2018.05.24

スポーツ・マスコット化しがちな韓国の動物たち! 犬食文化は絶滅危惧に?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

韓国を代表する動物は、虎、熊。朝鮮半島の形は虎に例えられ、熊は神話にも登場する太古の王のルーツともされています。そして、犬は、扱われ方が散々だったり、大事にされたり……と、多様性に富むようです。日本ではネガティブな印象の動物が、韓国ではポジティブに捉えられるところもまたおもしろい。韓国に精通するライター、吉村剛史さんにご紹介いただきます。

 

五輪のマスコットにもなった動物、虎と熊とは?

韓国を象徴する動物は、スポーツ国際大会のマスコットにもよく表れています。

平昌オリパラのマスコット「スホラン」(左)と「バンダビ」(右)

記憶にも新しい2018年の平昌冬季オリンピックでは、「白虎」をモチーフにしたスホラン(수호랑)の愛らしい姿が大きな人気を集めました。開閉会式で登場して演技を披露したり、表彰台で渡されるぬいぐるみでもあったので、見覚えのある方も多いでしょう。

1988年のソウルオリンピックでは、トラの子の「ホドリ(호돌이)」が公募によりマスコットになっています。

ソウル五輪のマスコット・ホドリ

かつて朝鮮半島には虎が生息していました。虎は「山の神の使い」と称され、数々の民画や昔話にも登場するだけでなく、朝鮮半島を虎の形に見立てたりもします。その虎の尾にあたる浦項(ポハン)の虎尾串(ホミゴッ)という場所は、朝鮮半島で最も早く日が昇ることで有名です(詳細は下記記事参照)。

除夜の鐘にとんど焼きまで! 似ているようで違う韓国の年越しとお正月

今でも虎は中朝国境の白頭山に生息しているともいわれますが、南側では1922年に発見されたのが最後、と言われています。人を襲うため、共存することは難しいのです。

1988年のソウル五輪の際に作られた「世界で最も大きい虎」

そして平昌パラリンピックのマスコットは、さきほどの写真でスホランの隣にいた「バンダビ(반다비)」。こちらはツキノワグマをモチーフにしています。やはりソウルパラリンピックでも、2匹のツキノワグマが二人三脚で歩く姿が描かれていました。

このように韓国を象徴する動物といえば、虎と熊が挙げられますが、この2つの動物は、韓国・朝鮮の建国神話とされる「檀君神話」に登場します。

 

最初の国王は人と熊の子、朝鮮の建国神話

「檀君神話」は13世紀後半の史書、『三国遺事』に記されています。

天帝桓因(ファンイン)の子である桓雄(ファンウン)は、「人間になりたい」と祈っていた虎と熊に対して、「ヨモギとニンニクを食べ、太陽の光に当たらずに100日間籠れば人間になれる」と教えました。すると熊だけが「熊女」という女となり、桓雄(ファンウン)と結婚。のちに朝鮮半島で最初の国王となる、檀君(ダングン)が生まれたのです。

古朝鮮の始祖・檀君

そうしてできた「檀君朝鮮」は伝説上の国で、紀元前2333年に開かれたとされます。韓国・朝鮮にはこの年を檀君元年とした「檀君紀元(檀紀)」という紀年法があり、一部の新聞には今でも西暦と併記されています。

また「檀君以来(단군 이래、タングン イレ)」という言葉を「創始以来」という意味で比喩的に用いることがあり、ニュースの見出しになったりもします。

 

韓国で「熊のような人」といえば、「のろま」の意味

檀君神話に登場するほど、神聖な存在でもある熊ですが、現代の韓国では「熊」のイメージはどのようなものでしょうか。

日本では「熊のような人」といえば、「力強くて親しみやすい」といった印象も持たれますが、韓国ではそうしたイメージが全くないわけではないといえ、マイナスの印象のほうが強いのです。

理由は不明ですが、熊といえば、「おろか」「のろま」の象徴として認識されており、そのような人の代名詞でもあります

地球温暖化防止のマスコットのシロクマ(表情に注目!)

