゃんと保管して、時代に合わせて変化させる必要があるんだよ


オリウエラの村人

エルチェの椰子園なんてお金にモノを言わせて大きくしていったのが見え見え。肩書きとか称号欲しさに利用したんだ


エルチェの村人

世界遺産って、本当に価値のあるものにしか与えられない称号なんだけどなあ

と、このようななじり合いが日々が行われていますが、それはそれとして、アロス・コン・コストラの作り方についてご紹介したいと思います。

 

炒めて煮込んでカリッと焼く! アロス・コン・コストラの作り方

そんな論争すら巻き起こすアロス・コン・コストラ。オリウエラに住む知人に振る舞ってもらえる機会があったので(もちろんシンプルなオリウエラヴァージョン)、その作り方を簡単に紹介して終わりにしたいと思います。

主な材料は、お米、卵、ウサギ肉、チョリソー、白ソーセージ。

ウサギ肉は一匹丸ごと。内臓も一緒に炒めます。チョリソーと白ソーセージも、このタイミングで別のフライパンなどで炒めておきます。

炒めたウサギ肉、水、サフランを入れて10分ほど沸騰させます。この調理器具は、一般的にはカスエラ(Cazuela)と呼ばれていますが、この地域ではペロル(Perol)と呼ばれることが多いです。

生のお米を投入。お米は日本米の形と同じ、丸い品種を使います。

ペロルは耐熱容器ですが、こうやって直火にかけられるのが最大の特徴です。自宅などで大きい火が起こせないときは、複数口のコンロを同時に使います。今回も手前と奥の2口に点火。

お米が水を吸って水分が減ってきたら、チョリソーと白ソーセージを入れます。

上から溶き卵をかけたら最後の工程へ。

オーブンに入れて180度で温める。様子を見ながら、15分くらい待ちます。

卵がふっくらしてきたら取り出しても大丈夫な合図です。カリカリの卵が好きならお好みでもう少し焼いていきます。

オーブンから取り出したら、ケーキみたいに扇型に切り分けて盛り付けて完成! いい香りでお腹もペコペコに!

 

作法は「みんなで楽しく食べること」

地域によって入れる具材が少し違ったり、発祥地に諸説あったりするため、みんなが自分の地域のものを真のアロス・コン・コストラだと主張しています。それだけ思い入れのある料理ということでもありますが、その理由は紛れもなく各々に「小さい頃からお母さんが作ってくれたアロス・コン・コストラを家族みんなで囲んで食べた」思い出があるからです

各家庭のアロス・コン・コストラにどんな違いがあっても、みんなでわいわい特別感を楽しみながら食べるのはどこも同じ。細かい作法をあまり気にしないスペインでは、アロス・コン・コストラの中に入っている骨つき肉を手で食べたって何も言われないし、ご飯と卵を分けて食べても大丈夫。

ただ一つ、この料理をみんなで食べてるときくらいはネガティヴなことを忘れて、楽しい時間を過ごすのが唯一の作法なのです

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この記事を書いた人

関根 志帆

関根 志帆

スペイン在住デザイナー&ライター。女子美術大学卒業後、広告業界に就職。そのあと単身スペインへ渡り、大学院に通いながらフリーランスのデザイナー・イラストレーターとして活動中。人生でもっとも幸せを感じるタイミングは、犬がご飯を食べるときの咀嚼音を聞いてるとき。/HP

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