一方、日本では「ずるがしこい」という印象が強くマイナスの印象が強い狐ですが、韓国では「愛嬌があり、賢くて機転が利く」というプラスのイメージもあります

とくに「狐のような女」といえば、空気が読めて愛嬌があり、ぶりっこのような存在でもありますが、男性からは人気です。

 

罵倒語でもある「犬」

「犬を食べる」という認識をもたれている韓国ですが、韓国語では「犬」を意味する「ケ(개)」という言葉は、相手を罵る言葉でもあります。韓国では「ヨッ(욕)」とよばれる罵倒語が多様ですが、例えば「犬野郎、犬畜生」という意味の「ケーセッキ(개새끼)」もその一つ

悪い言葉のなかでも代表格で、一般的によく使われる悪口です。「ばかやろう」「ちくしょう」より強めの言葉で、突然このような言葉を浴びせれば、喧嘩寸前の状態になることは明白です。

すでに怒り狂った人が相手に対して、「ケーセッキ」と叫ぶシーンは、韓国ドラマや実際の場面(?)で目にした方も多いはず。

激しい夫婦喧嘩のイメージ

「犬のような人」などと言ったら、決して誉め言葉になんてなり得ないのでご注意を!

 

現代において「珍味」化する韓国の犬食文化

「犬」は古くから貴重なたんぱく源であり、体の栄養を補う「補身」の意味をもつ食べ物でした。犬は「狗」とも書かれ、茹でた状態または鍋料理として食べることが多く、その鍋は「狗醤クッ(ケジャンクッ、개장국)」と呼ばれていました。

現在では「補身湯(ポシンタン、보신탕)」、「栄養湯(ヨンヤンタン、영양탕)」、「四節湯(사절탕)」などという名前で知られています。

日本の土用の丑にも似た、真夏の「伏日(ポンナル)」という日に、補身湯や参鶏湯(サムゲタン、삼계탕)を食べる習慣もあります。

補身湯(ポシンタン)

1988年のオリンピックを機に、「補身湯(ポシンタン)」の店は路地裏に隠れるようになり、今でも市場の裏あたりでひっそりと営業していることが多いのです。また、補身湯を扱うお店では参鶏湯も扱っています。

右が補身湯のお店(左)、四節湯、参鶏湯と書かれた看板(右)

現在では犬はペットとしての動物、という認識が強まっているため、若い世代には犬食が忌避されるようにもなり、今や一部の人だけが食べる「珍味」という位置づけです。

ちなみに補身湯は、お店にもよりますが、1人前10,000ウォン(約1,000円)程度で食べることができます。鶏肉のようでもあり、脂身もあったりしますが、臭みを抑えるためにエゴマ粉が入っています。鍋から取り出した肉を、エゴマ粉やカラシ、薬念(ヤンニョム)という合わせ調味料につけて食べたりもします。

釜山・亀浦市場の食用犬街

ちなみに食用とされる犬は一部の市場で売られており、ソウル郊外の牡丹市場や釜山の亀浦市場には食用犬の専門店街がありました。

市場のお店の前には檻が置かれており、犬が重なりあうように過ごしています。屠殺される犬はその場で電気ショックを与えて気絶させたあとに、解体されるのです。その後は鶏などと同様に犬とわかるような姿でお店に並びます。

しかしそれらの市場の専門店街は、動物愛護や住民の意向などから、2017年から撤去の方向へと進んでいます。2018年春に牡丹市場を訪れたところ、それらのお店はすでに撤去されており、一部残っている業者が「生存権を補償しろ」という横断幕を掲げていました。

生存権と営業損失の補償を求める横断幕(城南市・牡丹市場)

今の時代、食用犬業者たちは表立って商売をすることが難しくなっており、市場から追い出された業者は人目を避けて続けるしか方法がないようです。

前述のように、犬は「ケ(개)」といいますが、ペットの犬は「愛玩犬(애완견、エワンギョン)」と言ったり、子犬を意味する「カンアジ(강아지)」と呼ぶなど、区別して呼ぶのが普通です。もちろん韓国では多くの人がペットとしても飼っています。

 

韓国固有の犬・珍島犬とサプサルゲ

日本の柴犬や秋田犬のような固有種の犬は、韓国にもいます。その代表格が「珍島犬(チンドッケ、진돗개)」という犬。

珍島犬(ソウル動物園にて撮影)

日本の固有種の犬ともルーツが同じといわれ、風貌もよく似ていますが、柴犬より少し大きめで体調は45センチ~55センチくらい。珍島犬は韓国の天然記念物53号に指定され、2005年以降は国際畜犬連盟などの世界的な機関に相次いで登録されるなど、国際的にも韓国固有種として認知されている犬です。

珍島犬は韓国南西部に位置する「珍島(チンド)」に由来します。日本では天童よしみのロングセラーヒット曲『珍島物語』に出てきたことでも有名な海割れが起こる島です。

珍島郡のキャラクターは珍島犬

韓国国内でも少々マイナーな話ではあるのですが、猛獣と一緒に暮らしていた珍島犬が話題になったことがあります。

韓国南部の晋州(チンジュ、진주)という都市の湖畔にある「晋陽湖動物園」というローカルな遊園地。ここでは2002年、珍島犬と猛獣のレオポン(ヒョウの父親とライオンの母親から生まれた雑種)が同じ檻で仲良く暮らしていたことがテレビで取り上げられました。飼育員の手で育てたことでレオポンが温和な性格に育ったとか。

晋陽湖動物園の珍島犬とレオポン

2013年に見に行った時に、レオポンと一緒に暮らす珍島犬には覇気が感じられなかったのですが、高齢だったようで翌年に亡くなってしまったそうです。

もうひとつ、韓国の固有種として知られている犬のなかで、「サプサルゲ(삽살게)」は顔を覆うほどの毛が特徴的です。体長は50~60センチほどで、珍島犬よりも一回り大きく、見た目は洋犬のようです。「鬼神や厄運を追い払う犬」ともいわれています。

サプサルゲ(©Sungdo Cho)

このサプサルゲもまた、韓国の天然記念物368号に指定されています。また2011年に大邱で行われた世界陸上のマスコットキャラクターもサプサルゲがモチーフになりました。

大邱世界陸上選手権大会のマスコット、サルビ

他にも朝鮮北部にルーツがある大型の豊山犬(プンサンゲ、풍산개)は虎の狩りをする犬として知られるほか、尻尾がない慶州の東京犬(トンギョンイ、동경이 ※日本の東京とは関連なし)、また済州島の済州犬(ジェジュッケ、제주개)は、韓国・朝鮮の固有の犬種です。

 

韓国を象徴する動物は、スポーツ大会のマスコットに

記憶にも新しい平昌オリンピック・パラリンピックのマスコットは、愛らしい外貌で人気を集めていましたが、それぞれ韓国・朝鮮の神話にも登場する韓国を象徴する虎と熊でした。

また犬のイメージもひとつではなく、罵倒語として使われていたり、ある時には食用にされたり、天然記念物として保護されるなどさまざま

日本固有の犬種と似た珍島犬に親近感を覚える一方、毛むくじゃらの「サプサルゲ」には異国らしさも感じさせます。今後の国際大会ではどんな動物のマスコットが登場するかにも注目してみたいところです。

  • ※当サイトのコンテンツ(テキスト、画像、その他のデータ)の無断転載・無断使用を固く禁じます。また、まとめサイトなどへの引用も厳禁です。
  • ※記事は現地事情に精通したライターが制作しておりますが、その国・地域の、すべての文化の紹介を保証するものではありません。

この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

1986年生まれ。ライター。「韓国を知りたい」という思いが日々のエネルギー源。誰も訪れない地方都市巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。国内では2月号『散歩の達人』コリアンタウン特集執筆ほか。SNSでは「トム・ハングル」の名で韓国の小ネタを日々発信中。HP / Twitter

  • このエントリーをはてなブックマークに追加